カッコいいしかない親友の王子様系女子、俺に可愛い義妹ができてから様子がおかしい   作:枩葉松

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第20話 好きなひと

「マジで決勝まで来たけど……これ、流石に無理くせーな……」

 

 決勝戦。相手は三組。

 向こうのスタートメンバーは、例のエース含めほぼ全員がバレー部員。明らかに雰囲気の違う敵を前に、犬飼をはじめ味方は半ば諦めムードだった。

 

「おい折村っ! 悪いな、お前から王子を奪うことになって! まあ多少は手加減してやるから、楽しい試合にしようぜ!」

 

 もう既に勝った気でいるのか、エースはニヤついていた。

 俺は静かに息をついて、メンバーたちに視線を配る。

 

「来たボールには、とにかく身体を当てていこう。あと攻撃のチャンスがあったら、できれば俺にやらせてくれないか。――あいつの顔面に叩き込む」

「お、おう……」

 

 犬飼は返事をし、他のメンバーも一様に頷く。

 そして、試合開始を告げるホイッスルが鳴った。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「王子ー! こっち向いてー!」

「キャー! 王子すごーい!」

「あっ! 今、王子と目合った!」

 

 男子は体育館でバレーボール。

 女子はグラウンドでソフトボール。

 

 現在、私たちのクラスは試合を行っており、最後の攻撃に臨んでいた。

 

「王子、相変わらずすごい人気だね」

「ただベンチに座ってるだけなのにねー」

「推してくれるのは嬉しいけど、みんなに迷惑だからやめて欲しいって言っても聞いてくれないから困っちゃうよ」

 

 ベンチでただ打順を待つ私に、別のクラスの女子たちが熱い声援を送る。

 そんな私を見て、他のクラスメートたちは苦笑する。

 

「そうそう。さっき聞いた話だけど、男子の方がすごいらしいよ」

「すごい? 何が?」

「折村くんが暴れてるんだってさ」

「……乱闘でもしてるの?」

「そうじゃなくて――……あっ、終わった」

 

 スリーアウト。

 ゲームセット。

 これで私たちのクラスは、トーナメント敗退。

 

 あとはもうフリータイム。

 女子の応援をしても、体育館で男子の応援をしてもよし。

 

 なので、足早に新を見に行く。

 

「あいつ、普段助っ人に来る時と全然違うんだけど!?」

「こんなの聞いてねえよ!!」

「来るぞ!! 絶対に止めろぉおおおお!!」

 

 ちょうど、うちのクラスが試合中だった。

 

 決勝戦。

 相手は三組。

 

 点数は……えっ?

 向こうが3点で、こっちが24点!? マッチポイントじゃん!?

 

 サーブは新。

 ボールを放り、駆け出して踏み込み、高く跳ぶ。

 

 ――――バァン!!

 

 響き渡る打球音。

 プロ顔負けのジャンプサーブは、瞬く間に相手コートに到達。

 それは私に告白してきたバレー部のエースの顔面に直撃し、そのまま新の方のコートへ戻る。

 

「犬飼っ!!」

「おう! 決めてやれ!」

 

 犬飼がトスを出し、新が強烈なバックアタックを叩き込む。

 それは再びエースの顔面を捉え、ボールは高く高く飛んでいき、天井の隙間にスポッと挟まる。

 

 試合終了。

 かくして、うちのクラスの優勝が決まった。

 

 け、決勝戦なのに、向こうはほぼバレー部チームなのに、この点差ってマジ……?

 

 新の運動神経の良さは知っているし、運動部に助っ人として呼ばれれば必ず結果を残すのは有名な話。だが、ここまでムキになるタイプではないし、この手の楽しむことが目的のイベントではある程度自重する。

 

 今朝から様子がおかしかったけど、今も変な感じだな。鬼気迫るというか、怒っているというか……。

 

「くそぉ!! 何でだよ!! 何でなんだよ!?」

 

 自分の得意分野で完膚なきまでに敗北し、エースは悲痛な叫びをあげながら床を殴っていた。新はそんな彼には目もくれず、私を見つけるなりツカツカと近づいてくる。

 

「ちょっと来い」

「えっ? あ、うん……」

 

 強い口調で言って、私の手首を握った。

 何を勘違いしたのか、うちのクラスの女子からキャーキャーと黄色い悲鳴を浴びながら、私たちは体育館を出る。

 

 廊下を抜け、喧騒から離れ、階段下の薄暗いスペースへ。

 新は私を壁へ追いやり、ドンと逃げないよう手をつく。

 

 か、顔が近っ!?

