これは持論だけどね。暴力は、より強い暴力に叩き潰されるんだ。 作:イベリ
話の流れ本編とは違うけど、こんな感じ。
え?ビナーを単独で倒してミレニアムまで残骸持ってきたのあの先生…?
↓
えぇ…すんげぇ爆弾(アリス)抱えてる…殺さなきゃ…危ないし…でも先生に勝てない…でも、生徒殺すのかァ…でも仕方ないよね。あ、先生邪魔してくるだろうなぁ…
↓
せや、先生に先に言って協力してもらお。せめて邪魔しないで位いけるやろ。言うだけタダ。
「───────これらの理由から、天童アリス…AL-1Sを殺す。万全を期すために…あなたも協力して欲しいと思っているの、先生。」
「なるほどね……だいたい理解した。君のことも、概ね、なるほど。これがセミナー会長─────調月リオか。」
「………そう。」
今も目の前でふむ、と考え込んだキヴォトスでは非常に珍しい男の大人。しかし、その威容は、ミレニアムのビッグシスターと呼ばれる、調月リオの想像とはかけ離れた物だった。
自分の肩幅の2.5倍はあろうかという巨躯、オマケに身長も、女性の中では高い方であろうリオすら抜かして、立ち話であれば見あげなければ顔すら見えない始末。それに加え、人外の力。最早何がどうなっているのか理解できない程の圧倒的パワー。
その力は、リオも知る神機のナンバリングの1つを、神秘も宿らぬ体でねじ伏せ、破壊し、その残骸を片手でアビドスからミレニアムまで担いできたのだ。(約4tの残骸)
(報告にはあった…けれど、対峙してわかった。生物として、私たちの遙か高みに存在するのが、目の前の……
それに、なんのバグなのかその力を決して悪用しない聖人ぶり。なんでも、近々学校に行けなくなった生徒のための学校を建てると息巻いているらしい。
生徒の指揮も任せれば名将、人間味もあり、全知の学位を授けるほどでは無いが、特定分野における頭の回転もすこぶる速い。
少々良くない噂(生徒の足を咥える、生徒の匂いを嗅ぐ、露出癖のある生徒と一緒になって服を脱ぐ)もあるが、些事だろう。彼が成し遂げた功績は仮に噂が事実であろうと封殺できる。
敵になれば確実に負ける。あらゆる演算が、彼との勝率に数パーセントを叩きつけてくる。
リオは、賭けに出たのだ。
「……リオは、トロッコ問題で1か100を選ぶ時、100を選ぶんだね。」
「えぇ、考える余地もないでしょう。たとえ、それが私の身内だったとしても、私情のために100を殺す選択肢を取るつもりは無いわ」
「うん、いいね。芯があって、筋があり、理屈がある。理由にも賛同ができるよ。君は、人々の上に立つ時に、残酷な正解を選ぶことが出来る選ばれた人間だ。私が君の立場であれば、私もそうしている。」
「……!」
正直、ここまで賛同を示されるとは予想していなかった。
「今のところ、協力してもいいと思っているよ私は。条件付きになってしまうけれどね。」
「……その条件は?」
「アリスを殺すのならば、その役目は君でなく私だ。」
「───────」
絶句した。
セミナーの信頼出来る会計であるユウカの言葉に嘘偽りは一切なかった。
『先生は、生徒を第一に考えていました。きっと、嘘なんかじゃありません。それなりに会っていますけど、心の底から信頼させてくれるというか……とっ、とにかく!私たち生徒を第一に考えてくれる大人の方という事です!』
若干私情もあるだろうが、この短い期間で信用を得るのは難しいことだ。
そんな人が、生徒を手にかけることを条件に引き受けると言ったのだ。
「………それは、なぜ?」
「そうだね、順番に行こう。まずは、ごめんね、リオ。そんな選択を君にさせてしまって、今の今まで気がつくことが出来なかった。」
そう言って頭を下げたことに、リオはより混乱する。
「……頭を上げてちょうだい。謝る必要…いいえ、意味がわからない。あなたはAL-1Sの危険性を知らなかったのだから、そんなことを謝るのは、意味が無いことだわ。」
「それでも、だ。現に君はやむを得ずその手段を取るのだろう?それとも進んでこんなことをしたかったのかい?」
「………私が、そこまで冷酷に見えるかしら。」
「いいや、君は優しい子だ。進んで泥を被り、取るべき選択を取ることができる。なかなかできることじゃない。だからこそ、そんな優しい君に気がつくことが出来なかった。私の力不足だ。」
