「私の正体……? 全滅させる気なら知らなくていいんじゃないかい?」
心の底からなんでそんなどうでもいいことを知りたがるんだと言わんばかりの声だったが、ジョセフ以外の者は少しだけ同意してしまった。とはいえ、こんな形でリヴィンの正体を知るのは本意ではない。
「ヒャァホアハァ! 貴様がこの程度じゃ全く死なないだろうことを知っているぞッ!」
「はあ」
「だからこうするッ! 電気系統でスパーク!」
リヴィンは、自身が受けた初撃がガソリンによるものだと臭いで理解をしていた。だからこそ本当は全ての攻撃をリヴィン自身が受け切りたかったのだが、どうにもならない体の範囲の問題で仲間に被弾させてしまった。それさえなければ、スパークによる火花で燃える可能性があるのはリヴィン一人だけで、リヴィンだけが逃げてしまえば他が燃えることはなかっただろう。しかし今は後ろに被弾をした仲間がいる。
──仲間が燃えるのはダメだ。しかし自分が燃えるのもまずい。燃えてもすぐに死にはしないだろうが、穴でも掘ってしばらく地下に潜ることになってしまうだろう。
それだけならばさして問題はないと思って、リヴィンは特攻をし引っ掻き回してやろうと一歩前へ進もうとした。だが、体が何かに引っかかって前に進めない。
「エメラルドスプラッシュッ! 逃げますよリヴィン!」
花京院がエメラルドスプラッシュを放ちながら、ハイエロファントの触脚を使ってリヴィンの体を掴み引っ張っていたらしく、後ろへ勢いよく引っ張られていく。抵抗しようにも抵抗できない。皆も逃げているが相手は車だ、引っ張られるよりも早くこちらへ追いついてくるだろう。承太郎とポルナレフがスタンドで地面を攻撃し、道を荒らしているが少しでも遅らせようとしているが、特別製のタイヤに対してはあまり意味はない。リヴィンが特攻した方がマシだ。
「ダメだ、私を置いて逃げてくれ!」
「んなことできるかっつーの!」
だからと言ってどう打開するつもりなんだと思っていたその時、こちらに迫ってきていた車が何かに当たって車体がひっくり返った。
敵も想定外だったらしく、対応できずにそのままひっくり返って凶悪なタイヤだけが虚しくクルクル回っている。一体何が起こったのだとリヴィンが呆然としていると、後ろから向かってくる承太郎と花京院の声が聞こえてきた。
「打ち棄り(うっちゃり)か?」
「ええ、次はそのまま付き倒しでも頼みますよ。拳で殴るのは、本来の相撲なら反則ですけどね」
どうやらリヴィンを引っ張る為だけにハイエロファントグリーンを行使した訳ではなかったらしい。密かに車を引っ掛ける為にもスタンドを使用していたのだ。
「覚悟はできてんだろうな」
変形してなんとかひっくり返ろうとしている車に承太郎が迫る。そしてその腹に幾重ものスタープラチナによる拳をぶちまけ、最初に見たボロ車よりもよっぽど『立派』にしてやったのだった。
承太郎の推察通りストレングスと同タイプのスタンドだったらしく、敵のダウンにより現れた元の車はとても貧相な代物だ。その上、車から引っ張り出した敵であるスタンド使いは、腕だけが大層な筋肉がついており、瓢箪みたいな胴体にガリガリの脚というアンバランスすぎる人物だった。
「ずいぶん貧弱な体格をしているぞ、ハッタリだなァ」
「こっ、殺さないでッ! 金で雇われただけなんですーっ」
「なんで私の正体なんか探っていたんだい?」
「つ、追加で金貰えるって言われたからッ! 簡単に死なないから荒っぽくていいって言われただけなんですッ!」
これ以上は何も知らないから殺さないでー! と叫ぶスタンド使いがあまりにも情けなくリヴィン以外の面々から笑いが漏れていた。
「さぁて、そろそろ『修行』でもしてもらおうじゃないか」
「アヴドゥル、ここにいい感じの板があるぜ」
「誰かペンか何かもってねーか?」
「どーれ、わしがやってやろう」
何故か皆ノリノリで『準備』をし始める。そんな中で皆の意図が分からないリヴィンは、ひたすら衣服を少しでも綺麗にしようと手でガソリンを払ったりしていたら、花京院が手に白い包帯を持って近づいてくる。
「リヴィン、手当しますよ」
「いや、大丈夫だよ。もう治ったから」
「もう治ったって……そんな訳ないじゃないですか」
「スタンド使いが言ってただろう、そう簡単に死なないって。本当にすぐ治るからだよ」
今、傷を負った場所を実際に見せることはできないが治っているのは嘘ではない。だから大丈夫なのだと言い、花京院の持っている包帯を取って逆に手当をし始める。
「私よりも君や承太郎、ポルナレフの手当のが先だ」
「いや、貴方が一番重症だったんですよ!」
「ジョセフからも言ってくれ、私は問題ないと」
リヴィンは、しゃがみながらウキウキで板に何かを書き込みをしているジョセフに声をかけた。
「花京院! 心配する気持ちも分かるがリヴィンは大丈夫じゃ! そのまま手当てを受けてくれ。あとでわしもお前たちに波紋を使うからの」
年長者で尚且つ正体を知っているジョセフにそう言われても花京院はまだ納得がいっていないようで、渋い顔をしてリヴィンから逃れようとする。しばらくじゃれあいのような追いかけっこが繰り広げられたが、終わりがないと気がついたリヴィンがこう告げた。
「今から4時間16分後になら傷を負っていた場所を見てもいいよ」
