仁菜は河川敷で水面に映る月を見ながらギターを弾く。フェスに出演し爪痕を残した結果、以前から目をかけられていた芸能事務所ゴールデンアーチャーの三浦から正式に所属の打診を受けた。
DMCとの対バンライブ出演に理解を示さず見捨てたのに、どの面下げてスカウトしに来たのだと三浦の表情にありありと書いてあった。
仁菜達は気にしていないと慰めそのオファーを受けて、正式にゴールデンアーチャーの所属ミュージシャンとなった。
所属になってから暫くして新曲を作っているさなかダイヤモンドダストから対バン企画を提案される。勝った方がドラマの主題歌を歌える権利を得られる。
超えるべきダイヤモンドダストと直接対決できる。脳内では桃香が相手のギターとの速弾き対決や互いで同時に歌い合うなど、DMCとの対バン時の映像が浮かび上がる。
だがそれはない、あの対バン方式はDMCだけだ。それでも同じ舞台に立てばライブを盛り上げダイヤモンドダストのファンを掻っ攫い勝利する自信はある。だが現実はそれほど甘くなかった。
対バンといっても同じ舞台に立つわけではなく、1日目はトゲナシトゲアリ、2日目はダイヤモンドダストがライブし、実質ワンマンライブが2日間行われるという形式だった。
さらに勝敗はどちらが盛り上げたではなく、観客動員数とチケットの売り上げで決まる。現時点ではトゲナシトゲアリとダイヤモンドダストのファン数には大きな開きがあり、まともにやってはどうやっても勝てない出来レースとなっている。
そのからくりに気付き仁菜とルパ以外は対バンしないとほうがいいと提案し、結果的に一度は対バンを辞退した。だが心境の変化により対バンの申し入れを受け入れる。
新曲によって爆発的にファンが増えてダイヤモンドダストとの対バン企画に勝利する。そうなれば最高だし曲にその可能性があるとも信じている。だがそれはあまりにも夢見がちだ、仁菜の中の冷静な部分がそう告げる。
やるからには勝ちたい、だがどうやって勝つか?
勝つ為の妙案はないかと考え続けるが、全く思い浮かばずこうして気分転換にギターを弾いていた。そして気分転換しながらも気が付けば勝つ方法を考えていた。
─翌日
「おはようございます。今日もよろしくお願いします」
仁菜は新曲作成のためにレコーディングスタジオに向かう。一時期は桃香が迷っているせいか曲の方向性が定まっていなかったが、今は迷いがなくなり自分達が好きでやりたい曲を作ろうとメンバー全員で同じ方向を向けている。
「おはよう」
「おはようござます」
「おはよう」
「おはよう」
仁菜が来てから数分後に続々メンバー集まり、全員が揃ったところで軽い打合せをしながら準備を始める。
「おはようございます」
するとトゲナシトゲアリ担当の三浦が現れる。その表情に不安や戸惑いの色が浮かんでいた。その表情を怪訝に感じ仁菜が思わず尋ねる。
「おはようございます。何かあったんですか?」
「皆さんレコーディングを始める前に、少し時間を頂けませんか?」
「かまいませんが、何かあったんですか?」
「詳しい話は応接室で」
三浦はそう言うと5人を応接室に案内する。それぞれ誰がどのような話をしにきたのかと想像する。三浦の表情からして良い話ではなさそうだと予想し覚悟を決める。
応接室にいたのは5人が全く予想していなかった人物だった。金髪で革ジャンにレザースカートの中年女性が机に脚を乗せタバコを吸っていた。
どう考えてもマトモな人物ではない、そのマトモではないとうワードから記憶が掘り起こされ思い出す。あれはDMCが所属するデスレコーズの社長だ。
