フランスで過ごしている中、SPW財団からエジプトでポルナレフが見つけた弓と矢に関する資料を発見したと連絡があった。その弓と矢は、元々スタンドを持っていない人間をスタンド使いにできるのだという。とはいえ誰でもスタンド使いになれるものではないらしく、適正のある者はスタンドが目覚め、適正のない者はそのまま死に至る。DIOのスタンドが目覚めた原因は恐らくこの弓と矢によるものであろう。他スタンド使いも全員が全員ではないだろうが、同じように弓と矢によって目覚めた者もいたのではないかと考えられる。そして一番厄介なことに、弓と矢はSPW財団が保管している一組だけではないという事実まであったのだ。
その連絡を受け取ったアヴドゥルは、2人の泊まるホテルの一室で3人で集まり、この件についてどうするか頭を悩ませていた。
「アレ、そんなとんでもねェ厄介な代物だったのかよ……」
「悪用されかねん。我々で探し出して破壊する必要があるな」
DIOによる肉の芽被害者を探し出すのにも苦労をしているのに、更に問題が浮かび上がってきて頭を抱えるしかない。全員の肉の芽を取り除くことができれば話を聞けるかもしれないが、かなり先の話になってしまうし、弓と矢のことを知っているとも限らないのだ。
SPW財団で行方を調べてもらっているが、本格的な調査は戦えるスタンド使いが行わないといけない。エジプトへの旅で何名かの財団員が亡くなってしまった以上、これ以上の被害者を出すのは避けたかった。
色々と手間が増えてしまうが、被害者探しの旅の中で同時に探していくしかないかとアヴドゥルが思っていたところ、ポルナレフがニッと歯を出して笑いながらこう言い出した。
「丁度俺も旅行したかったところでよ〜。このままここにいたら腕が鈍っちまうしな。俺が弓と矢を探してきてやるぜ!」
「……ポルナレフ1人で?」
「おいリヴィン、おめーどういう意味だッ!?」
だって……と言葉を続けそうなリヴィンにポルナレフが突っかかっていく。アヴドゥルからしたらどっちも1人で旅するのは危ないと思っているが、ポルナレフの方が今までの一人旅の経験がある以上は上手だろう。手が足りないのは確かだし、もし敵対してくるスタンド使いがいてもポルナレフの戦闘力ならば申し分ない。ジョセフは立場上動きにくく、承太郎と花京院は学生だ。イギーに至ってはそもそも協力してもらうのにかなりの労力を要する。そういった意味でも適任といえた。
「喧嘩はやめろ。実際ポルナレフが動くのがいいだろう。頼めるか?」
「そもそも弓と矢は俺が見つけたからな、見つけた以上は責任とるさ。……それに、スタンドを使って悪さするヤツがこれ以上出てこねえようにしなきゃなんねえ」
ポルナレフの眼光が鋭くなり、何が何でもやり遂げるという男の表情に変わっていく。この男のスタンドのように貫かんとする姿勢をアヴドゥルはなにより気に入っている。深く頷き、SPW財団へはポルナレフが担当すると伝えることを決めた。
「よろしく頼むぞ」
「私達もメインではないけれど探ってはみるよ。……ポルナレフ、必ず連絡はしてくれ。1週間おきに誰かへ連絡を忘れないでくれ。連絡が来ていないと判明したら私は探しにいく」
「お前、俺の母親じゃねーんだからやめろよなァそれ!」
「私がポルナレフの母親ではないのは当たり前だけれど……??」
またコイツは本当に……。という態度を隠さないポルナレフが大きく頭と肩を落とした。
★
ポルナレフはフランスから旅立ち、弓と矢を探す旅に出た。リヴィンとアヴドゥルも引き続き肉の芽被害者を探しつつ、リヴィンは人々の観察もしながら、できる時に弓と矢についての情報を探る日々を続けていく。
そうして時が経ってエジプトへの旅から約一年が経過し、季節は春になっていた。変化としては承太郎が海洋学を学ぶ為にアメリカの大学に進学したこと、虹村父の肉の芽解除がまあまあ進んだことくらいだ。緑色がだいぶ薄くなってきている。花京院は世界中にいると思われる、自分と同じような孤独のスタンド使いを救いたいという理由で、様々な人種の集まるアメリカの大学附属の語学学校へ進学すべく勉強をしているらしい。
リヴィンは日本に戻ってきて虹村父の治療をし、アヴドゥルが「流石に承太郎のいない空条邸にお邪魔するのは……」という理由で、共に虹村家へ戻っていく。アヴドゥルは元々日本好きが高じて日本語は多少喋れていたが、旅の道中リヴィンから学ぶことで受け答えには問題ない程度には喋れるようになっていた。今も形兆と一緒に買い物に出掛けている。リヴィンは億泰とお留守番をしており、リビングでごっこ遊びに興じていた。
リヴィンはやる意義を正直分かっていないながらも、花京院から提示されたテンプレートの1つに則って言葉を発するようにしている。実際の人物を真似はできるのだが、アニメや漫画などの空想のものを真似したり演技したりするのは不得意だった。
「かーめーはーめーはー!」
「悟飯ー! 頑張ってー!」
「あ、違うよリヴィンねーちゃん! 今のおれは悟空だってッ!」
「悟空ー! 頑張ってー!」
全然悟空と悟飯の違いを感じ取れないが、大人しく従っておく。すごーいと拍手したりしてごっこ遊びに対応していた最中、急にリヴィンはそのぎこちない演技を止めて周囲の様子を伺った。
「リヴィンねーちゃん? どうしたんだ?」
「……億泰。自分の部屋に戻ってもらってもいいかい?」
「えっ、なんでェ?」
