DMC対トゲナシトゲアリ   作:ヘッズ

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誤字脱字指摘ありがとうございます


第9話 Rock'n Roll

 グロテスク 偽りの理

 魔王 運命に賭けたい論理

 ヘルズ・コロシアム 気鬱、白濁す

 マッドモンスター 傷つき傷つけ痛くて辛い

 デスペニス サヨナラサヨナラサヨナラ

 スラッシュキラー 視界の隅 朽ちる音

 グロテスク 心象的フラクタル

 デスヴァギナ 誰にもなれない私だから

 魔王 爆ぜて咲く

 悪い恋人 理想的パラドクスとは 

 化け物霊長類 黎明を穿つ

 

 2組の対バンは続きそれぞれが作った曲を歌う。DMCはトゲナシトゲアリの心を折り屈服させるために歌い演奏し続け、時には替え歌をおりこみ、パフォーマンスで妨害する。お前たちの音楽は脆弱で無力、大人しくレイプされろと音で殺しにかかる。

 トゲナシトゲアリも持てる全てを出し尽くして歌い続ける。私達の音楽はデスメタルに屈しない、最後まで抗い爪痕を刻み込もうと力の限り暴れる。2組のバンドが作り上げる音に会場の客たちは熱狂する。

 ファン達は皆が思う。今日のライブは8週連続対バンでも、いや歴代でも最高のライブだ、このライブに参加出来て本当に良かった。

 

 最高のライブにも終わりが訪れる。曲が終わりトゲナシトゲアリは全員激しく息を乱す。もはや汗は出し尽くした。声もかすれかかっている。腕や指を酷使して限界が近い。一方DMCのメンバーも疲弊しているがまだ余力はある。

 この差は慣れだった。DMC的対バン形式だとトゲナシトゲアリは初めてで、DMCは慣れ親しんでいた。皆で視線を合わせ確認する。出来て残り2曲、ならば歌う曲は1つ決まっている。

 

「雑踏、僕らの街」

「ならば同じく、雑踏、僕らの街」

 

 仁菜の言葉で、トゲナシトゲアリの演奏が始まる。フェスのトリで歌おうとしたお気に入りの曲だ。そしてクラウザーも反応しギターを弾く。2つのメロディが重なる。

 クラウザーは対バン用にトゲナシトゲアリの曲を聞き弾けるようになっている。いつもなら替え歌にして曲を冒涜し凌辱するが趣向を変える。

 曲というのはそのバンドが多くの練習を重ね身に沁み込ませるものである。いくら才能が有る者がコピーしてもどうしても完成度や熟練度に差が出る。

 クラウザーが「雑踏、僕らの街」を歌えばファンであってもトゲナシトゲアリのほうが良いと言うだろう。

 なのでデスメタルに編曲する。これであれば「雑踏、僕らの街」はトゲナシトゲアリの曲ではなくDMCの曲になる。

 ロックをデスメタルに変化させ勝利する。これこそがトゲナシトゲアリに対するレイプである。

 

『やり残した鼓動がこの夜を覆って僕らを包んで粉々になる前に』

『やり残した鼓動がこの夜を覆って僕らを包んで粉々になる前に』

 

 ジャギとカミュもクラウザーに合わせる。ライブ前に言われた通り一通り聞いておいてよかった。でなければデスメタルにした相手の曲に合わせるなんて無理だった。

 そしてクラウザーは替え歌即興曲など対バン相手を叩きのめすためにメンバーを気にせず傍若無人に歌い弾く。それに合わせ続けたことでアドリブ力を養い対応できていた。

 

『頼りなくてもいいその手をこの手は自分自身のものさ 変らないはずはないよ手を伸ばして』

『頼りなくてもいいその手をこの手は自分自身のものさ 変らないはずはないよ手を伸ばして』

 

 トゲナシトゲアリはクラウザーの意志を察する。上等だ、この曲は自分達が苦労して作り出したオリジナルだ、デスメタルに編曲しデスメタルのトップであるDMCが歌っても負けない。

 

