人間を謳歌せよ   作:雲間

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二次創作なので細えことはいいんだよ精神で初投稿です。


五話

 

 アヴドゥルは多少の点滴は必要となったものの、早めの発見と波紋の効果により大事には至らなかった。本来ならばこのまま入院となるはずではあったが、避けられたようだ。

 緊急処置室で目が覚めたアヴドゥルが、手続き対応していたジョセフに横たわりながら礼を言う。承太郎とリヴィンは、アヴドゥルが運び込まれてからずっと付き添いとして一緒の部屋にいた。

 

「ジョースターさん、ありがとうございます。助かりました」

「いいんじゃよ。それより、何があったか教えてくれんかね?」

 

 ポルナレフと敵のスタンド使いである皇帝──ホルホースが対峙していたこと。攻撃に対抗しようとしたが、J・ガイルが水溜まりを利用してアヴドゥルの背中を攻撃。その攻撃を受けた反動で、ホルホースのスタンド攻撃である弾丸を脳天ではなく額ギリギリ掠めていたこと。

 アヴドゥルはそれらを語ってから、深くため息をついた。

 

「ポルナレフは……、大丈夫なのでしょうか」

「心配ねえぜ、アヴドゥル。花京院のエメラルドスプラッシュがあの場に残っていた。そう簡単にやられちゃいねえ」

「そうか、花京院が一緒か」

 

 ポルナレフが一人で戦っている訳ではないと分かり、アヴドゥルは張っていた気をおろした。ジョセフがそんなアヴドゥルを労うように、肩へ手をポンポンとしながらこう呟く。

 

「襲撃が激しくなってきたじゃろ? 本当はこのままアヴドゥルに死んだふりをしてもらい、秘密のお使いでもしてもらおうかと思っていたんじゃが……」

コイツ(リヴィン)とポルナレフが黙っていられると思ってるのか?」

「うーん、無理じゃなあ」

「無理ですね」

「何がだい?」

 

 話が読めていないのか、リヴィンが首を傾げている。結局そのお使いはSPW財団に頼むことにしたらしく、後で連絡を入れておくと言っていた。

 

「とりあえずわしらは一度現場に戻って、二人がいないか見てくる。リヴィンはアヴドゥルと一緒にいてくれ」

「分かった」

 

 そうしてジョセフと承太郎が二人を探しに部屋を出ていき、アヴドゥルとリヴィンの二人だけの空間となる。どちらも無言の空間は苦ではないが、せっかくだからとアヴドゥルが口火を切った。

 

「少しだけジョースターさんから君の話を聞いたよ。なんとなく察してはいたが、君はあまり社会に慣れていない、と」

「……ずっと独りだったからね。多少は勉強をしたんだけど、全然足りないんだ」

「それで鏡という鏡を撤去したのかい? アッハッハッ」

「アヴドゥルの話を聞く限り、『鏡』じゃなくて『反射できるもの』を使うスタンドだったのは分かった。けど、何事にも先手をとらなきゃいけない。そんなにおかしなことをしたのかな、私は……」

 

 顔が見えていたら渋い顔をしていたはずだ。それくらいリヴィンの声色は苦々しいものだった。

 

 アヴドゥルはリヴィンのことを、良くも悪くもただの常識を知らない無垢な子供だな、と感じている。けれども目的に向かって一生懸命やろうと頑張っているのも分かっていた。だからこそ、ジョセフがこの旅でリヴィンに人間の営みというものを知ってもらいたかったのだろう。リヴィンの正体を言わないのは面白半分ではありそうだが、なんらかの先入観を持たせない為ではないか。そしてDIOを倒すという目的が一致していなければ、リヴィンはおそらく社会を知ることなく過ごしていたと思われる。

 少し背中は痛いが体を起こし、改めてリヴィンへ視線を向けた。

 

「我々はDIOを倒すという目的を持って旅をしているが、ここに住む人々は誰もDIOを知らないだろう」

「それは、そうだね」

「所構わず敵は襲ってくるし、その時に様々な被害を周囲に与えてしまうこともあるが、事情も何も知らない人々への被害は避けなければならない。彼らには彼らの生活がある。君がしたことは、彼らの生活を脅かしたんだ」

