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「ちょっと出かけてくる」
「やめろ。てめえの『ちょっと』は長すぎる」
花京院がSPW財団に連絡をしてアレコレを説明し、虹村家の3人を保護する事が確定した。今は細かい事項を花京院が形兆に確認をとりながら行っている。
形兆は自分がこの家を支えなくてはならないと決意してから、スタンド能力が目覚めたという。父親が肉の芽を埋められていたことから、父親にもスタンド能力があったのだと思われる以上、子供が持っていてもおかしくない。そしてスタンドを扱えるようになってからそこまで日にちが経っていないせいで、あまり練度が高くない故に簡単に制圧できたのだ。そもそも練度が高くとも、近距離でない限り花京院のスタンドとは相性が悪いのはおいておく。
億泰もスタンド能力があるらしいが、見えるだけで発現にはいたってない。いずれ発現した時には訓練が必要だと皆で算段をつけていた。
とりあえずの一段落がついて一息ついていたのだが、リヴィンが上記の台詞を言ったので承太郎が止めると、素直に言うことを聞きひとまず出かけることは取りやめた。
「おめーは何で出かけてえんだ」
「……私がここを発見した理由はなんとなく分かるだろう?」
「体を取り込んだからだろ」
リヴィンはジョナサンの──DIOの体を吸収した。それがきっかけとなり、何らかの要因でリヴィンを呼び寄せることとなったと推測できる。リヴィンはそっと左肩に右手を置いて、ゆっくりとさすった。
そこには、いつの間にか現れていた星型のアザが存在している。きっとこれはジョナサンの形見のようなものであり、導いてくれる道標なのだと発見した時に思ったのだ。実際、痛みのような熱を感じてから虹村家について分かるようになったのだから、それ以外ないと思っている。
リヴィンはうんと頷いてから、目的を話していった。
「ここの信号が一番強かったからここに来たけれど、他にも似たようなものを感じるから探しにいこうと思ってね。それが肉の芽による融合を完全に解く鍵になるよ」
形兆に言ったように症例が足りない。それらを見つけることができれば、肉の芽から解放する手立てを確立できる。これは自分にしかできないことで、自分が賜った使命だ。仲間のところを巡りながら探していこうと思っている。
「行きたいのは分かったが、ちいと待て」
「……承太郎の言う『ちょっと』の期間はどのくらいだい?」
「てめーが思っているよりも少ねえのは確かだな」
「人間が難しすぎる……」
うううと口を曲げて困り顔しながら呟くと、クッと承太郎が笑ったのを見た。
「もっと人間ってのを知るべきだぜ」
「ヒト科、ヒト属、ヒト。正式名称をホモサピエンスと言い」
「違ェ」
「えっ」
★
「なぁなぁリヴィンねーちゃん、あそぼーぜ!」
「……う、うん」
虹村家の居間で億泰がリヴィンに誘いをかけるが、リヴィンは完全に困った声で返事を返した。
虹村兄弟の父親は妻が亡くなったことや会社が倒産したことで借金を抱え、家事もほとんど形兆がするようになり、理由もなく兄弟に暴力を振るうようになった。その弱さにDIOはつけ込んだのであろう。肉の芽を植え付けられ、どこからともなく札束や宝石類が入り込むようになったが、結末はこれだ。形兆は自業自得だと言葉を吐いてはいたが、それでも父親に変わりはない。戻ってくれるのならばと、リヴィン達に頭を下げてよろしくお願いしますと涙ながらにお礼をしてきた。そこまでされなくともきちんと対応をするつもりで元々動いており、虹村兄弟の父親はSPW財団系列の特殊な病棟に入院が決まる。虹村兄弟はその病院と近いのと、家から離れたくないという意思を尊重する形で家に残ることになった。
勿論兄弟2人だけでは生活ができないので、毎日事情を知っているSPW財団系列のハウスキーパーが訪れている。花京院はもしもの自分を見たからか、承太郎を伴い虹村家へたまに遊びにくることも約束していた。
