「ほら、水」
「あ、ありがとう」
俺は咲季を連れて飲み屋を出た後、近くのコンビニで水を買い咲季に渡した。
「まさかあなたとこんな所で再会するとは思わなかったわ」
「俺もだよ。まぁ、お前も今は酒呑める歳だしな。行きつけの飲み屋で会うとは思わなかったが、お前あんなに酔うまで飲むって何があったんだよ?」
「久しぶりに会って最初の質問がそれなの?あなたも相変わらずのようね」
俺は座りながら水を飲む咲季の横に座った。
聞きたい事なんていくらでもある。
とある事で、俺達はもう10年以上も会っていなかったのだから。
「質問・・・か。聞きたい事があり過ぎるぐらいだ」
「そう・・・わたしもよ」
「なぁ、咲季?」
「何?」
「咲季は今でも、アイドルをしているのか?」
「!!!!」
俺の質問に対して、咲季が少し驚いた様に見えた。
でも咲季は俺に答えた。
「え、ええ、勿論してるわよ。だってわたしは初星学園の入学試験で首席だったのよ。そんな私がアイドルを辞めるなんて、ファンや芸能事務所も黙っていないでしょ」
「そうだな。お前は優秀なアイドルだった」
「そうでしょ!!相変わらず褒めるのも上手いのね」
「(別に褒めたつもりはないが・・・)」
「プロデューサーは、今は何してるの?」
「もうプロデューサーじゃないから◯◯でいい。俺は今はしがない会社員だ。プロデューサーの道はもう諦めた」
「・・・そう、諦めたのね。だからあなたは・・・」
「どうした?」
「ううん、何でもない。わたし、あなたと再会して一気に酔いが覚めたみたいだからもう帰るわ」
「家何処だよ?そこまで付き添うよ。夜道は危ないからな」
「大丈夫だから!!」
突然大きな声を出した咲季に驚く俺。
そんな俺を見た咲季は、
「ごめん、わたしったら大声出して。でも、本当に大丈夫だから」
「そうか。まぁ、気を付けて帰れよ。お前も酒呑んでるんだからな」
「あなたもね、◯◯。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
そう言ってその場から去っていく咲季の姿を、俺は彼女の姿が見えなくなるまで見つめていた。
「(何で今更わたしの前に現れたのよ!忘れようと思っていたのに・・・)」
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翌日、俺はまたあの飲み屋に来ていた。
俺は気になっていたのだ。
咲季は本当に今でもアイドルをしているのだろうか。
咲季程のレベルなら、卒業後には色んな事務所がスカウトに来たであろう。
だけど、彼女の活躍は一度も耳にした事はない。
それに、まだアイドルを続けていると言った彼女は何処となく様子がおかしかった。
だから直接本人に聞こうと思った。
だけど、今日は咲季の姿はなかった。
「なぁ、◯◯さん?もしかしてあの子を待ってるのかい?」
「ああ、気になる事があったからな」
「気になったんだが、あの子は◯◯さんの担当していたアイドルだったんだよな?昨日の様子だと、随分と久しぶりのように見えたが、あんた達何かあったのかい?」
「・・・ああ、あったよ。忘れられない程の事がな」
すると、誰かが店に入って来た。
若い女性のようだ。
「噂をすればあのお嬢さんか?いらっしゃい、ってあれ?あんたもしかして・・・」
「すみませ~ん、まだお店って空いてますか?」
「佑芽ちゃん?」
「えっ?もしかして◯◯さん?」
店に入ってきたのは、昨日テレビでインタビューを受けていた人物、花海佑芽だった。
俺に気付いた佑芽ちゃんは、俺の隣の席まで駆け寄って来た。
「お久しぶりです、◯◯さん!元気にしてましたか!?」
「あ、ああ。何とか元気にしてたよ。佑芽ちゃんは、この店によく来るのか?」
「いえ、実はさっきまでお姉ちゃんの所にいたんです。お姉ちゃんも誘ったのですが、お姉ちゃん昨日呑み過ぎたみたいで。◯◯さんがいたのに残念だなぁ」
「いや、昨日偶々この飲み屋で咲季に会ってるから大丈夫だよ」
「そうなんですか?お姉ちゃんそんな事一度も言わなかったから知りませんでした」
その後、俺は佑芽ちゃんと一緒に酒を呑み、暫くの間色んな話をした。
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「すみません、バス停まで付き添っていただけるなんて」
「いいよ、夜道は危ないからな」
「(相変わらず優しいな、◯◯さんは・・・)」
飲み屋を出た後、俺は佑芽ちゃんとバス停まで付き添った。
彼女曰く、住んでいる場所は此処から遠いのだが、ちょくちょくこうやって姉である咲季に会いに来ているそうだ。
昔と変わらず、仲の良い姉妹のようだ。
「それにしても凄いな、佑芽ちゃんは」
「えっ?何がですか?」
「いや、昨日テレビでインタビュー受けてるの見たからさ。咲季の背中をがむしゃらに追っていた佑芽ちゃんが、今や色んなアイドル達をプロデュースするプロデューサーなんだから」
「いえ、そ、そんな事ないですよ////そういえば、◯◯さんはもうプロデューサーの道へは進まないんですか?」
「うん。もう年齢も年齢だし、それに・・・俺はもう必要ないだろうしね」
「・・・そうですか。◯◯さんがそう決めたなら、それでいいと思います。だけど・・・」
「だけど?」
「い、いえ、何でもありません!気にしないでください」
佑芽ちゃんが何か言おうとした気がしたが、俺は追及しなかった。
そんな俺に、佑芽ちゃんがまた質問した。
「◯◯さんは今、ご結婚はされてるんですか?」
「結婚?いやいや、俺は結婚なんてしていないよ。ましてや恋人だっていないんだから」
「恋人でなくても、好きな人もですか?例えば、お姉ちゃんとか」
「えっ?」
俺は佑芽ちゃんの言葉を聞いて、その場で立ち止まってしまった。
俺は咲季の事が好き。
それは過去の事を知っている佑芽ちゃんだから言える事だった。
「俺が・・・咲季の事を?」
「・・・はい」
「・・・好きだったよ。人としても、担当するアイドルとしても、そして・・・一人の女性としても」
「・・・・・・」
「だけど、今は自分でも分からない。というか、怖いんだ。誰かを愛する事が・・・」
「そうですか・・・分かりました。◯◯さん、付き添っていただきありがとうございます。もう此処まで来れば大丈夫ですから」
「えっ?でもまだバス停までは」
「いえ、これ以上付き添ってもらうのも悪いですから」
「あ、ああ、分かった。気を付けてね」
そう言って去って行く佑芽ちゃんの表情は、何処か寂しげに感じた。
まるで、何か言いたい事があったかのように・・・
「(◯◯さんのいくじなし!あなたはそんな人じゃなかったのに!何でそんなに弱気になったんですか!?◯◯さんも、お姉ちゃんも・・・やっぱり、あの事が原因ですか!?)」