ルパ以外の表情が引き攣る。ライブにはDMCのファンも来ているがDMCとは接触していないし金輪際接触するつもりはない。一方ルパは何か面白い事が起きそうだとウキウキとしていた。
「久しぶりだなトゲナシトゲアリ、デスレコーズに入らないでこんな濡れねえ事務所に所属しやがって」
ニュアンス的に事務所の悪口なのは分かる。そして三浦を見ると若干青筋を立てていた。
「トゲナシトゲアリは忙しいので話は手短にお願いします」
三浦の言葉は丁寧だが社長に対する不快感を一切隠さず話す。
目の前の相手はいきなりトゲナシトゲアリに話があると電話し、トゲナシトゲアリではなく三浦が応対しますと伝えると話にならないとこのレコーディングスタジオに乗り込み暴れ、迷惑なので仕方がなく応接室に押し込みトゲナシトゲアリを呼んできたのだった。
「お前ら対バンやるんだろ。なんだっけ?あのビッチ共?」
「ダイヤモンドダストです」
「そのビッチだ、ファック!」
社長は叫ぶと同時に踵を机に全力で叩きつけ、三浦は体をビクリと震わせる。なんだこの反社は?今すぐにでも警察を呼びたいが呼ぶ前に危害を加えられそうだ。
一方トゲナシトゲアリは不機嫌だなと思うぐらいで比較的に冷静だった。特に仁菜はナイフを投げられたりローキックを喰らったりしたので、これぐらいするだろと思いながらその様子を眺める。
「2daysでそれぞれワンマンライブして対バンだ?ファック!対バンは潰し合いだろうが!」
社長はファックを連呼しながらさらに暴れる。三浦はさらにビビるがトゲナシトゲアリのメンバーは桃香の『それはアンタらだけだ』というツッコみに笑みをこぼしていた。
しばらく暴れると社長もクールダウンしたのかタバコを吸いながら話を続ける。
「それで勝敗は集客と売り上げだろ、お前たちは100パー負けるぞ」
その言葉に6人は唇をかむ。薄々分かっていたが第三者から言われると改めて現実を実感する。
「こんなファック茶番でも負ければ対バンで負けたことになる!そしたらDMCの名に傷がつくんだよ!対バンでそれなりにマシだったお前らが!あのビッチ共に負けたら!考えただけで股間の裂け目がへそ迄行きそうだ!」
社長は立ち上がり壁を蹴りまくる。今の言葉で社長の言い分と予見を薄々察した。
「DMCの評価が下がるから辞退しろって言いたいんですか?いやです!そっちの事情何て知りません。私達の音楽がダイヤモンドダストに負けてないと証明するために受けるんです」
仁菜は暴れまわっている社長の目を見据えながら喋る。社長も仁菜に近づけ睨みつける。お互い数秒間睨み合うと社長が視線を外した。
「今日はビジネスの話に来た。お前らがビッチ共の対バンに勝つ方法、仮に負けてもノーダメージにする方法を提案しにきた」
その言葉に6人は息をのむ、三浦も勝てはしないが対バンに出るメリットがあると判断し対バンを承諾した。他の5人も似たようなもので勝ち目は確実に薄いと思っていたが勝てるのか?それに負けてもノーダメージという言葉も気になる。
「対バンは2月14日だろ、その1週間前にDMCがライブする。本来なら単独ライブだがお前らも出ろ」
「それってまさか……」
「ヒャハハ、分かってるじゃねえか、対バンだよ」
5人の脳内でDMCとの対バンした時の映像が浮かび上がる。トゲナシトゲアリにとってのターニングポイント、結果的にあれでトゲナシトゲアリは成長できた。それでも正直二度とやりたくない。
「お断りします」
三浦は即答する。現地には行っていないが当人達からその様子を聞いている。あれはアマチュアだったから出来たライブだ、今はプロでありあのようなライブをすれば会社の評判は下がり、トゲナシトゲアリの活動に間違いなく悪影響が出る。
