【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ   作:12club

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エルムドア侯爵救出

side:ユーリ

 

 アルガスの捕虜尋問の――というより拷問だったが――成果として、エルムドア侯爵と、そして骸旅団の頭目ウィーグラフの所在が明らかになった。

 場所はゼクラス砂漠。

 貿易都市ドーターを北に向けて、ルザリア地方に差し掛かる手前の秘境。

 昼間の灼熱と夜の極寒に覆われるこの地に意図なくして訪れる者などいない。

 が、しかし今回はそうもいかない。

 今時分は灼熱の太陽が、オレたちを上空と地上の両方から両面焼きのハムエッグにしようと照り焼き大サービスを食らわせてくれるが、夕刻を待っている暇はない。

 今にもウィーグラフがエルムドア侯爵に近付こうとしているのだ。

 侯爵の身を案ずるなら、立ち止まっているわけにはいかない。

 よって道程を急がねばならないが、前にも言った通り、行きました遭難しました、では済まされない。準備が必要だ。

 

「ラムザ、とりあえず人数分の外套は用意した。飲料水も準備できてる」

「ありがとう、ユーリ。後は……、砂漠を迅速に移動するための、大きめの荷馬車か」

「侯爵を運ぶに足りるだけの馬車なら、この町で十分に用意できるだろ」

「それもそうか……。水に外套、馬車が用意出来次第、侯爵救出に向かおう」

「携帯食もな」

 

 下準備というのは面倒な上にやたらめったら時間を食う。

 縁の下の力持ちと言えばそうなのだが、これをラムザひとりの采配でこなすには限度がある。

 そのために動くのがディリータでありアイリであり、オレたちの役割だ。アルガスは……、客分の身だからあまり使えないというのがもどかしい。

 

「おい、ユーリ」

 

 荷馬車で荷物の確認をしていると、オレの後ろからアルガスの声が聞こえた。

 

「まだなのか? 今こうしている間にも、ウィーグラフが侯爵様の元に向かっているんだ。いったいいつまで準備にかかずらっている気だ」

「へいへい……、今もこうして急いで準備しているんで、アルガスさんにおいては邪魔しないようにお願いします」

「あんまり時間がかかるようならオレはひとりでも行くぞ。一人分の準備くらいは終わっているんだろうが」

「馬車の調達がまだなんだよ。身一つで侯爵を担いで帰るつもりか?」

「……チッ」

 

 舌打ち一つして、アルガスがオレの元から去っていく。

 やきもきするのは勝手だが、邪魔はしないでもらいたい。

 

 ひとまず馬車以外の準備は完了した。ディリータが言ってたんだから間違いない。

 そのディリータはアイリと一緒に、馬車の確保に向かったはずだ。

 

 案の定、ふたりはチョコボ馬車の卸売市場にいた。

 

「よう、おふたりさん」

 

 オレはふたりに声をかけて、手を振ってやる。

 

「ユーリ?」

「用意は順調か?」

 

 ディリータがやれやれと肩をすくめた。

 

「今は商売の書き入れ時なんだとさ。上等な荷馬車は商人があらかた手を付けてて、なかなか相応のやつが見当たらないのが現状だ」

「道理で。ディリータが担当している割には時間がかかっているわけだ」

「これに関しては面目ないとしか言いようがない」

「アルガスがせっつくんだよ。で、だ」

 

 オレはアイリに視線を向ける。

 

「アイリ、悪いけどアルガスのこと、構ってやってくれないか。あいつもおまえの言うことなら何故か渋々聞いてくれるみたいだし、話し相手にでもなってやってくれよ」

「私が? 別にいいけど」

「頼んだぜ。ここはオレとディリータで担当するから」

「むぅ。わかった」

 

 「それじゃ」と手を振ってアイリがオレたちから離れていく。

 多分、今オレたちが拠点にしている宿屋にでも帰るだろう。

 アルガスがその辺をぶらついていれば、の話だが。

 

 ディリータが感じ入ったように軽口を叩いた。

 

「アイリのやつ、よくアルガスの手綱を手に取ったもんだな」

「そういうおまえはラムザを抑えるのは大変か?」

「かもな。だからこうして、馬車を見繕うのにも難儀している」

「お互い重いもん背負っちまったな」

「まったくだ」

 