そしてリヴィンは承太郎の「ちょっと待て」の指示通り待機しており、虹村家でそれまでの時間を潰している。空条家で待っていても良かったのだが、何故か億泰に懐かれた為だ。
なお今は覆われている素顔を見たからか形兆にも女性だと思われているようだが、特に訂正も否定もしないでいる。リヴィンに角があるのと素肌を晒さないのについては、花京院がスタンド能力のせいだと誤魔化した。スタンドを理解しているとはいっても、闇の種族は現実味がない上に、突拍子もなさすぎて普通は信じられないと言われたのだ。形兆は若干疑っている節があるので、いずれ真実を話すことになるだろう。
虹村家に滞在中、億泰からしきりに遊びに誘われてそれに付き合ってはいるのだが、どうにも楽しんでもらっているとは到底思えなかった。エリナの所で過ごしていた時もそうだったが、子供の思考回路は大人より難しくてたまらない。よくわからないことを要求され対応したら、すぐに違うことを要求されたりする。リヴィン自身は基本的に対応できるから問題はないが、こんなことでいいのかと常々疑問に思っていた。
「ビューンして! ビューン!」
「うん、分かった」
「億泰! あまりリヴィンさんに迷惑かけるんじゃあねーぞ!」
「大丈夫だよ、形兆」
テーブルで宿題をしていた形兆から声がかかったが、やんわりととりなしてから億泰を持ち上げてその体を平行にすると、億泰が家の物にぶつからないようにしながら適当に歩いていく。どうにもこれがお気に入りで数回やっているが、何がいいのかさっぱり理解できなかった。居間を何周かしていると、家の黒電話が鳴り響いて形兆が対応しにいく。形兆の「はい。はい、います」という声が聞こえたかと思うと、急にリヴィンへ声がかかった。
「リヴィンさん、承太郎さんから電話だぜ」
「分かった。億泰、すまないが降ろすよ」
億泰からはーいという素直な返事が返ってきたのを確認すると、リヴィンは気をつけながら億泰を床へと降ろしてから受話器を取りにいって耳に当てた。
「承太郎?」
「17時くらいにアヴドゥルがそっちに行く。詳しい話はアヴドゥルから聞いてくれ」
「アヴドゥルが来るのかい? 分かった」
「おう」
ガチャン。と切れて、それで電話は終わってしまった。非常にシンプルすぎる電話だったが全く気にしていないリヴィンは、形兆と億泰に来客がくることを伝えてその時間がくるのを再び億泰と遊びながら待つ。
そうしてピンポーンとチャイムが鳴ったが、万が一普通の人だったら黒い不審者が対応するのはまずいので形兆に出てもらう。問題なくアヴドゥルではあったのだが、リヴィンと出会った瞬間の言葉がこれだった。
「やあ、リヴィン。ちょっとぶりだな」
「……『ちょっと』。……ああ」
リヴィンは絶望した声をあげて肩をガクッとさせ、経緯を全く知らないアヴドゥルはその様子を訝しんだ。アヴドゥルと会うのは2週間と5日ぶりである。
アヴドゥルと虹村兄弟の紹介を簡単に済ませてから、2人だけ客室の和室へと移動して話を進めていく。
「承太郎から話を聞いたぞ。肉の芽に蝕まれた人を探しに行くそうだな」
「うん。それがあの子達の父親を救う手立てになる。私がやるべきことなんだ」
一度承太郎から波紋はどうだと聞かれたが、やめておいた方がいいと断った。肉の芽は深く肉体と融合しており、リヴィンが解こうとしても複雑すぎてそれほど進まなかったのだ。下手に波紋を流して肉体も消滅しました、では取り返しがつかない。SPW財団の方でも分析をしていくと聞いてはいるが、人間に戻せるのは自分以外に成しえないと思っている。それが、リヴィンの使命なのだから。
「その探しに行く旅なんだが……、私も一緒に行ってもいいだろうか」
「アヴドゥルが?」
「君が1人で街中を旅する可能性があるかと思うと少々……いや、かなり心配でな」
「大丈夫、人目にはつかないようにする」