「話を最後まで聞けメガネ、ライブ会場は武道館、武道館の舞台に立ったってだけで箔がつくだろ。それにトゲナシトゲアリとの対バンとなれば集客が見込める。知ってるか?トゲナシトゲアリの名はデスメタル界じゃ知れ渡り、あの対バンライブは伝説として語り継がれている。それが再び見られるならデスメタルファンは押し寄せる。完売は確実だ」
三浦はスマホを取り出し検索する。確かに会場は日本武道館だ、言う通り武道館で歌ったというのは良いPRになる。満員であれば猶更だ、会社の利益にもなる。しかし単独ライブでチケット完売できるバンドだったとは知らなかった。
「それで対バンしてあの時みたいな演奏すれば、間違いなく名が売れてビッチ共の対バンにもファンが押し寄せる。それにDMCとトゲナシトゲアリの対バンを見れば、これが本物の対バンだって世間のクソ共は気づく。そうなれば本物の対バンをしろって騒ぎ、負けてもあんなゲロカスなお遊戯で勝ってもゴミカスだって思うはずだ!」
社長は上機嫌にメリットを語るが三浦は冷静に思考する。仮にあの時の対バンのようなライブが出来れば盛り上がるだろう。
だがそれはデスメタル界隈の人間だけであり、他のファン達には響かず集客に繋がらない可能性もある。それにDMC対バンが本物と評価するとは限らず、ダイヤモンドダストとの対バンは偽物であるという反論も起きない可能性もある。
これは罠だ、提示したメリットはデスレコーズの社長から見たら真実で騙すつもりはない。だが本来の狙いは大勢の観衆の前で叩きのめすためだ。
これは共存共栄でもあり足の引っ張り合いでもある。如何にも芸能界らしい提案だ。そしてこれはデメリットの方が大きい。
「やはりお断り……」
「お前には聞いてねえメガネ、それでどうなんだトゲナシトゲアリ、DMCに負けたままで良いのか?リベンジを果たしたくねえのか?あの時乗り込んできたデスメタル魂は消えたかビッチ共、DMCとの対バンでムーブメントを起し本当の対バンを取り戻すんだよ」
社長の言葉に5人は思考する。こんな見え透いた挑発にのるつもりはない。あの時は捨て身だったからよかったが、今はプロになった。もしDMCとの対バンに負ければイメージダウンは免れない、勝ったとしても免れない。
仮に智のキレっぷりや絶対性感を受けたすばるの姿を見られれば従来のファンは離れ、その姿は世間のオモチャにされる。
それに前回は満身創痍で今回も同程度のダメージを受ければダイヤモンドダストとの対バンに参加できない。目標はDMCではなくダイヤモンドダストだ。
「あのライブでDMCと一緒にファン共を熱狂させ病院送りにしていった。最高に濡れたろ?あれこそが音楽だ、音楽がテロとして世界に狂乱を巻き起こすんだよ」
社長は熱く語る。この言葉には先程の言葉にはなかった本音と熱が籠っていた。5人は返事をせず俯きながら沈黙する。
「チッ、明日まで待つ、やる気になったら連絡しろ」
社長は苛立たしく舌打ちしながら三浦に名刺を投げ部屋から退出する。
「皆さまはどうされますか?」
三浦は沈黙する5人に尋ねる。個人的には反対だが5人の音楽性を出来る限り尊重するように、バンドの方向性を決めるのも5人だ。
全く不利益しか無ければ会社の人間として止めるが、社長の提案にはメリットは確かにあり本人の意思を無視してまで止められるものではない。
「少しだけ考える時間をくれませんか」
「分かりました。スタッフにはレコーディングは遅れると伝えておきます」
三浦は応接室から去り5人はそのまま残った。
───数カ月後
日本武道館、そこは様々な武術の大会が行われる聖地である。その場所に武道を学ぶ者とは対極のような者達が押し寄せていた。
ゴートゥーDMC!ゴートゥーDMC!
