人間を謳歌せよ   作:雲間

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九話

 

「リヴィンッ!!!」

 

 ──また、あの光景だ。

 悲鳴のような叫び声を上げた花京院は、そう思った。

 

 リヴィンは頭に銃弾を受けて血が飛び散り、体が後ろに倒れていく。銃を撃った人物を探ると、真正面にいる数多くの人の中にカウボーイハットを被った男が銃を撃ち込んだ体勢で佇んでいた。そう、ホル・ホースだ。押し寄せていた死人達は何かの号令でも受けたのか止まり、ホル・ホースが帽子を銃で押し上げながら、こちら側に一歩一歩足を運ぶのを邪魔しないようにしていた。

 

「ンッン〜。まずは一人……と言いたいところだが」

「……ああびっくりした。何したんだい?」

「やっぱりなァ、今度はちゃあんと脳天直撃させたのに死んでねェ」

 

 アヴドゥルの時とは違いのけ反ることなく、しっかりと頭に直撃する形で撃たれていた。そうであるというのに、リヴィンは血が出続けている箇所を抑えながら、大したことはなかったといった感じですんなり起き上がる。

 

「リヴィン……?」

 

 普通の人間ならば、死んでいた。

 

「アンタ、DIOと同じ吸血鬼かい?」

「あのゲロ以下などと同じにするな、穢らわしいぞ。僕は違う」

 

 ホイール・オブ・フォーチュン戦で聞いた低い声よりももっと低い、底冷えする声色でリヴィンは問いを薙ぎ払う。普段のおっとりとした様子は微塵もなく、全てが怒りで染まっているのが離れた仲間達にも冷気として伝わってくる。

 

「マジギレかい? お〜怖いねェ。図星だったか?」

「貴様ッ! 僕は違うと言っているだろう!!」

「挑発に乗るんじゃあないリヴィン!」

 

 完全に頭に血がのぼっているのか、リヴィンにジョセフの声は届かない。リヴィンはホル・ホースに殴りかかろうとするが、すぐさま放たれた銃弾をその身で受けた反動と、ホル・ホースを守るように雪崩れ込んできた人々が壁になってその拳はホル・ホースに届かない。殴って蹴ってを繰り返しているが、いくら力があろうとも無尽蔵に湧いてくる物量に押されている。その上ホル・ホースは後退しながらも何度も攻撃し、リヴィンが追撃をしにくい位置まで行くと、後ろを向いて逃げ出した。

 

「逃げるなァッ!」

 

 リヴィンは黒衣でもハッキリと分かるほどの血を撒き散らしながら、ホル・ホースが逃げていった方向へと向かおうとする。無論のことだが、仲間達も何もしていなかった訳ではない。リヴィンへの攻撃にあぶれた死人がこちらに向かってきていたので反撃をしつつ、リヴィンを引き止めようとしていたのだが、埋もれていて簡単に引っ張り出すことができなかったのだ。しかしそれも花京院による布陣が完成したことにより、終わりとなる。

 

「承太郎!」

「オラァ!」

 

 承太郎が花京院から示された一本の触脚を掴み、勢いよく引っ張り上げる。その触脚はリヴィンの胴に巻きついており、無理やりではあるが集団の中から強引に引っこ抜く。

 

「やめろ、やめろッ!」

 

 室内側へ戻されたリヴィンはまだ外へと向かおうと足を動かし暴れ散らかすが、ジョセフがハーミットパープルでリヴィンの全身を縛り上げて物理的に大人しくさせる。

 リヴィンを無事に引き抜いたその間に、花京院が人々の足に巻きつけた触脚を使ってひとまとめになるよう動かす。承太郎が玄関へと向かい、スタープラチナを構えた。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラァ!」

 

 まとまった塊を、承太郎がスタープラチナによるラッシュで玄関先へと叩き出していく。そうして全てが完全に外に出たのを見たアヴドゥルが、その背後に雄々しいスタンドを顕現させた。

 

「本来宗教的にはよろしくないのだが……やむを得まい。クロスファイヤー・ハリケーン!」

 

 アンクを模った生命の炎が亡者の集団を焼き尽くしていく。それはどんどん燃え広がっていき、建物の外にいた者達へも波及していった。これ以上、敵がこちらに入ってくることがないかを触脚で確認した花京院が、そのままスタンドを使って扉を閉めてから触脚を全て解除する。

