【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ   作:12club

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離別の予感

side:アイリ

 

 マンダリア平原。

 

 ラムザとディリータが、イグーロス城を出てティータの捜索、及び救出を決めてから数時間足らず。

 ふたりはこの平原で、西に落ちる太陽と、それに照らされるオレンジの光を眺めていた。

 座り込んで、広大な空にポツンと浮かぶ点のように。

 

「綺麗だな……。ティータもどこかでこの景色を見ているのかな」

 

 らしくない弱気なディリータがポツリと呟く。

 ラムザがそれを慰めるように。

 

「安心しろよ、ディリータ。ティータはきっと無事さ」

「ああ……」

 

 ラムザがふい、と私たちに眼を向ける。

 

「アイリはともかく、アルガスまで一緒に来るなんて……どういう風の吹き回しだ?」

「わかんねえのか。おまえらのお目付け役だよ」

「そんなもの、誰も頼んじゃいない。お目付けならこんな所で僕らにかかずらうより、兄さんたちに報告でもしたらどうなんだ」

「はっ、なんでかな。そうした方がいいとは思ったんだが、理由はオレにもわからん」

 

 憎まれ口を叩きながら応えるアルガス。

 ディリータはそれに見向きも応えることもしなかった。

 

 平原が空気に晒されている。

 夜が近くなれば、夜風で寒さも感じるだろう。

 私も無言のまま、ラムザたちの前で焚き火を焚いていた。

 

 ディリータが俯く。

 

「……違和感は感じていたさ。昔から、ずっとな」

 

 ラムザがディリータに視線を移す。

 でも何も言わず、アルガスへと眼を向けた。

 アルガスが肩をすくめる。

 

「なんだ。オレが言ったことが今さらながらに身に染みたのか?」

 

 それに対して、ディリータは右から左のように続ける。

 

「どんなに頑張っても、覆せないものがあるんだな」

「そんなことはないさ。努力すれば――」

 

 ラムザの言葉に、ディリータは首を横に振った。

 

「努力すれば将軍になれる?」

 

 反復するように、しかしそれを否定するようにディリータが続ける。

 

「この手でティータを助けてやりたいのに、僕には何もできない。僕は――」

 

 ――「持たざる者なんだ」。

 

 なんていうか、重い。

 空気が、じゃない。

 ディリータが、だ。

 ディリータが背負うものを肩代わりしてやりたい。

 だけど、それは決してそんな簡単に背負うべきものじゃなく。

 どうしようもなく、重いものなんだ。

 

「……ちっ」

 

 それ以上、口出しするのも野暮かと思ったのか、アルガスが私たちから離れていく。

 

 ディリータがそばに生えた草を一枚千切って、ラムザに眼を向けた。

 

「覚えているか、ラムザ。小さい頃、親父さんに教えてもらった草笛を」

 

 草を口に当てて、息を吹き込む。

 甲高い音が、辺りに響いた。

 ラムザもまた同様に、草を千切って口に当てる。

 

 私はついぞ上手く出来なかった。

 ユーリも。

 

 夕日に照らされる平原に奏でられる草の笛の音。

 それはどこか、テレビドラマのような一幕を思い起こされる情景だった。

 

 

 

 

 

side:ユーリ

 

 魔法都市ガリランド、士官アカデミー。

 町の中心にあり、各地から国への士官を目指す場所。

 オレやアイリ、ラムザたちもここに在学し、騎士となるべく勉学に励んでいた。

 

 骸旅団の活動が盛んになってからオレたち士官候補生も戦役に駆り出されるようになって以来、休校となっている。

 しかし、本来の役割とは別に残された部分もある。

 それは。

 

「ユーリです。ザルバッグ将軍の命を受け、北天騎士団の士官として推薦を受けました」

 

 受付の騎士が眼を白黒とさせてオレを注視する。

 平民が?

 よりにもよってあのベオルブ家のザルバッグ将軍に?

 こんな若造が?

