人間を謳歌せよ   作:雲間

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三十九話

 

 和室の片隅に布をかけられた置物がある。としか言えない光景だった。

 

 花京院はアヴドゥルにリヴィンをどうにかして欲しいと呼ばれ、元々月一で来ている虹村家へ2週間ぶりにお邪魔をすることになった。そうして出迎えてくれたアヴドゥルから、呼ばれた原因である昨日起こった出来事の詳しい事情を話される。

 

 DIOの信奉者が襲いかかってきて、リヴィンは億泰を自室へと送ってから対応。簡単に伸すことはできたが、スタンドが自動操縦型だった為に消えずに存在していた。それを消そうと腹でスタンド攻撃を受け本体を捕まえたところ、部屋から出ていた億泰に見られてしまう。結局本体は億泰のスタンドによって倒されたが、凄まじく動揺したリヴィンはアヴドゥルと形兆が戻ってくるまで「問題ない」「大丈夫」を連呼するだけの機械となっており、酷く億泰にギャン泣きされながら心配されていたらしい。そうして事情を把握したアヴドゥルが、一度理解がありそうな兄である形兆だけに種族のことを含めた説明をした。

 元々リヴィンがスタンドで角が生えていたりなんだりできると思っていなかった形兆は納得をしたのだが、その形兆から億泰にはこのまま人間だと思わせておいた方がいいと提案がくる。理由としては「アイツは馬鹿だから思わぬところで口を滑らせる可能性がある」こと。

 確かに普段から接していてそう感じてはいたので、億泰とリヴィンの安全の為に先程の出来事は手品だったと誤魔化した。アヴドゥルはこの理由は無理があると思っていたのだが、素直に騙されてくれたという。花京院は億泰の将来が少し心配になった。

 

 なお、襲いかかってきたスタンド使いは、尋問なども含めてSPW財団に丸投げされている。

 アヴドゥルと形兆と億泰は、覚醒した億泰のスタンドの性質と制御について対応をしている最中だ。

 そして問題を起こしてしまったリヴィンは、昨日からずっと和室の隅っこで体育座りして顔を膝に埋め固まっている。事情を説明し終わってから、アヴドゥルや虹村兄弟が声をかけても、ずっとこうなのだという。花京院が来ても微動だにしなかった。

 

「ええっと……、リヴィン?」

 

 しばらく待ってみても返事もない。かなり落ち込んでいるなと思いながら、苦笑いしつつ歩いてリヴィンの目の前まで行ってしゃがみ込んだ。

 

「アヴドゥルさんから話は聞いたよ。億泰くんの前でやらかしたんだって?」

「やらかし……、……うん」

 

 あまりにも死にかけていそうな声で色々と心配になる。一度少し頬をかいてから、リヴィンに質問を投げかけた。

 

「リヴィン、君は何が悪かったと思っているのかな」

「……億泰を泣かせてしまった。形兆も血を見て少し怖がっていた」

 

 リヴィンは頭に手をやり、小さく唸り声を上げ始める。相当子供2人の反応が心にきたのだろう。しかし花京院はその答えを聞いて、良かったと安堵のため息をついた。

 

「なんで泣かせてしまったのか、理由が分かりますか?」

「なんで……。……私が怪我をして、血を流していたからだ」

「体を再生できるからといって、体を犠牲にしてはいけないのを理解してくれましたか?」

 

 ここでようやく、リヴィンは頭を上げて花京院の方を見た。そんなリヴィンを見ながら、花京院は苦笑いをしつつ言葉を紡いでいく。

 

「億泰くんのように僕達は事情を知っているからこそ分かりやすく表現はできないけれど、思っていることは同じだ。君に、傷ついてほしくない」

「でも、花京院。私は……」

「今回のように敵が襲ってくるのに抵抗として使うのは分かりますよ。けれどリヴィン、敵のスタンドを受け止めるのにわざわざ体を犠牲にする必要はなかったはずだ」

 

 体で受け止めるのが一番手っ取り早いというのは、体を全く大事にしていないからこそ出る選択肢だ。避けようと思えば避けられた方法でもある。

 

「僕達や億泰くん、形兆くんが悲しむのを分かっていても尚、君はこの選択肢をとり続けるんですか?」

「……、……約束はできない」

「リヴィン」

「どっ、努力はする! ……本当にする」

 

 足をギュッと抱きしめて気まずそうに顔を横に向けたのが布の動きで分かった。約束はできないようだが、努力する気持ちはリヴィンの中にちゃんとあるようだ。この辺りが現状での限界点なのだと悟った花京院は、リヴィンの頭に手をやって優しく撫で始めた。

 

「今はそれでいいよ、今はね」

「う、ううう……」

 

 鈍いリヴィンでも言葉の裏を感じ取ったのか、縮こまって唸り声を上げる。そんなリヴィンに笑いながら、花京院は撫で続けたのであった。

 