「その時間はなんですか? 手当は早くないといけないんですよ」
「うーん。ここには負けたとはいえ、スタンド使いがいるだろう? それもある」
「それは、……そうですが」
敵に見せられない治り方でもしているのだろうか。もしくは肌を晒したくないのかもしれない。ここまで徹底的に自身の姿を見せたことがないリヴィンだ。本当は嫌かもしれないのにここまで言ってくれた以上、こちらが譲歩するしかないだろう。
微妙に納得はいっていないものの、リヴィンの提案を受け入れた花京院は大人しく手当を受け始めるのだった。
★
敵スタンド使いを石の上で仰向けにし、鎖で拘束。要約すると『修行僧です邪魔しないでね』といったことを書いた看板を立て、元のボロい車を拝借してパキスタンまで到着をした一行。家出少女を飛行機で香港に送り返していたら、夕方を過ぎて夜になっていた為、ささっと食事をとってから宿へと向かった。
部屋割りだが、基本的に人数分の二人部屋をとることにしている。そしてもう一つの決まりとして、必ずジョセフとリヴィンが一緒になるようにしているのだ。ジョセフ曰く、まだ早いから。正体をまだまだ明かしてやりたくないらしい。年長者とはいえイタズラ好きの面が抑えられないようだった。
そんな二人部屋へノックをして訪れたのは、傷をした箇所を見せると約束をした花京院だ。ベッドでくつろいでいるジョセフが開いているから入っていいと声をかける。気にするほどでの仲ではないのに、性格からかお邪魔しますと礼儀正しくしながら入ってきた。
「リヴィンはいますか?」
「花京院、右じゃ右」
「うわッ!?」
部屋は至ってシンプルで、入り口のすぐ右にトイレで、そのまま真っ直ぐの奥にベッドが二つ横に並んでいるが、もう片方は入り口からは見えない配置になっている。ジョセフは入り口からすぐ見えるベッドで休んでいたのだが、リヴィンは部屋の手前右奥の角で何もせず突っ立っていた。
「な、なんでそんなところに」
「なんで……。なんで、とは?」
特に理由がなさそうだ。回答をもらうのを早々に諦めた花京院は、改めてリヴィンを見やる。攻撃で所々空いていた服の穴はなくなっていた。汚れ具合が全然ないことから新調したのだろう。ちなみに室内でも変わらずグローブをはめていた。
「傷ができていた場所を見にきたんだよね」
「はい、腕で構いませんので見せてもらっていいですか」
あの時リヴィンが怪我をしたのは上半身に数箇所、腕に2、3箇所。怪我を見るのにわざわざ胴体を見せてもらう必要はないし、花京院も人の体をまじまじと見る趣味はない。
リヴィンは花京院の言葉を受けて近寄ってきたかと思うと、左腕を肩まで上げ右手で覆っている布を捲り始めた。黒い布がとれて素肌が現れるかと思いきや、実際に現れたのは肌に張り付いている白い服。どれだけ着込んでいるのだと困惑している中で、その白い服の袖も捲られていった。
現れた腕の感想としては、いたって普通の人間の腕だ。強いて言うなれば肌は病的なほどに白いということ。そして、傷を負ったであろう部分には傷も何も存在していなかった。
「……本当に何もない」
「言っただろう? 傷はすぐに治る」
捲った部分を元に戻していくリヴィンを見ながら、花京院は心配が解消されてほっとすると同時に、考え事をしていた。
ジョセフ以外の面々でリヴィンは一体何者であるかをたまに話し合いをしている。承太郎はシンガポールで敵に攻撃されて投げられた際に受け止められたことがあったらしく、ポルナレフの『服の下は空洞説』を否定していた。今回怪我をして血が出ていたこと、そして今見た腕で完全に否定されたといってもいい。知覚に関するスタンド使いという可能性も考えられるが、それだと他の事象に説明がつかなくなる。
性別についても今回でわかるかと思ったが、思っていたよりも細い、という印象しかなく男女の違いというものが判別できなかった。結局分かったのは、細めの体を持つ人物であるということだけだ。
だからこそなのかもしれない。自分でも意識していないうちに、花京院の口からこんな言葉が飛び出していた。
「話を、しませんか?」
「話?」
「あっ。え、ええっと、リヴィンのことを全然知らないと思ったんです。リヴィンも僕たちのことをあまり知らない。だから、話をして理解したい……って、なんだか恥ずかしいことを言いましたね。すみません」
どうして突然こんなことを言ってしまったのか混乱した花京院だったが、本心であることに変わりはない。少し顔を赤らめながらも言い切ってリヴィンを見ると、ジョセフが花京院の肩にポンと手を置いて口角を大きく上げて話し始めた。
「いい機会じゃな。どんどん話をするといい」
リヴィンは何かしらの事が起こらない限り、自分から話すということをしていなかった。それこそ承太郎よりも無口と言ってもいいだろう。こうして話を持ちかけない限り、今日と同じようにこの部屋の隅で突っ立っているだけの1日を終えていそうだった。
「じゃが今日はもう遅い。明日からじゃな」
「はい、ジョースターさん。……リヴィンもそれでいいですか?」
「話すことは問題ないよ」
花京院はリヴィンの頷きを確認し、少し緊張していた気持ちを緩めてから「ではまた明日」と告げて自分の部屋へと帰って行った。
※相撲についてはそれっぽいことを書いているだけなので雰囲気をお楽しみください