『雑踏の中で声無き声で泣いている 足跡が今誰かの声を消した朝 いつになっても枯れることのない 腐敗した街の泥水が冷たい』

『雑踏の中で声無き声で泣いている 足跡が今誰かの声を消した朝 いつになっても枯れることのない 腐敗した街の泥水が冷たい』

 

 

 仁菜は歌いながらクラウザーの歌声に耳を傾ける。デスメタルになるとこんな感じになるのか、相手は屈服させようと歌い此方は抗っている最中だ、それなのに感心している。憎しみすら抱いていた相手に奇妙な気分だ。

 

『何にも変わらない世界で今日だって生きてゆくんだ くだらないけど仕方ないでしょ

僕らはもう歩き始めたんだ』

『何にも変わらない世界で今日だって生きてゆくんだ くだらないけど仕方ないでしょ

僕らはもう歩き始めたんだ』

 

 他の4人も仁菜と同じように思っていた。自分のパートはこんな感じになるのか、キーボードのパートは豚の鳴き声で代用するのか、気づきがたくさんある。これだけでも対バンした意味が有ったかもしれない。

 トゲナシトゲアリの音楽生活を大きく歪め、こんな何の特にもならない対バンをしているのに感謝すらしている。それが妙に可笑しかった。

 

『嘘みたいな馬鹿みたいなどうしようもない僕らの街 それでもこの眼で確かに見えたんだ この手で確かに触れたんだ ねえ ほら ほら』

『嘘みたいな馬鹿みたいなどうしようもない僕らの街 それでもこの眼で確かに見えたんだ この手で確かに触れたんだ ねえ ほら ほら』

 

 サビに入りテンポは一気に上がる。客達は物凄い盛り上がりを見せている。こんな盛り上がったライブは初めてだ。

 桃香もこれ以上大きな箱でライブしたが個人の熱量が違う。熱狂しすぎて暴動でも起きそうだ。

 恐らくDMCの曲に対して盛り上がっているのだろうが、こちらの曲で少しぐらい盛り上がっているだろう。

 

『ほらまた吹いた馬鹿みたいだ どうしようもない闇を照らせ 夢じゃないどうせ 終わってる街だって 諦めたって変わんないぜ ああ まだ まだ まだ』

『ほらまた吹いた馬鹿みたいだ どうしようもない闇を照らせ 夢じゃないどうせ 終わってる街だって 諦めたって変わんないぜ ああ まだ まだ まだ』

 

 デスメタルとロック、全く違うジャンルでその曲を同時に演奏し歌えば合わないはず、だが不思議と調和し一つの曲のように思えてきた。

 これはDMCが全力で叩き潰そうして、こちらが全力で抗っているからだろう。豚がクラウザーに蹴られオゥオゥと喘いでいるがそれすらこの曲に欠かせない気がする。

 

『やり残した鼓動がこの夜を覆って 僕らを包んで粉々になる前に 頼りなくてもいい

その手をこの手は自分自身のものさ 変わらないはずはないよ手を伸ばして』

『やり残した鼓動がこの夜を覆って 僕らを包んで粉々になる前に 頼りなくてもいい

その手をこの手は自分自身のものさ 変わらないはずはないよ手を伸ばして』

 

 1番が終わり2番に入る。曲が終わるまでに両バンドは全力で歌い演奏し屈服させ抗った。終わった時にはトゲナシトゲアリのメンバーは奇妙な達成感と充実感を抱いていた。

 

「音楽には感謝している。ミュージシャンにならなければ猟奇殺人者になっていたから」

 

 クラウザーは息を整えMCを始める。突如のMCだがトゲナシトゲアリにはありがたかった。相手が自分達の曲をデスメタルにして歌った。それは喧嘩を売られたようなものだ、ならば買う。

 トゲナシトゲアリもDMCの曲をロックにした曲を歌えるが、やりなれていない曲を演奏するのは疲れるので、少しでも休みたかった。

 

「今宵の対バンはレイプし甲斐のないマグロを相手にすると思い興が削がれたが、思いのほか楽しめたわ。なんならセフレにしてやろうか?」

「そんな!私をセフレにしてください!」

「いやアタシを生贄にしてください!」

 

 クラウザーの言葉に女性ファンは過剰に反応するが、それを無視してトゲナシトゲアリに視線を向ける。全員がベロを出して両小指を突き立てる。

 

