【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ   作:12club

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ウィーグラフとの戦い

side:アイリ

 

 今回は遭遇戦だ。

 先の盗賊の砦での戦いとは違って、敵に待ち伏せされているわけでもなければ、こちらが防衛に回るわけでもない。

 戦力のぶつかり合い。

 その点で言えば、今の私たちの状況は最悪とさえ言えた。

 

 敵は骸旅団の団長であり、その団の最強であると言われるウィーグラフ・フォルズ。

 果たしてラムザとディリータ、アルガスがいても、彼ひとりに勝てるかどうかも分からない。

 良くて善戦、悪ければ全滅。

 確率的にはどう考えても悪い方に天秤は傾いている。

 

 勝つ方法はただひとつ。

 渾身の力を以て皆で挟撃し、囲んで叩き潰す。

 それでもなお、犠牲なくして勝利はあり得ないと思えた。

 

 コンディションも最悪だ。

 ディリータはティータのことに執心していて冷静さを欠いている。

 士官候補生最強のラムザと、有能な騎士見習いアルガスがいるが、以前に起きたベオルブ邸での出来事で完全に連携を(しっ)している。

 

 私は、どうだ?

 

 ユーリがいない。

 それでなくても私は皆の足手まといにしかなっていない。

 ディリータにはおんぶにだっこだったし、ラムザがいるから士官候補生たちは常勝だった。

 アルガスが、戦闘において足手まといの私に構うことは考えられない。

 

 後悔する。

 やっぱり私は付いてきてはいけない人間だった。

 戦闘自体が得意でないどころか、ここ一番というときにまったく力を発揮できない。

 今でさえ、誰かになんとかしてもらいたいと本気で思っている。

 

 神様。

 どうか私の祈りを聞いてください。

 敵将ウィーグラフを倒す術を、私たちにお(さず)けください。

 

 場が、動く。

 戦端が開いたのは、ウィーグラフの突撃によるものだった。

 

 

 

 ラムザが叫ぶ。

 

「やめろウィーグラフ! これ以上の戦いは無意味だ!」

 

 ウィーグラフが剣を繰り出す。

 ラムザに向けて隙を見せない突き。

 と、見せかけたフェイント。

 一歩下がったラムザに無防備な胸部へと斬りかかる。

 その一撃を、ラムザは素早く対応。

 一合、ふたりの剣が重なった。

 

 ウィーグラフが重い怒声で。

 

「なら……、ならばどうしてミルウーダを殺した!?」

 

 対するラムザが反論する。

 

「最初から殺したくて戦ったわけじゃない! 貴方が剣を引いてくれれば、治まるものもあるのではないか!」

「やはりおまえは分かっていない! 我らが戦いをやめない理由を!」

 

 ウィーグラフが剣を振り上げ、ラムザの剣を押し返す。

 

「話し合いに何が期待できる? よしんばおまえがそう望んだとて、結果は何も変わらん! 我ら骸騎士団は逆賊として誅罰され、賊徒が滅びた。その結果しか残らんのだ!!」

「貴方が剣を引いてくれさえすれば、兄さんたちだって話し合いに応じるはずだ! 皆が皆、戦いたくて戦っているわけじゃない!」

「おまえの兄たちが戦いを望んでいないと?」

 

 ラムザの放った言葉に、ウィーグラフが嘲笑した。

 

「これは驚きだな、こんな青二才がベオルブ家の末席とはいえ、恥知らずの考えの持ち主だとは。ハハハハ、これは傑作だ! おまえはどこまで幸せなヤツなんだ!」

「兄さんが戦いを望んでいるとでもいうのか!」

「それはおまえが望んでいる正義であって、おまえの兄たちの正義ではない! 正義とは勝った者の都合でコロコロと形を変えるものだ!」

「兄さんを侮辱するのか!」

「青いな、執政者の手など黒い血で汚れているもの。それはおまえの兄たちも、私たちも同じだ。だからこそ己の正義を掲げて戦うのだ! 己の言い分を通すためにな!」

 

 鍔迫(つばぜ)()いを続けていたウィーグラフが、ラムザの腹を蹴り付ける。

 体格差が違う。

 ラムザより背の高いウィーグラフの方が、戦いにおける手札が多すぎる。

 

 横合いから急襲したアルガスの剣を、ウィーグラフが受け止めた。

 ラムザとアルガスが入れ替わった形だ。

 

 それをよそに、ディリータが叫ぶ。

 

「ティータを……オレの妹を返してくれ!」

 

 アルガスを相手取りながらも視線を辺りに配らせていたウィーグラフが、ふっとディリータへと視線を這わせた。

 

「あの令嬢の兄、だと? 貴族には見えなかったが……成程(なるほど)、ゴラグロスが間違えたか」

「オレはベオルブ家とは関係ない! おまえたちがティータをさらっても無意味だ!」

「しかし全く関係ないとは言えまい」

「ベオルブ家に関係ある者は皆一緒だと、そう言いたいのか!?」

「違うとでも?」

 

