【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ   作:12club

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骸旅団の女剣士

side:ミルウーダ・フォルズ

 

 骸騎士団の砦。

 そう言えば、少しは見栄を張ることも出来たのだろうか。

 その実態はただの漁師の掘っ立て小屋で、床は老朽化し、海水が沁みている。

 建物それ自体もそれほど大きくなく、精々十数人ばかりが詰められる程度。

 

 各地に散っている斥候が命からがら集めてきた情報も凶報ばかり。

 それによると、王家の近衛騎士や北天騎士団が私たちのアジトを一斉に襲撃しているという。

 何故こんなことになってしまったのか。

 

「そう……、本隊との連絡も途切れてしまったのね。私たちもここまでのようね……」

 

 もはや諦観しか湧かない。

 今ならギュスタヴの言っていたこと、やろうとしていたことがよくわかる。

 

 私たちが王家への反抗に立つにあたり、必要なのは下地だった。

 潤沢(じゅんたく)な物資、安心できる拠点、私たちの活動を支えるスポンサー。

 それらがあって初めて私たちは王家を糾弾することが出来たのだ。

 

 もちろんギュスタヴのやろうとしていたことを全面的に認めるつもりはない。

 単なる凶賊と化したギュスタヴが粛清されたのは正しい判断だ。

 しかし、その凶賊が生まれる温床となっているのが、我が骸騎士団の成れの果てだというのならば。

 その時点で、私たちの戦いはただの野盗の蛮行に他ならない。

 

 そう、骸騎士団が生んだ骸旅団という名の賊徒が民衆を襲った時点で、私たちの正義はとうに失われてしまったのだ。

 

「何言っているんですかミルウーダ様! 私たちはまだ戦えます!」

「その通りです! ヤツら貴族たちが私たちに謝罪するまで戦いは続くんです!」

 

 そんなことを言う若い子たちもいる。

 青臭い意見で、もはや私には右から左だ。

 若さだけで何とかなると、未だに信じて戦いに(じゅん)じようとするサマは見ていて痛々しい。

 

 私は頭を抱えた。

 

「兄さんの……、兄さんのやり方が甘いから……」

 

 我が兄ウィーグラフ・フォルズ。

 先の五十年戦争で、骸騎士団を率いて名を馳せた無敵の戦士。

 その背を追ってさえいれば、理想は叶うと私たちは信じていたし、きっと兄自身もそう思っていたに違いない。

 

 しかし実態は、食糧にも事欠き、貴族の脅威に夜も眠れず、騎士団からは騎士くずれの盗賊が後から生み出される始末。

 

 それでも兄はやめないだろう。

 自分ひとりが戦えるのなら、他の皆も戦えると信じているに違いない。

 私の理想は、とうに兄の見据える未来から外れていた。見捨てられていた。

 

 

 

「て、敵襲!!」

 

 斥候の声がアジトに響く。

 とうとうここにも貴族の魔の手が伸びたか。

 しかし、まだ死んでやれない。

 私たちの無念の、何分の一かも受けてもらわなければ、死んでも死にきれない。

 

 私は、予想以上に重くなった剣を手に、アジトを強襲してきた貴族たちに立ち向かうことにした。

 戦意は、とうに失せていた。

 

 

 

 

 

side:ユーリ

 

 雨が降っている。嵐と言ってもいい。

 叩きつけるような雨粒と、それを煽る強風がオレたちを襲う。

 ラムザたちが決めた作戦はこうだ。

 

 折からの豪雨で足並みの乱れた敵軍を強襲し、一網打尽にする。

 

 なるほどと思いつつも、どこか楽観的に過ぎないか、という不安もあった。

 アルガスは乗り気だった。自分達の実力なら、騎士くずれの野盗など遅るるに足らず、とそう思っているに違いない。

 

 ディリータは、反対した。

 敵の事情には付き合わず、こちらのコンディションを万全にして数の差で圧し潰すべきだ、と。

 ラムザはそれに反対した。それだと無益な犠牲を生む可能性がある、と。

 アルガスもまた反対した。自分達の実力なら奇襲に紛れて敵を討ち取る方が容易い、と。

 

 ディリータは、骸旅団の精鋭相手に犠牲が出るのはやむなし、と考えたのかもしれない。

 オレは、ディリータに賛成だった。

 

 しかし最後に折れたのもまた、ディリータだった。

 ラムザの副官という立場が、ディリータの邪魔をした。

 

