【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ   作:12club

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ユーリの葛藤

side:ユーリ

 

 イグーロス城。

 

 オレたちを待っていたのはエルムドア侯爵救出に対する凱旋(がいせん)

 年若い騎士たちの活躍への称賛と羨望(せんぼう)の眼差し。

 

 などではなく。

 

 士官候補生が犯した任務放棄に対するダイスダーグさんの叱責だった。

 

「いったいどういうことだ? 何故ゼクラス砂漠へ行ったのだ?」

 

 オレたちはダイスダーグさんの執務室の中、並んで立たされてその沙汰を待っている状態。バケツ持って廊下に立っていろ、では済まなさそうな展開だ。

 

「黙っていたのではわからん……。応えろと言っている」

 

 イグーロス城警護の任務。

 その任務を放棄して、貿易都市ドーターへ行ってやれ、とザルバッグさんに(そそのか)されました、などとは口が裂けても言えない。

 いわゆる独断専行だ。

 ダイスダーグさんこそがそれを無視することは出来ず、こうして叱責する姿勢を見せなければならない。

 それがベオルブ家の家訓だ。

 

 場の雰囲気を進めようと。

 

「自分が無理矢理ラムザを誘いました」

 

 ディリータが応えた。

 ダイスダーグさんが一瞬、ディリータを見やってラムザに視線を戻す。

 

「そうなのか? ディリータのせいなのか?」

 

 ダイスダーグさんに、というかディリータに抗弁するようにラムザが口を開く。

 

「……いえ、違います。自分の意思です」

「いいえ、ラムザは嘘を言っています。本当は――」

 

 ディリータが言い終わる前に。

 

「僕を庇わなくていい! 命令違反を犯したのは僕の意思だ!」

 

 ダイスダーグさんには滑稽な茶番に見えただろう。もちろん、心証も良くない。

 重々しくダイスダーグさんが口を開いた。

 

「……皆が自分勝手に行動するのなら、何のために法が存在するのだ? 我々ベオルブ家は法を順守する者として皆の模範となって、立ち振るわねばならない」

 

 ダイスダーグさんが、バンっとテーブルを叩いた。その所作に、オレを含めて皆がビクっと体を震わせる。

 

「ベオルブの名を汚すつもりかッ?」

 

 ラムザが深々と頭を下げた。

 

「すみません、兄さん……」

 

 永遠に続くかと思われた、暗く重々しい雰囲気に包まれた執務室に。

 

「もう良いではないか、ダイスダーグ」

 

 ガチャリと、扉が開いた。

 身なりの良い男性――ダイスダーグさんと同じくらいの年齢の御方が入ってこられる。

 オレたちは慌てて――アルガスはちょっと間を置いたが、腰を下げて(ひざまず)いた。

 

「功を焦る騎士たちの気持ちも分かるというもの。かつては我々もそうであった」

「……甘やかしては他に示しがつきませんぞ。ラーグ閣下」

 

 この方はベストラルダ・ラーグ公。

 イヴァリースのほぼ西半分を占めるガリオンヌ地方の領主であり、アトカーシャ王家の王妃ルーヴェリア様の兄君、王家に連なる血筋を引く公爵閣下。

 つまり、このイヴァリースにおけるナンバー2か3に位置するほぼトップのお偉いさんというわけだ。

 

「……そなたがベオルブ家の血を引きし若者か。楽にして良いぞ」

 

 おっしゃられて、ラムザが立ち上がる。

 

「ふむ、良い面構えだ。なるほど、若き日のバルバネス将軍によく似ている」

 

 ラーグ公に視線だけ向ける。

 公は我々をゆるりと眺めて、口を開いた。

 

「士官候補生といえど、その若さと熱意は城の警備などで収められるものではあるまい。ダイスダーグよ」

 

 名を呼ばれ、ダイスダーグさんが小さくため息をつき、重々しく告げる。

 

「……これから騎士団が一斉に敵のアジトを襲撃する。そのひとつをおまえたちに任せよう」

「はっ……」

 

 ラムザが再び一礼するのが視界に映った。

 

「皆の者、下がるがよい」

 

 ダイスダーグさんの指示に従ってオレたちは立ち上がり、腰を曲げて一礼してから執務室を退室した。

 

 懲罰は、つまりそういうことだ。

 盗賊のアジトへの襲撃。

 それは取りも直さず、骸旅団の精鋭を相手に勝利してこいという命令だ。

 失敗は許されない。

 

 重苦しい雰囲気を身にまとわされたままに、オレたちは廊下を歩いていった。

 

 

 

 イグーロス城の庭園。

 ここを歩くのは二度目だ。そもそもイグーロス城自体、あんまり訪れるような場所でもないしな。

 