困った。アヴドゥルや花京院ならば億泰が納得できる言い方をできただろうが、今はリヴィン1人。嘘がつけないリヴィンは、なんとか誤魔化しながら喋ろうとした。
「わ、私に用事のある人が……、家の近くに来ているみたいなんだ。一緒に危ないことをする可能性が高いから、億泰に怪我をしてほしくなくてね」
「おれ、遠くから見てるよ」
「遠くも危ないんだ。私は億泰に怪我をして欲しくない。お願いだよ……」
リヴィンからされたことのない懇願する言い方に思うところがあったのか、億泰はすんなり引き下がってくれた。大丈夫になったら部屋に行くと言いながら億泰を2階の部屋に送り、リヴィンは1階へと戻る。そのままリビングの掃き出し窓から小さな庭へと出て石段に置いてあるサンダルを履く。
周囲を伺いながら神経を集中させると、明らかに地震ではない振動が近くからしているのが分かった。そこまで大きな振動ではなかったので億泰は気が付かなかったようだ。
「それで潜んでるつもりかい?」
「……何故分かった」
「分かったからだけど……」
「はぁ?」
一体何を言っているんだといわんばかりの表情で、オーストラロイド系の男が家の囲いである塀の上に立ってこちらを見下ろしている。
「貴様ら、DIO様の痕跡を何故消そうとする? あれはDIO様が残されたモノだ! お前達は何も分かっていない」
「DIOの残したものだからこそ消すんだよ」
肉の芽を全て取り除いて、それでようやくDIOが完全消滅したと言っていいだろう。貴様の方が分かっていないとキレながら、リヴィンは先手必勝と言わんばかりに駆けて襲いかかっていく。
「のこのこと外に出てくるとは馬鹿めッ! ビジネス・アズ・ユージュアル! やっちまえ!」
地面が隆起し鋭い銀の三角円錐がリヴィンを刺そうとしてくるが、地面へスタンドを潜ませていたと音で理解していたリヴィンは、上空へと体を飛ばし落ちていく力を含めて思いっきり男の腹をぶん殴った。
「ぶっへェッ!!」
男は一度塀にぶつかり、庭側へ身体が落ちていきぐったりとうつ伏せになった。動かないのでちゃんと気絶したみたいだ。確かに奇襲としては優秀なスタンドだっただろう、リヴィン相手でなければ。リヴィンも庭に降り立ち、コイツを縛り上げねばとロープを作り上げようとした矢先、まだ地面の中から音がする事に気がついた。
「ふっ!」
再び宙に飛んで、串刺しにしようとしてきたのを避ける。男へと目線をやったがやはり気絶していてスタンドを操っている様子はない。ということは、アヴドゥルから聞いていた『遠隔自動操縦型』というやつだろうか。やっかいなものに当たってしまったな、とリヴィンは頭を悩ませた。このまま飛び続けて、たまに億泰が遊ぶ庭をボコボコな状態にする訳にはいかない。
リヴィンは地面に足をつけた後、次に来るスタンドの攻撃が『わざと腹に突き刺さるように』調整して受けた。
「うあっ」
思ったより威力があってつい言葉が漏れてしまったが、スタンドを捉えることはできた。モグラに似たスタンドで、頭部の頂点に銀の大きなランスのようなモノがついている。これで攻撃をしていたのだ。今はリヴィンの血に濡れて銀の部分が見えなくなっていた。
しっかりとスタンドを掴み、どこにも逃げられないようにする。どう破壊するのが庭に被害が及ばないだろうかと、脳内で一覧を作っていた時のことだった。
「……う、うわああああああ!! リヴィンねーちゃんッ!!!」
億泰が2階廊下の窓からこちらを覗いていた。約束したのに部屋から出てリヴィンを見ていることに驚き、この現場を見られたことにリヴィンはビビり散らかす。一覧なんか頭から吹っ飛んで、どう対応するのが正解なのかを探し始めたが頭がこんがらがって回らない。
「リヴィンねーちゃんから離れろォ!!」
億泰の叫びが響いたその瞬間、胸に¥と$マークをあしらった銀と青色をした人型スタンドが現れ、右手の一振りによって軌道状にあるモグラ型のスタンドが「ガオン!」という音と共に削られて消滅したのだ。大幅に体を削られたからなのか、モグラ型スタンドは残りの部分も同様に消えていった。だが実質蓋になっていたランス部分が消滅し、多くの血がボトボトと腹から流れていってしまう。
「ねーちゃん! ねーちゃん!!」
億泰が急いで一階へと降りていっている音が聞こえてくる。リヴィンは両手を頭に置いてしゃがみ込み絶望のポーズをとりながら、急いで腹を再生させた。しかし腹は元通りになっても黒衣や白服、地面に飛び散った血などは今すぐどうにもしようがない。形兆と億泰には自分が人間ということにしてあるというのに、これは人間の範囲を超えている。その上億泰にスタンドが発現した。
アヴドゥル早く帰ってきて……。と、億泰が来るまでの間リヴィンは情けない顔をしているのであった。
スタンド名:ビジネス・アズ・ユージュアル
【破壊力 - B / スピード - C / 持続力 - C / 射程距離 - D / 精密動作性 - D / 成長性 - D 】
体がモグラの様なスタンド。
頭の先が鋭い銀の大きなランスになっている。地面の中に潜み、指定された場所の半径5mにいる存在が動かなくなるまで地面からひたすら刺してくる。あくまで地面の上にあるのが対象であり、家の中やちょっとした岩の上とかでも範囲外になる。
なのでスタンド使いは塀の上に立って登場したのだが、殴られ地面に落ちた時に刺される可能性があった。