「(佑芽ちゃん、何か言いたげだったな)」
俺は帰り道でさっきの佑芽ちゃんの事が気になっていた。
彼女は俺と咲季の昔を知っている。
切磋琢磨していた頃の俺と違う頃に失望したのかもしれない。
事実、今の自分はちっぽけな人間だからだ。
「(今の俺って、本当に何者なんだろうな)」
そう考えながら歩いていると、男性と女性の痴話喧嘩が聞こえてきた。
「(喧嘩出来るような相手がいるだけ幸せだな。まっ、俺は関係ないから関わらないでおこうと・・・ん?何か聞き覚えのある声だな)」
聞き覚えのある声に耳を立てていると、その声の主が分かった。
「(この声、咲季じゃねぇか。誰と話してるんだ?)」
「しつこいわよ、あんた!!もうわたしに関わらないで!!」
「まだそんな事言ってるのかよ!!僕はこんなに好きなのに!!」
「わたしがあんたの事なんて好きになる訳ないでしょ!!いい加減にしないと警察呼ぶわよ!!」
「なんだと!?人が下手に出ていれば偉そうな事言いやがって!!」
「きゃあッ!!!!」
男は咲季に殴りかかろうとしたが、そんな男の拳を俺は受け止めた。
「やめろ。この子に何の様だ?」
「えっ?プロ、いや、◯◯?」
「何だお前は!?関係ねぇだろ!?」
俺は男の腕を掴んで、力いっぱい握りしめた。
「いてててッ!!離しやがれ!!」
「だったら二度と近づくな!!近づいたら、分かってるよな?」
「分かった分かった!!もう近づかないから許してくれ!!」
俺が腕を離すと、男は一目散に逃げていった。
「咲季、大丈夫か?」
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ」
「おい、咲季!?どうした!?」
「はぁ・・・ごめんなさい・・・わたしの・・・せいだ・・・置いてかないで!!」
ひどい過呼吸、それにパニック障害にも陥っている。
俺は咲季を落ち着かせようとした。
「大丈夫だ、咲季。もうあいつはいない」
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ」
「(落ち着きそうにないな。此処からじゃ病院は遠いし、佑芽ちゃんの連絡先も知らない且つ咲季の住んでる場所も知らない。仕方ない、俺の住んでるアパートに連れていくしかないか)」
俺は咲季を抱え、自分が住むアパートまで連れて行った。
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「ひどい過呼吸、パニック障害にもなっていたな。それに、置いてかないで・・・か」
咲季を自分のベッドに寝かせた俺は、落ち着いて眠る咲季を見ながら考えていた。
咲季は置いていかないでと言っていた。
その時の咲季は、誰かに無慈悲に捨てられた猫のように怯えていた。
「咲季、お前も俺と一緒なんだな」
暫くすると、
「う、うーん」
「咲季、起きたか?」
「あれ?◯◯?此処は?わたし、あいつに襲われそうになって、それで」
「お前、あの後過呼吸になったんだよ。それにパニック障害にも。此処から病院も遠かったし、お前の住んでる場所も知らないからとりあえず俺の住んでるアパートに連れて来たんだよ」
「そうだったんだ・・・また、あなたの世話になっちゃったわね」
「気にすんな。それより大丈夫か?」
「うん。眠ってたからかな。今は落ち着いたわ」
「そうか、なら良かった。今日はもう遅いから泊まっていけ」
「えっ?そんな、悪いわよ。それにわたしは・・・」
「アイドルだから、男の部屋にいるのは不味いか。もういい、本当の事を話せ。お前、もうアイドルじゃないんだろ?」
俺は咲季がアイドルじゃない事を知っていた。
正確に言えば、飲み屋で佑芽ちゃんから聞いたのだ。
「どうしてそれを?」
「佑芽ちゃんに聞いた」
「佑芽?佑芽に会ったの!?」
「ああ、俺の行きつけのあの飲み屋でな」
「・・・そう」
「辞めた理由は聞いちゃいないが、出来ればお前には続けて欲しかったよ。アイドルとして一番になる事が、お前の夢だったから」
俺がそう言うと、咲季は下を向きながら何か言いたげに呟いていた。
