DMC対トゲナシトゲアリ   作:ヘッズ

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TRACK2 METAL MONSTER

(あいつら)

 

 桃香は心の中で2人にサムズアップする。皆にはああ言ったが根岸の音やパフォーマンスは実際に耳障りで目障りだった。特に仁菜は明らかに不機嫌になり集中が切れかけていたがこれでベストのパフォーマンスができる。

 桃香の感覚は正しかった。根岸が居なくなってからファンのノリも良くなり通行人もいつも以上に脚を止めていた。

 トゲナシトゲアリ周辺の明度が上がり煌びやかな粒子が舞い虹色の閃光が駆け巡る。そんな景色をファンや脚を止めた通行人は見えていた。皆がトゲナシトゲアリに意識が向けこの場を支配している。5人はそんな全能感のようなものを感じていた。

 ふと耳にノイズのような音が届く。普段なら取るに取らないものだが、妙に気になる。そしてそのノイズは徐々に大きくなり、通行客やファン達の意識がトゲナシトゲアリから逸れていく。

 そしてノイズの正体に気付く。ギターの音だ、誰かが演奏しながらこちらに近づいている。ワンフレーズ聞いただけで仁菜とすばる以外のメンバーは相当のテクニックがあるギタリストだというのが分かる。

 そしてギターの桃香だけはそれ以外のものを感じていた。このギターはテクニックだけではない、地獄の悪魔が奏でるような音と込められた狂気が心を搔きむしり爪痕を残していく。こんなギターは初めて聞いた。

 その演奏者は銀色の鎧と漆黒のマントを身に纏っていた。髪は金髪のロングヘア―で顔は白く染まっており額には『殺』の文字が書かれていた。

 

「おい、てめえ何者だ!誰の許可を得て……」

 

 先程根岸を追い出した男が狼狽しながらも凄み服の襟を掴もうとする。だがその前に体が宙に舞った。

 

「てめえ!何クラウザーさんに触ろうとしてんだ」

 

 黒髪ロングにシャツとネクタイをつけて額に殺の文字を書いた謎の男が触る前に殴り倒していた。

 

「クラウザーさん!どうしてこの場に!?ライブの時間はまだ先ですよ」

「地獄での野暮用を済まし、ライブまで手持ち無沙汰なのでな、あそこのメスブタ共をレイプした後に処刑することにした」

 

 クラウザーと呼ばれた男はトゲナシトゲアリを指さす。その目や声には明確な怒りと敵意が籠っていた。

 根岸宗一にはもう一つの顔があった。デスメタルバンド『デトロイト・メタル・シティ』のギターボーカル、ヨハネ・クラウザー・Ⅱ世である。仁菜が所属しているトゲナシトゲアリに恨みを晴らすべく変身したのだった。

 

「本当ですか!?あのメスブタがどのような罪を犯したのですか?」

「処刑するのに理由が居るのか?」

「そうだった!クラウザーさんがレイプして処刑するのに理由なんて必要ねえ!人間の尺度で考えるべきじゃなかった~!おい!駅前に来い!クラウザーさんが降臨なされてミュージシャンのメスブタ共を処刑なさるぞ」

 

 黒髪ロングは知り合いに一斉に連絡した。彼はデスメタルバンド、デトロイト・メタル・シティ、通称DMCの熱狂的なファンで、ファンの間ではファンの鑑と称されるほどの信者であった。

 ファンの鑑は本日行われるDMCのライブを見る為に川崎に来て、駅前でファンの仲間達と合流する予定だった。

 待っている間にトゲナシトゲアリの歌が聞こえてくる。中々に良い歌だと思いながらもデスメタル以外はクソであり、DMCと比べれば圧倒的に劣っている。クラウザーさんが現れて調子に乗っているメスブタをレイプしてくれないかと妄想していた。その妄想は現実になった。

 

 すると数十秒も満たない時間に右目周辺にタトゥーを刻んだモヒカンの男、少し太った女、中華服を着た弁髪の男達が息を切らせながら集まってきた。集まってきた面々の容姿や雰囲気は川崎の危険地帯にたむろしているような人種だった。彼らもDMCファンである。

 

「本当だ!クラウザーさんが降臨なされているぞ!」

「今宵の生贄はあの5人かー!」

 

 ゴートゥーDMC!ゴートゥーDMC!ゴートゥーDMC!

