キヴォトスの配達屋 作:無所属の転生生徒
「ぷはぁ!美味しかったああ!ほんとありがとうな!アル!」
「え…えぇ、どういたしまして…」
ニッコニコと笑うロボに対して、私は口元を引き攣らせて笑みを浮かべていた。
なんでそんな顔になってるかと言うと…。
「…おい、見ろよ。青髪のあいつ、暴食デカ盛り親子丼の極、7杯ペロリと綺麗に食べきってしまったぞ」
「…まじかよ。あれ一杯あたり8人前は無かったか?」
「…一人で56人前分食べるなんて…フードファイターかよ」
「…大将みろよ。部屋の隅で真っ白に燃え尽きてやがるぜ?」
「…そりゃ、量と美味さに見合わない低めの価格という心意気。並の相手は絶対に食い切れないだろうという自信。絶対に一皿で満腹にしてやるという料理人の意地が詰まった一皿だ。無理もねぇ…」
「…正に皿も気力も喰われてすっからかんってか。大将、どんまいだぜ…」
(…ついでに私の財布もほぼすっからかんよぉおおおお!)
後ろで囁く芝犬達に対し、私は内心で叫ぶ。
もうお分かりだろう。
目の前の少女が驚異的な大食いを見せた結果、私の食料を買う為のほぼほぼ尽きてしまったのだ。
いやまぁ、あまりにも気持ちよく美味しそうに食べるもんだからと、つい何も考えず望むままにお代わりしてあげた私も私なのだが…。
(バカバカ!私のおバカ!?)
心の中で白目を剥いてしまう。
奢りすぎなければ最低でも1週間分はあったなのに。
恐らく手持ちの金銭で食料を買ったところで、精々頑張って2日が限度であろう。
見栄を張り調子に乗ってお代わりしてあげた結果がこれであった。
恐らくこれを師匠が見たのならば呆れ返ってるか、バカだなぁと笑ってるに違いなかった。
(…まぁでも)
それでもやっぱり奢ってあげてよかったと思えるのは。
目の前の少女が思わずクスリと笑ってしまうくらいには満面の笑みを浮かべてるからか。
私がお人好しだからか。
憂いがなくなったからか。
はたまた、その全てか。
後味悪い感じにならなかったどころか、気持ちよく次にいけそうなくらいには良い気分だった。
(ふふっ…♪今なら、ビリヤードショットも100%いけそうなくらい、心が軽いわ。やっぱり人助けはいいものよね…♪)
隣で「ご馳走様!大将!」と手を合わせるロボを見ながらそう思う。
身体が軽い…とはこのようなことを言うのだろう。
…まぁ、そう言って実際のところ、軽くなったのは身体と心だけではない…が、それに関しては、必要なことだったと思って受け止めるとしよう。
「さてと…ごめんなさい、ロボ。そろそろ私、行かなきゃ…仕事の準備しなきゃいけないから」
「…ん?そうなのか?アル」
「えぇ。元々は減った分の食糧を補給するつもりでここら辺を歩いてたのよ」
「そうか………多分、アル、僕が食べ過ぎたせいで財布寒いよな……よし」
そう言って、ロボをしばらく考え込み何かを呟いた後、思いついたと言う顔で私にとある提案をしてくる。
「なぁ…アル!大丈夫ならだけど、その仕事を僕も手伝っていいか…!?」
「へっ?」
思わずそんな間抜けな声が漏れ出てしまう。
いや、そう言う展開になるのもわかる。
わかる…のだが。
「いえ、大丈夫よ。これは私がしたくてした事なの。お礼はいらないわ。気持ちで十分よ」
この言葉に尽きる。
お礼されようと思って奢ったわけではないし、自己満足する為に奢ってあげただけなのだ。
それに今受けてる師匠の仕事は先程の襲撃と内容から考えるに、まあまあの高難易度を誇っているはず。少なくともあれだけでは終わらないのは確実だ。
この子の強さがどれくらいなのかはわからないが、ある程度強いと仮定して、それでもなお連れていける判断にはならなかった。