「それが答えか、ならば予告通り殺してくれる!SATSUGAI!」

 

 SATSUGAI

 

 DMCが作り出した最初の曲であり代表曲である。そのチョイスに今日までに何度も更新した熱狂の限界を更新する。

 クラウザーのギターと同時に桃香が弾く。SATSUGAIがロックに編曲し唯一歌えるDMCの曲だった。

 

『ああああああああ!』

『アアアアアアアア!』

 

 クラウザーと仁菜は向き合いながら高音と低音のデスシャウトをぶつけ合う。

 

『俺は地獄のテロリスト 昨日母さん犯したぜ 明日は父さんほってやれ I am at terrorist straight out of hell』

『俺は地獄のテロリスト 昨日母さん犯したぜ 明日は父さんほってやれ I am at terrorist straight out of hell』

 

(ほう、やるじゃねえか、SATSUGAIをしっかりロックに編曲して自分達の曲にしてやがる。何オレのSATSUGAIをレイプしてんだ!)

 

 最初は感心していたクラウザーだが、自分が必死に作り上げられた曲を勝手に編曲されたことに怒りを募らせる。

 

『俺に父さん母さんいねえそれは俺が殺したから 俺にゃ友達恋人いねえ それは俺が殺したから 殺せ殺せ親など殺せ 殺せ殺せすべてを殺せ』

『俺に父さん母さんいねえそれは俺が殺したから 俺にゃ友達恋人いねえ それは俺が殺したから 殺せ殺せ親など殺せ 殺せ殺せすべてを殺せ』

 

(てめえらに母さん犯して父さん掘って殺したことがあるのか!?友達も恋人も殺したことがあるのか!?ねえだろ!それなのに歌ってんじゃねえ)

 

 クラウザー改め根岸はそんな経験は一切ない。だがクラウザーになりきり母親を犯して殺し父親を掘って殺したと思い込み、勝手に逆恨みして恨みを貯めエネルギーに変える。これがメタルモンスター、ヨハネ・クラウザー・Ⅱ世である。

 

『サツガイサツガイせよ サツガイサツガイせよ(KILL! KILL! KILL! KILL!)

思い出を地に染めてやれ』

『サツガイサツガイせよ サツガイサツガイせよ(KILL! KILL! KILL! KILL!)

思い出を地に染めてやれ』

 

(何ガンたれてんだ!そんな声じゃババア1人殺せねえぞ!)

 

 仁菜とクラウザーはお互いの額がぶつかりそうな距離まで近づく、お互い視線を逸らさず敵意をぶつけるように歌う。

 

 

『サツガイサツガイせよ サツガイサツガイせよ KILL! KILL! KILL! KILL!)

未来など血に染めてやれ』

『サツガイサツガイせよ サツガイサツガイせよ KILL! KILL! KILL! KILL!)

未来など血に染めてやれ』

 

(ギターもドラムもベースもキーボードも何だ貧弱な音は!SATSUGAI演奏してんならもっとマシな音出せ!)

 

 クラウザーは仁菜の想いを真正面から受け止めながら4人に意識を向ける。DMCを潰すために練習したのだろう。それじゃあ足りないと脅迫めいた念を送る。

 

『殺せ殺せ親など殺せ殺せ殺せすべてを殺せ』

『殺せ殺せ親など殺せ殺せ殺せすべてを殺せ』

 

 再び高音と低音のデスシャウトがぶつかり合う。クラウザーは仁菜の喉と体力が限界に近いと察知すると嘲笑を見せ、仁菜はそれに反応し赤色のトゲを大量に発生させる。

 

『俺は地獄を支配した今朝は兄弟ひきちぎり 俺が親戚灰にしたI am at terrorist straight out of hell』

『俺は地獄を支配した今朝は兄弟ひきちぎり 俺が親戚灰にしたI am at terrorist straight out of hell』

 

(そうだついてこい、反抗し続けた褒美として自殺させてやる。ミュージシャンなら1回自殺しておけ)

 

