第3村讃歌 第一部   作:だんきち文庫

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 ご覧戴き有難うございます。
 第2話はアスカの話しです。
 設定は少し可哀想なんですが…
 ちょいLASです。
 お楽しみ頂けましたら幸いです。




<第2話> エヴァの呪縛 式波・アスカ 偽りの肉体

 

   ー それでは始まり始まり夏木マリ ー

 

 

         第 1 部

 

 

<第 2 話>

 

 エヴァの呪縛 式波・アスカ 偽りの肉体

 

 

 それは彼等が再び訪れた村の日常に慣れ親しみ行く中のとある一日のことでした。

 

 

 

【第3村 診療所】(夕方)

 

 夕暮れ間近、村の診療所は日中から続く混雑も漸く収まり診察は終了して治療中の人は残すところあと一人となりました。

 

 診察室隣りの処置室ではグレーディトの最新鋭医療機器が稼働しています。

 その動作音が人気が無くなった診療所全体に静かに響き渡っていました。

 

 軈て「ピピ、ピピ、ピー!」と治療プログラムの終了を告げる電子音がまたもや診療所全体に鳴り響きます。

 

 トウジは診察室からスキャニングと治療が終了した事を医療機器を覆っている透明のビニール樹脂カーテンの中の患者に伝えます。

 

 

 

「ほい!アスカ、もうエエで。お疲れさん!」

 

 

 

 医療機器の中のアスカは寝台からゆっくり上半身を起こすと「ふぅ…」っと、溜め息を吐きました。

 それから両足を寝台から徐に下ろし床に降りると「んっ!」と、両腕を真上に伸ばし大きく背伸びをしました。

 

 治療中の彼女は白無地のキャミソールとショーツだけの下着姿だったので足元の籠の中に置いていた服を着始めます。

 

 

 トウジは診察室でプリントアウトされたカルテのデータを見ながら彼女に回復状況を伝えました。

 

「んっ!左目…だいぶ良うなっとる!もう眼帯もいらんやろ」

 

 アスカは透明ビニールのカーテンの中でそれを聞きながらショールカラーのブラウスを羽織り釦を留め、ジャンパースカートを穿くとショルダーアームに袖を通し赤いリボンタイを結び襟元を整え終えるとカーテンの出入用スリットから抜け出して来ました。

 その彼女が纏っていたのは懐かしい第3新東京市立第壱中学校の制服でした。

 

 そして彼女は「スズハラ先生のおかげね!ありがとう!」と感謝の言葉を伝えます。

 

「なんや、センセって?こそばいコト言うなや!」

 

 トウジはアスカの謝意に少し照れましたが其れを誤魔化す為に少しふざけ口調で返しました。

 

 アスカは「んじゃ、トウジ!」と笑いながら言い返します。

 

「そや!それや。そんでエエ!でも、ワシの手柄やない。ヴィレの最新医療機器とオペレーターのケンスケのおかげや!」

 

 トウジはそう言うと笑いながらケンスケの方を振り返ります。

 

 ケンスケもトウジの言葉を少し照れ臭く感じていましたが、悟られるのが恥ずかしいのか黙ってモニターを見ていました。

 

 

 アスカは処置室を出て診察室の二人の前まで戻って来ました。

 そこで彼女は両腕を軽く開くと下を向き首を左右にゆっくりと動かし自身の躰を眺め回します。

 

 そしてそのまま俯き加減で呟く様に言いました。

 

 

「でも…身体の方は元どおりにはならなかったわ…。相変わらず肉体は14歳のまま…」

 

 

「そりゃ、封印柱の代わりに今は類似性浄化封印凍結装置が入いっとるさかいになぁ…」

 

「うん。辛いだろうが式波の肉体と精神を保つには…今はコレに頼るしかない…」

 

 トウジとケンスケは今の彼女の置かれた状況を話します。

 

 

 アスカの呟きは続きます。

 

「誰が作ったのか…」

 

「いつ挿入(インサート)されたのか…」

 

「いつ終わるとも知れないもの…」

 

「取り除くのは生命と引き換え…」

 

「たとえ取り除けても肉体や精神に異常を来す恐れ…」

 

「最悪の場合、精神は疎か肉体も崩壊する…かぁ…」

 

と、独り言の様に言うと肩を落とし更に俯いて足元を見つめていました。

 

