人間を謳歌せよ   作:雲間

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三十二話

 

 どうしてまた土下座……ではなく正座をさせられているのだろう。

 

 デジャヴな状況に首を傾げかけたが、怖い雰囲気の花京院を前に動くのをやめた。前回は花京院とポルナレフだけがリヴィンに詰め寄っていたが、今度は全員に詰め寄られている。ちなみにイギーは俺は知らねと言わんばかりに用意されていたコーヒーガムを先に貪っていた。

 皆のあまりの圧に、普段なら気が付かないリヴィンも怖々とし始める。

 

「で、ホル・ホースがなんじゃって?」

「ホ、ホル・ホースはDIOを殺そうとしていたし、私に親切にしてくれたんだ。……えっと、DIOの館がある方向を教えてくれたんだ!」

 

 色々とおかしいし、そもそもいつ会ったんだよという視線のツッコミがリヴィンにブッ刺さるが、当のリヴィンはこれには気が付かない。寧ろその視線で余計にテンパって、顔をあわあわさせながら言葉を続けていく。

 

「そ、それで私の事で悩んでいるようだったから、その、お、教えたんだ。私の『問題』を……」

「な〜〜んで俺たちじゃなくて敵が先に知ってんだよ!?」

「もう敵じゃないよ!?」

「そういうことではなくてだな、リヴィン……」

 

 いつも通り斜め上の回答が飛んでくるが、それで終わらせはしない。では一体なんなんだと、ほとほと参っているリヴィンにアヴドゥルが諭すように続けていく。

 

「私達はホル・ホースより先にリヴィンのその『問題』を教えて欲しかったんだ」

「何故? いつ私が君達に『問題』を教えても何も変わらないだろう?」

「てめえはジョナサン・ジョースターの秘密を誰かが先に知ってたらどう思うんだ」

「うん? 特に何も思わないけれど」

「……やれやれだぜ」

 

 先に知っていればある問題を解決できた、などであったならば別だが、それで変わることがなければ何も思わない。そもそも、先に知られていたからといって変わることがあるのだろうか。不思議なことを聞かれてますます状況が分からなくなってくる。

 

「リヴィン」

「な、なんだい花京院」

 

 リヴィンの肩がビクッと震えた。リヴィンは上手いこと丸め込んでくる時がある花京院に些か弱く、花京院の様子が違っているのに少々怖気付いている。

 

「僕達は、君と仲良くなれていたと思う」

「う、うん。みんなは私の大切だよ」

「そう思ってはくれていたんだね、ありがとう。でも、大切なら尚のこと僕達に『問題』について先に話して欲しかったんだ」

「大切だと秘密を先に話すものなのかい……!?」

 

 そんな常識があったとは露知らず、ホル・ホースへ先に話してしまった自分を恥じた。人間の常識というものは明文化されていないことも多く、リヴィンを多々戸惑わせる。けれどもホル・ホースに関しては、彼の存在意義について関わってくるところもあったし……と、頭を悩ませ始めた時にポルナレフがリヴィンと花京院との間に手刀を入れた。

 

「おい花京院、素直に言いたくないからって変な方に話を持ってくな! リヴィン、大切だからって真っ先に話さなきゃいけねえってことはねーから! あー、まぁ要はな、嫉妬したんだよ嫉妬」

「うるさいポルナレフ!」

 

 花京院が顔を赤くし、ギャンギャンじゃれあい始めた2人を無視して、承太郎がリヴィンを指差しながら声を上げた。

 

「俺は単純に敵が先に知ってんのは面白くねーってだけだぜ」

「承太郎はそうなんだね。しかしなるほど、これが嫉妬というやつなのか……。場合によることが多い概念で判断がし難い」

 

 仲間の気分を悪くさせるのは嫌だ。でもどうやってそれを判断すればいいのか、いまいち基準が分からない。口をもにょもにょとさせるリヴィンに、ジョセフがニヤッと笑いながら近寄ってきて頭を乱雑に撫でた。

 

「やはり顔が見えた方が良いのう。お前のことをもっと知ることができるからな。昔に見た時より、表情豊かになっとるじゃあないか」

 

 元からこんな感じだったとリヴィンは思っているのだが、そんなに変わったのだろうか。撫でられながら疑問に思うリヴィンに、アヴドゥルが咳払いをしてからこう語りかけた。

 

「ホル・ホースのことはひとまず置いておこう。それよりも君の『問題』のことを私達に教えてくれないか」

 

 ……まただ。また喉元が苦く感じてやまない。伝えたいのに何も言えなくなってしまう。このままではいけないのに、言ってはだめだとストップをかけてくる。言いたい、言わなくちゃいけない。その気持ちと板挟みになって気が狂いそうになる。

 目尻にじわっと涙が浮かんできそうになるのを堪えようと、歯を食いしばった。

 

「おめーは何を怖れてんだ」

「え……?」

 

 承太郎からの指摘に、リヴィンは全身を固まらせた。

 

 ──怖れている?

