カッコいいしかない親友の王子様系女子、俺に可愛い義妹ができてから様子がおかしい   作:枩葉松

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第39話 後日談 2/2

 

 意図して退屈な映画を借りたわけだが、当たり前に退屈で内容が頭に入って来ない。

 こういう時はどうしたって他のことに意識が向くもので……俺は、来栖が気になって仕方がなかった。

 

 ついさっき、キスをした。

 

 初めて。

 思い出の公園で。

 

 友達同士では絶対にしないことをした女の子と一緒に食事をして、一緒に映画を観ている。

 その非日常感に、本当に恋人同士になったんだなと実感する。

 

 ……来栖はいつも通りだな。

 女の子は大人になるのが早いって聞くけど、マジでその通りかも。意識しまくりの自分が恥ずかしくなってきた。ずっとドギマギして、俺ガキ過ぎかよ……。

 

 俺も早く大人になって、もうちょっと落ち着きを持ちたい。

 じゃないと、これ以上前に進めない。

 

 もっと色々な方法で、来栖に好きだと伝えたい。

 

「……っ」

 

 小さく息をついて、そっと彼女の手を握った。

 

 今の俺には、これくらいしかできないが……。

 それでもこの気持ちが、少しでも伝わってくれたら嬉しい。

 

「…………めっ」

「ん?」

 

 ふと、来栖がか細い声を漏らした。

 テレビの明かりだけが頼りの、暗いリビング。画面の光に照らされた彼女の顔は、今にも溶けてしまいそうなほど赤く焼けている。

 

「だ、ダメ……だよ……っ」

 

 ダメ? 手を握るのがってことか?

 

「何でダメなんだ?」

「……な、何でって、そりゃそうでしょ!?」

「えっ?」

 

 手なんて今まで散々握ってきたし、さっきはキスまでしたんだぞ。

 今更何がダメのか、まったくわからない。

 

 ……今は触られたくないってことなのかな。

 そういうことなら、申し訳ないことをしたけど……。

 

「せ、せめて、()けて……!!」

「つけて?」

 

 つけてって何だ……。

 ……あぁ。明かりを()けてってことか?

 

「何でだよ。()けない方がいいだろ」

「はぁ!? いや、でも……!!」

 

 そっちの方が映画の臨場感増すし。

 軽くウトウトできて、寝る前にちょうどいいし。

 

「それにお前も、()けない方が好きだって言ってたじゃないか」

「つ、()けない方が好きぃ!? 私、そんなこといつ言った!?」

「いつって……今までに何回か聞いた気がするけど……」

「言うわけないでしょ!? いいから()けて!!」

 

 まったく意味がわからないが、俺は仕方なく腰を上げて照明を点けに行った。

 パチンと部屋が明るくなった瞬間、来栖は目を剥いて後ろへ仰け反る。

 

「な、何で明るくするの!? 恥ずかしいじゃん!!」

「……お前、マジで何言ってるんだ? 酔ってるのか?」

「酔ってないよ!! 早く消して!!」

 

 仕方なく照明を落として、ため息と共にソファへ戻る。

 そこで俺を待っていたのは、なおも驚愕の表情を浮かべる来栖だった。

 

「だから、()けてって言ってるでしょ!?」

「いや()けただろ、さっき」

()けてないよ!! そんなの見たらわかるんだからね!!」

「あぁ、うん……確かに、今は()けてないけどさ」

「わかってるなら、何で嘘ついたの!?」

「嘘も何も、さっき()けたのは事実だろ……?」

「だから()けてないって!!」

()けたって」

 

 ダメだ。

 まるで話が通じない。

 

「私だって……!! 私だってさ、新とそういうことしたいよ!! ものすっごくしたいよ!?」

「……ん?」

「でも、まだそこまでの覚悟はないの!! それにもっと二人っきりの思い出が欲しいし、恋人らしいこともいっぱいしたいのーっ!!」

「……?」

 

 もしや何か行き違いがあるのではと思い、俺は「ちょっといいか」と手を挙げた。

 

「これ、照明の話だよな……?」

「……え?」

「照明を()けてって意味だろ? 違うのか?」

「……私は、ひ、避妊具を()けて欲しいって……」

「避妊具?」

「するのはいいけど……お、お互いに責任を取れないうちは、そういうとこ、ちゃんとすべきだと思うの……!」

「それは……うん、俺も同意見だけど……」

「え?」

「ん?」

 

 絶望的に話が噛み合っていなかったことが判明し。

 一体どういうことなのか思考を巡らせ、俺は一つの仮説に行き着く。

 

「もしかしてお前、俺がコンドーム捨ててたの見て、早速子ども作ろうとしてるとか思ったのか?」

「…………」

「嘘だって思われるかもだけど、実はあれ、犬飼から貰ったものでさ。来栖にあれを見られて身体目的とか思われたら嫌だから、まだする気はないって意思表示で捨てたんだけど……」