「鏡は壊していないし、集めただけなのにかい……?」

「君にとってはただの鏡かもしれない。けれど誰かにとっては大切な仕事道具だったり、もしかしたら形見のものかもしれない」

 

 そう言われてピンときたのだろう。僅かながらにリヴィンは体を揺らした。

 誰だって己が主人公だ。しかし、他人もまた主人公であることには中々気が付きにくい。

 

「とは言っても、我々も命を狙われている以上なりふり構っていられないんだがね。そういったことがあるかもしれない、というのを覚えておくといい」

「……分かった」

 

 アヴドゥルの言葉を咀嚼しようとしているからか、首を下げて考え込んでいるようだった。ちょうどいい位置にきた頭を、手を伸ばして優しく撫でる。

 

「これからゆっくり学べばいいさ」

「だから、君たちの言うゆっくりは短すぎると言っているのになあ」

 

 今度は臍を曲げたような返事に、やっぱり子供だなとアヴドゥルは大きな声を出しながら笑った。

 

 ★

 

「あ、アヴドゥルッ!!! 俺は、俺はァ〜〜ッ!!」

「ご無事だったんですね、アヴドゥルさん……!」

 

 花京院は安堵からか一筋の涙を流し、ポルナレフは「オロロ〜ン!」と滂沱の涙を流しての合流となった。

 

 ポルナレフと花京院がJ・ガイルと戦った結果、見事討ち果たし妹の仇をとった。そして二人が元いた場所に戻ると、J・ガイルとコンビを組んでいたホル・ホースがいたのだが、J・ガイルが死んだと分かると、コナをかけていたらしい女性──ネーナの助けによって逃亡したという。ネーナもホル・ホースに騙されているだけの女性だということで、こうして聖地ベナレスに向かうバスに一緒に乗って送っていく最中であった。

 アヴドゥルは多少怪我した部分がつっぱっているのか動きにくさはあるものの、車で休んでいれば問題ないだろうと、今は大きいクッションを背に車内で寝息をたてている。そんなアヴドゥルを心配してか、花京院がハイエロファントグリーンの触脚をシートベルト代わりに巻きつけていた。

 なおポルナレフはアヴドゥルが生きていたと分かった時は顔をぐちゃぐちゃの真っ赤にして泣いていたのに、今はケロッとしていてネーナを口説いている。そこがいいところでもあるのだが。当のネーナは無言を貫いていて少し迷惑そうだ。

 

「どうした? ジジイ元気ないな」

「うむ、虫に刺されたと思っていたところにバイ菌が入ったらしい」

 

 ジョセフの様子に気がついた承太郎が声をかけると、腕を上げて見せてくる。見せられた部分は酷く腫れており、そのままにしておくと今後に響くのが確定といえるものだった。

 

「腫れてますね、これ以上悪化しないうちに医者に見せた方がいい」

「これなんか人の顔に見えないか? へへへ……」

「おい! 冗談はやめろよポルナレフ!」

 

 街に着いたら医者に行くのは決めたらしい。承太郎と花京院とアヴドゥルは今晩の宿を探しに、ポルナレフはネーナを送りに。リヴィンは付き添いという形にしてジョセフへついていくことになった。

 

「いいか、絶対に絶対に離れるんじゃないぞ!」

「なんでそんなに念押しするんだい」

 

 リヴィンにそんなことを言ってしまったせいだろう。

 

「診察するから、ほらお子さんは出てってね」

「ジョセフが離れるなって言ったから離れないよ」

「融通というものを覚えんかい!」

 

 念押しされたことに意地を張ったらしく、病院に来て診察の際も離れる気がないというめんどくさい状況になってしまった。その上子供と間違われたからか、変な演技までし始めたのだ。

 

「どうしておじいちゃん……、わたし離れたくないよぉ。うぇぇぇぇぇん!」

「何故そんな変なことだけできるんじゃ!!」

 