だが、断れた本人はというと納得してないようで。
「それでもだ!このままじゃ、オレの気持ちも収まらねぇんだよ…!頼む、手伝わせてくれないか、アル!」
頭を下げてそう言った…いや言われてしまった。
いや、確かに彼女の言い分もわかる。わかるのだが…。
それはそうとして、その反面、『はい、わかりました』とすぐに了承して連れて行ける話でもないのも事実。
提案を受け入れるべきか、拒否するべきか。
随分、簡単なようで難しい二択を突きつけられたものだと思った。
どちらを選んでも、いいのだろう。
前者を選んだら、配達道中の間、戦力が増えるし、後者も後者で危険な仕事を目の前の少女を巻き込むなんてことにはならない。
私にとって、本当に好きな方を選べばいい話である。
どちらを取ってもきっとそこまで結果は変わらない。
(…なら。選ぶべきは、きっと)
目の前の少女の意思を感じた。覚悟も感じた。
だったら、その気持ちを汲み取り、受け取るべきだろう。
「………わかったわ」
「…!」
「ただし!少しでも危ないと思ったら、逃げること。無理に手伝わないこと。自分の安全第一にすること。これを守れるなら同行してもいいわよ。それでもいいかしら?」
「あぁ!それでいい!」
「なら交渉設立ね。よろしくお願いするわね、ロボ?」
「こちらこそ宜しくな!アル!」
そう言ってニカっとして気持ちのいい笑顔をロボは浮かべる。
さてさて。師匠にどう説明するか…。
そんなことを考えながら、私はとりあえず今の所持金で買えれるだけの食料をロボと買いにいくのだった___。
「___…ふぁあ……ふぅ」
喫茶店『マクスウェル』のすぐ近く。
あくびを一つして、巨木の陰にある洋風の東屋で、甘めのレモンティーを飲む。
「…想像以上に良いものを作ってもらったな」
机を眺めるとそこには、ヘッドホンギアのような形をしたデバイスと、《BEE・LIAR》と書かれたアタッシュケースとロープで口や身体を縛られる、狼の紋章が描かれたバックが置かれてあった。
デバイスは以前から注文してようやくできたもの。
それ以外はサプライズプレゼントで作ってもらったものだ。
「…気に入ってくれるといいな」
ぼそっと呟く。
なにぶん、こういう贈り物をするのは久しぶりだ。
その為、喜んでもらえるかはわからなかった。
「…」
不安になってても仕方がないのはわかってる。
それでも緊張はしてしまうものだ。
前世でもそんなプレゼントをよくするような人種ではなかったからこそ、余計に。
「……ん…?……あぁ、
異常に乾く喉を潤すためにレモンティーを飲もうとするが、もうすでに飲み切っていたようで喉の中に紅茶の代わりに空気が通り過ぎた。
それ故に急いで、カップにレモンティーを注ぎ、緊張にも似た喉の渇きを潤す為にすぐに飲んだ。
「…もうすぐでアルが戻る頃になるな」
時刻を見ると後15分で、午後1時。
ここに来てから二時間が経とうとしていた
空は相変わらず快晴。青く澄み渡る色が雲と枝の合間から覗かせている。
「……はぁ、うまく渡せるだろうか?」
『らしくない。』とは思う。
こんなに緊張するのは。
前世はもっとのんびりとしている、マイペースな人物で。緊張とは殆ど無関係な人間だった。
今世においてもそれはあまり変わっていない筈だ。
それでも、なお緊張してしまうのは___。
「…来たか」
そこで思考を打ち切り、視線を向ける。
カツンカツンと足音が聞こえ、大通りに繋がる通路を見ると、こちらへと歩くアルの姿が見えた。
「案外早かったな。おかえり、アル」
「えぇ、ただいま師匠」
