カッコいいしかない親友の王子様系女子、俺に可愛い義妹ができてから様子がおかしい   作:枩葉松

27 / 41
第27話 私を見つめていた

 

 期末試験一日目の夜。

 明日のために勉強しなければいけないのに、私は机に突っ伏したまままったく集中できていなかった。

 

「どう、天城さん。勉強は進んでる?」

 

 コンコンと扉をノックし、飲み物と茶菓子を持って来てくれたぼたん。

 私は机から顔を上げ、ジトッと彼女を見据える。

 

「な、なに? あたし、何か怒らせるようなことした……?」

「――――ない」

「えっ?」

「新が全然、可愛いって言ってくれない……」

「全然って、具体的にどれくらい?」

「……あれから、一回も」

 

 可愛い可愛い可愛いと、たった一日で三十回は言われたあの日。

 

 翌日も覚悟を決めて登校したが……今日も可愛いな、とは言われなかった。

 勉強をしていても、ご飯を食べていても、ちょっと笑ってみても、ただの一度も言ってくれなかった。

 

 何でもない普段の状態に戻っただけなのだが、好かれているのでは、という期待があったせいで喪失感が尋常ではない。

 

「私の反応が気持ち悪かったから、たぶん新、私のこと嫌いになったんだよ。そうに決まってる……」

「い、いやいやいや! 一昨日だって、普通に付き人として仕事場に来てたじゃん! 嫌いになったなら、仕事だって辞めるんじゃない?」

「新がそんなことすると思う? 自分の感情殺して、私に従ってるだけなんだよ」

「折村くん、そういう器用なことできない思うけどなぁ。普通に話したりはするんでしょ?」

「それはまあ、そうだけど……」

 

 露骨に私を避けるとか、そういうことがあるなら話は簡単なのだ。

 だが、可愛いと褒めない以外は普段とまったく一緒で、本当にわけがわからない。あの日は一体何だったのか。

 

「……ごめん、ぼたん。今は一人にさせて。お茶とお菓子、ありがと。勉強頑張るよ」

「あっ……な、悩みがあったら何でも相談してね! お姉さん、いつでも聞くから!」

 

 彼女を部屋の外へ追い出し、扉を背にしてふっと息をつく。

 

 あの日の新は、ただそういう気分だっただけ。そう解釈をすれば、全てが丸く収まる。

 彼に実は好かれているというのも私の勘違いで、本当は関係値なんて微塵も動いていない。そう思ったら、残念がる必要もない。

 

 何もかも変わっていない。

 何もかも、何一つ。

 

 落ち込むな、天城来栖。

 この試験が片付いたら、高校生二度目の夏。

 この夏休み中に、また頑張ればいいじゃないか。

 

「頑張れば……そう、頑張って、いっぱい頑張って……」

 

 新のことが好きで、付き合いたいのは本当の気持ちで。

 だから、頑張らなくちゃいけないのに。

 

 今までたくさん頑張ってきたのに、これ以上何をすればいいの?

 ――と、弱気になってしまう自分がいた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 期末試験二日目。

 今日で全てのテストが終わり、明日からは夏休みまでの消化試合。

 

 一学期最後のテストが片付き、ざわめく教室内。

 そんな中、帰り支度をする私に新が声をかけてきた。

 

「く、来栖、ちょっといいか?」

「なに? 今日はお仕事休みだよ」

「それはわかってるけど……き、聞いておきたいことがあって」

「……え? あぁ、うん。歩きながら話そ」

 

 愛想悪いな、今の私。

 勉強の疲れ、テストのストレス……あと、新絡みの不安で最近はまともに寝れてないし。いけないいけない、これじゃ嫌われる。

 

「期末試験が終わったら誘おうと思ってて……」

 

 そう言って私に渡したのは、遊園地の招待券だった。

 誰もが知る有名なところだ。私も何度か行ったことがある。

 

「ど、どうしたのこれ?」

「友達に貰ってさ。来栖、一緒に行かないか?」

「……」

 

 嬉しい。

 すごく嬉しいけど、新はどんな思いで私を誘ったんだろう。

 

 親友だから? 付き人だから? 私以外と行ったら怒ると思ったから?