 仁菜の歌声に敵意や反抗心などの想いが籠る。いつの間にか少し感心してしまったが改める。

 そんな温い感情を抱いていたらこの歌声に殺される。自分達の音が負けていないと証明するために倒し叩きのめす。でなければ到底爪痕を残せない。

 

『俺にゃ兄弟親戚いねえそれは俺が殺したから 俺に神も仏もいねえ それは俺が殺したから 殺せ殺せ親など殺せ 殺せ殺せすべてを殺せ』

『俺にゃ兄弟親戚いねえそれは俺が殺したから 俺に神も仏もいねえ それは俺が殺したから 殺せ殺せ親など殺せ 殺せ殺せすべてを殺せ』

 

(他の4人も少しはマシな音になったじゃねえか、そうじゃなきゃ自殺させられねえだろ)

 

 クラウザーの念が通じたのか4人も仁菜と同じように一種の尊敬のようなものをかなぐり捨て、爪痕を残すために全力で想いと敵意をこめる。

 

『サツガイサツガイせよ サツガイサツガイせよKILL! KILL! KILL! KILL!)思い出を血に染めてやれ サツガイサツガイせよ サツガイサツガイせよ KILL! KILL! KILL! KILL!)未来など血に染めてやれ』

『サツガイサツガイせよ サツガイサツガイせよKILL! KILL! KILL! KILL!)思い出を血に染めてやれ サツガイサツガイせよ サツガイサツガイせよ KILL! KILL! KILL! KILL!)

未来など血に染めてやれ』

 

 2番が終わり最後の間奏が入る。ここがギターで桃香の心をへし折る機会だ、クラウザーは相手を屈服させるべくギターを弾く、クラウザーに影響されたのかジャギとカミュの演奏も一層激しくなる。

 桃香も疲れる体にムチ打ちながらクラウザーのギターに対抗する。すばるもルパも智もDMCの音に抗うべく懸命に演奏する。

 

『殺せ殺せ親など殺せ 殺せ殺せすべてを殺せ サツガイサツガイせよ サツガイサツガイせよ(KILL! KILL! KILL! KILL!) 思い出を地に染めてやれ』

『殺せ殺せ親など殺せ 殺せ殺せすべてを殺せ サツガイサツガイせよ サツガイサツガイせよ(KILL! KILL! KILL! KILL!) 思い出を地に染めてやれ』

 

(この興奮、この熱気と爆音!これがデスメタルだ!ロックなんかじゃ辿りつけねえ領域だ!それを味わせてやるからついてこい!)

 

 会場では興奮しすぎたファンがバタバタと倒れていく。クラウザーはその様子を見ても一切躊躇せず歌い続ける。恐怖で倒れようが興奮で倒れようが同じだ。

 

『サツガイサツガイせよ サツガイサツガイせよ(KILL! KILL! KILL! KILL!) SA TSU GA I!』

『サツガイサツガイせよ サツガイサツガイせよ(KILL! KILL! KILL! KILL!) SA TSU GA I!』

 

 最後の1フレーズを歌いきるとトゲナシトゲアリのメンバーはその場で崩れ落ちる。もはや演奏できる状態ではない。

 クラウザーに引っ張られ限界以上に演奏し歌った結果、体力を使い果たす。自分でブレーキを外した結果の行動不能になり勝負が決まる。まさに自殺である。

 一方DMCは3人とも両の足で立っている。誰の目から見てもDMCの勝利は明らかだった。

 

「和田君、西田君、あの娘達を連れて行ってあげよう」

 

 クラウザーはジャギとカミュに小声で指示を出す。テンションが上がり切ったクラウザーだが、勝負が決まりテンションが一気に下がり冷静になっていた。

 こんな敵地でよく頑張った。この状態の彼女達を放っておいて演奏を続ける気になれないし、敗者に鞭を打つみたいで気が引ける。

 

「ロックにしてはよくやった。今宵のライブはこれで終わりだ、肩に捕まれ」

 

 クラウザーは膝をつき仁菜に語り掛けると起き上がらせて腰に手を回して肩に手を回させる。気が付けば予定終了時間を過ぎている。これでライブは終わりでいいだろう。

 

「流石クラウザーさんだ!あんな激闘を繰り広げたトゲアリトゲナシを犯すつもりだ!」

「悪魔に友情なんてねえ!対バンした奴らは全員レイプ対象なんだ!」

 

