近年はDIO信者からの襲撃が少なくなったことも踏まえて、いつものパーカーセットを着用して仲間達と遊びに行くことが多くなった。
ポルナレフと一緒に映画を見に行ったりして、隣でズビズビ泣くポルナレフに困り果てたこともある。周囲を見たらいわゆる泣きどころであるのだと理解をしたが、何故泣くのかは正直今もよく分かっていない。ポルナレフからは「登場人物を自分と好きな人に置き換えて考えてみ?」と言われたが、作中の人物と大切な人達との状況が違いすぎてさっぱり理解できなかった。
形兆と億泰とでアイススケートをした時は、特に形兆が大変だった。億泰がワタワタしながらあちらこちらに突っ込んでいくので、2人で一生懸命フォローに回ったのだ。リヴィンは特に何も問題もなく滑れたのだが、形兆は慣れないスケート靴に悪戦苦闘しながらのフォローで、最終的には疲れ切っていた。それでも形兆は嫌な1日だったとは一言も言わなかった。
ポルナレフから誘われてアヴドゥルと共に行ったカラオケでは、以前ラジオなどで聞いた歌を、『歌声も音程も全く同じ』にして歌ったりもした。実質生演奏だとアヴドゥルから誉めそやされたが、リヴィンは自分なりに歌える方がすごいと思っている。結局リヴィンがやっているのはコピーに近い。真似をしないで歌えばいい話ではあるのだが、逆に真似をしないで歌うという行為が難しすぎてできなかった。アヴドゥルが一般的な人より大きな声で歌っていたのは、少し意外に感じてたのは余談だ。
日本に帰省をした承太郎家族と、何故か花京院がリヴィンの保護者として同行し一緒にお祭りへと行ったこともある。なんで保護者として来たのか問いただしたところ、「承太郎と奥さんを2人っきりにさせたかった」とのことで、空条夫婦と別れて徐倫と花京院の3人で祭りを楽しんだ。浴衣を着てはしゃぐ徐倫にメロメロになったり、盆踊りを見てどうして踊っているのか不思議に思うリヴィンと徐倫に、お盆というのはご先祖様や故人を偲んで供養する為の時期で、踊りはその迎えた霊を慰めて見送る為のものだという蘊蓄を花京院から聞いたりもした。
ちなみにだが、ちょくちょく承太郎の元へ訪れていた花京院は徐倫の初恋相手になり、しばらくの間承太郎から初恋泥棒呼ばわりされて花京院が苦笑いしていたりもする。
花京院とポルナレフとでボーリングをしにも行った。ボーリングの投げ方が正確無比でストライクしかとらず、最初こそ面白がられたものの最後の方にはつまらんとポルナレフに言われてしまったのだ。なのでそんなポルナレフからの「もっと面白い投げ方で!」というリクエストを受け、とりあえず普通の人間はやらない空中3回転ジャンプをしながら投げたりもしたのだが、施設の人に怒られてしまう結果を招いた。
ジョセフと、気まぐれで来ていたイギーと共に夜の街を散歩したこともある。途中ガラの悪い連中に絡まれもしたが、こういうことをする連中の頭は幼いんだとポルナレフから吹き込まれていたリヴィンは、一人一人に体相応の高さの「たかいたかい」をしてあげた。そうしたらチビって逃げられてしまったので、嘘ではないと確信をしたのである。そんなリヴィンをジョセフはニコニコ顔で、イギーは苦虫を噛み潰したような顔で見ていた。それでええんじゃよとジョセフから言われたので、今後もこの対応をするつもりである。
これ以外にも沢山遊んだ。その全てがリヴィンにとって大切な思い出であり宝物である。
けれど太陽の下で遊んだ記憶は、ほんの2回しか存在しない。それらはプライベートな空間で、黒衣を着るのが問題ない場所でのものだった。
リヴィンはいつでもその姿を晒さず、常に自分を隠し続けている。そんな自分が情けなくて、嫌だった。人間ではない自分が、嫌だった。でも人間でないからこそ、『最後の砦』を築いていられる。そんなジレンマばかりが襲いかかってやまない。
幸せなのに苦しくて、生きにくくなっていった。
★
