「ああ……私はもうだめだ、ジョセフ」
「何言っとるんじゃ」
インド行きの列車の中で、ジョセフの前でポルナレフの隣、アヴドゥルの斜め前に座っているリヴィンは、テーブルの上に顔を伏せて脱力仕切っている。
「少し昨日力を使いすぎた……。補給をしなければ」
「お前はちと面倒じゃからのー。ホレ、少しでも食べて補給せい」
各々に配膳されてきた食事が目の前に並んでいるが、他の面々が魚をメインとしたものであるのに対して、リヴィンの目の前にあるのはマンゴー、リンゴ、パイナップル、マンゴスチンといった果物のみのオーダーをしたようだった。セルフでということなのか、皮は剥かれておらず皿の横にナイフがついている。アヴドゥルがリヴィンのその食事内容に目を丸くして尋ねた。
「ベジタリアンなのか?」
「他のも食べられないことはないよ。ただ補給には果物とかでないといけないんだ」
「燃費わりぃ〜な」
「そうでもないさ。これが一番良いんだよ」
体を起こしてマンゴーを手に取ったかと思うと、口元を覆う布を少し広げ食べやすいようにしてから食べたようだった。……皮がついたままで。
「ゲッ、オマエ皮剥かないで食べる派なのかァ!? 初めて見たぞ……」
「まあ食べれないことはないからな。マンゴーの皮は意外と栄養価が高いんだぞ」
そうやってアヴドゥルがポルナレフにマンゴーについての豆知識を語っている間、チラチラッといった感じで、リヴィンがジョセフに雰囲気で助けを求めていた。
「全くしょうがないの〜」
微妙にウキウキした様子でジョセフはナイフを手に取り、パイナップルの皮を剥き始める。通路を挟んで反対側の席にいる可愛げのない孫の代わりに、世話焼きしている気分らしい。
結局マンゴーをちまちま食べながら、ジョセフに剥いてもらった食べ物をゆっくりと食べていくリヴィン。結局ついてこなかった家出少女はどうなったのか話したりしながら食事を終えた頃、リヴィンはふと横の高校生二人が気になって席を立って向かった。
「花京院は何をしているんだい」
レロレロとしながらチェリーを味わっている、と言っていいのだろうか。承太郎が若干引いている中、行動の意味が分かっていないリヴィンが花京院に尋ねる。回答をしようと、転がしていたチェリーをちゃんと口に含み食べ切って種を取り出し皿に置き、手拭きで手を拭っている。
「チェリーの外側の固さと仄かな甘みを味わってから中身を食べると、味に緩急があって美味しいんですよ。後はどのくらい身が詰まって弾力があるのか、確認してから食べると尚美味しいんです」
「そういうものなのか……」
「ジョジョのですけど、一個食べてみますか?」
「同じことすんならやらねえぞ、コイツに変なこと覚えさせるんじゃあねえ」
「変……? まあ、確かに一度普通に味わってみてほしいですね」
興味津々そうなリヴィンに、花京院がヘタ部分を持ちながらチェリーを一つ差し出す。そのまま受け取り、さくらんぼのヘタを取ってから実だけ口に含んだようだ。ヘタを皿に置いてからしばらくモニョモニョしていたかと思うと、何故かバキッという音が僅かに響き、そのままボリボリと音が続いていた。
「テメー、まさか種噛み砕いたのか」
「種は普通食べないんですよリヴィン! ほら!」
サッと花京院から皿を差し出されるが、食べ切ってしまったようで軽く手を振っている。花京院が困り顔で皿を下げた後、片手を頭に当てて悩んでいた。
「種を沢山食べなければ有害にはなり得ないから、大丈夫だとは思いますが……」
「花京院が種を食べていないのは硬いからだと思ったんだ。けれど思ったより種が柔らかくて噛み切ってしまったんだよ」
「……やれやれだぜ」
最初はやってしまったという雰囲気をしていたものの、一転してちゃんと食べ切ったから大丈夫だと言い謎の自信を見せるリヴィンにドン引けばいいのか、しても無駄になるツッコミをすべきか分からなくなった承太郎だった。
★
早朝。インドのカルカッタに到着をし、お国ならではの人混みに疲れた一行がレストランで休憩するまではよかった。
しかしそこでポルナレフが追い続けていた鏡の男──ハングドマンのJ・ガイルが現れ、ポルナレフを誘い出しにきたのだ。挑発だと叱るアヴドゥルに対して、念願が叶うと目先の目標を取ってしまい、アヴドゥルの精神的傷口を抉り喧嘩別れする形でポルナレフはパーティーから離脱してしまったのである。
「行かせてやろう、こうなっては誰にも彼を止めることはできん」
「いえ……。彼に対して幻滅しただけです。あんな男だとは思わなかった」
幻滅しただけ。そう言うアヴドゥルであったが、それだけとはとても思えない表情だった。
「ともあれじゃ、次に行ける場所への交通機関を探そう」
「……そうですね、ジョースターさん。行きましょう」
突然の出来事ではあったが切り替えなければならない。何の為に旅をしているのか。それこそポルナレフと同じだ。エジプトへの道を進む為に、バスや列車などを探そうとしたのだが。
「ジョセフ」
「なんじゃ」
「お金を貸してくれないかい」
