カッコいいしかない親友の王子様系女子、俺に可愛い義妹ができてから様子がおかしい   作:枩葉松

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第21話 お人形さん

 初めて来栖を見た時の衝撃は、今でも記憶に焼き付いている。

 

 髪は銀色で、目は灰色で。

 女の子なのに、ランドセルは真っ黒。

 ユニクロやしまむらではなく、子供でも知っているようなハイブランドの服を身につけていて。

 お父さんでもお母さんでもないひとが、毎日ピカピカの車で学校の送り迎えをしてくれる。

 

 何から何まで、自分とは大違い。

 

 だから、学校ではすごく浮いていて、当然のようにいじめられていたし。

 それでも何でもないように振る舞う彼女はやっぱり住む世界が違う子で、お人形さんにしか見えなくて……仲良くなれないと思った。

 

「やめろよ。いじめとかカッコわるいぞ」

 

 ある時、俺は来栖をいじめから庇った。

 

 別に正義感にかられたわけじゃない。

 当時既に両親の仲が怪しくて、そのストレスを何となく感じていた俺は、正しいことをしてそれを発散しようとした。

 

 まあ、あれだ……先生に言ってやろ! 的なやつ。

 大義のある側に身を置いて、安心したかった。

 

 すると彼女は、予想外にもありがとうと言って泣いた。

 本当はずっと怖かったと、誰にも相談できなかったと、ぐしゃぐしゃな顔で語った。

 

 お人形さんだと思っていたその子は、何でもない一人の女の子で。

 俺が見過ごした数だけ陰で泣いていたかと思うと、罪悪感で吐きそうだった。

 

「友達になってくれる……?」

 

 その問いに、俺は頷いた。

 

 すると来栖は、やっと笑ってくれて。

 それがあまりにも綺麗で、眩しくて。

 繋いだ手が、何よりも温かくて――。

 

 今思い返すと、俺はこの時、彼女を好きになったのだと思う。

 

 

 

 

 

「――――でさぁ」

「――――ははは!」

 

 誰かの話し声。 

 足音。

 

 それはすぐそばまで迫っており、彼女を突き放す余裕がない。

 こんな現場を見られたら、彼女にとってまずいことになる。

 

 ――ごめん、来栖。

 

 心の中で呟きつつ、彼女を壁に押しやった。

 後ろを通過していく二人の生徒。存在がバレないよう、彼女を強く抱き締めてお互いに息を殺す。灰色の双眸は、驚きを宿してこちらを見上げている。

 

 彼女の背中に回していた片方の手を、スッと上げて頭を撫でた。

 シルクのような手触りの髪。その感触を何度も確かめていると、彼女はまぶたを落として俺の胸に顔をうずめる。

 

 何だ、この可愛い生き物……。

 

 俺にとって来栖は雇用主で、誰よりも大切な親友で。

 それは、彼女にとっても同じことだと理解しているのに。

 

 ――もっと欲しいと、そう思ってしまう。

 

 あと少しだけ。

 もう少しだけ。

 

 ダメなのに、いけないのに、強欲さが理性を喰らう。

 青い衝動が、そっと背中を押す。

 

「――――っ」

 

 ふっと、来栖の額に唇が触れた。

 無意識に、身体が動いた。

 

 途端に、顔全体に熱が回り。

 後悔であるとか、喜びであるとか、達成感であるとか。

 そういったバラバラな感情が、雑貨屋の福袋をひっくり返したように胸の中で散らばる。

 

 ……何してるんだ、俺。

 

 心の中で、そう独り言ちて。

 誤魔化すように、いっそう強く抱き締めた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 えっ、ちょ、なにごと!?

 何で私、抱き締められちゃってるわけ!?

 

「――――お前、それっ」

「――――だろー?」

 

 誰かの話し声と足音。

 

 あー……おーけー、理解した。

 バレないよう息を殺せってことね。

 

 ……ん? え? あれ?

 何か新、私の頭、撫で始めたんだけど!? 何で!? それ今、必要ある!?

 

 ちょー幸せフルマックスなんだけど!! 顔だらしなくなっちゃうよ!!

 ここはちょいと胸に顔をうずめて、表情を隠しておかないと――……って、うぎゃあああああ!!

 

 あ、汗が、匂いがっ……!! 鼻に、ダイレクトに当たって……!!

 

 えっっっっっっっっっろ!!??

 フェロモンやば過ぎて脳みそバグり散らかすわボケェ!!!!

 

 …………ん?

 あれ、今、おでこに何か当たったような? 何だろ、新の汗かな。

 

「よし、もう大丈夫そうだな」

 

 足音と話し声が遠ざかり、新は私を解放した。

 

 こいつの匂い、すげーな……。

 あの体操服、どうにか盗めないものか。

 

「じゃあ、みんなのところに戻るか」

「ん、そうだね」

 

 新の一歩後ろを歩きながらその背中を見つめて、ふと思う。

 

 私が誰かと付き合うんじゃないかって、彼は不安がっていた。ってことは、もしかして新、実は私に惚れてたりする……?

 

 ……ふふっ。

 いやいや、まさかね。そんな都合のいい話、あるわけがない。

 

 私に恋人ができたら、確実に新と過ごす時間が減る。付き人もクビになるかもしれない。それが嫌だったのだろう。

 

 まったく、可愛いやつだなぁ!!

 一生一緒にいてやるからな!!

 

「仕事終わったら、二人で打ち上げ行こっか。新が食べたいもの、何でも奢ってあげるよ」

 

 うちのクラスの男子を優勝に導いたのは彼だし、何より私は今とても気分がいい。高級焼肉だろうと回らない寿司だろうと、何を所望されても断らない自信がある。

 

「あー……悪い。今日はすぐに帰らないとダメなんだ」

「え、どうしたの? お父さんに何かあった?」

「いや、宵奈ちゃんと遊ぶ約束してて」

 

 ――ブチッ。

 私の頭の中で、何かが音を立てて千切れた。

 

「……へ、へえ。宵奈ちゃんって、そんなに大事、なんだぁ……」

「家族だからな。それにあの子、めちゃくちゃ可愛んだよ。いつ見ても天使って感じで――」

 

 ひたすら宵奈ちゃんを褒める時間が始まったため、私は鼓膜をシャットダウンして音を閉ざした。

 

 ほんぎゃぁああああああ!!!!

 ついこの前、ようやく私のこと可愛いって言わせたのにぃいいいい!!!!

 

「あっ、折村くん!」

「さっきの試合、すごいかったねー!」

「あたしたちこれから打ち上げするんだけど、折村くんも一緒に――」

 

 他のクラスの女の子たちがやって来て、新の腕を引き連れて行ってしまった。

 

 また、新の株が上がっちゃった……!

 くそぉ! 私がバカバカしい賭けに乗らなかったら、こんなことにはならなかったのにー!!

 

 ……やっぱり、正攻法でちまちまやったってダメだ。

 

 今回の球技大会での大活躍で確実にライバルは増加したし、宵奈ちゃんとかいうラスボスまでいる。

 

 盛ってやる……!!

 媚薬!! 精力剤!! ××××(ピーーー)!! 盛れるもんは何でも盛って、んでもって絶対に逃げられない状況で迫ってやる!!

 

 自分で盛った媚薬を自分で飲むなんてヘマはもうしねぇ!!

 童貞洗って待ってろ!! 次は絶対に、健全(タダ)じゃ済まさないからな!!

 




 安心してください。
 アホさ、まだまだ加速していきます。

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