 

 彼女のその様子を見てケンスケとトウジは、「今の我々では…」「そやな…」と言うと黙り込んでしまいました。

 

 

 

 診察室の空気は重く沈んだ様になりました。

 

 

 

 アスカはその空気を弾き飛ばすかの様にパッと顔を上げて、

 

「でも、コレがある限りはアタシはアタシでいられるんだから!永遠の14歳よん!」

 

 と言うや否や自分のお腹を軽く「ポン!」と叩くとスカートの裾を翻しながら爪先立ちでクルクルと軽やかに廻り始め、最後にバレリーナの舞台挨拶の様な仕草でお辞儀をしました。

 そして顔を上げ二人に「ニカッ!」と笑い(おど)けてみせました。

 

 突然の彼女の舞で二人は、「ハハ、、!式波らしいや」「ホンマや!」「ワハハハ、、!」と笑い出してしまいました。

 

 アスカは「トン!」と踵を落とすと、

「じゃ、アタシ先に帰るね。今日の晩ご飯当番はシンジね!ナ〜ニかな〜?楽しみ〜!」

 

 そう言うと彼女は待合いにある衣紋掛けからヴィレ支給のモスグリーンのパーカーを取ると制服の上に羽織りました。

 そして駆け出す様に診療所の出入口に向かいました。

 

 彼女は出入口の前で振り返り「んじゃ、おっ先〜!」と二人に声を掛けると玄関の引き戸を「ガラガラ」と開け、飛び出す様に表に出ると「ピシャン!」と勢いよく戸を閉じ駆け出して帰って行きました。

 

 

 二人は彼女の出て行った玄関を暫く眺めながら話します。

 

「せやけど、アスカ大分明るうなって来よったな。なんや昔に戻ったみたいや」

 

「うん。最初ココに来た時はかなり荒んでたからね。なんか醒めた感じで…でも、再び三人で戻って来た時は何か憑き物が落ちたみたいに穏やかになってた…」

 

「まぁ、ワシ等には分からんケド…色々あったんやろなぁ〜」

 

 そう言いながらトウジはまだ玄関を見詰めていました。

 

「しかし、身体はあの通り…辛い筈なのに愚痴るフリするだけでそれを見せない…式波らしいな…」

 

 ケンスケはモニターに映る処置結果とスキャンデータを確認しながら静かに言います。

 

「ホンマや!泣けて来るわ〜!強がり言うて…」

 

 トウジはまだ玄関を見詰めていました。しかしその瞳は徐々に潤んで行くのでした。

 そして彼は勢いケンスケに振り向くと彼の両肩を強く掴んで言います。

 

「ケンスケ!頼むわな…アスカ…!」

 

 ケンスケはトウジの今にも溢れんばかりの涙を溜めた目を真剣に見つめ、それからゆっくりとアスカが駆け出て行った玄関に視線を向けました。

 

 

 そして、「うん。解ってる…!」と力強く頷くのでした。

 

 

 

 

【第3村 村外れ】(夕暮れ 続き)

 

 診療所を駆け出たアスカは村外れの踏切り迄やって来ました。

 

 そこで彼女は走るのを止めてゆっくりと歩き出しました。

 

 辺りは山の稜線の樹々の影と空の境目が漸く判る位で、あと幾分もすれば一つの暗闇となってしまうことでしょう。

 

 そして気温はパーカーを羽織って来たのは正解とばかりに冷たい風の妖精が道端の草木を撫でながら彼女を惑わす様に優しく包み込んで来るのでした。

 

 

 アスカはトボトボと歩きながら独り言を呟きます。

 

 

「永遠の14歳…かぁ〜…」

 

 

 彼女はそう呟くと歩みを止めてしまいました。

 

 人気の無い暗い田舎道の真ん中で立ち尽くした彼女はお臍の下辺りのお腹に両掌をそっと添えてその部分を見つめながらまた独り言を呟きます。

 

 

「コレがアタシの中にある限りアタシはアタシでいられる…」

 

「けど、コレがある限り…」

 

「人と…愛する人と一つになる事は出来ない…」

 

「ケンケンやトウジは徐々に効果は出てる、希望はあるなんて言ってたけど…いつのことやら…」

 

 

 彼女は足元の夜の帷と溶け合い消えてしまいそうな自分の影を見つめていました。

 

 