 しかもこれ、壁ドンってやつじゃない!?

 

「勝ったぞ」

「……お、おめでとう。見てたよ」

「これで、三組のあいつとは付き合わないんだよな?」

「えっ……?」

 

 今朝から新が不機嫌だったのもあり、告白の件を伝えていなかった。

 でも知ってるってことは、あれを聞いてたのか……。

 

「そりゃ、付き合わないよ。付き合うわけないじゃん」

「……本当か?」

「う、うん。何で疑うの……?」

「……お、俺が……」

「ん?」

「……俺が負ける可能性を考えずフェアじゃない賭けを飲んだってことは、心のどっかであいつと付き合ってもいいって思ってるのかなって……それで……」

 

 眉を八の字にして、もごもごと口を動かす新。

 

 ……な、なに、その顔?

 結構長い付き合いだけど、初めて見るよ……?

 

「もしかして、私が誰かと付き合うの……嫌なの?」

「嫌っていうか……その、何ていうか、えっと……」

 

 視線が泳ぎ、首を捻り、口を動かし。

 そうしてたっぷりと時間をかけ、ようやくその唇を音を紡ぐ。

 

「……い、嫌かも、しれない……」

「っ!?」

 

 あの新が、私に独占欲を出してきた……!?

 

 なぜ、どうしてそうなった!!

 私、何かしたっけ!? 惚れ薬とか盛ってないよね!?

 

「あぁくそ……っ」

 

 苛立ち混じりに言って、乱暴に頭を掻いた。

 その目は明らかに、自己嫌悪の色をしている。

 

「俺……今、かなり気持ち悪いこと言ってるよな。別にお前の人生なんだから、好きにすればいいのに」

 

 「忘れてくれ」とこぼし、新は一歩後ろにさがった。

 

 このまま彼を帰しちゃダメだ。

 この話し合いを終わらせちゃダメだ。

 

 ――直観的にそう思い、身体が動き出す。

 

「ちょっと待って!」

 

 彼を呼び止め、思い切り抱き締めた。

 どこへもやらないよう、ギュッと。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「お、おい来栖っ。俺、かなり汗かいてるから……!」

「わかってる」

「じゃあ離れ――」

「やだ」

 

 俺の背中に腕を回し、来栖はピッタリと密着していた。

 

 ここは学校。

 廊下の壁や床に反射しながら、体育館の方から騒がしい声が聞こえる。遠くからは、他の学年の授業に取り組む音が聞こえる。すぐそこに、誰かがいる。

 

 なのに、俺たちは誰かに見られるとかなりまずいことをしている。

 その状況に心臓が跳ね、彼女の体温に呼吸が乱れる。

 

「新に相談せず、勝手なことしてごめん。でも私、新は負けないって信じてたから」

「そ、そっか……」

「私、誰かと付き合ったりしないよ。新と……ずっと、一緒にいたいし。もう寂しい思いさせないって、約束したし」

 

 その言葉に、ハッと息を飲む。

 

 小学生の頃。

 それは、彼女が俺を家に迎え入れた時にした約束だった。

 

 同じ布団に入って、暗闇の中で無邪気に小指を結んで、よく意味もわからないまま唱えた戯言。俺を安心させたいがために、来栖が並べた優しい言葉。

 

 俺にとっては大切な思い出だけど、そんな他愛もない約束で来栖を縛ってはいけないと、こちらから口に出したことはなかった。

 

 ……でも、来栖も覚えてたのか。

 あんな、何でもないことを。

 

「仮にそんな約束がなくたって、新は私の付き人でしょ? 辞めたいとか言っても、絶対に辞めさせてあげない。うちは労働基準法、導入してないから」

「……超ブラックだな」

「そうだよ。私に出会ったのが運の尽きだね」

 

 ふっと顔を上げて、白い歯を覗かせ悪戯っぽく笑った。

 俺も自然と笑みがこぼれて、さっきまで気が立っていたことがバカバカしくなる。胸の内側から棘が取れて、爽やかな風が吹き抜ける。

 

 ……そうか。

 

 どうして苛立っていたのか、来栖に恋人ができることが嫌なのか、ようやく理解できた。

 

 わかってみると……何だ、簡単な話だな。

 

 ははっ。

 子供かよ、俺は。

 

 笑える。

 アホくさい。

 

 別に難しい話でも何でもなく。

 複雑なことは一つもなく。

 

 ただ単純に――。

 

 

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