 

 ファン達は独自のコールを起し、それを背にクラウザーがトゲナシトゲアリに向かって歩き始め、トゲナシのファン達も後ずさるようにして道を開ける。

 

「なに、あれ?」

「誰か呼びました?」

「これからどうするの?」

 

 すばると智とルパが判断を仰ぐように桃香に視線を向ける。こんな事態まるで想定していない。

 どうする?このメタル系の男はこちらに近づいてきている。何をするつもりだ?ライブを邪魔するつもりか?暴力的な手段を実行するかもしれない。だとしたらメンバーの安全を考慮し撤収すべきだ。

 

「続けましょう桃香さん、これもライブの時に起こるアクシデントみたいなものです」

 

 仁菜が迷っている桃香に言い放つ。あの姿は不気味だし友好的ではないのも分かる。それでも演奏を止めるのはあの男に負けたようで腹が立つ。そして良い感じにライブしていたのに邪魔されてムカついてもいた。

 

 曲が終わるとクラウザーは仁菜の5メートル手前で停止する。この後は何が起こるのか?DMCファンは期待、トゲナシのファン達は不安、脚を止めた通行人は不安と好奇心を抱きながら見守る。

 

 5人はクラウザーを見つめる。何が起こってもライブは続ける。すでに腹は決まっている。

 すばるがスティックを叩き合図を送る。3回目で曲の演奏が始まる。

 

『いつまで待ったってなにひとつ変わらないんなら』

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」

 

 仁菜が歌い出した瞬間に地獄の底から聞こえてくるような低音が遮る。圧倒的に不快感にトゲナシのファンと足を止めた通行人は顔を顰め思わず耳を塞ぎ、DMCのファンは心地良さにうっとりとする。これはクラウザーから発せられた音は声にならないシャウト、俗にいうデスボイスである。

 突然のデスボイスに仁菜は反射的に歌を止め他の4人の演奏が乱れる。何かされるとは想像していたがこれほどまでに直接的に妨害されるとは思っていなかった。

 メンバーの中で最もミュージシャンとして経験豊富な桃香も同様だった。他のメンバーとは違い可能性としては考えていた。だがこのデスボイスの不快感や声量、質の高さは想定していなかった。

 

『どいつもこいつもアテにならない』

『そもそも誰かのせいだと言ったてこの痛みは消えないんだ』

 

 トゲアリトゲナシは即座に気持ちを切り替え演奏を続ける。デスボイス後のワンフレーズは乱れたが、多くの練習でしみ込ませた演奏と歌い方を思い出し即座に通常時のクオリティに戻す。

 一方クラウザーだがデスボイス以降は歌わずギターを弾く。その演奏もトゲナシトゲアリのメロディーを妨害するものではなく、特に主張もなくトゲナシトゲアリのメロディーに埋没する音だった。

 トゲナシファンと通行人はクラウザーの存在を忘れ、曲に意識を向け心地よさに足踏みでリズムを取る。周りには先程以上の輝く粒子が舞い虹色の閃光が煌めていた。

 一方DMCファンはクラウザーらしかぬ行動にファンが募り始めていた。曲はサビが終わり2番に入る。その瞬間にクラウザーは動く。

 

『いつからなんだっけ何ひとつ変わらない』

『■■■■■■■!』

『景色にほとほとうんざりしてる』

『■■■■■■■!』

 

「でたー!クラウザーさんの歌の修正だ!」

「めちゃくちゃ修正されてるぞ、テストの答案用紙だったら真っ赤に染まってるぜ!」

 

 DMCファン達が一気に騒ぎ立て盛り上がる。DMCは数多くの対バンを経験し、その対戦バンドにはパンクやヒップホップなど別ジャンルもいたが全て叩きのめしてきた。

 そして対バンと言ってもタイムスケジュールが決まり各バンドが演奏するものとは違い。同じステージに2つのバンドが同時に立ち、交互に時には同時に演奏するようなまさにバンド同士で対戦するようなものだった。

 そこでクラウザーは相手の歌詞に乗っかり修正するという手法を取ってきた。パンクバンドの金玉ガールの時は社会に対抗する歌詞に対しては、お前らの行動は全て手のひらであり社会も政治家も全て自分の一存で生かしていると格の違いを見せつけた。

