【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ   作:12club

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正義

side:ユーリ

 

 イグーロスへ戻るのは翌日になってからでもいい。

 取り立てて、自分が急ぐほどの意味は感じられなかった。

 時勢の状況はともかくとして。

 

 とりあえず、オレが戻らなければザルバッグさんも動くことはないだろうし、仮に動くのだとしたらそれはダイスダーグさんの指示があったからだということになる。

 その時に、オレの存在など無かったところで些事に過ぎない。

 

 そうつらつらと考えて、オレはガリランドの町の宿屋でしばらく部屋を借りることにした。

 

 改めて荷物を開く。

 もともと中に入っていた左官装備は今、オレが着ているため、今はいっているのは以前の簡素な装備と、今日受け取った卒業証書の類の書類だ。

 

 ガリランド士官アカデミー卒業証書。

 

 内容は。

 

 「貴君はアカデミーで充分な成績を重ね、情勢の変化に次いでとなるが、

  ここにアカデミーの卒業を仮証明することと認める。

  騎士としての本懐を抱くことを祈ると共に、騎士の(ほま)れに逆らうことなかれ。

  そして北天騎士団において、十全の活躍を働くことを期待する。

  異例ではあるが、これは聖将軍ザルバッグ・ベオルブ氏の待望することである。

  努々(ゆめゆめ)そのために努力することを忘れることなかれ」。

 

 とのこと。

 

 要は北天騎士団の一員として、ザルバッグさんに認められるほどの働きをせよ、とのことだ。

 

 本当ならこういった役割は縁故であるラムザが受けるものなんだろうが、いや、縁故だからこそ後回しにされたのか。

 ベオルブ家にはラムザの勇名がここ最近鳴り響いているが、それに次ぐ実力者と見込まれてオレが支持されたのだろう。

 ディリータは、あくまでラムザの客分であり、ベオルブ家の居候だ。

 彼を必要以上に持て(はや)すわけにもいかなかったのだろう。

 ならオレならいいのかと言うと、そこも首を捻るところだが……。

 何にせよ命じられたからにはやるしかない。

 そこにどんな(はかりごと)があったとしても、だ。

 

「しかしまあ……何と言うか、手早いな。まるでオレやアイリたちの動きがザルバッグさんたちの手の平の上にあるみたいだ」

 

 仮にオレがラムザたちと共に独断専行したとしたら、その役目は誰に振られることになったんだろうか。

 

 考えてても仕方ない。

 それでも、考えるとしたら……。

 

「アイリ……、あいつ無事かな。無茶するくせに土壇場でヘタレる悪い癖があるってのに」

 

 ちっとも学習しない双子の妹。

 他人の機微(きび)には(さと)いくせに、自分の事となるとてんで評価が曖昧(あいまい)になる。

 人のことばっかり気にかけて、自分が評価されることは嫌がる。

 実はとんでもなく面倒くさいやつだ。

 

 昔からそうだ。

 小学生の時から、あいつは周囲の子どもたちの真ん中にいた。

 友達付き合いは(うま)いんだ、あいつは。

 それは同級生の気持ちを掴むのが上手だったからだろう。

 当時は、オレもそれをうらやんだものだ。

 

 でもこの年になってようやく分かる。

 あいつのあの生き方は、実力主義のこの世界――イヴァリースにおいてはそぐわない。

 

 他人のご機嫌取りだけ上手くても限界はたかが知れている。

 アルガスなんてその代表みたいなものだろう。

 だからこそ馬が合ったのかもしれないが。

 

 ならしかし。

 オレは、どうだ?

 

 オレはいつでも孤独だった。

 かっこつけて言えばそうだが、要はひとりの時間が好きだった。

 

 誰が言ったか、友達なんて作ると人間強度が下がるとかなんとか。

 まあオレはそんな人間だったのだろう。

 

 だからこそ、オレはがむしゃらに生きてきた。

 少なくとも、そう意識してきたつもりだ。

 そしてそれは、このイヴァリースで生き抜くための力、というか資質となっていた。

 目の前の物事、時勢に向かって真っすぐに立ち向かう。

 それは実力なくして生きられない、この世界で必要な立ち振る舞い方だ。

 

 ただ、周囲がラムザとかディリータとか、あるいはアルガスみたいに優秀なやつが多すぎて簡単に芽吹くことはなかったが。

 

 そうして出会ったのが、"正義"という概念だ。

 

 もしもベオルブ家に拾われなかったら、オレもきっとアイリのように振る舞っていたに違いない。

 そうしてどこか人知れぬ場所で野垂れ死にしていただろう。

 

 オレとアイリはなんだかんだで、ベオルブ家の庇護を受けて生きてきた。

 寄生してきた、と言ってもいい。

 とにかく、ベオルブ家という傘の下に入れたおかげで生きてこれた。

 

 そして今この時こそ、オレにベオルブ家への恩返しと力試しのチャンスが転がり込んできた。

 

 今のこの情勢にあって、正義はベオルブ家にある。

 そしてその正義は、オレにとっての正義でもある。

 

 国家転覆を企む悪"骸旅団"に対して、社会ひいては平民たちを守る"ベオルブ家"の正義がある。

 それだけでオレは生きていける。

 

 恩返しとはそれだ。

 さらにザルバッグさんから与えられた啓示、士官アカデミーの卒業と北天騎士団への仕官。

 これが力試しだ。

 

 このふたつのどちらをふいにしても、オレには明日がない。

 すぐに首が飛ぶ、ということでもないだろうが、当然の帰結として貴族に飼い殺され、そして捨てられるだろう。

 

 正義を果たす。

 それがオレの役目。

 

