カッコいいしかない親友の王子様系女子、俺に可愛い義妹ができてから様子がおかしい   作:枩葉松

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第1話 俺の親友はカッコいい

 

 俺の親友――天城(あまぎ)来栖(くるす)は、とてもカッコいい。

 

「今日の雑誌見た!?」

「見たみた! ちょーやばかったよね!?」

「マジで王子、カッコよすぎだわ……」

 

 高校生とモデルの二足のわらじ。

 その超一級のルックスとスタイルに人々は熱狂し、うちのクラスの女子はもちろん、学内外問わず多くのひとが彼女を〝王子〟と呼ぶ。

 

「王子、いいよなぁー……」

「……俺、昨日告ってフラれた」

「お前が王子と吊り合うわけないだろ」

 

 男子たちからの支持も厚く、告白し撃沈した人間は数知れず。

 そのモテ具合に羨望の眼差しを向け、その立ち振る舞いや容姿に酔いしれる。

 

「なぁ、頼むよ折村(おりむら)! 王子の連絡先、教えてくれよぉ!」

「ねえ折村くん、いいでしょ? 私……何でもするから、王子に紹介してくれない?」

 

 そんでもって、いつもあいつと一緒にいる俺――折村(あらた)のもとには、王子とお近づきになりたいやつが毎日のように集う。

 

「いやー……悪い。そういうのはやらないって決めてるんだ」

 

 いつもの台詞を吐いて、人ごみを突破し教室を飛び出した。

 

 一人許せば、また一人、更に一人と際限なく紹介しなければいけない。

 結果、苦しむのは天城。

 ただでさえ仕事で大変なのに、そんな苦労まで背負わせたくはない。

 

「遅ーい。罰金だよ、罰金」

 

 玄関を出てすぐ。

 壁に寄りかかってスマホをいじっていた天城は、俺を見つけて涼し気な声を鳴らした。

 

 星空のように輝く銀髪のショートヘア。

 気怠そうな光を宿す灰色の双眸。

 手足はすらりと長く、身長は男子顔負けに高い。

 

 身体のどこを切り取っても、一流の人形職人が人生を懸けて作ったように美しく洗練されており目を引く。クールでダウナーな雰囲気を纏うが、やる気がないとかそういう感じはなく、独特の無気力感は強者としての余裕を伺わせる。

 

 王子――何度見ても、そのあだ名の通りだなと思う。

 少女漫画から飛び出してきたような美しさに、一瞬息を飲む。

 

「悪かったな。ほら、一個だけだぞ」

 

 罰金代わりに、ポケットからグミの袋を出して封を開け取るように促した。

 「やった」と天城は声を弾ませ、袋ごと奪い去る。……俺の言葉、聞いてなかったのか?

 

「んじゃ、行こっか新」

「おう」

 

 天城の手から学生鞄を受け取って、校門前に止めていた車に乗り込む。

 

 黒塗りの高級車に運転手付き。

 昔から天城は、移動といったら基本的にこれ。

 彼女の家は超が付くほどの金持ちで、王子というあだ名の所以には、こういった経済的な背景も含まれている。

 

「今日の仕事、何だっけ?」

「今度の番組の打ち合わせ。あと、雑誌の取材と撮影だな」

「帰るの遅くなっちゃうなー」

「ちゃんと頑張れたら、明日の昼の弁当にオムライス作るよ。天城の好きな、昔ながらの卵硬めのやつ」

「最高じゃん」

 

 俺は訳あって彼女の付き人をしており、仕事場にはいつも同行する。

 他にも食事を作ったり勉強を教えたりと身の回りの世話をして、決して安くない賃金を貰っている。

 

「メイドとか執事とか色々雇ってきたけど、やっぱり新が一番だな。子供の頃から一緒で気楽でいいし。私のこと、何でもわかってるし」

「何でもって、それは過大評価だろ。…………んっ、お茶」

「ほら、わかってる。私が喉乾いてることに気づいた」

「これくらい誰でもできるよ」

 

 ペットボトルのお茶の封を切って、天城に手渡した。

 彼女はそれを嬉しそうに受け取って、「ありがと」と薄い唇を緩ませる。

 