「やっぱりアタシは一人なんだ…」

 

 

「このままでアタシ…」

 

 

 そう呟くとアスカはゆっくりと頭を擡げて暗闇に覆われ始めた深藍の空を見上げます。

 

 そしてまたポツリと呟きました。

 

 

 

「アタシ…最後まで…」

 

 

 

「…死ぬまで一人なのかなぁ〜…?」

 

 

 

 

 そう寂しく呟くとアスカはゆっくりと辺りを見廻します。

 その途端に冷たい風の妖精に包まれてしまった事を感じ「ブルッ」と震えました。

 

 

 そしてまたトボトボと歩き始めるのでした。

 

 

 

 

【駅舎ハウス 舎前】(夕闇 続き)

 

 アスカは最後の斜面を登り切り駅舎ハウスが見える所まで帰って来ました。

 

 彼女は先程の事もあり憂鬱な気分でしたが、間近の駅舎ハウスの窓から漏れる光や煙突から立ち昇る煙と共に漂い来る夕餉の香りに気分が少しずつ和らいで行くのを感じました。

 

 

 

 駅舎ハウスの中では母屋奥の炊事場でシンジが夕食の支度をしています。

 

 各々が帰る時間はバラバラな時が殆どなので献立は冷えても風味を損なわない物を用意します。

 汁物は温め直し易いので作り置いても問題はありません。

 

 シンジがお味噌汁の出汁のあたりを取っている時でした。

 

「ガチャ!」っとドアの開く音がしました。

 そして直ぐに「バタン!」と閉まる音がすると帰り着いたアスカが入り口脇のロッカー横の暗がりの中に立っていました。

 

 アスカは室内に入った時のフワリとした暖かさと家庭的な優しい匂いに心が更に癒されて行くのを感じていました。

 

 

 シンジは彼女を認めると和かに「おかえり! アスカ!」と笑顔で迎えます。

 

 

 しかし彼女はシンジのその笑顔を見ると途端に先程少し和んだ気分が吹き飛び、何故か急に怒りが込み上げて来るのでした。

 

 

「・・・・」

 

 

 アスカは暗がりの中、俯き加減で無言のままシンジを睨みつけています。

 

 

「どうしたの?」と、シンジは心配そうに声を掛けます。

 

 

 するとアスカは「何でもナイ!アンタ見てるとムカつくだけ!」と、吐き捨てる様に言うとズカズカとシンジに向かって進んで来ました。

 しかし彼女はシンジには見向きもせず彼の傍を掠めて通り過ぎて行きます。

 

 シンジは目の前を通り過ぎて行く彼女に戸惑いながら「ア、アスカ…?」と呟く様に声を掛けますが、アスカは「ふん!」と鼻で言うと奥の階段からガレージに降りて行ってしまいました。

 

 そして「バタン!」と自分の部屋に閉じ籠ってしまいました。

 

 

 シンジは鍋蓋と玉杓子を持ったまま呆然とアスカの降りて行った階段を見詰めていました。

 

 

 

 

【アスカの部屋】(続き)

 

 アスカは自分の部屋に入るなりパーカーをビールケースの椅子の上に脱ぎ捨てると服のままベッドに倒れ込む様に突っ伏しました。

 

 暫くうつ伏せになっていた彼女は軈て徐に仰向けになると枕元に置いてあるマペット人形を手に取り左手を人形にはめ込みました。

 

 

 そして人形とお話しを始めます。

 

 

「なによ…!アイツ!馬鹿みたいに脳天気にヘラヘラ笑って…」

「ね〜!馬鹿みたいよね〜」

 

「あ〜!腹立つ!」

「ね〜、腹立つよね〜」

 

「ふん!人の気持ちも知らないくせに…」

「知らないくせに…ね〜」

 

「知らないくせに…」

 

 

「知らない…くせに…」

 

 

 

「知らない…」

 

 

 

「…知らない…」

 

 

 

 アスカの声は次第に小さくなります。

 

 そしてまたうつ伏せになると「ギュッ!」とマペット人形を抱き締めました。

 その顔からはもう怒りは消えていました。

 代わりにその表情は淋しさと後悔が混ざり合い今にも泣き出しそうでした。

 

 

「シンジに当たってもしょうがないのに…」

 

 

 そう呟くと彼女はゆっくりとベッドの上に座り直すと手にした人形を見詰めました。

 