 そんなことが言いたげな顔だった。

 

「しばし待て。確認を取る」

 

 言って騎士は腰を上げて、受付から姿を消す。

 

 五分くらい待っていたら、さっきの騎士が何やら大きな鞄を持ってきて、先ほどと違う恭しげな態度で。

 

「たいへん失礼とお時間を取らせました。確かにザルバッグ将軍から連絡のほどと、こちらの荷物を預かっております」

「荷物?」

生憎(あいにく)こちらでは改めることが出来ませんので、後ほどお開けください」

「ありがとうございます」

「それから……、こちらが書面一式となります」

 

 ドカッと荷物を横に置いて、数枚の書類を手渡してきた。

 とりあえず用件を聞かないままアカデミーを訪れたので、聞いてみる。

 

「この書類は?」

「略式ではありますが卒業証書です。これで貴方は晴れて、士官アカデミーを正式卒業した正騎士となります。ザルバッグ将軍直々(じきじき)の推薦とあっては受け入れないことはあり得ません。それら証書は大事に保管してください。貴方の身分を保証する証明となりますので」

「わかりました」

「こちらからの用件は以上です。お疲れさまでした」

「はい」

 

 そのまま回れ右をしようとして、ダメもとで聞いてみた。

 

「あの、この町にオレに似た風貌の女騎士見習いが来ませんでしたか? と言ってもアカデミーに用があるわけではないので、ここを訪問したということは考えづらいのですが」

「女騎士見習い?」

「自分の双子の妹です。何か少しでも情報があればいいんですけど」

 

 ふむ、と記憶を探るように顎に手を当てる騎士。

 数秒考えたところで。

 

「ありませんな」

 

 予想通りの答えが返ってきた。

 

「もし情報をお探しなら、こんな所ではなくて酒場にでも行ったらどうです? 少しは事情を知っている人がいるかもしれませんよ」

「わかりました。ありがとうございます」

 

 斜め45度の角度で礼をして、改めてオレはアカデミーを後にした。

 

 荷物はやけに重い。

 外で開くのはなんだかこっぱずかしくて、適当な武具屋に入った。

 試着室を借りて、荷物を開く。

 そこに入っていたのは、やっぱりと言うか何と言うか。

 

「北天騎士団の……それも左官装備か。ザルバッグ将軍の手回しか、本当に?」

 

 いや、もしかしたら。

 

「まさかダイスダーグさんの差し金じゃないだろうな」

 

 鎖で編んだ帷子(かたびら)に、その上に羽織る上着と北天騎士団の所属を示す紋章が入ったマント。大股を守る腰当てにズボンとブーツ。

 そして、武器一式。騎士団に支給される剣と、機械式の弩弓。

 サイズもピッタリだ。

 ここまでお膳立てされると、不気味を通り越して圧倒すらされる。

 騎士として、正義に逆らうな、と。

 

 上等だ。

 オレにはまだ正義を語る資格は、もしかしたら無いのかもしれない。

 だけどベオルブ家の正義を唱えるのなら、これだけ用意されていればそれで良いというのかもしれない。

 

 オレの……いや、ベオルブ家の正義は、オレの信じる正義と同じはずだ。

 

 

 

 アイリはどうしたんだろうか。

 イグーロスを出立したのは多分、あいつらの方が早かったはず。

 ジークデン砦を裏から攻め込むには、この町を北上してレナリア台地を越えてフォボハム平原を抜けなければならない。

 

 さっきの騎士に言われた通り、オレは酒場に入った。

 マスターに簡単に事情を説明し、答えを待つ。

 

「ああ、あの金髪の兄ちゃんたちの知り合いかい? この辺じゃ見ない貴族だからすぐわかったぜ」

「どこに行ったか分かりますか?」

「そこまでは知らねえな。ただ、町の北門付近でそんな連中を見たとかいう客はいたな」

 

 やっぱり、入れ違いか。

 

 アイリのやつ、ラムザたちと一緒にティータを探しに同行したのか。

 まああんなシチュエーション見て、黙っていられるタチじゃあないだろうし。

 