モヒカンやスキンヘッドなど素行が悪そうな恰好をした者が周囲の迷惑を顧みず声を出す。彼らはデスメタルバンドであるデトロイト・メタル・シティのファンである。
「DMCもいよいよ武道館でライブか!」
「何感動してんだよ、こんなの通過点、次は東京ドーム、ドームツアー、ワールドツアー!」
「DMCが世界を征服するんだ!」
ファン達は今後の活躍に胸を躍らせDMCコールに熱が入る。彼らにとってDMCの世界征服は夢物語ではなく既成事実だった。
「しかし初の武道館は単独ライブじゃないのか」
ファンの1人は不満そうに呟く。その視線の先には今回のライブのポスターが貼ってあった。写っているはクラウザー、ジャギ、カミュのDMCメンバー、そして仁菜、桃香、すばる、ルパ、智のトゲナシトゲアリのメンバー姿だった。お互いのバンドが左右に別れ対峙している構図になっている。
「まあ、トゲナシトゲアリとの対バンするなら相応しい会場だがな」
「ああ、寧ろ東京ドームでもいいぐらいだ」
すると黒髪ロングで額に殺の文字が記されている男とスキンヘッドで右目周りにタトゥーを入れている男が会話の輪に入る。彼らは熱心なDMCファンで界隈ではファンの鑑と尊敬を集めている。
「あの時の対バン見てたんですか?」
「ああ、あれはDMCが対バンで最も苦戦したライブだった」
「DMCの歌でファン達が次々と倒れていく。あれ以上の地獄はみたことねえ」
ファンの鑑が感慨深げに語る。生贄と思っていたガールズバンドが死の物狂いでDMCに立ち向かった。あの地獄を作った要因の1つは間違いなくトゲナシトゲアリだ。
あれから完全に見下していたロックに少しだけ目を向け、トゲナシトゲアリの動向を追いライブなどはDMCのライブなどに支障が出なければ足を運んでいた。
「皆気合い入れて応援しろよ。下手したら負けるぞ」
「そんなにヤバイ相手なんですか」
「そうだよ。トゲナシトゲアリは半端ない」
すると金髪の女性とツーブロックの厳つい男が会話の輪に入る。女性の名は京子、クラウザーのトゲナシトゲアリ路上ライブ乱入事件からファンになり、熱心なファンとして一目置かれていた。本人もミュージシャンでその曲にはDMCに影響されていたのが見えた。
「京子、そのTシャツ」
ファンの鑑はTシャツを指差し驚く。そのTシャツはDMCのものではなくトゲナシトゲアリのTシャツだった。
「実はトゲナシトゲアリのファンでね、今日はこっちを応援させてもらう」
京子は川崎を拠点としているミュージシャンとして桃香とは顔見知りで密かに注目し、所属しているトゲナシトゲアリも注目していた。自分好みで好きなバンドだった。
だがあの事件以来でファンを辞めた。確かにクラウザーの音楽が刺さり鞍替えしたのもあるが、クラウザーによって完全に心が折れた弱さに失望していた。
そしてDMCとの対バンでトゲナシトゲアリは真っ向勝負で立ち向かった。その音にはあの時の弱さは微塵もなく、再びトゲナシトゲアリのファンに戻った。
先を越された悔しさは勿論ある。それと好きなバンドがこの舞台に立っている事に嬉しさを感じていた。
「なんか夢かなっちゃいましたね」
出演者控室内で仁菜がポツリと呟く。バンドとして幾つかの目標があった。ダイヤモンドダストに勝つ。そして武道館でライブする。
まだプロになる前に桃香を除いた4人で武道館に足を運びいずれあの舞台に立ちたいと思った記憶が鮮明に蘇る。
「まあ、半分ってとこね、単独じゃないし」
「対バンの相手として呼ばれただけだしね」
「それでも立派な成果だ、取り敢えず喜ぼう」
「そうですよ、ちゃんと対戦相手とDMCファンに認められたんですから、結構私達の話題出していましたよ。それにトゲトゲTシャツを着ていた人も見かけますし」