そう言うとアルは恐らく必要品が入った買い物袋を机に下ろして、やや疲れたような顔をして対面へと座る。
既に机にはそろそろ来るだろうなと思い、用意していた彼女の為のやや甘めのアッサムティーの入った赤と金のカップが置かれていた。
「…その様子だと……大分買う物が多くて疲れた感じか?」
「…確かにそれで疲れてもいるのだけれど……」
「?…それだけじゃないのか?ならなんか銃撃戦にでも巻き込まれたのか?」
「…いえそうじゃなくてね。空腹で倒れそうな生徒がいたから、ちょっとその人を助けてたのよ。そしたらついてくるって言ったもんだからね…ちょっと互いの妥協点を話し合いしてたら、疲れた感じよ」
「ふーん…その子、どんな娘なんだ?…あぁ、先に言っとくが、別に一人増えたところで俺は構わんぞ?」
珍しいこともある物だなと思いながら、レモンティーを飲む。
このキヴォトスではブラックマーケットとかに住んでいるアウトローでもない限りは身分の保証は一応しっかりされてる。
いい例が原作の、目の前にいる悪魔の少女。
CMかアニメかは覚えていないが、身分証明書を所持してることがわかるワンシーンがある。
ということはつまり、どんな校則破り=犯罪をしようとも、何かしらで投げ出さない限りは最低限生徒の身分は保証されている…ということなのだ。
そんな中で、行き倒れるということは基本的に、
[よほどお金を使い込んだりして貧乏]
[何かしらの理由で身分の証明できない人物]
のどちらかしか無かった。
まぁ、とはいえだ。ここはミレニアム。ある程度身分の保証がしっかりされてるここならば、十中八九、前者だった感じだろう。
ま、そんな間抜けは私は知らないから、これから来るとしたら、初対面なんだろうな。
…とそう思ってた時期が俺にもありましたよ。はい。
「…あ、ついてくるのはいいのね。…えっと、月と王冠と狼を合わせたようなヘイローしていて、髪は青っぽくて、首輪をしていて、狼の耳生えてる娘ね。名前は乾原 ロボって言う娘。さっき準備するものがあるとかで別れたばかりなんだけれど…」
「ッッッ,ブフッ!?!?〜〜〜ッ…!?ケホケホ!!?」
「ちょ、大丈夫!?ドーラ師匠!?!?」
「ケホケホ…、はぁはぁ…すまん、ちょっと咽せた…」
「えっ…?もしかしてだけれども…知り合いだったり…するのかしら?」
「…いや、知り合いどころの話ではない関係性だよ。………なぁ?ロボ?そこに隠れてるの、わかっているからな?さっさとこっちへ来い」
「…ッ!!!?」ビクゥゥ!!
そう言って、先程から庭園の茂みからこっそりと隠れて気まずそうにこちらの様子を伺う、狼少女を呼び出す。が反応なし。あくまでいない振りを続けるようである。…ならば。
「…しょうがない。この話をしなければならないようだ。…えっとな、そこに隠れてる奴さ。昔、この近くの森に配達しにいっt「ッ!わわっ!?出る!出るから!それ以上あの昔の事件言わないで!
「えっ…『ボス』?…まさか、ロボって…」
「あぁそうだ。そのまさかさ。ほら、ロボ。挨拶しな」
「うぅ…わかったよ、ボス。…アルにこんなかっこ悪いところ見られたくなかったのに……」
そう言って落ち込み気味に、気まずそうにしながら、俺達の前に出てくる。
…というか、そもそも俺、お前の名前ご出た時点で、アルの記憶『盗み見』してお前が何やったのか知ってるからな?
かっこ悪いところをーとか、情け無い姿見せたくないーとか、言っても、今更遅いからな?
と、そうこう思ってるうちに切り替えたようで、顔をキリッとさせる。
「…はぁ、んじゃ改めて。配達屋『シュレディンガー』配達員。旅客・速達担当。