「リヴィン……。そういう問題ではない」
首を横に振られて否定された。ではどういう問題なのだとアヴドゥルが口を開くのを待つ。
「ポルナレフは過保護すぎるとは言っていたが……、正直気が気でない。SPW財団への連絡や諸々を穏便に済ませる為、ひいては私達の不安を解消させる為、共に行かせてほしいんだ」
承太郎と花京院とアヴドゥルが1人で旅させるのは危険だと判断し、ジョセフは今まで大丈夫だったのだから1人で行かせてもいいとは思うが心配、ポルナレフはアヴドゥルが言った通りそこまで世話してたら成長しないだろー? と言っていたという。とはいえ心配なことに変わりはないので、最終的には納得したらしい。
実質ついていくのが確定なのではと思ったし、それくらいならばできるとも思っているが、皆に心配をかけているのは確かなようなので頷くことにした。アヴドゥルも一緒なら仲間巡りの箇所が減るというのもある。
「いいよ、アヴドゥル。一緒に行こう。明日からでいいかい?」
「日本に来たばかりなんだ、流石に少しばかりゆっくりさせてほしい。準備もあるしな」
なるべく早い方がいいとはいえ、どのくらい日数がかかるか分からない旅だ。休むのは必要なのだとエジプトへの旅で十分理解していたので、それもそうかとリヴィンはもう一度頷いた。
「出立まで承太郎とホリィさんのところでお世話になる予定なのだが、リヴィンは旅までこのまま此処にいるつもりか?」
「そうだね。もう少し肉の芽の様子を見ておきたいのもあるし」
時間が経ったことで変化が起こっている可能性もある。その辺りも踏まえて虹村家にいるつもりだ。
「分かった。では今のうちに詰めれるところは詰めておこう」
アヴドゥルが持ってきていた地図を広げてリヴィンを見やる。虹村父よりも薄い信号なので確実にここであるとは言えなかったが、大まかな場所を指してどうやって行くかの予定を立てていった。
大体の予定が決まってアヴドゥルが空条邸へ戻って行くのを玄関まで見送ると、形兆がリヴィンの様子を伺いながら近寄ってくる。
「リヴィンさん」
「形兆、どうしたんだい?」
「……聞けてなかったけどよ、リヴィンさんはどうして親父を助けてくれるんだ? おやじはあんな化け物になってるのに、怖くねーのか?」
「怖いと思ったことはない。助けるのは、『大切な人』から賜った使命だからだよ」
そう言ってリヴィンは自分の左肩に手をやり瞼を閉じた。ここにはいつだってジョナサンが、ジョナサンの形見がある。
目を見開くとリヴィンの回答にいまいち納得していない形兆が、眉を顰めながら言葉を続けていく。
「おれは……、おれは親父が化け物になってから、ずっとおれが全部やらなきゃって思ってたんだ。でも今はそうじゃあない。よかったって思ってるけど、『おれがやらなくても本当にいいのか?』とも思ってる。あんた達に押し付けてるだけなんじゃあないかって」
「形兆、これは普通の人間には手に余る事態だよ。それに言った通り、私はやりたいと思っているからやるんだ。君には渡せない」
形兆はリヴィンの本気を理解したのか、ヒュッと音を鳴らして少し俯いた。流石に鈍いリヴィンでも怖がらせてしまったと気がついて、わたわたしながら言葉を紡いでいく。
「ええっと、その、とにかく、き、気にしないで! 君は君の人生を送るのが普通なんだ! 君らしく生きられるように……が、頑張って」
うまい具合の慰めの言葉が出てこず、テンパりながら右手の人差し指と中指をクロスさせて見せる。英語圏で使われているハンドサインで、グッドラックの意味を表しているのだが、当然形兆に伝わるはずもなく少し沈黙して首を傾げられた。
「……それなら、リヴィンさんはリヴィンさんの人生を送ってるってことでいいのか?」
「私は私の人生を送っているよ」
脳内にエリナの「いきがいを見つけなさい」という言葉が過ぎる。これが今の私のいきがいなのだと、リヴィンはエリナに応えた。