 だがファンはクラウザーの想いを全く理解せず、都合の良い解釈をする。

 

「フハハハ!今宵は死姦パーティーだ、カミュ、ジャギ、このメス豚共を3人でまわして絆を深めるぞ」

 

 咄嗟にクラウザー的な発言をしながら3人でトゲナシトゲアリのメンバーを運んだ。

 

───

 

 ライブハウス控室、小さな会場に相応しい狭さでトゲアリトゲナシの5人は床に肩を寄せ合うように横たわっていた。

 ライブが終了しすぐに撤収しなければいけないのだが、文字通り対バンで精根尽き果たし指一本も動かせない状態だった。仁菜は少しマシな状況だが喉を酷使し声が出せない。

 

『クラウザーめ、どさくさに紛れて触って』

 

 仁菜はスマホに文字を打ち込み読み上げ機能で音声を流す。

 

「今更言うか、あいつにパンツ下ろされて、あそこ見られたろ」

『思い出して恥ずかしくなってきました。目を潰すか記憶消えるまで殴らないと』

「まあ、頑張れ、しかし途中まで完璧だったんだけどな、クラウザーのギターテクは予想外だったが、私とすばると智のローテーションで対応して、あいつらの妨害にも対応して」

「ルパさんも火付きの松明ですけど、ジャギとジャグリングするって普通でしたね。クラウザーなら燃やされたんじゃないですか?」

「かもですね、でもジャギは燃えてない方が手元に来るように回転をコントロールしていましたし異常者じゃなくて普通の人ですよ。あれでDMCのメンバーをやれているのは逆に凄いと思います」

「そういえば何ちゃっかり酒飲んでるんだよ、ずるいぞ」

「あれはパフォーマンスですから、仕方がなく」

『そういえば、すばるちゃんは随分とアダルティだったね、私も興奮しちゃったよ』

「あ~、言うなニーナ、思い出しただけでも恥ずかしい!」

「もう嫁にいけないわね」

「智だって嫁にいけないでしょ。あんなドSぶり発揮して、まさかあそこまでデスメタルの才能があるなんて思わなかった」

「いらないわよそんな才能、それにあれは忘れて。黒歴史だから、これでイジッったら本当に怒るから」

 

 5人は雑談混じりで今日のライブを振り返る。何もかも未体験な出来事ばかりだった。

 あり得ない事態ばかり起こり即興で対応を続ける。これでアドリブ力が養われたかもしれないが、それを発揮する機会はないだろう。

 

「結局、負けちゃいましたね」

「こうして全員ぶっ倒れてるし、誰の目から見ても完敗だな」

「倒れたら負けってライブはいつから格闘技になったの」

「それで発起人のニーナ、満足した?」

 

 すばるの問いに仁菜は迷いなく打ち込み音声を流す。

 

『他人の目から見たら負けだけど、私の心は折れなかった。体はついていかないけど心は最後まで負けを認めなかった。私達の音楽は負けていません』

 

 仁菜は晴れやかな表情を見せる。対バンに勝てれば最高だったがこれで充分だ、今日のDMCは最初の時と比べ物にならないほど凄く恐ろしかった。

 それに対して最後まで抗い爪痕を残そうとした。クラウザーに植え付けられた屈辱を払しょくできた。これで前を向いて出発できる。

 

「私も、心の中で最後まで中指突き立てまくった。それにめっちゃスッキリした」

「何か全てを出し尽くしてスッキリしました」

「私もだ、あんなにギターを練習したのは初めてだ。これでテクが上がったしプラスになるだろ」

「ゲテモノだけど、あそこまで人を熱狂させる音に触れられたのはプラスね」

 

 4人も仁菜と同じ気持ちだった。もしフェスを選んでいたらDMCとの対バンという機会はなく、屈辱を晴らせずモヤモヤを抱えたまま生きていく。

 ひどい目にあったがDMCと対バンできてよかった。そして対バンという選択肢に目を向けさせてくれた仁菜に感謝していた。

 

「ヘイ、中々に濡らしてくれたわね、トゲナシトゲアリ!」

 