 ……あぁダメだ。頭ぼやけてて、最低なこと考えちゃってるよ。

 

 ちゃんと、お礼言わなきゃ。

 

「――私じゃなくて、可愛くて天使な宵奈ちゃんと行ってくればいいじゃん」

 

 と、この口は勝手にとんでもないことを言い放ってしまった。

 

 ハッと視線を上げると、新は目を丸くしており。

 猛烈な罪悪感が身体にのしかかり、心臓が冷たい汗をかく。

 

「ご、ごめん! 私、こんなこと言うつもりじゃ――」

「一応、俺」

 

 私の言葉を遮って、新は気恥ずかしそうに後頭部を掻く。

 

「――……デートに誘ってるつもり、何だけど」

 

 試験終わりで騒がしい学校内。

 ガヤガヤと喧騒の止まない廊下の中、新の凛とした声が響く。

 

 真っ黒な瞳は私を見つめていて、その双眸には他の誰も映っていない。

 

「だから、来栖がいいんだ。来栖が一緒じゃなきゃ、行かない」

「……ほぇ?」

「日程はあとで調整するとして、行くのか行かないのか、聞かせてもらっていいか?」

「え? ……あ、じゃあ……行き、ます……っ」

「よかったー! ありがとう、来栖! んじゃ俺、部活の助っ人行ってくるから!」

 

 元気よく走り去って行った新。

 その背中に手を振って、私は呆然と口を開く。

 

 …………な、何だ?

 デート? 新ってば、デートって言った!?

 

 新の口からそんな単語聞いたの初めて何だけどぉ!?

 

 待て待て待て! 待って! ストップストップ!

 何なのこれ!? どうなってるの!? 意味がわからない!!

 

 ……さてはお前、本当に私のこと好きなのか!?

 

 うがぁああああ!! わからん!! 何もわからん!! 

 

 わからない、けど……――。

 まあ、一旦考えるのやめよう!! 私、バカだから考えたってどうせわかんないし!!

 

 ひゃっほぉ~~~~~~~~!!!!

 新と遊園地デートだぁ~~~~~~~~!!!!

 

 まんまと私を誘いやがって、迂闊だったなぁ新!!

 お前はその日、私にメロメロになるんだよぉ!!

 

 ガッハッハーッ!!

 

 んじゃ、新しい服買いに行こーっと。

 何がいいかなぁ? 下着はどうしようかなぁー?

 

 ふっふふーっ♪

 

 

 

 ◆

 

 

 

「デートとか言っちゃったけど、あれでよかったのかなぁ……」

 

 来栖に招待券を渡して、少し走って。

 廊下の壁に背を預け、俺は大きく息をついた。

 

「……まぁ広義の意味ではデートだし、何も間違ってないよな。でも調子に乗ってるとか、気持ち悪いとか思われたらどうしよう……。いや、ってか仕方ないよな。何かいきなり宵奈ちゃん出て来るし、俺もああ言うしかなかったわけで……」

 

 うだうだと誰に対しての言い訳かわからないことを呟いて、もう一度大きく嘆息して、好きになることの面倒くささを改めて実感する。

 

 前までは、ただ遊びに誘うだけで気合いを入れたりしなかった。

 断られたらそれでいいや、くらいにしか思っていなかった。

 

 なのに今は、絶対に断られたくないと思っていたし、OKを貰ったことが堪らなく嬉しい。自分の感情なのに、自分のものではないような、奇妙な感覚がある。

 

「……よしっ」

 

 パシッと両頬を打ち、勢いよく立ち上がる。

 

「来栖に楽しかったって言わせたら、俺の勝ちなんだ。いつも通り頑張ろう……!」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。