「有能な召使いには、ご褒美をあげよう」

「……それ、さっき俺からぶんどったグミだろ」

 

 天城を半眼で睨みつつ手を伸ばすと、なぜかそれを振り払われた。

 

 彼女はグミを一つ摘まみ、俺の口元へ差し出す。

 

 綺麗で長い指。光沢のある藍色のマニキュア。

 逡巡の後、彼女からの餌付けを受け入れた。

 

「美味しい?」

「自分で食べた方が美味い」

「ふーん。減給しとくよ」

「今までに食べたグミの中で最高に美味しかったです」

「よろしい」

 

 何でもない軽口を交わして、天城は勝ち誇ったような薄ら笑みを浮かべた。

 

 ……ずるいよなぁ、こいつ。

 ちょっと笑うだけで、見惚れるくらいカッコいいんだから。流石は王子だ。

 

「そういえば、昨日はいきなり学校も仕事も休んでたけど何してたの?」

「あぁ、それか。天城にも言っとかないとな。うちの父さん、再婚することになったんだ」

「えっ、おめでたい話じゃん!」

 

 珍しく声を張り上げた天城。

 

 うちの父さんは、俺が小さい頃に母さんと別れた。

 その時は本当に色々と大変で、天城にも凄まじい迷惑をかけて……。

 

 そういった事情があるためか、彼女は自分のことのように再婚を喜ぶ。

 

「何か俺に言い出すのが恥ずかしくて、顔合わせの当日になって再婚するって言われてさ。だから昨日は、向こうの家族に会ってきたんだよ」

「向こうにも連れ子がいるの?」

「うん。それで聞いてくれ、俺に妹ができるんだ」

 

 天城はぱちりと瞬きをし、謎に黙って。

 一拍置いたあと、「へえ……」と目を見開きながら呟いた。

 

「いきなり妹とか言われても不安しかなかったんだが、会ってみたらメチャクチャ可愛くてさ」

「可愛い……?」

 

 メキッ。

 ペットボトルを掴む手に力が入ったのか、音を鳴らす。

 

「いやもう、マジで天使って感じ。俺の顔見て、ずーっとニコニコしてるし」

「天使……?」

 

 メキメキッ。

 

「俺のこともお兄ちゃんカッコいいって褒めてくれて……まあお世辞だろうけど、すごく嬉しかったよ。付き合ってっていきなり告白された時は――」

 

 バコンッ!

 

 締まりが悪かったのか、ペットボトルのキャップが外れて中身が飛び出した。

 天城の下半身と車のシートはずぶ濡れ。

 

 俺はティッシュやハンカチを総動員し、「何してるんだよ」と文句を垂れつつ急いで拭く。

 

「……――えたの?」

「ん?」

 

 ぼそりと何かこぼした天城。

 聞き返すと、彼女は冷たい凄みを宿した目で俺を見た。

 

「新は……何て答えたの?」

「そ、そりゃあ、無理だって言ったぞ。いくら義理でも、妹になるわけだし」

「だよねっ。そうだよねっ」

 

 やけに嬉しそうに、安心したように、天城は声を弾ませた。

 何がそんなに嬉しいんだ……?

 

「でもすごく悲しそうな顔されたから、お互いに大人になったら考えようって返しといた」

「ふーん……」

「ちなみに名前は宵奈(よいな)ちゃんって言うんだけど――」

「ふーーーん」

「……あ、天城?」

「私のことは天城で、義理の妹さんはそういう風に呼ぶんだ」

「天城もちゃん付けして欲しいのか?」

「そうじゃない!!」

 

 突然大きな声を出したかと思ったら、グミの袋の中身を豪快に口の中へ流し込み俺をひと睨み。

 

 その後はそっぽを向いてしまい、以降、ひと言も会話はなかった。

 

 宵奈ちゃん、今年で五歳の女の子。

 ……すげー可愛いから、せっかくだし写真見せようと思ってたのに。

 

 天城って、もしかして子ども苦手?

 よくわからないが、念のためこの話題はもう出さないようにしよう。

 

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