 突如ハイテンションな声とともに扉が開く。そこにはデスレコーズの社長が居た。最初に会った時は危険で不機嫌そうで関わりたくないタイプだったが、打って変わって上機嫌だ。

 

「ここまでDMCに食らいつくなんて予想外、ホーリーシット!」

「ありがとうございます」

 

 とりあえず褒められていると判断し桃香が代表して礼を言う。4人も変化に戸惑いながら様子を窺う。

 

「ところでアンタらアマチュアだろ?」

「そうですが」

「だったらウチに来い。最近はマネー不足でね。小金が稼げるバンドが欲しかったんだよ」

 

 5人は思わず首を動かして左右に居るメンバーを見る。スカウトされる可能性をどぶに捨てて対バンに挑み、その結果対バン相手が所属している事務所にスカウトされた。なんという皮肉だろう。

 

「もしかしてデスメタルやれとか言いません?」

「ワザファック?オフコース、お前たちにはデスメタルの才能が有る。DMCの次に有名なバンドに」

「お断りします」

 

 5人の声が一斉に重なる。対バン用にデスメタルを演奏したが決してやりたい音楽ではない、あのように誰かを傷つける音楽ではなく、聴いた人が抗う気になって不条理に中指突き立てる音楽だ。

 

「もったいねえ、絶対ロックよりデスメタルの才能が有るのに」

『だったらそれに抗います。絶対にロックで成功してみせます』

 

 仁菜が社長に向けて音声を流し、その言葉に社長はフッと笑みをこぼす。その笑みには好意のようなものが僅かに見えた。

 

「ところでいつまで寝てるんだ。ライブハウスは閉まるぞ、楽器を回収してさっさと出ろ」

「全員ボロボロで碌に体が動かせないんですよ」

 

 桃香が忌々しく呟く。お前らのところでバンドのせいでズタボロになって動けないと言いそうになったが堪える。

 しかし問題だ。楽器と自分達を回収してくれる知人も知り合いもいない。ここで一晩過ごさせてくれれば御の字、下手したら叩き出される。

 

「しょうがねえ、家まで運んでやる。グリ、グラ、カモン!」

 

 社長が指笛を鳴らすと屈強な男が駆け付け5人を肩に担ぐ。

 

「すみません。お世話になります」

「キヒッヒッヒ気にすんな。お前らじゃ客を呼べないし箱も小さくなっちまったからマニーはピンハネしまくった。その分のオマケだ」

「なっ?」

「次からはちゃんと契約書は見ておけよ、悪い大人に利用されるぞ」

「この!」

 

 桃香は思わず社長を睨みつける。対バンすることに意識が向きギャラについては全く考えていなかった。

 その後は社長たちの手によって無事に送り届けられ、翌日桃香は口座を確認すると対バンの出演料が振り込まれていたが、明らかにピンハネされていない額だった。

 その後この対バンライブは観客を何人も病院送りにしたという事実に尾ひれがくっ付きまくり、死人が出たと噂されるほどの伝説のライブとして音楽業界で話題になった。

 

─数カ月後

 

 今日行われる野外フェスはこのフェスはかつてトゲナシトゲアリが出演する予定だったフェスと同等の規模であり、有名なバンドも出演するが世間的には無名なバンドも出演し、未来のスターを発掘しようと音楽ファンも業界人も多くの人が集まっていた。

 出演者控室、その一角にトゲナシトゲアリが待機し出番迄待っていた。

 

「やっとたどり着きましたよね」

「意外と短かったな」

「もっと遠回りすると思ったけど」

 

 仁菜と桃香とすばるが感慨深げにつぶやく。DMCとの対バン後、仁菜の喉の治療などで一カ月ほどの時間を空けて活動を再開した。

 今後は地道に路上ライブやライブに参加してファンを増やしていき、いずれあの時のフェスに呼ばれる。そんな長期的な計画を立てていた。

 だが再開後の初ライブ、そこには本人たちの予想以上に客が集まった。原因はDMCとの対バンにあった。

 ガールズロックバンドがあのDMCと対バンし名勝負を繰り広げたというのは業界で噂になっていた。真偽を判別しようにも動画も音源も出回っておらず、ライブに来ていた客達の伝聞でしか分からない。