その表情は下を向いていても分かるぐらい怒っていた。
「続けて欲しかった?お前の夢?そんな事、あなたに言われなくても分かってるわよ!!」
「咲季?」
「わたしだって、アイドルを続けたかったわよ!!だけど、わたしには無理だった。何でか分かる!?あなたが、わたしの前からいなくなったからよ!!!!」
「咲季、落ち着け!!お前は知ってるだろ!?俺があの出来事以降、やりたくてもプロデューサーを続けられなかった事を!!それに、俺が咲季のプロデューサーじゃなくても、お前には才能があった。だから俺は!!」
「そういう事じゃない!!わたしは......わたしは!!あなたじゃないと駄目だったのよ!!!!」
そう言って部屋から飛び出そうとする咲季。
俺はそんな咲季を止めようとするが、
「おい、待て!!もう夜もふけてるし、一回ゆっくり話そう」
「離してよ!!あなたはもう、わたしのプロデューサーじゃないんでしょ!?ならほっといてよ!!もう、わたしとあなたは関係ないんだから!!!!」
「待て、咲季!!」
目に涙を浮かべながら、勢いよく部屋を飛び出していく咲季。
こういう時、普通なら咲季を追いかけるのが正解なのだろう。
だけど、俺はそれが出来なかった。
本当に、俺はちっぽけな男だ。
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~10年以上前~
「あら、プロデューサー科の人がわたしに御用?」
「花海咲季、あんたをプロデュースさせてくれないか?」
「随分と上から来るわね。そんな感じでスカウトしてくる人は初めて見たわ」
「そうか?」
「まぁいいわ。じゃあ、あなたに質問ッ!なんでわたしをプロデュースしたいの?」
「そうだなぁ、可愛いからか」
「わ、わかってるじゃない!」
「後は、綺麗だしスポーツも出来るし成績優秀だし、それから・・・」
「ちょっ、ちょっと待ちなさい!いきなりそんなに褒める人いる?さすがに照れるじゃない////」
「後は・・・」
「ちょっと待ちなさいって!」
「そうやって褒められると、分かりやすい程心が読める所だな。ようするにチョロいって事だ」
「ちょっと褒め過ぎよ!わ、分かってるけど~!って、あなた今チョロいって言った!?チョロいって言ったでしょ!?」
「ああ、言った」
「なんですってぇぇぇ!!!わたしのどこがチョロいの!?」
「いや、だからそうやって褒められたりしたら・・・」
「きぃぃぃぃぃっ!!何度も言わなくてもいいわよ!あなた、入学試験で首席だったわたしにそんな感じで来るなんて良い度胸じゃない。気に入ったわ!あなた、わたしのプロデューサーになりなさい!」
「いや、だからそれが理由であんたをスカウトしたんだが・・・」
「わたしのプロデューサーになるんだから、私を必ずトップアイドルにしなさい!これからよろしくね、プロデューサー」
「ああ、まぁ、◯◯という名前なんだが、よろしくな」
「これから忙しくなるわよ、プロデューサー!未来のトップアイドルであるこのわたし、花海咲季の時代が来るんだから!」
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「うっ......ぐすっ......プロデューサーの馬鹿!!あなた、あの時言ったじゃない!!わたしは褒められたりすると、分かりやすい程心が読めるって......なら読んでみなさいよ!!わたしの心を......わたしはあなたと、トップアイドルを目指したかった......なのに......なのにあなたは......なんでわたしの前からいなくなったのよ!!......あなたがいなくなるぐらいなら......わたしも一緒に行きたかった...... はぁ......はぁ......また発作が......いなくなったなら......もうこのまま会えないままの方がよかった......再会しても辛いだけじゃない!!忘れたくても忘れられない......わたしの気持ちはどうなるのよ!!......◯◯」