「…………」

「何か、ごめん。マジでごめん。まさかそれを、そんな風に受け取られるなんて思わなかった。本当に申し訳――」

「今すぐ忘れろ」

 

 真っ赤に染まった顔のまま、絶対零度の声を放つ。

 総一郎さんのような凄みを帯びて、灰色の双眸を限界まで研ぎ澄まし俺を睨む。

 

「私が恥ずかしい勘違いしていたことを、すぐに忘れろ!! 早くっ!!」

「な、何だよそれ!?」

「じゃないと、新の心臓が耐え切れないようなエグいベロチューをするぞ!!」

「意味がわからな――」

「いいから忘れろぉおおおお!!」

 

 いまだかつて見たことのない剣幕で迫られ、俺は勢いよく後ずさり。

 そのままソファから落下し、後頭部を強打。

 

 俺の意識は、そのまま彼方へと飛び去った。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「何か俺、飯食ってからの記憶が曖昧なんだけど……」

「映画がつまらなくて寝ちゃってたんだよ」

「あぁ、そっか……ちょっとシャワー浴びてくる。何か頭がやけに痛いし、今日は早めに寝ときたい」

「う、うん。わかった」

 

 浴室へ向かった新を見送って、私は大きな息をつく。

 

 新式記憶消去法は、無事成功した。

 

 ……あ、危なかった。

 同棲初日から、とてつもないやらかしをブチかますところだった。

 

 彼氏の部屋で捨てられたコンドームを発見し、これは子づくりの合図だと勘違い。

 新の倫理観を疑って、着けろと喚き散らして、メチャクチャ困らせて……。

 

 記憶を消去しなければ、きっと私は幻滅されていただろう。

 こんな頭蓋骨の中身が中学生男子以下の変態王子と付き合うんじゃなかったと思われていたかもしれない。

 

「これが私の、同棲初日の夜かー……」

 

 独り言ちて、膝を抱え縮こまる。

 

 新の裸を見て鼻血を噴いて、泣いて、慰められて。

 思い出の公園で語り合って、好きと言い合って、キスをして。

 

 ……んで、帰宅早々孕まされると大慌てし、私のバカな勘違いがバレ、急いで新の記憶を消去。

 

 終わり良ければすべて良しという言葉があるが、それで言うと今日は最悪だ。

 私の勘違いが、幸せいっぱいで終わるはずの一日を台無しにしてしまった。

 

「はぁー……」

 

 静かなリビングに、大きなため息が響いた。

 

 初日でこれなら、明日はもっと酷いかもしれない。

 明後日も、明々後日も、仮に私が気をつけたって何か起こるかもしれない。

 

 幸先が悪いとはこのこと。

 せめて、キスをした時間まで戻せたら。

 

 そんな願いが胸に灯るも、当然叶うわけがなくもう一度嘆息する。

 ただひたすらに、低気圧の日のように頭が重い。

 

「ふぅー、スッキリした」

 

 そうこうしていると、新がシャワーから戻ってきた。

 

 ダメダメ、私。こんな落ち込んでますみたいな顔しちゃ、新を心配させちゃうよ。

 いつも通り……そう、何ごともなかったように振る舞わなくちゃ。

 何ごともなく、何でもないように……。

 

「来栖」

「んっ? ――って、うぇ!?」

 

 ソファに座っていた私を、新は突然後ろから抱き締めた。

 爽やかな石鹸の匂い。まだ少し濡れた肌とシャワーの温もり。

 私の髪をやや強引に掻き分けて、ふっと唇を首筋に落とす。

 

「突然ごめん。来栖にされて……俺も、したいなって思って」

 

 耳元で甘い声が鳴る。

 

「でも、まだ自分から唇にするのは恥ずかしいっていうか……たぶん俺、耐えられないから」

「……」

「少しずつ慣れていくから、頼り甲斐のある男になるまで、もうちょっと待っててくれる?」

「……う、うん」

「ありがとう。好きだよ、来栖。今日は楽しかった、おやすみ」

「おやすみ……な、なさい」

 

 うっひょぉ~~~~~~!!!!

 同棲初日最高かよぉ~~~~~~~~~!!!!

 




 本作はここで一旦ひと区切りとさせていただきます!
 少し前に投稿していた『毎日俺を殺しに来る女に飯を食わせる配信で稼いでます』よりも多くの方に読んでいただけて、とても嬉しかったです……!

 最後に宣伝ですが、こちらハーメルンにて『大学で一番かわいい先輩を助けたら呑み友達になった話』というどちゃくそに甘々なラブコメの掲載を始めました。お暇があれば覗いてみてください!!


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