人間を謳歌せよ   作:雲間

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三十四話

 

 居間で承太郎と花京院がテレビゲームをしている中、リヴィンはテーブル近くの座布団に座ってその様子を眺めていた。ブラウン管テレビが様々な色を映し出してひっきりなしに動いて音を出している。戦闘機を表現したものが画面左側で2機動いており、それを2人が操作しているようだった。右側から流れてくる謎の物体達を戦闘機から放たれる点で消滅させている。リヴィンには面白さがよく分からないが、2人とも熱中してゲームをしているのをただ眺めていた。

 

「承太郎、ただいま〜! あら、花京院くんもいらっしゃい!」

「この状態ですみません、お邪魔しています!」

「いいのよ、ゲーム楽しんでいて! ……きゃー!! リヴィンちゃん久しぶり、会いたかったわァ!!」

「私も会いたかったよ、ホリィ」

 

 ホリィは帰ってきて早々、家にいるリヴィンを見つけてぎゅうぎゅう音が鳴るかと思うほどの抱擁をかました。そんなホリィの行動には慣れており、リヴィンは動揺もせず抱きしめ返している。

 

「日本に来てからは会えなかったから寂しかったの。だからと〜っても嬉しいわ! 無事なのをちゃあんと確認したいからお顔、もう一度見せてくれない?」

「うーん、それはごめん。ちゃんと元気だから安心して。とにかくホリィが元気そうで良かった。これからは定期的にくるから安心して欲しい」

 

 仲間達に限らず、ホリィもその伴侶である貞夫もスージーQも、リヴィンが再生できるところは再生するつもりだ。巡回ルートはすでに組み立ててある。探し物が見つかったら、ルートに従って世界を回っていこうと思っていた。

 

「そうなの、わかったわァ。リヴィンちゃんは、何か用事があってアメリカからお出かけしていたんじゃないの?」

「うん、探し物がこの近くにあるとわかったんだよ。それで承太郎達と明日一緒に探しに行くことになってね」

「ならリヴィンちゃんは今日ここにお泊まりね! 果物あったかしら。ちょっと見てくるわ!」

 

 ルンルン言いながらホリィが台所の方へと向かっていくのを、リヴィンはぼんやりしながら見送る。

 ピチュンピチュンとテレビから流れるゲームの音。高校生2人がコントローラーを操作する音。台所から聞こえる色んなところを開けて果物を確認している音。外で鴉が鳴いている音。風に吹かれて木の葉が揺れる音。

 

 全てが平和だった。平和すぎて、ダメだった。

 

「リヴィンちゃーん! どのくらい食べるか教えてちょうだァ〜い!」

「そっちに行くよ、ホリィ」

 

 これが、普通なのだというのに。

 

 ★

 

 土曜になり、リヴィンの曖昧な指示を元にし車をSPW財団員に動かしてもらって約40分。下町に程近い住宅街へ辿り着き、3人はとある家の前に立っていた。ちなみに財団員には駐車場で待っていてもらっている。

 

「ここだね」

「……本当にここなんですか?」

「うん、間違いないよ」

 

 目の前にある二階建ての一軒家は普通に見える。自転車や車などが置いてあるので人は確実に住んでいる。一体何があるのだろうとよく観察をしてみても、表札が意図的に外されており、家の窓は全てカーテンがかかっていたくらいだ。これくらいならば特別おかしいとは言い切れない。とはいえリヴィンに嘘をつく発想がない為、『何か』があるのは間違いないのだろう。勘違いだったとしても、何もない方が良いので構わない。

 

「リヴィン、僕達でちょっと確認してみるから動かないでくれ」

 

 花京院がそう言いながら承太郎に目配せをすると、承太郎はそれを受け取り、のっしりと歩いて行って家のチャイムを押す。ピンポーンと音は鳴るが、家の中から誰かが出てくる気配は少し待っても全くない。承太郎が2回目のチャイムを押そうとしている間に、花京院はハイエロファントを出して中の様子を触脚で探りに行かせていた。