「急に無心してきやがったな」
あまりにも唐突なリヴィンの金せびりに、承太郎はつい流れるようにツッコミを入れてしまう。しかし当の祖父はこの唐突さに慣れている……のではなく慣らされたようで、理由を尋ねていた。
「少し動きたいんだ。15時までには戻る」
「分かったが……、合図は分かっとるな?」
「勿論だよ」
「気をつけるんじゃぞ」
「それはこっちの台詞、というやつだよ」
合図というのは偽物対策で、リヴィンが一人になってからパーティーに合流する時に決めたものだ。定期的に合図は変更することになっている。
ジョセフからお金を受け取り、花京院の心底心配そうな目線を尻目に「じゃ」と手を振ってからリヴィンは走り出した。とにかく目についた所に足をむけて『全て』を買い、人混みや路地裏に紛れて消化。必要になるであろう分までとにかくこれを繰り返した。
そうしているうちに、雨がこの地に訪れる。適当に高い建築物に登って街中を眺めると、ポルナレフが探索・聞き込みできるであろう範囲をおおよそ計算した。そうして導き出した範囲全てをリヴィンは超特急で駆け抜けていきながら、『あるもの』を目につく限り取っていく。どんどん手に積み上げ、積み上げ、積み上げ。途中から勢いの関係で横にしながら奇跡のバランスを保ちつつ取っていった。勿論人がリヴィンを見ていないわけではないが、あまりの速さに幻覚かと思っている。
やがて想定していたルートを全て周り、取るべきものを取り尽くしたリヴィンは、予定していた大きな広場にたどり着く。そうして回収したものを全てその場に置き、勝手に今日は使われていないであろう屋台の屋根として使っている布を取って被せていった。適度にロープでぐるぐると巻いたら出来上がりだ。これでヨシと頷いたリヴィンは貯めたばかりのパワーを使い切り、ひーひー言いながら約束をした場所へと戻っていく。
やがて雨は上がり、少しくたびれながらも元の場所に行くと、承太郎達がちゃんと待機をしてくれている。きちんと合図をとり合流をしたのだが、頭を抱えているのが一人、冷たい目線が一人、困っているのが一人となっていた。
「リヴィン……。何をするかと思ったら果物を買い占めて食べたんじゃな」
「補給が必要だったからね」
「それでテメーが起こしたのはこの騒ぎか」
道行く人々がざわついているのは、とある騒動のせいだった。
真っ黒な人物が果物を買い占めしており、買った果物を魔法のように消してしまうらしい。そして連動するように、一定の範囲までの通りという通りにあった鏡が全て消え、何故か広場に集結している怪奇現象が起こった、と。
当然ながら全てリヴィンの仕業である。
「リヴィン……、動く前に一度相談をしよう」
「鏡を使うスタンドなんだろう? こうした方が早いと思ったんだけれど」
やりたいことは分かるが、普通はやらないしやれない。しかし、『できてしまう』せいでやる選択肢が浮かび上がってしまったのだ。
花京院が眉尻を下げながら、リヴィンに柄のついた大きめの布をくるりと被せ、ぱっと見インド圏の女性に見えるように仕上げる。真っ黒の人物が噂になってしまっている為、カモフラージュ用にと買っておいたらしい。
「この話は後でするとしよう。アヴドゥルがおらん。あのアヴドゥルがこの集合場所に来なかったのは、やはりポルナレフを探しに行ったのかもしれん。皆で手分けして探すぞ」
「分かったぜ、じじい」
「リヴィンはわしと一緒にじゃ」
「うん? 分かった」
手分けしてと言ったのに? という感じがありありと伝わってくるが、ジョセフは無視をした。一人にしたら何をするか分かったものではない。こうして三手に別れてアヴドゥルとポルナレフを探しに行った。
妙な喧嘩が起こっている。
探索している途中、今度はそんな話題がちらほらみえるようになり、その『妙な』とつくのがスタンドによる現象かもしれないと、急いで伝わってきた方向へと二人で走っていく。途中承太郎と合流し渦中の場所へたどり着くと、そこにいたのは道の真ん中で額と背中側から血を流しながら倒れているアヴドゥルだった。
「アヴドゥル! おまえ」
「大丈夫だよ、生きてる。呼吸がある。ジョセフ、ほら波紋」
「あっ、ああ……」
「承太郎、どこを怪我してるか確認をしてくれないかい」
ジョセフの背を押しアヴドゥルへ処置をするよう向かわせ、承太郎に確認依頼をする。リヴィンはその間に自身の布の下をモゾモゾとしていたかと思うと、白く長い布を取り出して承太郎に差し出した。
「これで怪我している場所を巻いてくれ。波紋で大丈夫だとは思うけれど、見てもらった方がいいだろうし病院を探してくる」
「てめーが巻いて俺が病院を探した方が、」
「いいんじゃ承太郎。リヴィン、頼んだぞ」
うんと頷いたのか頭を揺らしたリヴィンは、そのまま街中へ病院を探しに駆けて行った。
リヴィン…真剣なポンコツ
承太郎…ツッコミ(たくない)
花京院…若干ママポジお兄ちゃん
ジョセフ…おじいちゃん
ポルナレフ…ツッコミ
アヴドゥル…『まだ』そこまで被害を被っていない常識人