 ラムザたちの作戦がうまくいけば、それは理想的だったろう。

 けれど現実は甘くない。ゲームみたいに、リセットしてコンティニューすれば無かったことに出来るわけではない。

 自軍壊滅の恐れがある作戦に、ディリータが疑問を投げかけたのは当然の帰結だったろう。

 

 

 

 骸旅団のアジトが見えた。

 既に敵影が見えている。よほど優秀な斥候がいたらしい。

 この時点で、ラムザたちが企図した奇襲作戦は失敗している。

 むしろ、オレたちが嵐で乱された足並みを整えながらゆるりと進軍するという、本末転倒の事態に陥っていた。

 

 だがまだオレたちは負けていない。勝負が始まる前から負けを認めていては話にならない。

 どちらかというと戦意はこちらが旺盛に思えた。

 

 アジトの狭い入口から姿を現した骸旅団の精鋭とやらは、一様に顔色が暗く、はなから勝利を諦めているかのようだった。

 それを見た士官候補生たちが俄然、自分たちの透けた勝利に酔いしれ、燃え上がる。

 

 戦いは、流れで決まることが往々にある。その流れをオレたちは勝負が始まる前から掴んでいる。

 これならいける。皆はそう思っていたことだろう。

 

 剣を抜き、いざ戦場へ。

 そう思った矢先、オレの肩をがしっと掴むやつがいた。

 

「やるぞ、ユーリ。精鋭だろうと、骸旅団ごときに怖気づくんじゃねえぞ」

 

 アルガスだ。

 

「当たり前だ。ダイスダーグさんに命令されたんだ。負けは絶対に許されないってな。それよりも、だ」

「なんだ?」

 

 オレは当たり前のことを、何故かアルガスに頼んでいた。

 

「アイリのことを気にかけてやってくれ。あいつ、勝負所でつまずくことが何度かあった。頼む、守ってやってくれ」

「……言われなくてもわかってるよ」

「すまん、ありがとう。アルガス」

「ありがとう、か」

「どうした?」

「いや、オレには縁遠い言葉だと、今更ながらに思っただけだよ」

 

 どこか照れ臭そうなアルガスは、その時はどこにでもいる少年のように見えた。

 

 

 

 砦の両脇に立つ鐘楼(しょうろう)には斥候が張っている。恐らくそこから遠距離攻撃をする腹積もりだろう。

 前衛には骸旅団の軽装の戦士。格好から察するに、使い回しやすい手駒――ポーンといったところか。

 そして後衛から姿を現したのは、数人の魔道士と。

 一目見ただけで分かる、熟練の剣士だ。アジトのリーダーだと判断する。

 それが女性だったということに一瞬、驚きを隠せなかったが、それは無用な心配だとオレの直感が教えてくれた。

 

 戦闘が、始まった。

 

 

 

 緒戦はオレたちが有利に運んでいる。

 何せ数が違う。敵は十人にも満たないチームでしかないが、士官候補生は十数人。数の時点で倍はある。

 各々が己の得意分野を担当し、数の暴力で蹴散らしていく。

 

 鐘楼、制圧。

 

 奪った施設を元に、そこからこちらへ支援攻撃を(おこな)ってくれる。

 そこから崩れ始めると、前衛は手も足も出ずに(ほふ)られるばかりだ。

 

 だが。

 

 残った敵のリーダーの攻撃と魔道士による支援が、簡単に崩せない。

 単純に、あの女剣士が強い。

 それを軸に魔道士が支援と治癒の魔法を繰り出し、一個師団に匹敵する戦闘力を発揮していた。

 

「士官候補生、下がれ! 敵は少数だが精鋭、無理をして犠牲を出すな! ここは僕らが引き受ける!」

 

 ラムザの指示に従い、砦の前衛に集まっていた士官候補生たちが後退する。

 開けた砦の正面に、女剣士があぶり出される形で突撃を敢行してきた。

 

 釣り出された。

 違う。

 勝負に出たのだ。

 

 ヤツは敵将であるラムザとその精鋭を制圧すべく、自ら前に進んできた。

 

 やおら、敵の女剣士が怒号を放つ。

 

「貴族がなんだというんだッ! 私たちは貴族の家畜じゃない! 貴方たちと同じ人間よ! 生まれた家が違うだけじゃないの!」

 

 怒号、というには勢いがない。悲痛な叫びだ。

 

「何ヶ月も豆だけのスープで暮らしたことがある!? 何故私たちがひもじい思いをしなければならない!? それは貴方たちが奪うからだ! 私たちの生きる権利を奪うからだ!」

 