 まだ油断できないとはいえ、やっと一段落ついたと言ってもいいだろう。これ以上暴れても無駄なのだとようやく悟ったリヴィンが、荒い呼吸をしながら膝をついてこうべを垂れている。承太郎がそんな様子のリヴィンを見ながら帽子の鍔を引き下げた。

 

「やれやれだぜ」

「少しは落ち着いたかのう」

 

 むしゃくしゃしているからか、それとも話す気がないのか。リヴィンは強い呼吸を繰り返すだけで何も言おうとしない。今まで見たことのないリヴィンに花京院がどう声をかければいいのか戸惑っているうちに、承太郎がリヴィンを一瞥してから「ポルナレフを探してくる」とロビー奥に消えていってしまった。アヴドゥルは時間が必要だと考えたのか、リヴィンの頭部を軽く撫でてから同じようにロビー奥へと向かっていく。残ったのは花京院とジョセフと、拘束されたままのリヴィンだけになった。呼吸以外の音がしない空間で、ジョセフがリヴィンと同じ高さになるようにしゃがんで声をかけ始める。

 

「確かに一緒にされるのは屈辱じゃったな」

 

 何も答えない。あるのは沈黙だけだ。

 

「じゃが『僕』とはいただけないのう。約束はちゃあんと守らないといかんぞ」

 

 ピクリ、と少しだけ反応があった。話は聞いているらしいが、返答は変わらずない。まだ話したくないという意思表示だ。ジョセフは片眉と口角を上げて花京院を見る。花京院は困ったように斜め下に頭を下げてから、リヴィンへ近寄って膝を立てた。

 

「リヴィン。体は大丈夫ですか」

 

 至るところから流れていた血は止まってはいるが、その流れていた量が半端ない。前にもあった通り、傷は癒えているかもしれないが確認をしたかった。

 リヴィンからの反応はないと思っていたのだが、ゆっくりとした頷きが返ってくる。リヴィン自身の正体に関係すること以外なら応えてくれるのかもしれないと、花京院はジョセフと目合わせしてから言葉を続けた。

 

「承太郎達が戻ってくるのを待ちましょう。それから次を考えませんか?」

「……分かった」

 

 小さい声ではあるがちゃんとした返答をもらい、少しホッとして花京院は肩を落とす。本当はホル・ホースにも気づかれないように触脚を巻き付けてあるのだが、リヴィンがこの状態である為に明かすのは阻まれた。それにホル・ホースはどんどん遠ざかってスタンドの範囲外まで行ってしまったので、今無理に追う必要はないはずだ。

 リヴィンの呼吸もだんだん落ち着いてきており、ジョセフはこれでホル・ホースを追いかけることはないと判断をし、ハーミットパープルを解いてリヴィンを自由にする。縛るものはなくなったというのに、リヴィンの姿勢はそのままだった。

 特に振れる話もなくしばらく無言だけが続く空間になっていたが、3人分の足音がその静寂を破る。

 

「ジョースターさん、正義(ジャスティス)のスタンド使いを撃破できましたよ」

「なんじゃと?」

「霧を使って穴空いた体を操れるスタンドだ、さっきのヤツらがそれだぜ」

「J・ガイルの野郎の母親だったらしくてよォ〜、地下に潜んで俺を狙ってたってワケ! 消毒液くれ消毒液……っておいおい、リヴィンはどうしたんだ?」

「そのことは後で」

 

 戻っきてきたら血塗れになっているリヴィンが気にならないはずもなく、ポルナレフが声をかけたが、花京院は待ったをかけた。折角落ち着いてきているのに下手に刺激をかけたくない。

 

「消毒液をとってきます。……リヴィン、立てるかい? 僕と一緒に部屋に行こう」

 

 促すように肩に優しく手を置くと、リヴィンはゆっくりと立ち上がる。一緒に行ってくれると分かると、皆んなに目配せをしてから肩に手を置いたまま部屋へと歩き出した。

 

 ★

 

「いい加減話しやがれ、ジジイ」

「承太郎には昔話したことがあるんじゃがの〜」

「ボケてんのか」

 