 言い合って、オレたちはからからと笑った。

 

 それなりの荷馬車を用意出来た頃には、既に太陽が真上に位置する頃合いだった。

 

 

 

 

 

 ガタゴトと揺れるチョコボ馬車を歩かせながら、我ら士官候補生もゼクラス砂漠への道をそれなりの速度で急ぐ。

 太陽が風をも熱風と化してオレたちを焼きながらせっついてくるものだから、足取りは軽くない。

 これなら骸旅団相手に戦闘でもしていた方がマシだ。

 戦いの空気は、何もかもを忘れさせてくれる。

 

「見えたぞ。あれだ」

 

 妄想に耽っているオレに、ディリータが遠眼鏡(とおめがね)で見つけたことを合図した。

 ディリータからそれを受け取り、オレもその位置を確認する。

 砂漠にひとつ、ぽつんとした廃墟。

 オアシスも既に枯れてしまっているようで、無人の廃墟となっているのは簡単に察せられた。無論、賊どもにとっては良い隠れ家となっているということも。

 

「ディリータ、ラムザに知らせてきてくれ」

「了解」

 

 オレは馬車から飛び降り、チョコボの足をさらに緩めた。

 ディリータに呼ばれたラムザが、馬車から顔を出す。

 ラムザに遠眼鏡を渡して、廃墟を指差した。

 

「静かすぎるな……、衛兵に気付かれても良さそうだけども……?」

 

 ごもっとも。

 エルムドア侯爵を拉致しているアジトとしては、やけに閑散としている。

 

「ここは少数で行こう。ディリータとユーリ、アイリは直掩を。アルガスは背後を確認しながらついてきてくれ」

 

 オレたちは頷き、建物から陰になる所へ馬車を止めて、廃墟へと向かうことにした。

 

 

 

 オレたちを出迎えたのは……。

 

「……ひどいな、これは」

 

 オレは思わず鼻をつまむ。

 血の匂いと、それを垂れ流す死体の山だ。

 まだ新しい。

 どうやらオレたちが危惧した、骸旅団の衛兵らしかった。

 誰かが先んじて、この建物を強襲したのか?

 そして、そんなことが出来るヤツはひとりくらいしか知らない。

 

「侯爵様!!」

 

 アルガスが思わず駆け出そうとする。

 その首根っこを、アイリが引っ掴んだ。

 

「待って! アルガス!」

「待てるか! 凶賊が侯爵様の元にいるんだぞ!?」

「この死体たちを見て。明らかに骸旅団の守備兵たちよ。少なくとも、骸旅団に与する者の仕業じゃないわ」

「危険なヤツには違いない!」

「だから、慎重かつ大胆に進めって言ってるんでしょうが! 無謀な突進はやめなさいっての!」

 

 建物の構造はそう複雑ではない。一本の通路に、その脇で部屋に繋がっているらしき扉が見える。

 が。

 転がっている死体のどれもが、部屋の中には誰一人潜んではいないことを主張していた。

 

 オレたちは足を速めた。

 

 通路の最奥、大きな扉が行方を阻んでいる。錠前は壊されていた。

 先頭を行くディリータが、扉を蹴り開ける。

 

 そこには、ひとり佇む騎士と、多数の盗賊の死体。

 そして倒れたエルムドア侯爵がいた。

 

「侯爵様!!」

 

 アルガスが叫ぶ。

 

「ウィーグラフ!」

 

 ラムザが叫ぶ。

 

 先に動いたのはふたりのどちらでもなく、剣を侯爵にかざしたウィーグラフだった。

 

「動くな!!」

 

 ウィーグラフが、オレたちを制した。流れを掴まれた。

 

「貴様ッ!!」

 

 オレたちはその場に縫い留められたように、身動きが取れずにいた。

 怒りに燃えるアルガスだったが、それに対してウィーグラフは冷静な口調で口を開く。

 

「侯爵殿は無事だ。連れて帰るといい」

「どういう意味だ?」

 

 ウィーグラフの言葉に、訝し気な気配を隠すことなくラムザが問い返す。

 

「侯爵誘拐は我々の本意ではない。我々、骸騎士団は卑怯な手段は使わないのだ」

 

 じり、とウィーグラフが動く。

 それだけで、オレは心臓が跳ねるような心地を覚えた。

 何か一つでも間違えば、オレたちは殺される……!

