あー、あー、聞こえているかな?
このボイスレコーダーがどこかの誰かの手に渡っていると良いのだが…
やぁ、私は…まあ私のことなんてどうでもいいだろう?
ただのトリニティ生徒とでも思って欲しい
ここはトリニティの中央部、大聖堂だ
おそらくここがトリニティ最後の砦なのだろうが…もはやここに残る生徒も極わずかとなり、つい先日まで繋がっていた電波も全て繋がらなくなってしまった
連邦生徒会長により半ば強制的に結ばされたエデン条約調印式が爆破されてから今日でおよそ3週間、と言ったところか
外に出た仲間はそのほとんどが帰らず、外を見れば遠くに輝く雷、それにまとわりつくように蠢く巨大な影、薄く見える巨大な城、そして全ての光を飲み込むかのような暗黒の空
まさにこの世の終わり、と言うやつだね
トリニティが…いや、キヴォトスがこうなった原因はなんだったのか?
アビドス滅亡を皮切りに起こった一企業による元自治区の占領と宣戦布告?
それとも突如現れた雷神としか言いようのない怪物?
はたまたミレニアム自治区内の廃墟から突如現れた謎の軍勢?百鬼夜行から溢れ出した未知の怪物達?ソラから近付く果てしない虚無?
それとも…連邦生徒会長による統治そのものが間違っていたのか?
今となってはどうでもいいかもしれないが…
もしもこの全てに決着がつき、生き残りが居て、この記録を聞いているものが居るなら…どうか、忘れないで欲しい
私たちが居たということを。私たちの青春を。決して無かったことにだけは、しないで欲しい
顔も知らぬ君に頼むのは見当違いなのかもしれない
キヴォトスのことを何一つ知らぬものが拾っているかもしれない
それでも、せめて私たちがいたということだけは、それだけは忘れないで欲しい
…私が言いたいのはこれだけだ
では、名残惜しいけどこれで終わらせてもらうことにするよ
…どうか君の未来に、平和と安寧のあらんことを
大聖堂、仮設部屋の椅子に腰掛け、綺麗な姿勢で目を閉じているサクラコに声をかける
「…サクラコ、起きているかい?」
一拍置いてピクリとサクラコの体が動く
「…レイさん…すみ、ません…少し…意識が飛んでしまっていた…ようですね…」
「まったく、サクラコは頑張り過ぎだね」
サクラコは毎日できる限りのことをしている。ほぼ物資が底を着き、生き残りの全員が、もはや自殺しかねないほど深い絶望の中に居る中で、彼女一人だけが懸命に皆を励ましている
「…私は…皆さんのお心を…」
「もうみんなとっくに限界なのさ。私も、サクラコもね。そろそろ他人より自分を優先したって神様も許してくれるんじゃないか?」
「…ですが…シスターフッドの長として…皆さんを…」
「サクラコ、手を出して」
「…?…はい…」
まるで死人のように冷たいサクラコの手を両手でしっかりと握って
「幼馴染なんだ、最期くらい頼ってくれたまえ」
「…最期…」
「…あぁ、最期だとも」
サクラコが窓に目を向ける
「……もう、こんなに近く…」
「きっとあと数分もしないうちにキヴォトスは『アレ』に飲み込まれる。私たちは全員『アレ』に喰われてオシマイさ」
「……とても恐ろしくて、とても悲しいはずなのに…なぜだか、不安は感じません」
「そりゃよかった」
「…レイさん。手を…握っていてください」
「もちろん、離してと言われても離す気は無いよ」
「…ありがとうございます」
「…私、レイさんのことが─────」
「─────は?」
なんの冗談だ?全く笑えないんだが
なんで私だけなんともない?
『あー、あー、聞こえるかい?』
なんで周りに建物の残骸が散らばっている?
なんで…なんで、私の手の中に、ナニカの手が…
『トリニティが…いや、キヴォトスがこうなった原因はなんだったのか?』
……理解できない
ありえないだろう?なにが起きている?
『私たちの青春を。決して無かったことにだけはしないで欲しい』
『どうか君の未来に、平和と安寧があらんことを』
だって、私だけ生き残ってサクラコが──、なんて…
ドサッ
っと何か重いものが落ちるような音がする
私の手も何かに引っ張られるような感覚が生まれる
「…サクラコ?」
そこにはついさっきまで居なかったハズの…いや、チガウ。
さっきから居たサクラコがいつも通りに居る
「なんだ、やっぱりそこに居たんだ」
よかった…やっぱり、サクラコも無事だったんだ
姿を隠すだなんて、サクラコもイタズラっこなとこがあるんだね
『まさか色彩がこのような小娘を選ぶとは』
わたしたちはずっといっしょだから
『だがこの娘、変わったカタチをしている』
ずーっといっしょって、やくそくしたから
『魂と肉体のカタチが違う』
かってにいなくなったりなんてしないよね
『この魂は、忘れられた神々とも名も無き神々とも違う』
『この魂は……外なるモノに、色彩に最も近しい』
『なればこそ、ここに───────』
だから…ずっといっしょだよ
『なぜだ!なぜ動かぬ!』
───うるさいなぁ
『色彩が嚮導者に…いや、これは…もはや色彩そのものと化している…?』
───サクラコが寝てるんだから静かにしてよ…
『理解できぬ、たとえ別世界の魂だとしても色彩そのものと化すなどあまりに…』
『…まさか、上位世界の存在が?』
『ありえぬ、世界を降りるなど…!』
───もう、サクラコが起きちゃうってば…
『…この者の意思が擦り切れるまで、色彩は動けぬのか』
『それでは我らの悲願が』
『馬鹿な』
『これでは』
『このようなはずでは』
───はぁ…もうなんだか眠くなっちゃった…
───おやすみ、サクラコ
ちなみに、死者を生き返らせることは色彩の力を持ってしても不可能だぞ!
肉体だけを復活させても中身は空っぽのままだ!
つまり…別世界で代わりの魂をゲットして、それに元の情報を上書き保存してぶち込めば死者蘇生だ!
やったね!
色んな生徒とキヴォトス最後の日を過ごす小説流行れ(邪悪)