 同じデスメタルバンドのヘルヴェタのデーモンズゲート、1人の善良な少年がデスメタルとの出会いをきっかけに蝕まれ、デーモンズゲートが現れたことで悪魔に変貌するという曲だった。

 それを替え歌で善良な少年が交際を経てラブホテルに入ろうとしたら彼女に断れ、抑えきれない性衝動を解消するために向かった歌舞伎町のゲートがヘルズゲートだったという低俗な歌に堕とした。

 そして今回は鬱屈した少女の悲痛な叫びと生きる理由を見いだせない苦悩に対して、そこらへんの奴をレイプする為だというデスメタル的な曲として歌う。

 

「流石クラウザーさん!性欲異常者にとって生きる=レイプなんだ!」

「ノーレイプ・ノーライフだぜ!」

「悪魔的歌だが、ハーメルンの規定で歌詞の改変は禁止されているから表示されねえ!」

「それに見て見ろ!さっきまで見えていたキラキラしたやつや虹色の閃光が黒色に染まってるぞ!」

「これはクラウザーさんの領域展開、いやクラウザー展開だ!」

「クラウザーさんにとって宿儺すらそこら辺の呪霊にすぎねえ!」

 

 DMCファンの言葉に他の人間は何を言っているんだと思ったが、確かにトゲナシトゲアリの歌の良さから見えていた煌びやかな粒子や虹色の閃光が黒く染まっているように見える。それに空気もどす黒く悍ましく心に強引に爪痕を残されるような感覚を抱いていた。

 クラウザーの替え歌に場の空気は完全に傾く。足を止めた通行人もトゲアリトゲナシの曲が色あせ、クラウザーの替え歌に意識を向け始めた。

 トゲアリトゲナシは不安や焦りが芽生えクラウザーに対して驚愕する。この男は自分達の音を組み込みながらデスメタルの歌にしている。さらに歌に合わして即興で替え歌を作っている。何という作曲作詞センスだ。

 クラウザーはDMCの作曲作詞担当であり、テンションと状況次第であれば即興で新曲を作れる実力の持ち主である。

 そのクラウザーでも知らない曲の音を取り込みながら替え歌を作るのは無理だった。故にトゲナシトゲアリの1番は聞くことに徹しメロディーの傾向を掴み、2番からデスメタル風に編曲した替え歌を歌った。

 

 トゲナシトゲアリの曲が終わると同時にクラウザーも替え歌を終わらせる。トゲナシトゲアリはクラウザーに存在を喰われ、場の空気は完全にクラウザーに支配されていた。通行人はもちろんトゲナシのファンすらクラウザーの演奏に心を揺れ動かされていた。

 

「桃香さん!次の曲!」

 

 仁菜は桃香に大きな声を出して呼びかける。桃香達はクラウザーのミュージシャンとして技量に敗北感を抱き戦意が挫け始めていたが、仁菜の戦意は衰えていなかった。

 理不尽に負けたくない。その気持ちはメンバーの中で仁菜が一番強く最もロック魂を持っていた。そのロック魂がクラウザーに場の空気を持ってかれたのが許せなかった。

 

 4人も仁菜の呼びかけで気持ちを取り返すと同時に戦意が湧く。こんな乱入者に負けたくない。

 

「続いてこの曲、『爆ぜて咲く』です」

「次はこれで葬ろう『罪』」

 

 トゲナシトゲアリとクラウザーは同時に演奏を開始する。イントロで演奏されるギターのメロディー、それは圧倒的だった。音楽のおの字も知らないド素人でも分かる卓越した技量、何より心に一生消えない傷を刻み込むような悪魔的演奏だった。

 そのギターに周辺は興奮の坩堝と化す。DMCファンは歓声をあげヘッドバンキングする。通行人やトゲナシのファンは同じようにヘッドバンキング、しなくても足踏みでリズムを取る。

 

『存在自体が罪、咎人が奏でる音は葬送曲となり地獄への門を開く。無知なるものは己の矮小さも知らず戦いを仕掛ける。それが咎人の終焉』

「何だこの曲は!?聞いたことがないぞ新曲か!?」

「いや、こんなメス豚を処刑するために新曲を披露するはずがない。恐らく即興で作った曲だ!」

 