 そして逆に考える。

 ヤツを殺すには、どうすればいいのか。

 

「このまま私を行かせてくれれば侯爵は無事に返すが、どうだね?」

 

 その言葉に、アルガスが吠える。

 

「ふざけるな! 貴様ひとりでオレたちに勝てると思っているのか!?」

 

 飛び出さんとするアルガスを。

 

「やめろ、アルガス! ヤツは本気だ!」

 

 ディリータが制した。

 

 じりじりと、壁を這うようにオレたちは侯爵の元へと向かう。

 反対に、ウィーグラフも同じ動きで出口へと向かう。

 

 不意に。

 エルムドア侯爵が小さく呻き声を上げた。

 

 反応するラムザたち。

 そしてその一瞬の隙を突いて、ウィーグラフが出口へと走った。

 

 アルガスと、そしてオレはウィーグラフの背を追った。

 なぜそうしたのか、オレにもわからなかった。

 

「行かせろ! アルガス、ユーリ!」

「何故止める! 千載一遇(せんざいいちぐう)のチャンスだぞ!!」

「放っておいても骸旅団は壊滅する! わざわざ危険を冒す必要はない!」

「ぐっ……」

 

 ディリータに対して、反論できなかったアルガスはその場に立ちすくんだ。

 

「ユーリもだ。目の前の功に逸るとは、おまえらしくもない」

「……すまん、ディリータ」

 

 オレは一言、侘びを入れてディリータに頭を下げた。

 

「……大丈夫、気を失っているだけだ。外傷も見当たらない」

 

 ラムザがエルムドア侯爵の身を検分したところ、どうやら無事なようだ。

 

 ミッションコンプリート。

 この上ない成果だ。

 なのに。

 

 なんでオレはあの時、ウィーグラフを追おうとした?

 アルガスの気持ちは、わかる。

 こいつの仲間は骸旅団に皆殺しにされている。

 その仇の、しかも頭領であるウィーグラフを倒すには確かに、千載一遇の機会だった。

 

 オレにはそれがない。

 

 あえて言うなら、ラムザが持つ義侠心(ぎきょうしん)か、ディリータが計るような打算か。

 はたまた、オレたちの将来に対する保険か?

 

 湧き立つ疑念を振り払うように、オレは首を横に振った。

 

「イグーロスへ戻ろう……」

 

 ディリータの言葉に、皆が頷く。

 オレは、うなだれるように首を縦に振った。

 

 

 

 

 

side:アイリ

 

「あ、ユーリユーリー、こっち!」

 

 貿易都市ドーターの宿の前。

 ユーリが疲れたように猫背で歩くその姿を見て、私は大げさに声をかける。

 こっちを振り向いたユーリは。

 

「なんだ、アイリか。上機嫌だな」

「なーんか疲れた顔してるね。それより見てよこれ!」

「これ?」

 

 持っていた厚手の紙、筆跡つきのそれを手渡す。

 

「なんだこれ」

「じゃーん、エルムドア侯爵様からサインもらっちゃった! ちゃんと"アイリへ"って書いてあるでしょ?」

「おまえってやつは……、まあ何を言ってももう遅いけどさ」

 

 色紙を返してもらって、ユーリは後ろを向いてひらひらと手を振った。宿へと向かうらしい。

 その姿がさながら鈍重な亀のように見えて。

 

「どしたのユーリ。なんかめちゃくちゃ疲れてる感じ?」

「ん、あぁ。まあな……」

 

 ふと、ユーリは立ち止まって。

 空を仰いで独り言ちるように語り始めた。

 

