【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ   作:12club

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序章
始まりは銀世界で


side:悠莉

 

 その場にジッと座って、どれくらいの時間が経っただろう。

 寒風と共に雪が吹き荒び、背にしていた廃墟の建物は白く、冷たく、まるで氷のよう。

 

 腕時計を見やる。

 内部電池式のデジタル仕様で、時間は一分の狂いも無いはずだ。

 9月27日、23時45分。

 時計を信じるなら、今は秋の只中(ただなか)だ。

 

 にもかかわらず、この雪に覆われた廃墟とその周辺は銀世界を(いろど)っている。

 

 どうしてこんなことになってしまったのだろう。

 

 残暑も残る気候で、着ているものは下着のシャツと簡素なジャケット、ズボンもジーパンだ。

 少なくともこんな雪景色を(のぞ)むのには不恰好だとしか言いようがない。

 致し方ない。

 さっきまで見ていた風景は、薄汚れた廃トンネルと、それに絡み付くように紅葉が生い茂った樹木ばかりだったのだから。

 

 分からない。どうしてこんなことになってしまったのか。

 不安がよぎる。

 

 でも涙は流れなかった。

 泣き言はいくらでも出るのに、泣くことは心が拒否している。

 あまりにも常軌を逸した出来事に、心も頭も面食らってしまっているのだ。

 幼心(おさなごころ)にそう思った。

 

 隣で、ぎゅっと手が繋がれる。体温を感じる。

 

「ねえ、悠莉(ゆうり)

 

 その声に顔を向ける。

 彼女もまた、泣き言を恥じ入るように。

 いや、元からそんなものは持ち合わせていないかのような、平坦な口調だった。

 

「どうしたの、愛莉(あいり)

 

 対する自分の声もまた、平易で平らな口振りだった。

 

 いや。

 それでもわかってしまった。

 

 強がりでも呆気に取られていたわけでもなく、自分たちはこの状況に適応しきれていなかっただけなんだ、と。

 事実、彼女の名前を呼んでから、ざわざわと不安が顔をのぞき始める。

 

 彼女が握る手が、少し強くなった。

 

「これから、どうしたらいいのかな」

 

 愛莉が不安げな声音で、尋ねる。

 そんなこと、自分にもわからない。

 

「こんな所にいたら、凍死しちゃうよ」

「わかってるよ」

 

 愛莉が涙交じりの声で、ぽつぽつと言葉を(つむ)ぐ。

 それくらいはわかる。

 こんな吹雪の中、何もせずにジッとしていたら、愛莉の言う通り雪に覆われた哀れな凍死体になってしまう。

 

「人のいる所に、行かなくちゃ」

 

 愛莉の言う通りだ。だけど。

 

「どこにどう行けばわからないだろ」

 

 それを聞いた愛莉が泣き顔を隠すこともせずに、泣き声のように大声を上げた。

 

「こんな所にいてもイイことなんて絶対ないもん! このままじゃ死んじゃうよ……。悠莉はそれでイイの?」

「イイわけないだろ……。でも、もしかしたら助けが来るかもしれないし……」

「来るわけないでしょ! こんな誰もいない廃墟に、誰が来るっていうのさ!」

 

 至極もっともだ。

 だけど、そう。

 自分はそれを実行しようとしない。

 

 もしかしたら、とうに目の前に広がる死の景色を、果たして受け入れているのだろうか。

 そうなら、なんて残酷。

 

 隣に座る愛莉を抱きすくめるように、腕を彼女の肩に、手を頭に抱く。

 ポンポンと頭を撫でてやって。

 

「そうだよな、愛莉。おまえの言う通りだよな」

 

 自分もまた泣きそうになる。

 でも、弱気な愛莉を支えてやるように、精一杯の強がりでもって。

 

「行こう、愛莉」

 

 繋いだ手を引くように、立ち上がる。

 愛莉もまた、ぐすんと鼻を鳴らしながら立ち上がった。

 

「どこにどう行けばなんて分からないけど、こんな所で死ぬなんて冗談じゃないもんな」

 

 歩くと、靴が雪を踏みしだくざくりという音が聞こえる。

 靴がびしょびしょだ。

 それだけじゃない。身に着けた衣服も吹雪にあおられて濡れそぼっている。

 あのまま座り込んでいては、本当に凍死しかねない。

 

 ざくりざくりと、雪を踏みしだいて。

 愛莉と一緒に背後の廃墟を背に進んでいく。

 

 

 

 

 

 発端は何だったか。

 小学校3年。オレと愛莉が9歳の時分(じぶん)

 同級生の間で、まことしやかに囁かれている噂があった。

 

 町のはずれにある廃トンネルに、お化けが出るとかいう噂だ。

 

 自分はお化けの存在なんて信じないし、愛莉も同じだ。

 でも周りの連中はそうではなかった。

 と言うより、噂の真偽はどうでもよく、怖さと物珍しさに眼をキラキラさせてはしゃいでいた。そんな感じだ。

 

 オレたちはそんな噂こそどうでもよかったけど、同級生のターゲットがオレたちに向けられた。

 

 揃ってオレたちは、そんなこと興味がないと突っぱねていたけど、どうもそれが(かん)(さわ)ったらしい。

 「どうせ怖くてそんなこと言ってるだけだろ」とか、「だったら行ってスマホのカメラで撮影してこいよ」とか。

 どうもオレたちが怖がっているという噂が先走りし過ぎて、同級生の間で広まったらしい。「あいつらは臆病者だ」と。

 