 アルガスを横目にしながら、しかし剣を凌ぎ切りながらもディリータと会話を続ける。

 

「元よりあの娘を人質にする気はなかった。助けたいなら、まずは私を倒してからにするのだな!」

 

 ディリータは剣を構えてはいるものの、戦意が感じられない。

 ウィーグラフに言われっぱなしでも、なお剣を敵に向けるだけの意思を感じられないのだ。

 改めて、ウィーグラフがアルガスへと視線を戻す。

 

「キャンキャンと吠える若造が、よくぞこうもやれるものだ。ここで私の前に現れなければ、一端の騎士になれたものを」

「あいつらみたいな甘ちゃんと同じにするな! オレは成り上がってやる……! 貴様の首をいただけばそれだけでオレの手柄は爆増だ! オレの出世の踏み台にしてやる!!」

「おまえは分かりやすくていいな。ただ、おまえのような成り上がろうとする貴族が骸騎士団の一番の標的だ。貴族社会の体現者は我々、骸騎士団が討つ!」

 

 アルガスの剣がウィーグラフの剣に噛み付く。

 それに違和感を覚えた。

 

 なんだった……?

 確か、アルガスは自分で前に言っていた。

 剣は得意じゃないと。

 

 思った矢先、ウィーグラフの剣が鋭く上空へと振り上げられた。

 アルガスの剣が弾き飛ばされ、彼がたたらを踏む。

 

 やられる……!!

 

 しかし、アルガスの腕が奇妙な挙動を描いた。

 背中に手を回し、もう片方の手で()()を構えて。

 

 撃ち込む。

 それは彼自身が得意だと言っていた、自動弓だった。

 完全な奇襲だ。

 

 しかし。

 

「なにッ!?」

 

 アルガスの乾坤一擲の一射は、大きく屈んだウィーグラフに回避された。

 

 カウンター。

 ウィーグラフの下方からの突きが、アルガスの肩を(えぐ)った。

 

「ぐうッ……!」

「ここまでだな、貴族の若造」

 

 思わずしゃがみ込んだアルガスに、止めの一撃をとウィーグラフが剣を振り上げる。

 

 それを、私は眺めているだけで一歩も動けずにいた。

 

「やらせるか!!」

 

 振り上げたウィーグラフの剣を、別の剣が横薙ぎに叩きつける。

 それを取り落とさなかったものの、ウィーグラフはアルガスから眼を背けて不意の一撃を与えたラムザに向き直った。

 

「ウィーグラフ! 兄さんを愚弄するのか!」

「教えてやろうか」

 

 言って、ウィーグラフは剣を構える。

 ラムザの奇襲に遭ったにもかかわらず、その動きはなお速い。

 

「ギュスタヴに侯爵を誘拐させたのは誰だと思う? それはおまえの兄ダイスダーグだ! 無論、聖騎士ザルバッグ殿もそれを知っているだろう!」

「馬鹿な! なぜ兄さんたちがそんなことをしなければならない!?」

 

 再び、ウィーグラフの剣とラムザの剣が絡み合う。

 

 この時点で、ディリータは戦意を喪失。アルガスは負傷。

 私は……戦いに臨みすらしていない。

 戦いの趨勢を決めるのは、ラムザひとりにかかっていた。

 

「今、このイヴァリースはふたりの獅子が争おうとしている。ひとりは白獅子ラーグ公、もうひとりは黒獅子ゴルターナ公」

 

 ガキン、と派手に剣戟を弾く音を立てて、互いの剣が離れて間合いを取る。

 

「ふたりは誰が敵で、誰が味方か見定めようとしている。しかし他人の頭の中を覗くのは難しい。ならばいっそ亡き者にし、己の息がかかった者を送り込めば良い」

 

 ゆらりと剣を下ろし、姿勢を緩めるウィーグラフ。

 しかしその口上は止まらない。

 

「革命に疲れた愚かなギュスタヴはその提案に乗り、侯爵を誘拐した。成功していればダイスダーグから恩賞を受け取っていただろうな。だがおまえたちの活躍のせいで、ダイスダーグの計画はご破算となった。ラーグ公はさぞ肝を冷やしたことだろう」

「そんな馬鹿な! 誇り高いベオルブ家の人間が、そんなことをするものか!」

「話は終わりだ」

 

 その言葉を皮切りに、ウィーグラフが剣はぶら下げながら構えもせずラムザへ向かって突進した。

 

 

 

 ――死兆の星の七つの影の経絡を断つ! 北斗骨砕打!