「なあ、アイリ」

「ん?」

「オレたちは今まで、何のために戦ってきた?」

「そりゃまあ、生きるため……じゃないかな」

「だよな……。だけどあのウィーグラフを見てから、なんだか疑問が湧いて出て来てさ」

「疑問?」

「今の生活、オレたちは別に困窮はしていないけど、貴族以外の平民は違うだろ? 明日を迎える(かて)もなく、寝る場所にも事欠いて、骸旅団みたいな犯罪者に怯える毎日。それをどうにかしようってのがウィーグラフなら、それをもたらしているのもまたあのウィーグラフなんだよな……」

 

 その言葉ひとつひとつが、空々しく聞こえて、どこか空しい響きとなって伝わってくる。

 

「ユーリ……?」

「で、それと同じく、明日の糧を奪って、寝床をむしり取っているのも今の貴族たち。それをどうにかしようっていうのが貴族なら、同じくもたらしているのも貴族だって思うと、なんかわからなくなってきてさ」

「どうしたのさ、ユーリ。なんだからしくないよ?」

「……そうだな。オレらしくないのは分かってるんだ。けど……」

 

 そう言って、ユーリは首を横に振った。

 

「……ああ、もうやめだやめ! ちょっとした気の迷いだ。アイリはオレの言ったことなんて、気にする必要はないからな!」

「ユーリ……」

「今日はもう休むよ。おまえも無理すんなよ。じゃあな」

 

 一方的に話を打ち切って、ユーリは私に後ろを向けて走り去っていった。

 気にするなって、ユーリは言ったけどさ……。

 

「気にならないわけ、ないじゃん……」

「どうした」

「わひゃぁッ!?」

 

 突然話しかけられて変な叫び声が出てしまった。

 後ろを見やると、ちょいとびびった感じのアルガスが立っていた。

 

「なんだよ、そんなに驚くことねえだろ」

「ごめんごめん、ちょっと考え事してたからさ」

「さっきのユーリのこと、か?」

「見てたの?」

「話は聞こえなかったが、まあな」

 

 仏頂面のアルガスに、私は「ああ、平常運転のアルガスだな」なんて思ってしまって、つい破顔してしまう。

 

「なんだそのツラ」

「ユーリが言ってたんだけどさ、犯罪者が平民の糧を奪っているのなら、それと同じことをしているのも貴族なんじゃないか、って」

「貴族と犯罪者が根っこは同じだってことか?」

「んー、多分そういうのとは違うと思うんだけど」

「いい傾向かと思うぜ、オレは」

 

 ニヤリとアルガスが口角を上げてみせた。その顔の方が犯罪者っぽいよアルガス。

 

「あいつやおまえは立場が特別だからな。平民でも貴族でもない、だからいざ考え始めると中途半端な自分に疑問を持っちまうってもんだ。それでもあいつは犯罪者じゃなく、貴族の側にいようとしている。何故かわかるか?」

「えーっと……、平民を守るため、とか?」

「それもある。だが真に守るべきなのは"貴族が平民を守る社会"そのものってことだ。だからやつは貴族として振る舞う必要がある。明日の糧を手にするためにな」

「平民を守る代わりにご飯を食べさせてもらう、ってこと?」

「そういうことだ。それが、おまえが前に言ったノブレス・オブリージュってやつだ」

「そっか……」

 

 ユーリの考えていることが、私の中でストンと落ちた気がした。

 けど、ユーリはまだ疑問の渦の中にいる。

 その答えを私が押し付けるのは、何か間違っているようにも思える。

 だけど、アルガスは満足気だ。

 

「もう少し年を食ってから疑問に持つかと思ってたが、オレの見込み以上だったな。オレの部下に相応(ふさわ)しい。おまえも将来のことくらい、今のうちに考えとけよ」

「そうだね……」

「で」

 

 アルガスは私の持っている色紙を指差した。

 

「なんだその厚紙」

「あっ、これ? じゃじゃーん、侯爵様のサインもらっちゃった! アルガスの分ももらえるよう頼んであげよっか?」

「なッ、ふ、ふざけんなてめえ! どさくさ紛れになんてことしてやがる!」

 

 顔を真っ赤にして怒るアルガス。

 こんな時がいつまでも続けばいいと、私はそんなことを思っていた。

 

 だからこそ、若い時分ってのは尊い。

 そしてそれが崩れるのもまた同じくらい尊いものだということも、さっきのユーリを見て思ってしまうのだった。

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