5人は少しだけ複雑に思いながら語る。目指せ武道館という言葉は単独ライブをするという意味だ、一応は武道館でライブするが単独では無いので半分だ。
それでもミュージシャンとして武道館でライブできるのは純粋に嬉しい、それに今回はDMCの対バン相手として呼ばれた。チケットの売り上げは折半でトゲナシトゲアリグッズもしっかり販売させてくれる。
以前の対バンはグッズも置かせてもらえずポスターも虫眼鏡で見て名前が載っているレベル、扱いも噛ませ犬どころか生贄だ。
そう考えれば対等の扱いでこれは対バンで爪痕を残した成果であり勝ち取った物だ。卑下する必要はない。
「PPVは結構売れてるらしいよ。世界中のメタラーが注目してるとか」
「じゃあ勝てば世界のトゲナシトゲアリですね」
「これネットで無料配信しないんですか?無料でやれば多くの人が見てファンが増えるのに」
「よく考えなさい。前回と同じ感じだったとしてそんなの無料で流せるわけない」
「確か年齢制限あったな、15禁だっけ。内容次第では18禁だろ」
「事務所と契約した時にアダルティーな番組に出演させられるって言ってたけど、そうなりそうだね、すばるちゃん」
「確かにそんな絵ズラになりそうなのは私だけど」
すばるはおどけるようにため息をつき4人は笑みをこぼす。5人は武道館という夢の舞台に立つという緊張も気負いもなく自然体だった。
「ねえ、知ってる?世間じゃトゲナシトゲアリのライバルはダイダスじゃなくて、DMCらしいよ」
「なんでそうなるの?フェスでダイダスの曲歌ったり、脱退した桃香さんが所属しているとか、学生時代に私と色々有ったヒナがボーカルしているとか、因縁的にどう考えてもダイダスでしょ」
「それは先にダイダスとの対バンを予定してたのに、急遽DMCとの対バン相手になるとかそう思われても仕方がない」
「運命の相手が居るとしたらダイダスじゃなくてDMCかもしれませんね」
「やめてよルパ、あんなゲテモノが運命の相手なんて」
DMCがトゲナシトゲアリを対バンの相手に指名する。それは音楽業界にとってセンセーショナルなニュースだった。過去の対バンは映像に残っていなく伝聞でしか詳細が知れず伝説のライブと語られてきた。その対バンがもう一度見られると多くの者が生で見たいとチケットを求め、映像だけでもとPPVを購入した。
さらに前回はトゲナシトゲアリが力を使い果たし、一カ月は音楽活動が出来なくなったと伝わっている。そうなるとダイヤモンドダストとのライブに参加はできない。つまりDMCとの対バンに懸けていると世間は解釈し、2組の間にライバル関係を見出していた。
「もうMCで言っておこうかな、トゲトゲのライバルはダイダスです。DMCは来週の対バンに勝つ為に利用するだけですって」
仁菜の言葉に皆がそうだそうだと賛同する。この対バンを受諾したのはダイヤモンドダストに勝つ為である。そしてダイヤモンドダストに勝つ為にはインパクトを残す必要があり、それはDMCに勝つことだ。
その為には全力で挑まなければいけない。来週のライブのために余力を残しておこうなどと考えれば一瞬で潰される。
「失礼します。そろそろ本番です」
ノックの音に三浦が控室に入る。その表情から緊張しているのがハッキリ分かる。DMCとの対バンは何が起こるか分からない、これがトゲナシトゲアリとしての最後の音楽活動になっても不思議ではない。
「分かりました」
「あの時は皆さんの選択を理解せずあの場にはいませんでした。今度はその選択を尊重ししっかりと見届けます。そして素晴らしい音楽でDMCに勝利し相手のファンを掻っ攫い、来週のダイダスとの対バンにも勝ちましょう」