 ピンポーン。2回目のチャイムが鳴る。1回目と変わらず誰も出てくる様子はない。いないのならばいないで調査は楽になるだろう。触脚が家の半分くらいまで探り終え、一息ついてからそのまま調査を続けていこうとした。

 

「あっ」

「どうした、花京院」

「……触脚に攻撃があった」

 

 スタンド使いが中にいる、ということだ。承太郎は眼を細めて目の前の家を睨め付ける。

 

「そのままスタンド使いを拘束できるか試すよ」

 

 勝手に侵入したのはこちら側であるが、素直にチャイムに出てくれればここまではしなかった。

 攻撃されたのはごく一部分だけで、まだまだ無事な触脚は有り余っている。もし拘束できなくとも、スタンド能力の一端を掴むことはできるはずだ。攻撃された辺りの部屋へ触脚を集中させ、中にいるであろう人物を縛り上げにかかった。

 結局のところスタンド使いの抵抗はものすごく呆気ないもので、簡単に拘束することができた。

 

「3人いた。しかも、全員背が低いから子供かもしれない」

「……子供?」

「スタンドから聞こえてくる声がね。背が低いだけの大人というのも捨てきれないけど。あったとしても1人かな」

 

 細身の2人は幼い印象が強めの声で、残りの1人はそこそこ太っており、何か言ってはいるが言葉という言葉になっておらず特に動いてもいない。細身の方は成長途中の体つきっぽく、太っている方は病気か肥満か何かと思われる。

 2人は抜け出そうと足掻いていたが、スタンドを通じて軽く脅してみると1人が諦め、それに連鎖してもう1人も抵抗をおさめた。会話から察するに兄弟で、兄の方が触脚を攻撃したスタンド使いだ。

 

「……うん、この3人以外はいないみたいだ。中から鍵を開けるよ」

 

 触脚で鍵を開けた後に中へ入っていこうとしたのだが、リヴィンが一緒に入ってこないで突っ立ったままになっている。動かないでというお願いを律儀に守っているせいだった。

 

「おいリヴィン、いくぞ」

「もういいのかい? 分かった」

 

 小走りで近寄ってきたリヴィンも一緒に、3人で家の中へとお邪魔していく。花京院の先導でたどり着いた場所は居間のようで、ハイエロファントの触脚に拘束された3人がいた。

 

 花京院の言っていた通り、細身の2人は子供だった。髪を逆立てた金髪の兄らしき子と怯えている帽子を被った黒髪の弟らしき子供。

 ──そして、太っていると言っていた方は肌が緑色となっており、左右非対称の位置にあるぎょろりとした目をのぞかせ、そこらじゅうにできものがある『怪物』だった。

 怪物に目を見張る承太郎と花京院に、金髪の子が怒りながら叫び声を上げる。

 

「なんなんだおまえたちは! おれたちを殺しにきたのか!? 弟だけはやめろ、こいつはなにもやってない!」

「殺したりしない、話を聞かせて欲しいって言っただろう……」

「リヴィン、てめーが探してたのは『これ』か」

 

 花京院が子供の言葉に額に手を当てながら否定している中で、承太郎は怪物を指しながらリヴィンに確認を優先した。リヴィンは怪物へ顔を向け、しばし見つめてからゆっくりと頷く。

 

「うん。私を呼んでいた……、私が探してたのはこの人だ。……ああ、そうだったのか」

「おやじになにをするつもりだ!」

「親父……?」

 

 この怪物が子供達の父親だというのか。元からこの姿なのか、人間の姿から変わってしまったのか分からないが、どちらにせよ信じがたい出来事だった。

 

「でぃ……ううう、うううううー! け、けー、……お、おぉ……」

 

 怪物は何かを言っているが全く読み取れない。顔を顰めていると、リヴィンが唐突に手を上げて頭の布を脱いでいく。顔を知っている者しかいなかった空条邸でも脱がなかったというのに、脱ぎ去ることに一切の躊躇がない。やがて脱ぎ終わって顔を完全に晒したリヴィンが怪物に近寄っていったかと思うと、自身の額の上にある小さな角を怪物の額にブッ刺した。