 花京院がリヴィンを送って手当に必要なものを取ってロビーに戻ると、承太郎がジョセフに向かって話を詰めていた。雑に消毒液をポルナレフに投げ、何の話なのかと会話へ加わっていく。

 

「何の話ですか」

「花京院、おまえもーちょい優しさってモンを……。リヴィンの正体についてだよ」

 

 消毒液のキャップを開けて何故か舌につけながらポルナレフが答える。あんな場面を見た以上、もうこれ以上引き伸ばしは勘弁だと承太郎は動いたらしい。実際花京院も気になってはいたが、リヴィンがあんな状態なので知るのはまだ先がいいだろうと思っていた。話を続ける為に、アヴドゥルが顎に手を当てながらジョセフに尋ねる。

 

「実際に吸血鬼……ではないのですね? DIOと同じ吸血鬼扱いされたが故に嫌悪で激怒をしていたようにも見えましたが」

「DIOと同じ扱いされたのにキレておったのは本当じゃよ。DIOを心底憎んでいるからな。だが、リヴィンが血を吸ったことはあったかのう?」

「ねえな。アイツが食うのは果物だけだ」

 

 昼でも夜でも関係なく姿を現そうとしないので最初は候補に上がらなかったが、あえていつも姿を現さないようにしているのではと考えると、吸血鬼かもしれないと疑うことはあった。だが承太郎の言う通り、リヴィンは四六時中一緒にいても口にするのは果物類だけで、しかも燃費が悪いのか一度に結構な量を食べる。飲み物を口にすることはあるが、それ以外の食べ物は食べれない訳ではないがあまり食べようとしなかった。DIOと対峙するにあたって、ジョセフから聞いている吸血鬼の特徴とは一致しない。

 

「ジョースターさん、回りくどい話はやめよーぜ。パパッと正体言ってくれよォ〜」

「パパッと言っても信じてくれんからこうしとるんじゃよォ〜」

 

 うりうり〜とジョセフとポルナレフによる人差し指でのつっつき合いが発生したが、他はスルーして話を続けようとする。

 

「言え、ジジイ」

「昔に言ったじゃろ〜。わしが18の頃に起こった話を!」

「あの与太話がどう関係してくんだ」

「与太話じゃとォ!?」

 

 子供だった承太郎がジョセフから聞かされた話はあまりに荒唐無稽すぎて、子供に聞かせる為の作り話だと思っていたらしい。「わしは嘘を言っておらんのに」とシクシク嘘泣きするジョセフを、承太郎がさっさとしろとせかして話をさせる。

 

「そうじゃのう。始まりは、世話になっていたスピードワゴンのじいさんが『柱の男』を見つけたところからじゃな……」

 

 語られたのはジョセフがイギリスからアメリカへ移住した頃、祖父の代から続く因縁である石仮面に纏わる話だった。

 石仮面。最初は吸血鬼を作り上げるものかと思われていたが、本来は人類よりも優れた寿命と知性、とんでもない再生力の肉体を兼ね備えた『闇の種族』である『カーズ』が唯一のウィークポイントである太陽を克服しようとして作り上げたもの。その身に宿る潜在能力を開花させることはできたが、太陽を克服するまでには至らなかった。そこで克服に必要となったのが『エイジャの赤石』である。反対する一族を滅ぼし、太陽を克服しようとする者だけで赤石を守る波紋戦士との戦いとあいなった。しかし決着のつかなかったカーズ達は、冬眠期に至り石化することになったのだ。そうして時を越えて石化したカーズ達を発見し、『柱の男』という通称として呼ぶことにしたのである。

 そこから始まったのは、太陽を克服しようとする『柱の男』達との壮絶なる戦い。師匠や戦友であるシーザー、左手を失いながらも、太陽を克服して究極生物と化したカーズにジョセフは勝利を遂げたのだった。

 

「ジョースターさんが左手失ったのってそれェ!? 俺はてっきり戦争か何かかと……」

「吸血鬼がいる以上、それを作り上げた大元がいたのは不思議ではないですね」

「波紋は知ってたが、DIOやスタンドを知らねえ時期に聞かされても信じらんねえのは当然の話だろ」

 

 舌打ちをしながら承太郎がタバコを取り出しライターで火をつけ、一服し始める。アヴドゥルが腕を組みながら、話の流れの結論を出した。

 