「あんまり嬉しくなさそうだな、ラムザ」

「そう言うディリータだって、そうだろ」

 

 まあ無理もあるまい。

 士官候補生は一応、ポジションとしてはラムザの同級生だが、ラムザを級長とした部下であるともいえる。

 その部下に「死んでこい」と言うよう命令されたのだから当然だ。

 

「そう気にするなよ。大丈夫、ラムザの指揮する一個師団なんだ。敵は精鋭といえど負けるサマはまったく想像できないな」

「ディリータ……」

 

 沈痛な面持ちのラムザを前に、アルガスがしゃしゃり出る。

 

「何と言ってもオレがいるからな。安心しとけ」

「アルガスも付き合ってくれるのか?」

「当然だ。侯爵様を助け出せたのもラムザたちのおかげだ。この作戦が終わるまでは手伝うぜ」

「ありがとう、アルガス」

 

 遠巻きに、オレとアイリはそれを眺めていた。

 アルガスも当初はいちいち鬱陶しいくらい独断専行が過ぎるやつだと思っていたが、その辺に慣れれば一端の騎士よりもよほど頼りになる。命令をちゃんと聞いてくれればね。

 それに。

 

「? ユーリ?」

 

 訝し気な視線を、アイリはオレに向けた。勘が鋭い。

 

「いや……、なんでオレたちは戦っているんだろうって思ってな」

「またそれ? 聞き流せって言っときながらぶり返して」

「敵だから倒す。それだけならいいんだが、今は犯罪者集団でも根っこは反社会を唱えるアナーキストだろ? 一応、同じ卓について話し合うことは出来ないのかな、って」

「そっか、話し合い……ね」

 

 感じ入ったように、アイリが反復する。

 妙に清々しい顔をしているが、何かあったのか?

 

「ねえユーリ。正義って何だと思う?」

「正義……、正しく義を以て挑む、とか? 字面(じづら)通りに言うなら」

「じゃあ義って何なんだろうね」

「……それがわからないんだよ、オレは」

「今の骸旅団は貴族からも平民からも略奪する悪党。だったらそいつらと戦うのが正義ってもんじゃないの?」

「なら、貴族は正義で骸旅団は悪ってことか。分かり易くていいな」

「本当はそうは思ってないでしょ、ユーリのことだから」

「ああ」

 

 オレは空を仰いで、流れる雲を眺めた。

 一塊(ひとかたまり)だった雲が風にあおられ、千切れてふたつの塊に変わる。

 

「じゃあ骸旅団を完全に壊滅させたら、正義は勝った、ってことになるのかな。じゃあその後はどうなるんだろうな。正義だけが残って、悪は消滅するって思っていいのかな」

「それを考えるのはダイスダーグさんたちの仕事でしょ。実際、五十年戦争は――私たちは参加してないけど、バルバネスおじさんやザルバッグさんの活躍で、まさしく正義を貫いて悪を討ったって感じじゃん。そういうの、正しいと思うな」

「畏国を(おか)した鴎国――オルダリーアを追い払ったってことが正義ってことなら、それは一面で正しいのだろうな」

「実際、五十年戦争に負けてたらこのイヴァリースが家畜みたいな扱いになって、オルダリーアの横暴を受けなきゃいけなかったかもしれないでしょ。だから正義のために戦うっていうのは、そういうことじゃない?」

「貴族が負けたら、骸旅団に蹂躙されるってわけか。なるほど、分かりやすい」

 

 オレは開いた両手をじっと見て、ぐっと握りしめた。

 

「悪い、アイリ。こんなことでいちいち悩んでたら確かに戦えないよな。オレ、頑張るよ」

「そうそう、単純なのはユーリの数少ない美徳なんだから。うじうじ悩むのはらしくないよ」

 

 と。

 急に背中から重しがのしかかってきた。

 勢いあまって。

 

「あ」

 

 ばしゃんと、庭園の池に飛び込んでしまった。

 

「何やってるんだよ、ユーリ。アイリも」

 

 ディリータが呆れたようにオレを見ている。ラムザも、アルガスもこいつら何やってんだって視線で眺めていた。

 

「おい、アイリ」

「あはは、がんばれのハグ、だよ。元気出た?」

「びしょ濡れになったことを除けば、な。おまえもびしょびしょだぞ」

「気にしない気にしない。あははっ」

 

 ありがとな、アイリ。

 正義は、今はオレたちにある。

 骸旅団に屈することは、平民を守るオレたちには許されない。

 そんな単純なことだったんだ。

 

 気が入った。

 オレたち正義は、悪党の骸旅団に負けたりなんかしない。

 決意を新たに、思いを固くして、これからの盗賊退治に乗り出すよう気合いを込めた。

 

 そう、正義はオレたちにある。

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