 

「うわああああ! お、おやじ!」

「てめえ何をしてやがる!」

「うーん」

「うーんじゃない!」

 

 全員ギョッとしているのをよそにリヴィンは怪物の頭を両手で掴み、もがき始めたのを固定している。止めようと動き始めた承太郎と花京院だったが、リヴィンからすぐ「止めないで」と鋭い声がかかった。普段とは違う真面目な声色のリヴィンに、2人は足を止めて見守る体制に変更をする。リヴィンが子供の親だという怪物を悪い方向に持っていくとは思えない。子供からはやめろという言葉が飛んできているが、リヴィンの説明のない突然の行動に申し訳ないと思いつつもそのままにしておくことにした。

 10秒ほど経っただろうか。怪物の緑色がほんの少し薄くなり、辺り一面にあったできものがわずかに萎んでいる。それに伴って膨張していた体も減って、反比例するように背丈が伸びているように見えた。リヴィンがふうと息を吐き怪物から離れていく。

 

「今できるのはこのくらい……かな」

「……何をしたんです?」

「滅茶苦茶に絡まって融合していたのを解いてた」

「何をだ」

「DIOの……細胞? 肉の芽なのかな、これは。変質しすぎてて多分としか言えない」

 

 口をへの字にしてむむむと唸るリヴィンの言葉に、2人とも苦い顔をした。

 肉の芽。DIOが自分に従わない人物を操る為に、自身の細胞から作り出した悪しき道具。花京院やポルナレフにも突き刺されていたものである。

 

「お、おやじが言ってた……。『DIOが死んだから、肉の芽が暴走したんだ』って……」

 

 リヴィンの言葉にハッとした子供からの証言に、花京院は怪物を──子供の父親を見つめ直した。とても人間だったとは思えない体。まともに喋ることができず、唸り声をあげるだけの脳。家族に迷惑だけをかけ続ける状態。承太郎によって肉の芽を摘出されなければ自分がなっていた末路なのだと知り、強く拳を握りしめる。

 

「お、おまえ治せるのか? おやじのこと……」

 

 リヴィンへ縋るような目線を向ける子供を見て、花京院は続けていた触脚による3人の拘束を解いていく。子供は自由になった体で、リヴィンの元へと小走りで向かっていった。おびえるだけだった弟の方も兄についていっている。

 

「すぐには戻せない。よく分からないものになりすぎてるんだ。DIOの頭を吸収していたら治せる確率は上がったかもしれないけれど……。……うう、気持ち悪い。この話はやめよう。とにかく、他の症例を見られればどうにかできると思うよ」

「本当に……?」

「嘘を言って何になるんだい?」

 

 心外だという表情のリヴィンを見て、金髪の子供がひとつ、またひとつと涙を零していく。黒髪の子は状況を理解しきれていないのか、兄の衣服を掴んで弱々しく「あにき」と呟いた。その声を聞いて、兄は弟を抱きしめて静かに涙を流し続ける。

 

「助かるんだ、おれたちは助かるんだ……!」

 

 母親については不明だが、父親が化け物になってからは兄であるこの子が家庭を支えていたのだろう。小学生の身でそんな立場に立たされたのかと思うと、胸が締め付けられた。

 

「DIOの野郎……面倒な置き土産しやがって」

「……財団の人に保護してもらおう。リヴィン、治療を続けるんだろう?」

「うん。治してみせるよ」

 

 リヴィンがしっかりと頷いたのを目に収めた。ならば待機してもらっている財団員に財団へ連絡をとってもらおうと思ったが、その前に子供達から聞かなければならないことがある。近寄って膝をつき、目線を合わせてから尋ねていく。

 

「手荒な真似をしてすまなかった。僕は花京院典明。……君達の名前を聞いていいかい?」

「……形兆。虹村形兆。こっちは億泰だ」

 

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