「ジョースターさんがこの話をされたと言うことは……、リヴィンはその『柱の男』なのですね」

「ちょいと違うんじゃよ。『柱の男』というのは石仮面を使って潜在能力を目覚めさせた者、と定義しておる」

「つまりリヴィンは『闇の種族』であると」

「でもよー、滅ぼされたんじゃねーの?」

「わしも詳しくは知らんが、カーズが石仮面を作るより前に一族から離れたらしいんじゃ」

 

 だから今、こうして一緒に旅をすることができている。一切肌を晒さない重装備なのも、一瞬で身を焦がす太陽を浴びぬ為で、簡単に死なないというのも納得がいくものではあった。謎の時間をよく口にしていたが、よくよく考えればあれは日没までの時間で、一番安全に動ける時間帯を示していたのだ。

 

「そんでもってスタンドも持ってねぇだろ」

「お? よく分かったの〜誤魔化すようにしとったのに」

「ハァ!? 見えてなかったのかよアイツ!」

「スタンド使いだったとしても納得できないことが多かったのと、ホル・ホースに対しての反応からしても、なんとなくその可能性はあるかとは思っていましたが……」

 

 リヴィンはホル・ホースに対して何をしたのか、と尋ねている。スタンドが見える者ならば当然ホル・ホースが銃を構えているのは分かっているし、その攻撃が銃弾によるものだと判別できるはずだ。冷静でないとはいえ、普段のリヴィンならば避けるなりなんなりの動作があったようにも思う。それにホイール・オブ・フォーチュン戦でハイエロファントグリーンの拘束から抜け出そうと思えば抜け出せる力を持っているのにしなかった。スタンドを持っていないから、できなかったのだ。

 

「スタンド持ってねーのに、このまま一緒に連れてっていいのか?」

「リヴィン自身が望んでいるのが一番じゃが、我々としても連れて行く利点がある。DIOへの一撃必殺となるからだ!」

 

 そもそも闇の種族は全身が消化器官となっており、触れることさえできてしまえばエネルギーとして消化できてしまうのだという。DIOのスタンド能力がわかっていない以上、触れるだけでいいリヴィンがいた方がいいのは確実だろう。ちなみに余談ではあるが、吸血鬼が一番エネルギー源として最高らしい。

 それを聞いてポルナレフがうひーと声を出しながら口元に手を当てる。

 

「えっ、じゃあリヴィンがそういう意図で俺に触れたら簡単に死ぬってコト……?」

「だがリヴィンはそれをしない。それはこの旅でよく分かっているだろうポルナレフ」

「もちろんアイツが人を食べないようにしてるのは分かってる! 常識はずれのヤツだけどよォ、俺らを守ろうとしたり力になろうとしたのは嘘なんかじゃあねえ」

 

 効率で考えるならば生き物からエネルギーを吸収してしまった方がおそらく早いはずなのに、頑なに果物しか口にしなかったのもそうだ。リヴィンは常識や場の流れを知らないながらも、人間に寄り添って生きようと、一生懸命学ぼうとしている。そんな人物を、危険だからといって遠ざけたりする者はここにはいない。

 

「リヴィンに関しては分かった、信じるぜジジイ。アイツ自身もな。だが、あそこまでDIOを憎み追いかける理由はなんだ?」

「そこは何となく理由は知っとるんだが、本人から詳しく聞いたことがないんじゃよ。前にも言った通り、こればっかりは当人から聞いてくれんかの」

 

 右手で頬をかきながらジョセフがそう答える。途中から静かにしていた花京院が口を開いた。

 

「……リヴィンが言っていました。そのうち話せるようになる、と。僕はリヴィンが話してくれるのを待ちますよ」

「うむ、花京院の言う通りだな。本人が話せるようになった時を待とう」

 

 今もそうだが、リヴィンの気持ちが整うまで待ってあげたいと思っている。それは皆、同じ気持ちだった。

 

「で、結局リヴィンの性別ってどっちなんだ?」

「実はわしも知らん。一回明かしてやろうとめーっちゃ頑張ったんだが、珍しくとても不機嫌になっての……。それ以来探らないようにしとるんじゃ」

「ええッ!?」

 




※タグの独自解釈が大体ここにあたります。
石仮面を使っていないので流法(モード)は使えません。
少し弱いサンタナくらいに思ってください。
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