再度頭を下げた先生に、リオは言葉を詰まらせる。
「…わかった、わ。謝罪は受け入れる……けれど、条件はなぜ?」
「そうだね。まず、生徒にそんなことをさせられない…という事と……君、殺した後のことも折込済みなんだろう?君の居場所についてだ。」
「……」
そう、この作戦を決行し実現した時、リオに居場所はないだろう。銃社会のキヴォトスでも、特に罪の思い殺人ということになる。実質、このキヴォトスにリオの居場所は無くなる。どれだけの理があろうとも、それはまだ確率の段階でしかないのだから。
「その責任を、残った罪悪感を背負うのも、私の役目というわけだよ。最悪、私ならアリスが暴走してからも被害ゼロで確実に殺せる。」
だから、かな。と言葉を切った目の前の人間(?)に、リオは黙ってしまった。
できる、と彼は言ったがその確証がない。やはりその条件は飲めないだろう。
「……確証がないわ。」
「ふむ…じゃあリオはどのように暴走するかもしれないアリスを捕らえるのかな?」
「私には奥の手がある。」
「ではその奥の手と、私。どちらが上かな?」
「……演算では、あなたの勝率が約92%よ。」
「へぇ、裏を返せば数パーセント私を下せる可能性があるということか。」
流石だねと楽しそうに笑った先生を見て、リオは冗談では無いと笑えなかった。
リソースは最大限使った。最強の兵器も、先生が持ち込んだ神機の素材を元に、より性能を上げた。恐らくキヴォトスには、先生を除いて自分の最強を単独で倒せる者は居ない。
それで上がった勝率が、たったの3%。
即ち、ひとりの人間の肉体に最高峰を自負する科学が敗北したことに他ならない。
「とまぁ、勝率は限りなく低いわけで。大人しく譲ってくれるとありがたいかな。」
「それでも、私は……」
困ったように微笑んだ先生は、こうしようとひとつの提案をする。
「…仮に、最終的にアリスが暴走し私が彼女を殺した場合、私に味方は居なくなるだろうね。」
「そう、でしょうね。あなたもそれを覚悟していての言葉なのでしょう?」
「当然。けれど、流石に辛いからね……だからリオ。君が最後まで私の味方でいてくれ。」
「私が、貴方の?」
「そう。君の練っていた計画は無駄にしてしまう。けれど、もしもの時は確実に私が止める。刺し違えてでもね。だから、その時方々から投げられる石を、君も一緒に受けてくれ。今から、私たちは共犯者だ。」
「─────!」
たった一人、リオは孤独に戦い続けてきた。そんな彼女に唐突にできた共犯者は、余りにも優しい嘘をついた。
きっと、この感情は合理的では無い。けれど、その非合理に、初めて手を伸ばしてみたくなった。
だからこそ、信用ができたのだろう。信用したかったのだろう。この人となら、と。
「わかったわ。一蓮托生というわけね。地獄まで行く覚悟はできてるわ。」
「はははっ、なるべくそうならないようにしてくれよ?でもま、そういう事。よろしく、私の共犯者。」
握手を交わした2人は、とにかく行動に移す。
「まず、何をするのかしら…元々、最初から殺すつもりは無いのでしょう?」
「まぁね、最終手段って感じかな。とりあえず、アリスにこのことを言う。」
「……それで目が覚めるかもしれないわ。」
「いや、多分それは無い。もし、勇者としての彼女ではなく、魔王としての彼女が目覚めるのなら、私がそばにいない状況だ。」
「なぜ断言できるの?」
そう尋ねると、先生は悪戯っぽく笑う。
「物語の相場で決まっているのさ。暴走した弟子をギリギリで止めるのは、師匠の役目でしょう?それまで、ヒマリとリオでアリスを殺さない方法を考えて欲しい。」
「……なるほど、ヒマリを使うのね。合理的だわ。どうにも馬は合わないけれど、彼女の実力は本物だもの。」
「んー、アリスとビナーってどっちがヤバイ?」
「そのやばいが何を指しているのかいささか理解できないけれど、強さを言っているのなら、恐らく五分よ。」
「なんだ、そう焦ることでも無いね。」
「……それを言えるのは貴方だけよ、先生。」
その大きな背中は、初めてリオに寄りかかる場所を与えた。
なんという偉大な背中だろうか。
そう思ったリオは、先生に並ぶ。
「先生。」
「ん?なんだい共犯者。」
「あなた、嘘が下手だから辞めた方がいいわ。」
「………厳しいね。」
リオは、苦そうな顔をした先生を見て、ふふっと笑った。