 顔もなにも見えないまっくろくろすけな服装だというのに、しくしく泣く振りまで無駄に完璧である。心なしか身長まで低く見えてくるものだから不思議だ。……いや違う、『実際に低くしている』。小細工してきたリヴィンに思いっきり腹に溜まっていた息を吐き、申し訳ないがそのまま進めてくれと医師を説得(金を積む)し、少し離れた場所にいることとなった。

 患部を見てもらったところ、やはり切除するしかないとの診断を受けてしまう。切るところまで行くと思っていなかったジョセフは切られるところなんか見たくなく、見ていないうちにやってくれと顔を違う方向へ背けて終わるのを待つだけだった。

 

「ダメだ!!」

 

 リヴィンの大声を聞くまでは。

 明後日の方向にやっていた視線を医者の方に戻すと、カランカランとメスの落ちる音と共に、医者を突き飛ばしたリヴィンの姿を見た。

 

「リヴィン、なにをしておる! この医者はわしを傷つけようとしたわけではないッ!」

「違う! その膿はスタンド攻撃だ! 巻き込んだらいけないんだろう!?」

「なんじゃとおーッ!?」

「チュミミ〜ン! よーく分かったねェ! そうさ! あたいが『女帝(エンプレス)』よッ!」

 

 膿みは完全な人の顔をとり、喋り始めたではないか。ヒヒヒヒーッと不気味な笑い声をあげてジョセフを見つめている。

 

「貴様ッ!」

 

 近くにあった別のメスを取り、エンプレスを切りつけようとしたのだが、出来上がっていた歯がメスを挟んで離さない。押し引きの攻防をしていると、リヴィンに体を掴まれ近くの窓を蹴破りながら強引に脱出をさせられた。

 

「逃げるぞジョセフ!」

「タイミングを考えんかい!」

 

 急に掴まれた反動でメスの取り合いに負け、その歯で掴んだメスによって義手である左手の指先を切られてしまったのだ。

 

「オーノォーッ!!」

「てめー自分を切るのかいッ! あたいはアンタの肉なんだよジョセフじじいッ! アンタはもうあたいから逃れられないのさハニィ〜〜!」

 

 そうこうしている内にリヴィンはジョセフを掴みながらさっさと人通りのないところへ逃げ、改めてエンプレスと対峙をする。

 

「ジョセフ、私が『吸収』をしてみる」

「何を試そうってんだい! あたいがぜぇーんぶ喰らって力にしてやるさッ!」

 

 ぐちゃぐちゃと喋るエンプレスの口を塞ぐように、リヴィンが手のひらを重ねていく。エンプレスはグローブがあるのもお構いなしに、重ねられたリヴィンの手のひらを食ってやろうと大きく口を開いたはずだった。

 

「ムッ、ムゴ、ムゴゴゴゴゴ」

「うーん、ダメだねこれ。やっぱり融合しててもスタンドには変わりないのか」

「吸収しとれば食われないのかのう。逆に解いたら食われるのか?」

「多分。コイツに力を与えてやるつもりはないからやらないよ」

「当たり前じゃ!」

 

 グローブは食いちぎった。しかしその先にある肉は何かが反発するかのような反応を起こし食べることができない。目の前にある事象が理解できず、ただ唸り声をあげることしかできなかった。少し腕を生やして抵抗しようにも、抵抗といえるほどのものすらできない。

 

「私がおさえておくからジョセフ、後は頼んだよ」

「ふぃー、助かったわい。ソイツを引っ張り上げてくれ、ハーミットパープルで引き剥がす」

 

 ジョセフの指示通り、リヴィンはもう片方の手でガッとエンプレスがひっついている皮膚部分を掴み引き上げて引っかかりやすいようにする。途中でジョセフがひっぱられた痛みからかとても大きな声で呻き声を上げていた。

 

「声が大きいよジョセフ」

「痛いもんは痛いんじゃい!!」

 

 ジョセフがハーミットパープルを引っ掛け、思いっきりエンプレスを引き剥がす。

 エンプレスの脳内にあったリヴィンは何者なのかという疑問は、何も解消されないまま再起不能となった。

 

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