 

 その言葉を脳に入れて咀嚼し理解をしたところで、こんなにも言えない理由が浮き彫りになっていった。

 自分は一体、何を怖れていたのか。それは。

 

「……知って、私のことを、嫌いになってほしくなかったんだ」

 

 離れる前に暮らしていた闇の種族内ではそもそも性別のことが知られていたし、ジョナサンとエリナには早い方から打ち明けていた。これまで深い関係を築いてから自身の性別について述べたことがなかったのだ。

 

 大切だからこそ、知られて嫌われるのが怖かった。

 

「ここまで来てお前の『問題』を知ったからといって、嫌いになる訳ねェーっての。それはそれでお前は俺らのことみくびりすぎだからな!?」

「み!? みくびっていない!」

 

 花京院との取っ組み合いを中断したポルナレフが、激しい身振り手振りをしながら訴えてきた。考えもしなかったことを言われ、恐怖に怯えていた気持ちを忘れて主張をする。人間は脆いと思ったことはあるが、仲間のことを弱いと思ったことはない。それを聞いたポルナレフは、ニーッと大きく笑ってこう言った。

 

「なら、言えるよな?」

「……リヴィン、言ったように無理して言う必要はないんですよ」

 

 意地悪げなポルナレフに肘鉄した花京院から心配の声がかかるが、答えは前回と同じだ。

 

「ううん、言いたい。言わせてくれないかい」

 

 首を振って、大きく息を吸って、吐いて。こちらを見ている全員を見上げる。大丈夫だ、もう怖くはない。嫌わないと言ってくれたのだから。自分は、みんなを信じている。

 一度、強く唇を噛んでから、口を開き、声を出した。

 

「私は、男性でも女性でもない。どちらの機能も持っていない体なんだ」

 

 リヴィンが声を発してから、数秒の沈黙が走っていく。緊張と恐怖で心が爆発しそうになっていると、少し考えていたらしい人物が口を開いた。

 

「……性分化疾患、かな?」

 

 その人物は花京院だった。まさかその言葉が出てくるとは思わず、リヴィンは花京院の方へと勢いよく顔を向ける。

 

「知っているのかい?」

「さわり程度だけどね」

「んだそれ?」

「そうだな、簡単に言うと……母親のお腹の中で赤ちゃんとしての体が出来上がっていく時に、何らかのトラブルがあって性分化──男性になるか女性になるかが上手くいかなかった疾患のことだよ」

「うん、大体そんな感じで合ってるよ。闇の種族内では私しか該当していないから、そうであるとは一概に言えないけど……」

 

 普通の人は知らないものだとエリナから聞いていたので、花京院の博識ぶりに驚いていると、「手当たり次第興味のあるものをなんでも読んでて、たまたま知ってただけだから」と苦笑いしながら言われた。そんな口を開けてぽかんとしているリヴィンに、ジョセフが頭をかきながら謝ってくる。

 

「色々と性別を探ろうとしてすまんかった。そういう事情があったんじゃな。……しかし、驚きはしたが嫌ったりはせんよ」

「そうだぜ。てめえはてめえだろ。どっちでなくても変わらねえ」

「俺もすまん! そら困るよなァ。ごめんな!」

 

 ポルナレフがリヴィンの肩をバンバン叩いてから、立たせようと手を差し伸べてきた。そのまま手をとり立ち上がると、アヴドゥルが労うように言葉をかけてくる。

 

「そうか、それが理由で君は闇の種族から離れたんだな……。辛かっただろう」

「確かに辛かった。けど、それで私はジョナサンとエリナに、みんなに出会うことができた。だから、これでよかったんだ」

 

 性別のことがなければ闇の種族から離れることはなかっただろう。そしてそのまま、カーズによって滅ぼされた闇の種族の1人になっていたはずだ。

 辛くはあったが、今のリヴィンは幸せであることに間違いはない。

 ほんのり口角を上げて微笑むと、それぞれから頭を撫でられてリヴィンの体がぐわんぐわんとなる。わあと声を出しながらも、リヴィンは嬉しくてたまらなかった。

 

 ジョナサン、エリナ。私は大切な仲間を持てて、今も幸せだよ。

 

 ★

 

 アヴドゥル以外の者全員がエジプトから飛行機で去っていき、それぞれの生活に戻っていく。とは言っても、主にリヴィンと花京院からの熱望でちょくちょく集まろうという話はしていた。リヴィンについては喧嘩の元となった件が関係しており、花京院はそれをどうにかすること、そして単純に仲間だから集まりたいという気持ちからだ。生涯得られるかどうかも分からない仲間と会うのはやぶさかではない。全員約束と連絡先を交換して、旅立っていったのだった。

 

 陽を浴びてはいけないリヴィンと、気性の荒い犬が一般の飛行機にのれるはずもなく、SPW財団によるプライベートジェット機に乗せられてニューヨークに辿り着いた。

 当初、疲れなんて知らないとリヴィンは、木箱に入れ替えた頭蓋骨をもちながらそのまま墓地へと直行しようと思っていた。しかしイギーがいるので一度ジョースター邸に行こうと、財団員に車を回してもらい乗ろうとした時のことだ。

 

「イギー?」

「アギッ」

 

 そのイギーは車に乗らず、スタスタとどこかへと行こうとしてしまう。木箱を持ちながらイギーの後を追いかけようとするが、キャンキャン吠えられてリヴィンは思わず足を止めた。

 

「イギー、どうしたんだい。ジョースター邸にいけば、君はいくらでもコーヒーガムを食べることができるはずなんだけど……」

 

 振り返って、ものすごく嫌な顔をされてリヴィンはしゅんとなった。そうされる理由が見当もつかず、うーんと唸り声をあげる。そんなリヴィンに構わずイギーは、その小さな四肢でどこかへと行こうとしてしまう。……安定した生活よりも、自由に生きたいということなのだろうか。

 

「イギー! 君が好きに生きたいというのならそれでいい。でも、たまにでいいから必ず私達に会ってくれ。その時は沢山のコーヒーガムを用意しておくと約束しよう!」

 

 イギーはおめーが用意するんじゃないんだろうがと思っていたが、リヴィンには伝わらないのは知っていた。安定した生活は好きだが飼われるだけの生活はごめんだぜと、返事代わりの屁だけ残して、ニューヨークの雑踏に紛れ込んで行ったのだった。

 

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