三浦の言葉に皆は頷く。前回は味方がいなかったが今回は違う。
仁菜の両親と姉も会場に来てどんな事があっても見届け、どうしようもない危険が訪れたらクラウザーにレイプされようが止めてやると言ってくれた。
すばるの祖母も選択を尊重し会場に足を運んでくれた。京子も今日はDMCではなくトゲナシトゲアリを応援し、ミネも忙しい中時間を作って来て応援してくれると言ってくれた。
それに多くのトゲナシトゲアリファンが会場に来てくれた。あの時と違って5人だけではない。
「ねえ、皆はなんでこの対バンに応じたんですか?」
仁菜は控室からステージまで道すがら尋ねる。話し合いで対バンに応じると決まり、ファンが増えるとか、DMCに負けっぱなしでは癪だとか、ダイダスに勝つ為と理由をあげた。
確かにそれも理由だが本心ではない気がした。
「そういう時は自分が先に言うものよ」
「あの時の感覚が忘れられないから」
すばるの言葉に仁菜は即答する。その言葉に4人は僅かに目を丸くすると同時に笑みをこぼす。
「気持ち良かったから」
「脳が焼かれたから」
「楽しかったから」
「病みつきになったからですかね」
5人の言葉は違ったが意味は同じであると察していた。前回の対バンでSATSUGAIを歌った時、会場はまさに興奮の坩堝だった。皆は気が狂ったように騒ぎ叫びヘッドバンキングをする。本当の意味で狂乱という言葉を理解した。
ミュージシャンにとって観客の反応は重要である。盛り上がれば盛り上がる程テンションが上がりパフォーマンスが向上する。何より嬉しいし楽しい。あの時の熱狂は最高の反応だった。
対バン以降も何度もライブし盛り上がった。それは一般的な意味での熱狂を作れたかもしれないが、あの時に体感した熱狂を作り出せなかった。
音楽をする者は何かを伝える為に歌い演奏する。自身の喜怒哀楽や主義主張、仁菜も桃香の曲で勇気を貰い理不尽に中指を突き立てることを覚えたように、そんな想いを伝えたいと思っている。それと同じぐらいにあの熱狂を作り味わいたいと思っていた。
現時点では熱狂を作り出す実力はない、だがDMCと一緒なら作り出せる可能性がある。前回は小さなライブ会場で今回は日本武道館でその規模は十数倍違う。それでも熱狂を作れるという奇妙な信頼を寄せていた。
これはDMCの音とトゲナシトゲアリの音が合わさったから作り出せるのだろうか、だとしたら嫌とは言ったがDMCは運命の相手かもしれない。
ステージに上がると全方位から声が降り注ぐ。これが武道館のステージ、それぞれが胸にこみ上げるものを必死に抑える。
そしてステージに居るDMCに視線を向ける。ダイヤモンドダストに対する因縁や武道館のステージに立った感動を強引に個々の片隅に押し込む。
全力で爪を立て抗わなければ一瞬で潰され無様な姿を晒す。そしてその先にあの時の熱狂がある。
会場はDMCとトゲナシトゲアリを応援する声が聞こえてくる、暫くすると声援が小さくなり、クラウザーがマイクを取ると静まり返る。
「俺の挑戦から逃げなかったことは褒めてやろう。褒美にあの時に大人しく自殺しておいたほうが良かったと後悔されてくれるわ!」
クラウザーがギターを奏でると同時に歓声があがる。その技量と音に込められている殺気や狂気は相変わらず凄まじい。
「私達の音楽でお前らも!会場に居る人間に爪痕残して熱狂させてやる!」
デスメタル対ロック、異種格闘戯曲第三幕開演
以上でこの話は終わりになります。
評価ポイントを入れてくれた方、お気に入りに登録してくれた方、誤字脱字を指摘しくれた方、そしてこの作品を読んでくださった方誠にありがとうございます。
活動報告で後書きのようなものを書きましたので興味がある方はご覧ください