 今度はそれがオレたちの癇に障った。

 

 じゃあ行ってきてやるよ。吠え面かくなよ。

 

 ついついそんなことを言ってしまって、実行したのが間違いだったのだろうか。

 

 スマホのライトを頼りに、オレと愛莉は廃トンネルに向かった。それが9月27日。出発は23時頃。

 夜を選んだのは、その方が格好が付くからだと思ったからだ。

 

 廃トンネルに辿り着き、一切の灯りが無くなった景色は不気味に彩られていた。

 トンネルの入り口にまとわりつく紅葉の樹木は、風でガサガサと音が鳴り、トンネルは地獄の入り口であるかのように大きな(あぎと)を開いている。

 

 オレたちはトンネルに足を踏み入れた。

 

 なんてことはない。

 外の木々はただの紅葉を風で音を鳴らしているだけだし、トンネルも入ってすぐに外に出られるよう口を開いたままだ。

 歩いていると、出口が見えてきた。小さなトンネルだ。

 いざやと外に出ると。

 

 景色が、変わった。

 

 身を切るような冷たい空気と、凍り付くような冬の風。

 

 一瞬、目を疑った。

 まるで、別世界の冬にやってきたのではないかというくらいに。

 

 結論から言おう。

 お化けはいなかった。

 しかし、異世界に通じる道はあった。

 

 ここは危ない。

 すぐに離れないと。

 そう思った時には、全てが遅すぎた。

 

 背後にあった出口は、なかった。

 代わりにあったのは、古びた廃墟の建物。

 入り口はなく、ただ石の壁が建っているだけだ。

 一体、どうなって……。

 そう思った時には、へなへなと雪の積もった地面に座り込んでしまった。

 

 そうして悟った。

 もうオレたちは、どこへも行けないのだと。

 

 

 

 

 

 廃墟を後にして、1時間ほど歩いたか。

 幸いなことに、廃墟に通じる路面は生きていた。

 これを辿っていけば、人のいる所に出られるはず。

 それが数分か、数時間か、数日かは定かでなかったけれど。

 

 吹雪の寒さに身を切られて、どんどんと疲労がたまり、体から熱を奪っていく。

 オレより先に、愛莉がダウンした。

 

「ちょっとだけ休もうか」

「ゴメン……悠莉」

 

 不思議なことに、寒さは(やわ)らいでいた。さっきと比べてほんの少しだけ、だけど。

 理科だったか世界史だったかの授業で習ったことがある。

 日本は島国柄、位置的にも季節がキレイに分かたれている国だけど、他の国では年中が夏だとか、季節に関係なく冬の季節だとか、そういった所があるらしい、と。

 さっきの廃墟の周辺はそんな所だったのかな。

 などと、暢気(のんき)なことを考えていた。

 

 木にもたれ掛かって休んでいると、隣に座っていた愛莉が自分の肩に体を預けてきた。

 

 ハッとする。

 

「おい、愛莉! しっかりしろ、寝たら冗談抜きで死ぬぞ!」

 

 ペシペシと愛莉の頬を叩いて覚醒を促す。

 むにゃ、と気付いたように目を覚ます愛莉。ただ、その体はどこまでも冷たくて。

 

「くそっ!」

 

 思わずオレは。

 

「誰か! 誰かいませんか! 聞こえる人! 誰か助けてください!」

 

 そう叫んでいた。

 しかし、そんなことが上手くいくこともなく、反応なんてなくて。

 そう思っていた。

 

 雪道を、ざくざくと歩く音が、聞こえた。

 目を凝らしてその方向を見やる。

 吹雪の中、視界もおぼつかなかったかったけど、、その影は確かに見えた。

 

 近付いてくる。

 まだ小さな影だったけど、オレの眼に間違いがなければ、それは何かの動物だった。

 鳥のような大きな(くちばし)に羽根に覆われた黄色い毛並み。

 まるで鳥の姿をした馬だった。

 

 それが自分の元へと近付くと、鳥に乗った時代錯誤な衣装を身にまとったおじさんが声をかけてくれた。

 

「きみたちかね? 先ほどの大きな声を上げたのは」

 

 オレが真っ先に思ったのは「助かった、助けが来た」だった。

 

「オレの妹が死にそうなんです! すみません、助けてください!」

 

 おじさんは(あご)に手をやると、ふむ、と一拍置いた。

 

「それは良くないな。きみたちの家へ送ろう。どこに住んでいるんだい?」

 

 オレは、うっと息を詰まらせる。

 家なんて、ない。帰る家への道は閉ざされている。

 

「家は……ありません」

「神隠しにでもあったのかな。それは大変だ」

 

 そう言って、おじさんは鳥を操って背を向けた。

 

「乗りたまえ。お嬢さんの容態が心配だ。ひとまず私の屋敷へ送ろう」

「ありがとうございます! その、えーっと……」

「む……、ああ、そうか」

 

 ゴホン、とおじさんは咳をついて。

 

「私はバルバネス。バルバネス・ベオルブだ」

 

 そう名乗った。

 

 

 

 そうして、9歳のオレたちはバルバネスおじさんに拾われた。

 この偶然が運命だとしたら、神様にお祈りするのも捨てたもんじゃない。

 

 

 

 ベオルブ家の客分として厄介になって、オレと愛莉はおじさんの(もと)で新たな生活を始めた。

 

 

 

 7年後、時は白羊の月。

 

 オレと愛莉は16歳になっていた。

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