 その叫びが戦場にこだまする。

 戦場に、ひとりの女剣士の悲痛な声が響き渡る。

 それを塗り替えたのは。

 

「同じ人間だと? フンッ、汚らわしい!」

 

 吐き捨てるように叫び返すアルガスだった。

 

「おまえたち平民は生まれた時から貴族に尽くさねばならない! それを庇護するのがオレたち貴族が尽くす義務! 犯罪者に成り下がったおまえたちは人間ではない! ただの畜生にも劣る存在だ!!」

「畜生だと!? それを押し付けたのは貴方たち貴族じゃないか!! 理不尽を押し付けたのは、貴方たち貴族だ!!」

「理不尽をおまえたちが唱える権利はない! おまえたちは存在そのものが理不尽だ! 貴族を襲い、社会を脅かし、秩序を破壊する理不尽そのものだ!!」

「ならば何故、私たちが抑え付けられねばならない!? 理不尽を最初に押し付けたのは貴方たち貴族よ! 秩序の破壊? 理不尽を押し付けられたからこそ、私たちは人間としての尊厳を奪い返すために力を行使するのだ!!」

「人間ではない! 畜生だ! 畜生以下の存在だ!!」

「それこそ誰が決めた!? 誰が私たちを畜生に貶めた!?」

「貴様ら畜生にそれを決める権利はない!!」

 

 一連の論戦を聞きながら、オレは思った。

 

 まあ、仕方がないな、と。

 

 アルガスは没落したとはいえひとりの貴族であるし、そもそも犯罪者集団に成り下がった骸旅団に仲間を皆殺しにされている。

 

 ラムザやディリータは、どう思ったのだろう。

 彼女は人間だと、やはり思っているのだろうか。

 

 そして、アイリは……。

 

 野獣の咆哮さながらに、叫びと共に女剣士がアルガスへと斬りかかる。

 アルガスはそれを受け止め――。

 

 キィン、と剣がその手から弾き飛ばされた。

 無手になったアルガスに、女剣士が返す刃で斬り下ろし――。

 

「アルガス!!」

 

 アルガスが突き飛ばされる。

 そして。

 

「アイリ!!」

 

 女剣士の凶刃が、アイリを斬り裂いた。

 背中から袈裟懸けに。

 

「アイリィーッ!!」

 

 あまりにも遅かったオレの脳味噌の動きを、自ら叱咤(しった)した。

 

 怒りのままにオレは女剣士へと肉薄し、剣をかざす。

 女剣士はほとんど本能のままに従ったのだろう、俊敏な動きでオレへと向き直って剣を構え。

 オレの剣が横薙ぎに、女剣士の腕を撫でた。

 女剣士の剣が吹き飛ぶ。

 

 ばしゃんと、濡れた地面に。

 女剣士の右腕が落ちた。

 

「ぐっ……!!」

 

 千切れ落ちた腕から、血が勢いよく噴き出る。

 

 腕を失くしたのだ。

 もはや剣士として再起は出来まい。

 

「アイリッ!」

 

 くずおれる女剣士に構うひまもなく、オレは倒れたアイリの体を抱き起す。

 

 傷が深い。

 背中から袈裟懸けに、腰まで深く切り裂かれている。

 出血も酷い。

 このままだと失血だけで命にかかわる恐れがある。

 

 アイリは呼吸も荒く、力なくオレの腕に体を預けるだけだった。

 

「後方の支援部隊! 白魔道士と薬師、彼女を助けろ!」

 

 ディリータが口早に後方へと指示を飛ばす。

 それだけで士官候補生の中から、該当する面々がアイリの周りに集まった。

 オレはアイリを彼らに預け、早々と後方へと下がる彼らを見送った。

 

 助かってくれ……、頼む!

 

 祈るような心地でオレはその場にうつむき、両手を地に突いた。

 

 ラムザが、改めてしゃがみ込んだ女剣士に剣を向ける。

 

「降伏するんだ。抵抗しなければ、命だけは助けよう」

 

 

 

 雷雨がひどく周囲を叩きつける中、オレとラムザたちは女剣士を囲っていた。

 女剣士がひとり、叫び散らす。

 

「殺せ! わたしたちはどうせ畜生以下なんだ……! 生きる価値もない……。殺せ!!」

 

 それを聞くラムザが、迷うような表情で問い返す。

 

「そんなに僕らが憎いのか……?」

 

 そんなラムザに、アルガスが発破をかける。

 

「ラムザ、殺せ! そいつを殺すんだ!!」

 

 叫ぶアルガスに、ラムザが顔を向ける。どこか、他人事のように。

 