 

 

 

 ウィーグラフの必殺の聖剣技が、ラムザを打ちのめす。

 何がどう動いて、どこを打たれたのかも分からない。

 ただその一撃を受けて、ラムザは声を上げてその場に倒れ伏した。

 

 こちらの最強の駒が、落とされた。

 

 ウィーグラフがふぅ、と息をつく。

 

「……さて、残るはおまえひとりだが。どうする? 怖いなら逃げてみるか?」

 

 私は言われて初めて、剣を抜いてすらいないことに気付いた。

 慌てて剣を抜き、青眼に構える。

 腰は引けて、足もがくがくと震えていた。

 

「ミルウーダの仇だ、悪いが逃しはしない。先ほど宣言した通り、おまえたちは全員ここで地獄に叩き落としてやろう」

 

 ゆらりと、ウィーグラフがゆっくりと迫ってくる。

 じりじりと。

 私は声を上げることも出来ず、はあはあと大きく呼吸を乱しながら、ウィーグラフから逃れるように足を動かす。

 後背へと。

 

 ウィーグラフの顔が、よく見えた。

 彼の視線はとても冷ややかで、それを受ける私はさぞ弱々しい小動物のように見えたことだろう。

 兎か獲物か、もしかしたら虫けらかもしれない。

 

 視線だけが交じり合う。

 呼吸がいつの間にか、澄んでいた。

 覚悟が自然と、決まったのかもしれない。

 

 覚悟?

 何に対する?

 

 ウィーグラフの視線が熱を帯びた。

 

 私の視点が、変わった。

 まるで大空から、私とウィーグラフの動きを俯瞰(ふかん)するように。

 

 

 

 見える。私に向かって高速の突きが繰り出されるのが。

 

 見える。それを大きく屈んで(かわ)す私の動きが。

 

 見える。ウィーグラフが驚愕する表情が。

 

 見える。突きの構えを解いて上段に剣を振り上げる彼の動きが。

 

 見える。気迫を込めた彼の振り下ろし攻撃が。

 

 

 

 見えた。その振り下ろしより速く、私の剣が彼の脇腹を深く斬り裂いたのが。

 

 

 

「馬鹿な……! 今の動きは、何だ……?」

 

 いつの間にか私はウィーグラフの懐にいた。

 剣を横薙ぎにした格好のままで。

 

 そして間合いを取ろうとするウィーグラフを見送っていた。

 

 我に返った時には、ロードムービーのようなその動きを無理矢理に留めていた。

 

 これ以上の深追いはまずい。

 そう思ったわけではなく、セピア色に見えた景色が、透き通るように澄んだ色を取り戻したことにただただ呆然としたからだった。

 

 戦いの決着は、既についていた。

 

「くッ!」

 

 ウィーグラフが傷跡を抑えながら、指笛を吹く。

 遠くから響く足音。

 チョコボが一頭、戦場を駆け抜けてきていた。

 それに飛び乗るウィーグラフ。

 

「士官候補生の女……、おまえの名は?」

「……アイリ」

「アイリ……アイリ、か」

 

 クエーッとチョコボがいななき、上体を振り上げる。

 

「覚えておくぞ、アイリ。決着はまた次の機会に持ち越しだ!」

 

 そう言い残して、ウィーグラフを乗せたチョコボが戦場を駆け抜けていった。

 私はそれを呆然と眺めていた。

 

 今も不思議でならない。

 

 生きて……いる?

 

 私がウィーグラフに……勝った?

 

 周囲を見渡す。

 辛うじて体を起こすラムザ。

 私同様、呆然と立ち尽くすディリータ。

 しゃがみ込んだまま、私を凝視するアルガス。

 

 私は、一体どうしたんだろう。

 その答えを知る人間は、私も含めて誰にも分からない。

 きっと、ユーリだって……。

 

 

 

 

 

「ティータ! どこだ、ティータ!!」

 

 ディリータが風車小屋に入るや否や、叫び声を上げる。

 

「どこだ! どこにもいない! ティータ!!」

「ウィーグラフめ、嘘だったのか!?」

 

 ラムザもまた焦りを隠さない声でディリータに向かって叫ぶ。

 

「ディリータ、ジークデン砦に行こう! ティータはきっとそこにいるはずだ!」

 

 焦燥に満ちた表情で、ディリータが床に両手を突く。

 

「何故だ……、何故なんだ。何故、ティータがこんな目に遭わなければいけないんだ……?」

「ディリータ……」

「なあ、何故ティータだけがこんな目に……。教えてくれ、ラムザ……」

 

 その様子を見かねたけど、私には何も言えない。

 ラムザでさえどう声をかけていいのかわからないのだ。

 

「おまえら甘ちゃんに付き合うのもここまでだ」

 

 アルガスが、不意にふたりに向かって声をかける。

 

「アルガス……?」

鉄火場(てっかば)にわざわざ首を突っ込む馬鹿はいないってことだ。どんな結末になろうと、自棄(やけ)にはなるなよ」

 

 そこまで言われて、ディリータが初めてアルガスに顔を向けた。

 

「おまえに何がわかる!!」

「わからねえよ、おまえの妹のことなんざ。だがまあ」

 

 「オレが言えることは」。

 そう一拍置いて、続ける。

 

「死ぬなよ。ラムザ、ディリータ」

 

 それだけ言い残して、アルガスは風車小屋から立ち去った。

 どこへ行くのだろう。

 

 でも、私だって来たんだ。

 私は自分の信じる道を進んでここまで来た。

 ティータを助ける。

 私には、その義務がある。

 

 たとえ、どんな結末が待ち受けていても。

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