 そして彼女はマペットに囁きます。

 

 

「…ゴメン…シンジ…」

 

 

 アスカはマペットをシンジに見立てて詫びるのでした。

 

 

 

 

【駅舎ハウス 室内】(夜間 続き)

 

「ただいま!」の声とともにケンスケは随分と遅くに帰って来ました。

 

 シンジは食卓でケンスケの帰りを待っていました。

 

「なんだ?待ってなくてもいいのに…」彼は荷物を降ろしながらシンジに言うと炊事場の傍にある手水鉢で手を洗いました。

 それから首に掛けていた手拭いで手を拭いながら食卓に着き、被せてある蝿帳を持ち上げました。

 

 その食卓の上には3人分の夕飯が手付かずで載っていました。

 

 それを見てケンスケは「アレ?式波は?」と、シンジに問いました。

 

 シンジは少し不貞腐れて「なんか機嫌悪いみたい…」とポツリと呟くとぶっきらぼうに首だけで奥の階段を指す様に見ました。

 しかしその言葉と態度とは裏腹に彼は彼女の様子を心配しているのでした。

 

 シンジは味噌汁を温め直す為に立ち上がり炊事場の釜戸に火を起こします。

 

 ケンスケは「そうか…」と、溜め息混じりに言うと用意された夕飯を見つめます。

 そして今度はシンジの方を向き彼の後ろ姿に語り掛けます。

 

 

「碇、スマンな…」

 

 

 その声にシンジは振り向き「何が?」と要領を得ない表情でケンスケを見つめます。

 

 

 ケンスケは「式波は…」と言い掛けますが少し間を置いてもう一度言い直します。

 

 

「式波は今、未知のある物を身体の中に抱えている…ただそれによって今の彼女が保たれている…いや、生かされている…」

 

 

「その不安や恐怖が彼女の中に湧き上がる時があるんだ」

 

 

 彼は訥々と続けます。

 

 

「その自分でもどうしようもない感情を碇にぶつける…」

 

 

「式波は碇にしか当れないんだ…それは甘えなんだよ」

 

 

「式波流の不器用な甘え…」

 

 

「式波が本音で甘えられるのは…」

 

 

 

 

 

「碇、お前だけだ…!」

 

 

 

 

 

 

「・・・・」

 

 

 

 

 

 

 シンジは鍋の中で湯気の沸き上り出したお味噌汁を鍋蓋と玉杓子を持ったまま黙って見つめていました。

 

 

 軈て見つめていたお味噌汁が沸々と音を立て始めた時、シンジは思い立ったかの様にお櫃から甘藷の炊き込みご飯を小さなお茶碗に装い、副菜の菠薐草と栗茸の煮浸しを小鉢に盛り付けるとお椀に温まった切干大根のお味噌汁を張り、分葱の吸い口を添えてお箸と共に其れ等を小さなお盆に乗せました。

 

 そしてそれをガレージのアスカの部屋へと運びます。

 

 そのお盆を部屋の外の傍らにあるクレーディトの物品輸送函(コンテナ)の上にそっと置き布巾を掛けました。

 

 シンジは「アスカ、食事…ココ置いとくからね」と中のアスカに声を掛けます。

 

 しかし返事はありませんでした。

 

 シンジはそっと引き返しますが、立ち止まりもう一度声を掛けます。

 

「気に入らないかも知れないけど…食べなきゃダメだよ。アスカはもう…」

 

 シンジはそこまで言うと言葉を遮り母屋に戻る階段へと向き直りました。

 

 

 その直後に彼女の部屋の中から「…うん」と小さな声が帰って来ました。

 

 そして間を置いてまたも小さな声が聞こえました。

 

 

「…ありがとう…」

 

 

 彼女の声は小さくか細いものでしたがシンジはその声を聞き少し安心しました。

 

 

 

 ケンスケは階段を上がって戻って来たシンジの少し安堵を含んだ顔を見て「ふっ…」と笑みをこぼしました。

 

 

 そして二人は静かに向かい合いで遅くなった夕食を摂るのでした。

 

 

 

 

                                       <つづく>

 

 

 

 

 

 

 

 

【 次回予告 】

 

<第 3 話>

 エヴァの呪縛 アヤナミ・レイ存在の維持・続編

 

 乞うご期待

 

 

 

 

 

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