「ラムザ! そいつは敵だ! おまえたちベオルブ家の敵なんだ! わかるだろう? そいつは敗者だ! 敗者を生かしておく価値などどこにもない! 生かしておけば次に殺されるのはオレたちだ!」

「アルガス……」

 

 ラムザの言葉が、ひどく鈍く聞こえる。

 アルガスは感情のまま、顔を真っ赤にして叫び続けた。

 

「やれ! おまえがやるんだ! ラムザ!!」

 

 そんなアルガスを横目に、ディリータが呟くように口を開いた。

 

「ラムザ……、オレには彼女が敵だとは思えない」

「なんだと? 気でも狂ったのか、ディリータ?」

 

 アルガスの暴言に構わず、ディリータが続ける。

 

「彼女は畜生なんかじゃない。オレたちと同じ人間だ。貴族に虐げられて生きてきた、貴族が守るはずの人間だ」

 

 アルガスが、今度はディリータに牙を剥く。

 

「裏切るのかディリータ……! やはりおまえは……!」

 

 オレは剣を抜いた。女剣士の首筋に刃を向けて。

 

「悪いがディリータ、オレはアルガスに賛成だ」

 

 ラムザとディリータが、オレの言葉に応えるように顔を向ける。

 

「コイツは骸旅団の戦士……いち砦の守備を任せられた敵将だろう。実際にオレたちと剣を交え、双方ともに犠牲を出して、そしてオレたちが勝利した。成果なしというわけにはいかない」

「砦は攻略し、敵将を下した。それ以上に何の意味が……」

 

 ラムザの反駁(はんばく)に、オレは首を横に振る。

 

「ラムザ、おまえは貴族だ。民を守る義務がある。そしてソイツは民や貴族を脅かすテロリスト。見せしめに裁く必要がある。それがベオルブ家の責務であり、貴族としての正義だ」

 

 滔々と語るオレに、ラムザとディリータがどこか面食らった表情で視線を寄越していた。

 ディリータが言う。

 

「ユーリ。アイリを傷付けられたおまえの気持ちは分かる。感情に(はや)り過ぎていないか?」

「感情に逸っているのはおまえだ、ディリータ」

 

 ピシャリと言い返す。

 

「ソイツは敗軍の将だ。それも若くて可憐な女性の戦士。温情を寄せるのは、そりゃあ気持ちのいいことだろうさ」

「オレはそんな下心を出したいわけじゃない。オレたち貴族が罰するには、相応の理由が必要だろう?」

「腑抜けたことを言うな。野盗の頭目のひとりで、現に無辜(むこ)の民を傷付けてのうのうと生きている。理由なんてそれだけで十分だ」

 

 流れるように、オレは口から当たり前の事実を吐き出している。

 

 そうだ。

 正義はオレたちにある。

 オレたちは、圧倒的に正しい。

 

 そして何より。

 コイツはアイリを傷付けた。

 

 オレの語りたいことは正論じゃない。

 憎しみなんだ。

 

 呆気(あっけ)に取られた表情で、ラムザとディリータが黙りこくる。

 何故だかわかる。

 オレの気迫に、ふたりは吞まれていた。

 

 視線を、女剣士に向けた刃へと移す。

 

「骸旅団の戦士、おまえの名は?」

「……ミルウーダ・フォルズ。骸騎士団の団長、ウィーグラフの実妹よ」

「覚えておく。さらばだ、野盗の片割れよ」

 

 くっと、最後に女剣士――ミルウーダが口惜し気に口を鳴らす。

 その首に、オレは剣を振り下ろした。

 

 

 

「……ユーリ。僕らは正しかったのか?」

 

 倒れ伏す胴から離れた女剣士の首を見ながら、ラムザが呟く。

 オレは無言のまま、頷く。

 代わりに、アルガスが毒づいた。

 

「ベオルブ家の大将が何を言う。甘ったれたことを言ってるんじゃねえぞ。おまえが正義で、ソイツは悪だ。正義が勝って悪は滅びた。それ以外に何の価値がある?」

 

 そうだ。

 正義が勝ったんだ。

 それ以上に正しいことはない。

 

 アイリ、おまえの言っていたのが正しいことは、オレが証明した。

 きっとダイスダーグさんも喜んでくれるだろう。

 正義が、勝ったんだ。

 

 誰ともなく、オレは自分に言い聞かせるように繰り返し心に刻みつける。

 正義は勝った。

 それだけを。

 

 勝った者が正義なのだという、そんな陳腐な真理を置き去りにして。

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