1997年。ジョセフが胆石病を患ったので手術をし、リヴィンはそのお見舞いに病院の個室へと来ている。SPW財団直下の病院だったこと、VIP用の病室で一般人が入れない場所だった為融通が効いて、黒衣のまま昼に訪れた。ジョセフは手術でだいぶ体力が削られ、白内障も患い始めたせいか、かなり弱々しい姿になってしまっている。記憶にある、初対面時の若々しさ溢れる姿とはあまりにも違いすぎていた。
「……おお、リヴィン。来てくれたのか。嬉しいのう」
「……ジョセフ」
ジョセフはリヴィンが入ってくる前に起きたのか、何度も目を瞬かせながら脇にあるボタンを押し、電動でベッドの上部を起き上がらせた。傍らにあるテーブルには、スージーが置いていったのかガーベラの花が置いてあり、ジョセフの暇つぶし用にか漫画本がいくつか積まれている。その隣には老眼鏡も置かれていた。
「……ジョセフ、は、……」
「手術は無事に終わったんじゃよォ。どーしてそんなに落ち込んでおる」
白内障も、胆石病も、リヴィンが簡単に治せるものではない。リヴィンがとっている治療法は、治したいと思っている人物の『欠けた部分』を、自分の体で埋めてなじませている方法だ。今回治したいと思ったら、元々そこにある部分を切除しなければならなくなる。不可抗力で欠けたりしていない以上、リヴィンからできることは何もない。まさか該当部分を切除してください、なんてことを言うわけにはいかないのだから。
ましてや胆石病は体の中にできた胆石を消滅、ないしは取り除かなれけばならない。リヴィンの方法では無理がある。
ずっと思い詰めた様子のままのリヴィンに、ジョセフは大きく息を吸って吐いてから口を開いた。
「……分かっておったんじゃろう。『今』は永遠ではない。どれだけおまえが治療をしようとも、いつか終わりはくる」
「……知っている」
「だからの、我々を治したいが為にいる必要はないんじゃよ」
「そんなんじゃないッ!!」
失いたくない。死んでほしくない。リヴィンが願っているのはただそれだけなのに、何故みんなして必要ないと言うのか分からない。誰だって五体満足でいたいはずなのに、どうして。
「リヴィン。おまえが悩んでおるのに、わしらが分からないと思っていたのか? ……おまえにとって何よりも大事な決断になる。だからわしらは直接的に言わなかった」
「やめてくれ」
「なあリヴィン。わしはきっと、おまえの大切な人の中で一番早く死ぬ。人の死とはそういうもので、おまえでどうにかできるものではない。だからの、素直になっていいんじゃよ」
「やめてくれッ!!」
思いっきり叫んだ後、病室を飛び出して外へと出ていく。どこに行こうかなんて考えもせず、とにかく走って、走って、走った。
ずっと悩み事が心を殴り続ける。このままでいいのか、このままでいなければ、そうしなければ、そうだとしても。正解はどこにもない。正解は未来にしかなく、失敗も同様だ。
当てもなく走っていたはずなのに、夕日刺す墓地に──エリナとジョナサンの墓前へと辿り着いていた。元から定期的な清掃はされているが、リヴィンがちょくちょく来る時に丁寧に掃除をする為、墓は綺麗に保たれている。リヴィンはふらふらとしながら2人の眠る場所に両膝を落とし、両手を地面に置いて縋りついた。
「エリナ、ジョナサン……私はどうすればいい? みんな、みんな成長していくんだ。年を重ねていく。老いていく。そして、……。ジョセフも、スージーも、ホリィも、承太郎も、徐倫も、花京院も、ポルナレフも、アヴドゥルも、イギーも、億泰や形兆も、みんなみんな、……いつかは私を、置いていってしまう」
エジプトへの旅が終わる前はジョナサンの骨を取り戻すことに必死で、あまりそういったことを考えていなかった。だが今は大切な人が増え、助けることもできるスタンドを手に入れて、人間社会の中で生きて、その問題に直面している。
「そういうものだとずっと昔から分かっていたのに、知っているのにどうしてだろう。今になって怖いんだ。私だけ変わらない。私だけずっとそのままだ。みんなと同じ時を過ごしているはずなのに、私は……」