 ファンの鑑は思わず叫ぶ。彼は全てのDMCの曲を知っているが全く聞いたことがなかった。それは当然であり、これはクラウザーが即興で作り歌っている曲である。だがそのクオリティの高さは既存の曲と変わらず誰も即興とは思っていない。

 トゲナシトゲアリもイントロが終わりAメロを歌うが少数のトゲナシのファンしか注目していない。それは曲のクオリティの著しい低下によるものだった。

 ド素人でも技量の凄さが分かるのであれば演者はさらに理解してしまう。特にギターの桃香は相手の方が格上であると如実に分からされ心が折られていた。

 今まで上手いギタリストの演奏に感嘆し嫉妬し己の下手さ加減に打ちひしがれた事は何度もあった。それでも心が折れることは無かった。

 技術は確かに相手の方が上だ、クラウザーのギターと自分のギターでは決定的に違う。狂気や敵意や怨念と呼べるようなものが籠っており、その音が対峙する者を容赦なく屈服させ傷つけ心をへし折る。クラウザーのギターは暴力であり凶器だ。

 そして替え歌に即興で作った曲、デスメタルは専門外だが、ミュージシャンとして良い曲だと漠然と理解していた。もし同じ立場だったら同じように出来るだろうか?無理だ。ギタリストとしてでもなく作曲者としても格の違いを思い知らされていた。

 桃香は完全に心が折られ演奏の質が著しく低下する。

 

 ギターでありバンドのリーダー的存在の桃香の演奏が一気に乱れたことで、他のメンバーも動揺し演奏が乱れる。

 彼女らも桃香程ではないがクラウザーの人を容赦なく屈服させ傷つけ心をへし折る演奏と歌に屈していた。今まで慣れ親しんでいた音楽とはまるで別種のものである。

 1曲目の替え歌でこちらの歌は掻き消されたが、あれはこちらの音という力を利用していたので辛うじて納得できた。

 だがこれは力を利用するのではなく、真っ向勝負でぶつかりにきてねじ伏せた。ギターとボーカルだけでボーカル、ギター、ドラム、ベース、キーボードの音が完膚なきに負けた。

 

『下手糞!歯を立てるな!不得手!マグロ!弱輩!ヒトデ!不感症!握る力が強すぎる!不得意 !ガバガバ!!稚拙!肉便器!全てを萎えさせる咎人!悪魔の手で処刑する!』

「なんて罵倒だ!こんなこと言われたら自殺しちまうぞー!」

「どれだけ下手糞なんだこの女!」

 

 クラウザーは仁菜を睨みつけながら自らで生成した憎悪をぶつける。これは自らの音楽を全否定した仁菜へ対する罵倒の歌だった。そして仁菜はクラウザーと視線が合った瞬間に歌うのをやめてしまう。

 桃香と出会いお前は気が弱くて意固地で臆病で自信家で自己矛盾の塊で鬱屈したエネルギーをいつも溜めている。それはロックだと言われた。

 最初は悪口だと思ったが今では褒め言葉だと思っている。ロックをする上で重要な才能だ。このエネルギーを思う存分ぶつける。そのエネルギー量は誰にも負けないと密かに自信を抱いていた。

 だが目の前には自分より遥かに大きいエネルギーを込めているミュージシャンがいた。どうやって生きればあれほどのエネルギーを溜め込み歌に込められる。誇れる長所が完全に上回れ最後の1人も心が折れる。

 歌うのを止めたボーカルと心が折れながらミュージシャンとして何とか演奏しようとする4人、これではまともな曲にならずそのクオリティはお遊戯レベル以下だった。

 

 クラウザーのエネルギー源は怒りだった。仁菜に自分のポップスを全否定された事を切っ掛けに怒りが膨れ上がり、トゲナシトゲアリのライブに乱入した。

 その怒りがトゲナシトゲアリを最も残酷な方法で叩き潰そうと即興で替え歌や新曲を作らせ、メンバーの心が折れるほどのギターや歌声を披露した。

 そしてその圧倒的な怒りを作る源は器の小ささである。些細な事で一般人にとって親が殺されたと同等の怒りを抱ける。その膨大な怒りによって悪魔的で圧倒的なパフォーマンスを披露する。