 リビングに2人で戻ったところ、億泰のスタンド検証が終わった3人がそれぞれテレビを見たり宿題をしていたりと各々寛いでいた。

 

「リヴィンねーちゃん! ……もう大丈夫?」

「お、億泰。……すまない、心配をかけたみたいだね。私はもう大丈夫だよ」

 

 リヴィンは近寄ってきた億泰に視線を合わせる為、少ししゃがんでから返事を返していた。そのリヴィンを見つつ、花京院は形兆が宿題を片付けている横に座ってお茶を飲んでいたアヴドゥルに声をかける。

 

「アヴドゥルさん、結果はどうでしたか?」

「ああ、大体は判明したよ。花京院、リヴィンの立て直しを任せてすまなかったな」

「いえ。自分自身を大事にして欲しいことについて一歩前進しましたし、対応できてよかったですよ」

「そうか……。それならよかった」

 

 アヴドゥルは深く頷いてから、億泰に遊ぼうと誘われて庭へと出ていった2人を見ながら話を始めた。

 調査の結果、億泰のスタンド能力は右の手のひらで触れたものをなんでも削り取るもの。『ザ・ハンド』と名付けられた。

 物体や水、アヴドゥルのマジシャンズレッドによる炎など、なんでも消滅させることができ、何もないところで手を振ると、空間を削っている判定なのか実質的な瞬間移動ができることまで判明する。

 能力の危険性を考えて、本当に危険な時以外は使用するなと厳命が下った。億泰としても物を破壊したくはないし、もし人に触れてしまったらと考えたら怖くてたまらなくなったらしく、すごい勢いで首を縦に振っていた。手品だったと信じたとはいえ、リヴィンの怪我がトラウマになったらしい。ある意味よかったかもしれないと、横で聞いていた形兆がぼやいていた。

 

 ふと庭に出ていた2人を見ると、リヴィンが高速足踏みをしながら地面を踏み潰していた。まるで道路工事で見られる地面を均す機械のようだ。おそらく敵スタンドによって荒らされた地面を平らにする為にやっていのだと思われる。億泰はロボットのように動き回るリヴィンにスゲ〜と声をあげながら拍手をしていた。

 同じように外を見ていたアヴドゥルが、躊躇いがちに声を上げる。

 

「敵スタンド使いのことなんだが」

「……ここで話して問題ないんですか?」

「ああ。形兆にも聞いてもらわないと納得できない話だからな」

 

 とはいえ形兆には言えないこともあるらしく、アヴドゥルは言葉を選びながら語り始めた。

 

「襲ってきたDIOの信奉者だが、尋問の結果によると単独犯であることは分かった。しかし、とある筋では『ある2人組がDIOの残したものを消しに行っている』と話が回っているとも言っていたそうだ」

「そこから敵のスタンド使いは、アヴドゥルさんとリヴィンのことだと突き止めた」

「その通りだ。突き止めてきたのはソイツだけだったとはいえ、今後もそうであるとは言い切れない」

「……危険だからもう家にはこないって話なのか?」

 

 眉間に皺寄せながら形兆が言葉を投げかけてくる。話の流れだとそういう話になるだろう。アヴドゥルは「うむ」と言いながら話を続けていった。

 

「しかし会わない、というのは億泰にとっても君にとっても、そしてリヴィンにとっても寂しい事になるだろう。無論、私もな。だから病院を経由して会うことにしようと思っていてね」

 

 個人宅に何度も訪ねるのは特定してくださいと言っているようなものだろう。対して病院ならば、不特定多数の人間が来る上にSPW財団の車で行く為、どれが2人の乗っている車であるかは特定しにくい。勿論万が一に備えて一般人が巻き込まれないよう、変装などの万全の準備をしてから行くことにはなる。

 

「我々の事情に巻き込んでしまってすまない、形兆」

「……悪いのはDIOってやつと、ソイツを崇めてるヤツらだ。アヴドゥルさん達が悪いわけじゃあねえ。それにリヴィンさんに助けてもらえてなかったら、おれ達は2人だけでおやじをどうにかして生きてかなきゃダメだったしな。会えないってことじゃあない、大丈夫だ」

 

 気丈なことを言ってくれたが、寂しいといった感情は顔から漏れている。アヴドゥルは眉尻を下げつつ、わずかに口角を上げて形兆の肩を軽く叩いた。

 

「立派だ。だが、何かあっても何もなくても連絡してくれていいからな。我々大人も、頼られると嬉しい年頃でね」

「……分かった」

 

 アヴドゥルの気遣いがわかったのか、形兆は素直に頷いた。花京院は一番ショックを受けるであろう外の2人に再び視線を向けると、楽しそうにボールを投げる億泰と、受け止めるのは簡単にするのに投げ返すのはやけにぎこちないリヴィンが見える。力加減に困っているようだ。思わずふふッと笑いながらも、再び悲しみに染まるのかと思うと胸が締め付けられたのだった。

 

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