 つと、思いついて聞く。

 

「その連中、4人連れじゃなかったですか? 特に、金髪がふたり連れ立った」

 

 「んあ?」と声を上げて少し考え込むマスター。

 

「いや、やっぱりそこまでは分からんな。気になるなら追ってみたらどうだ? どのくらい離れたかは知らんが、追って追い付けないこともないだろ」

「すみません、それが出来ない身でして……。ありがとうございました」

「おう、今度は何か頼めよ。ここは酒場だ」

「出世払い出来るようになったら、またお邪魔しますよ」

 

 「それじゃあ」と軽く一礼して、オレは酒場を後にした。

 

 オレはアイリたちを追うことは出来ない。

 ザルバッグさんから受けた命は、ガリランドの士官アカデミーで諸々の手続きをすること。

 同時に、それが終わったらザルバッグさんの元へ戻るということだ。

 それはとりもなおさず、ジークデン砦の攻略の補佐をする、言わば将軍の補佐官を務めよ、ということだ。

 

 こんな時にディリータたちの援護を――何よりティータの救出を手伝うことが出来ない。

 オレはベオルブ家に屈したのか?

 本当の気持ちを出すなら、ザルバッグさんの命令など放棄してオレもアイリたちに付き添うべきだったのか?

 

 オレは、無力だ。

 オレはベオルブ家の正義に屈したわけじゃない。

 ベオルブ家という大家(たいか)の権力に屈したのだ。

 "正義"という言葉を言い訳に、己の保身を(はか)ったに過ぎない。

 

 げんなりとした表情をしているだろう。

 そんなオレを見て、周囲がひそひそと話しているのが聞こえた。

 被害妄想なだけかもしれないが。

 

 とにかく、オレはやるせない気持ちのまま着替えた重い荷物を抱えてイグーロスへの帰途についた。

 

 

 

 

 

side:ウィーグラフ・フォルズ

 

 フォボハム平原の風車小屋のひとつ。

 その中で私はひとりの男と対面していた。

 

「何故、娘を誘拐した?」

 

 私の詰問に、目の前の男は憮然とした表情で、しかしきっぱりと応える。

 

「オレたちが逃れるために、人質が必要だったからだ」

 

 狭量なその発言に私は詰め寄って。

 

「人質なら途中で解放することも出来たはず……。ゴラグロス、まさかおまえまで……!」

「オレをギュスタヴと同じだと言うのか?」

 

 熱のこもった言葉で叫び出す目の前の剣士――ゴラグロス。

 

「よく考えてみろウィーグラフ! 仲間たちは騎士団の総攻撃を受けてほぼ壊滅、命からがら逃げだしている連中も途中で討たれるか、行方不明になる始末! この苦境を乗り越えるにはまたとない切り札となるぞ! なにせ――」

 

 「この娘はベオルブ家の令嬢なのだからな!」

 

 縛られてその場に腰を落としている娘に向かいながら、そう言い放った。

 私の前に立つ男は目の前のことしか考えていない。

 

「乗り越えて、逃げて、どうなるというのだ?」

 

 私は糾弾するように続ける。

 

「たとえこの場を逃れたとしても騎士団は追撃してくるだろう。もしかすれば人質の命など(かえり)みずに、我々をひとり残さず征伐するかもしれない。そもそも逃げてどうなる? また貴族どもに(てい)よく利用されるだけだ!」

「命あっての物種とも言うだろう!」

「我々は、我々の子どもたちにこのような悪辣な仕打ちを受けないよう戦わねばならない。我々の落とした小石は小さな波紋しか生み出さないだろうが、それはいずれ大波となるだろう。その波が貴族どもの、引いては王家の者に衝撃を与えれば、また我々、第一、第二の骸騎士団が現れるだろう」

 

 そして。

 

「たとえ我々がここで朽ち果てようともな!」

 

 言い切った。

 

 しかし、ゴラグロスは。

 