 これがメタルモンスターと呼ばれデスメタルの頂点に立ったデトロイト・メタル・シティのフロントマン、ヨハネ・クラウザー・Ⅱ世である。

 新曲「罪」が終わり、DMCファンを中心にゴートゥーDMCコールが起こる。その中には足を止めた通行人やトゲナシファンもいる。勝敗は決した。

 クラウザーはブザマな演奏を奏でた敗者であるトゲナシトゲアリの元へ向かう。ファン達はどのような処刑をするのかと固唾を飲んで見守る。

 

「貴様、ギターの腕がド下手糞のようだな?」

 

 クラウザーはへたり込んでいる仁菜の元に近づき問いかけるが答えない。その目にはロック魂を持ちエネルギーに満ち溢れていた少女の面影は全く無い。

 

「今宵は満月だ、悪魔の慈悲としてギターを教えてやろう。その身で悪魔の神髄を刻み込め!」

 

 言い放つとクラウザーは仁菜の頭を掴みギターに押し付け上下に動かす。ギターから鋭く人の心をかき乱す音が流れる。

 

「でたー!クラウザーさんの歯ギターだ!」

「なんて羨ましいんだ!俺も変わりてえ!」

「歯をちゃんと立てろよ!」

 

 クラウザーの得意のギターテクである歯ギター、本来は自分の歯でやるが今回は仁菜の歯を利用する。

 DMCファンは仁菜に対して羨望の眼差しで見つめるが、クラウザーにとってこれは慈悲ではなく処刑だった。ド下手糞はギターのピック程度の価値しかないという痛烈なメッセージであり、ギターを弾いたことがある者にとって屈辱の極みでありまさに精神的レイプである。

 

『オレの前にひれ伏せ女ども オマエの下半身を突き出しな』

『指輪も服もいらねぇ 言葉も心愛もいらねぇ』

 

 クラウザーはそのままウイニングライブと云わんばかりにDMCの曲である「メス豚交響曲」を歌い始める。そのギターは人の歯を使いながら通常時とさほど変わっていなかった。

 

「仁菜!」

 

 放心状態だった桃香が一拍おいて仁菜に駆け寄る。敗者にムチ打つどころか、人をギターピック代わりにするなんて何て非道な行為だ。他のメンバーも僅かに遅れて仁菜の元に駆け寄る。

 

「メス豚共!クラウザーさんの演奏を邪魔するつもりか!」

 

 だがDMCファンが桃香達の捕まえ行く手を阻む。4人は強引に行こうとするが、元プロボクサーを喧嘩で倒せるファンの鑑を筆頭に、武闘派のDMCファンの力に女性では抗えなかった。

 

『下半身さえあればいい 下半身あればいい』

 

 サビに入りDMCファンが一緒に歌い、通行人もファンの後に続いて歌う。その熱気に川崎駅前はライブ会場と化す。

 

「なあ、そろそろライブ開演時間じゃねえか?」

 

 DMCファンの何気ない一言でクラウザーの演奏が止まる。熱中するあまり完全にこの後のライブを忘れていた。

 

「悪魔の慈悲はこれで終わりだ」

 

 クラウザーは仁菜を地面に置くと急いで走り始める。ライブに遅れれば所属しているデスレコーズの社長に制裁される。メタルモンスターで何者も恐れないクラウザーであったが、社長には逆らえなかった。

 

「地獄の深淵に触れし者よ、さらなる地獄を味わいたければついてこい」

「この後DMCのライブがあるぞ、興味ある奴はついてこい!」

 

 クラウザーの意味深な発言をファンの鑑が訳す。その言葉に従うようにDMCファンの後を通行人やトゲナシファンがついていく。彼らはクラウザーの悪魔的パフォーマンスに完全に心奪われていた。

 その中には根岸を邪魔した金髪女性と厳つい男もいた。彼らもミュージシャンとしてDMCの実力を目の当たりにしジャンルは違えど魅了されていた。

 

 こうして川崎駅前にはトゲアリトゲナシのメンバーと数人のファンだけが取り残される。この一件は多くの人を引き連れるクラウザーは現代のハーメルンの笛吹だとスポーツ新聞に掲載され、社長に「またリアルレジェンドを作るなんて流石だクラウザー」と大いに褒められた。

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