ここで、遠くからある人が近づいてきているのが分かった。けれど今は気持ちを吐露するので精一杯で、対応しようにもできない。両手で草と土を握りつぶしながら、言葉を吐いていく。
「同じ時を分かち合えない。陽の下で堂々と歩くことすらできない。夜でさえ角を隠して出なくてはいけない。こんなの、こんなの!」
事情を知らない徐倫に、億泰に何度か陽の出ている頃に行ける遊び場へ行こうと誘われたことがある。だがそういった場所は基本的に一般人が多く、全身を覆った状態で行くには不自然すぎた。アレルギーがあるから、なんて言葉で誤魔化したこともある。そんなものではないというのに。嘘でしかなくて、嘘を発した喉が気持ち悪くなった。
リヴィンは人間ではない。闇の種族だ。それが、人間社会で生きる上で何よりも苦しくて嫌だった。
「私、私は……っ、……みんなと、一緒に歩みたい。みんなと……同じになりたい。普通に、なりたい」
人間に、なりたい。
最後の言葉だけ、口にすることができなかった。そうしてしまったら、リヴィンは誰かが大怪我をしても治せなくなってしまう。
地面にうずくまった動かないリヴィンの後ろに、近づいてきていた人物が佇む。いつもより小さく見えるリヴィンを見下ろしながら、その白い人物は言葉を発した。
「じじいに言われなくとも、てめーがここにいるだろうとは思ったぜ」
承太郎は軽く息をついてから、カチッというライターの音を響かせて、徐倫が生まれてからやめていたはずのタバコを吸い始める。ふう、という音と共に煙がオレンジに染まる天へと昇っていった。
「てめーのスタンド能力なら、表面だけ人間にして日光に当たっても問題ないようにできたんじゃあねえか? だが、それを今まで一度もしていねー。そうしなかったのは、容姿を見られたくなかったからじゃあねえ。人間にした部分が、すぐに闇の種族へと変わってしまうからだろ」
自分の体の一部を人間へと変化させて、怪我人の失った部分を実質再生したのだから、人間に変化できるのは間違いない。それなのにやらないのは、かつてジョセフが見たという、柱の男が人間の腕を自分のものにしていたのと同じ現象が起こるのだと考えられた。
「おまえが人間になりてえって思ってたことは薄々感じてた。それでも人間にならねえのは、『完全に人間になって』再生ができなくなり、俺らが死ぬことを恐れているからだ」
体全てを人間にすれば太陽の光で死ぬことはなくなり、リヴィンの体は時を刻み始めるだろう。人間になりたいと願いながらもしなかったのは、万が一の大怪我に備えてだ。大切だから死なせたくない、その一心でリヴィンは闇の種族であり続けた。
「てめえはご先祖様の墓を守り続けなきゃいけないわけでもねえ。俺らを守ったり治さなきゃいけねえ義務もねえ。どこに行ったって、何をしたって全部おまえが決めて勝手にやりゃあいい。人間になっても、ならなくてもいい。どっちにしろ、俺らがてめえの知らないところで死んだりはしねえ。てめーの選択が間違えてんなら何度だって俺らが訂正してやる。迷ったらこっちに聞け」
喋り疲れたからなのか、承太郎は再度タバコを口にし一服をしてからリヴィンに声をかけた。
「だから好きにしろ。おまえが行く道は、自由だ」
リヴィンをジッと見つめた後、承太郎は踵を返して墓地から去っていった。
承太郎の足音が聞こえなくなった頃、リヴィンはゆっくりと起き上がってぼんやりと墓石を眺めた。
本当に、人間になっていいのだろうか。
全身を人間にしたとしても、闇の種族に体を戻すことは可能かもしれない。そう、『かもしれない』という憶測でしかなく、怖くて実行することができなかった。
だが、本当に、みんなが襲われたり不慮の事故に見舞われたりして死なないと信じていいのだろうか。
──確信する為の時間が欲しかった。今度こそ、自分自身が選択をして実行をする為に。