「我々に死ねと命ずるのか?」

「ただでは死なぬ。だがひとりでも多くの貴族を道連れに!」

「馬鹿な! 犬死にするだけだ!!」

 

 もはやこの男には騎士の本懐を説くことは出来ないのだろうか。

 

「いや、たしかジークデン砦にはまだ我々の仲間が集まっていたはずだ。そこでなら騎士団に一矢報いることも出来るだろう」

「既にやられているのかも……」

 

 希望的観測すらこの男には悲劇的結末しか見えないのかもしれない。

 そこまでして、生き延びたいか。

 そこまでして、死ぬことを(いと)うのか。

 

 言い合う私たちに、ガチャリと扉が開いた。

 斥候だ。

 各地にはまだ、こういった連絡役がまだ潜んでいる。

 この斥候の女もそのひとりだ。

 

 その斥候が伝えた情報には。

 

「……馬鹿な! ミルウーダがやられたというのか!?」

 

 ぐっと手を、血が(にじ)まんとするほど強く握りしめる。

 

「聞いたな、ゴラグロス。南の砦を攻略した騎士団が我々を捜索している。今のうちにジークデン砦へ向かえ。娘はここに置いていけ!」

 

 

 

「敵襲ーっ!! 北天騎士団のヤツらだ!!」

 

 外を見張っていた騎士が大声で警告の声を鳴らした。

 

「ちっ、早いな。ゴラグロス、おまえは早くジークデン砦へ行け。ここは私が殿(しんがり)を務める」

 

 それだけ言い、私とその斥候は足早に風車小屋から外に出た。

 ミルウーダ、おまえの(かたき)は取る。

 そして、ひとりでも多くの貴族どもを冥府へと送ってやる……!

 

 

 

 風車小屋の中にひとり残されて。

 

「……オレは逃げてやる。死んでたまるか!」

 

 そうゴラグロスは独り言ち、縛られた娘の方を向いた。

 

 

 

 

 

side:アイリ

 

 レナリア台地を越え、フォボハム平原に足を踏み入れると。

 なるほど、これは壮観だ。

 平原のそこかしこに風車小屋がいくつも建てられ、それらが風を受けてゆっくりと回っている。

 

 ただし、ここもレナリア台地同様わざわざかかずらっている場所ではない。

 この平原を抜ければジークデン砦の裏側まで一直線だ。

 何の妨害も無ければ――。

 

 通り過ぎようとした先の風車小屋の扉が開く。

 そこから姿を現したのは。

 

「……ウィーグラフ!」

 

 ラムザが驚愕に戸惑いながらも、彼の名を叫んだ。

 

「貴方がどうしてこんな所に!?」

 

 私もまた驚きのあまり、そんなことを口走ってしまう。

 

「驚いたな……。ミルウーダをやったのはおまえたち、士官候補生だったというのか?」

「フン、これぞ千載一遇のチャンスだな。おまえも妹同様、地獄に叩き落としてやるぜ」

 

 息巻くアルガス。

 それを後ろから肩を掴んで、後ろに下がらせる。

 アルガスは露骨に舌打ちして、素直に後方に下がった。

 

「そうか、おまえたちがミルウーダを……。ならばその仇は討たねばなるまい。覚悟は出来ているだろうな?」

「……受けて立つ。ウィーグラフ」

「若いというのは恐れを知らぬ。時にそれが無謀だとも知らずにな。地獄へ行くのはどちらか、今から試してやろう」

 

 ラムザ、ディリータ、アルガスが戦闘態勢に入る。

 ウィーグラフもまた、この距離にあって裂帛の気迫をみなぎらせているのがわかる。

 

 私は……?

 

 ユーリがいない。

 その初めての戦場だ。

 いつだってユーリは私のそばにいてくれた。

 なのに、こんな時に限って、私といないだなんて……。

 

 どうして?

 ユーリは今どこで、何をしているの……?

 

 果たしてラムザたちとウィーグラフ、その正義をぶつけ合う不毛な戦いが始まった。

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