 そこまで凄いバンドなのかと一目見ようと多くの人が運び、その演奏と歌を聞きファンになっていく。こうして着実にファンを増やしていきフェスの主催者の目に留まり呼ばれた。

 

「しかしライブの順番凄いわね、普通ならメジャーバンドの順番でしょ」

「どうやら主催者の1人がDMCファンみたいで、DMCと互角だったバンドなら絶対に凄いってごり押ししたらしいですよ」

「世間は狭いわね」

 

 ルパの言葉に智は不満げな顔を見せる。自分達の実力で勝ち取ったと思ったら、実はDMCのおかげだったなんて釈然としない。

 

「DMCのせいで苦労したし迷惑料としてもらっておきましょう」

「そうそう、貰えるもんはもらっておかないと」

「それで今日は大一番だ、どうやって爪痕を残す?」

「SATSUGAIでも歌いますか?」

 

 ルパの提案に笑いが起こる。確かにインパクトはあるが、あんな反社会的な歌詞を歌えば出禁だし築き上げたイメージが崩れる。

 

「普通に演奏して歌いましょう。それで爪痕を残せます」

 

 仁菜は胸を張って自信満々に言う。DMCとの対バンを経て自分達の音に対する自信がついた。大丈夫、絶対に爪痕を残せる。

 その言葉に4人は頷く。きっと爪痕を残しメジャーデビューし、ダイヤモンドダストに負けていないと証明できる。

 

「トゲナシトゲアリさん、準備お願いします」

 

 スタッフの声がけに一同は控室からステージに向かう。本番前だがすでに客がある程度集まっている。この順番と前評判を知り期待した一見の客が集まったのだろう。

 

「今日はDMCのライブのついでに来てやったぞ!」

「ショボい演奏したら殺害するぞ!」

「お前らがクソだとDMCまでクソだと思わるんだぞ、死ぬ気でやれ!」

 

 ステージに上がった5人は苦虫をかみつぶしたような顔を見せる。黒髪ロングにスキンヘッドに右目周辺タトゥーに小太りの女、あれはDMCのファンだ。

 彼らの言う通りDMCのライブ帰りかライブ前だから来たのだろう。その雰囲気に他の客が若干引いている。

 トゲナシトゲアリの評価を上げたのは間接的にはDMCファンのおかげだった。彼らが噂してくれたおかげで名が知られた。

 そしてDMCとトゲナシトゲアリのファンを兼任する者も現れ、これはある意味DMCファン達に爪痕を残したことでもある。

 

「ルパ!ジャギ様みたいに火を吹け!」

「桃香!歯ギターしろ!」

「智!そこらへんの客を豚代わりにしろ!」

「すばる!あのエロイ声頼むぞ!」

「仁菜!SATSUGAI歌え!」

 

ゴートゥートゲトゲ!ゴートゥートゲトゲ!

 

 DMCファン達の言葉と独自のコールに周囲から騒めきが起こり、5人は思わず苦笑する。そんなデスメタル的な行為はしていないし演奏もしない。特にSATSUGAIを歌えとうるさく、仁菜が「せからしか」と一蹴する。

 

「今日はどうしようもないけど、これからこいつら出禁する?そもそもゴートゥートゲトゲって何?トゲトゲに行くってどういう意味?」

「でも一応は客だし、まあギリギリ迷惑かけてないしな」

「またあの時の話を掘り出してきて、証拠映像や音源が無いから誤魔化せてるけど。そろそろ名誉棄損で訴えようかしら」

「でも何か肩の力抜けました」

「私も緊張が解れました。あの時と比べれば遥かに恵まれて怖くないです」

 

 5人の脳内でかつての映像と心境が蘇る。誰にも理解されず誰一人味方がいない状況でのライブ、そして相手はDMC、下手したら完膚なきまでに潰されて音楽を辞めていたかもしれない。まるで地獄みたいだった。それに比べればどんなライブでも天国で楽勝だ。

 

「じゃあ、あの時みたいに爪痕残しましょう」

 

 仁菜が小指を立てると皆は小指を立て指を合わせた。

 




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