 がむしゃらに生き抜くための試練だった。

 

 

 

 

 

 半日ほどガリランドの宿を借りて、さらに半日かけてイグーロスへと戻る。

 イグーロス城に着く頃にはもう夜が明けて、日が中天を差す頃だった。

 ジークデン砦への総攻撃はまだ準備中だろう。

 騎士団が躍起になって集合命令を各地に発しているが、終わるまでには時間がまだ必要だ。

 

 その(かん)、オレはザルバッグさんに御目通しを叶うことが出来た。

 

 イグーロス城の執務室の前に立ち、ノックして来訪を告げる。

 

「ただいま戻りました。ザルバッグさ……将軍」

「入れ」

 

 扉を開き、執務室のデスクについて執務を続けるザルバッグさんの前に(ひざまず)く。

 普段はダイスダーグさんが詰めて執務をしているが、今はまだ負傷の身。

 代わりにザルバッグさんが請け負っているのだろう。

 

 ザルバッグさんは手を止め、オレの姿を見て告げた。

 

「楽にしていいぞ。晴れ姿を見せてくれ、ユーリ」

「はい」

 

 すっと立ち上がる。

 オレの姿を見て、ザルバッグさんは「ほう」と眼を止めた。

 

「良い出で立ちになったな。どこに出しても恥ずかしくない、立派な士官……いや、正騎士だな」

「ご冗談を。これでもまだまだ新米です、ザルバッグ将軍」

「今はまだ平時だ。将軍と呼ばなくともいいぞ」

「はい、ザルバッグさん」

「書類は受け取ったか?」

「ええ、こちらに」

 

 オレはデスクに近付き、ザルバッグさんに書簡を手渡した。

 

「これは私が預かっておこう。わざわざガリランドまでやって面倒をかけたな」

「いえ……、これくらいのことは」

「うむ」

 

 ザルバッグさんが席を立ち、オレに背を向ける。

 窓まで近寄って、外を眺めた。

 

「この先がジークデン砦……。確か6、7年前だったか。父上がそこでおまえたち双子を拾ってきたのは」

「もうそんなに経ちますか。時の流れの早さを実感します」

「これからのベオルブ家、おまえたちにも率先して引き継いでいってもらわねばな。老兵は去るのみ、後は若者の仕事……いや、信念だな」

「まだまだザルバッグさんは現役じゃないですか。勝手に後を託されても自分は困ります」

「いや、わからんぞ? 先の五十年戦争、そして未来のイヴァリース、残された傷跡は大きい」

 

 オレに振り向くザルバッグさん。

 

「それらを片付けるのは我らの仕事。その後を託されるのはおまえたち、後を託すに足る若き人材なのだからな」

「それは……、恐縮です」

 

 言うまいかどうか迷ったが、今のザルバッグさんがどう考えているのか知りたくて、思い切って聞いてみる。

 

「あの、ザルバッグさん。ラムザたちのことは……」

「あの聞かん坊たちのことなら気にするな。本来ならおまえと同じように士官アカデミーに取り次いでやるところだったが、独断専行が過ぎる。勝手にやらせておけばいい」

「ですが、やはり自分はティータの事が心配です……。もしかしたら、オレもあいつらと同じように飛び出していったのかもしれませんし」

「だがおまえは残ってくれた。ならばおまえはおまえのやり方で、ティータを救ってやればいい」

 

 その言葉に、オレは奮起させられた。

 ザルバッグさんもティータの事は流石に気にかけてくれているんだ。

 

「ありがとうございます! ザルバッグさん!」

 

 なんて嬉しい言葉だ。

 この言葉だけでも、是非ともザルバッグさんからラムザたちに伝えてやりたいものだ。

 

 そうだ。

 ベオルブ家の正義は貴族だけでなく平民のためでもある。

 オレはそれを真っ直ぐに貫いていけばいいんだ。

 

 ただ、喜んでばかりもいられない。

 

「ところでザルバッグさん。ダイスダーグさんの容体は……」

「心配するな。凶人の刃を受けたが、徐々に回復している。数日中にはこの執務室も兄上の元に戻るだろう」

 

 と、ザルバッグさんが表情を緩めた。

 

「久しぶりに会ってみるか? 南の砦を落とす命令を受けて以来、兄上には会っていないだろう?」

「ご厚情、ありがとうございます。是非ともそうさせてもらいます」

「うむ、ご苦労だった」

 

 「それでは」と退出の礼もそこそこに、オレは執務室を出る。

 

 ダイスダーグさんはどこだったか。

 未だ療養中なら、ベオルブ邸の寝室にいるだろう。

 

 日が沈むにはまだ時間がある。

 ベオルブ邸の門兵と給仕に掛け合えば間に合うかもしれない。

 オレは上機嫌に、イグーロス城を後にしてベオルブ邸へと向かった。

 

 

 

 

 

 時間は早ければ早いほど良い。

 時は金なりとはよく言ったものだ。

 

 ベオルブ邸へ着いたのはまだ日が傾き始めた時刻のことだ。

 早速オレはベオルブ邸内の給仕に掛け合って、来訪と、ダイスダーグさんへの面会を希望する旨を告げた。

 面会の許可はすぐ下りた。

 

 給仕に伴って、ベオルブ邸内の寝室へと近付く。

 給仕がノックして、オレの面会希望を伝えた。

 扉を開き、オレを誘導するように部屋へと案内すると、給仕は寝室の扉を閉じてその場から立ち去っていく。

 オレは寝室のベッドに横たわるダイスダーグさんの前に立った。

 

「よく戻ったな、ユーリ。その姿を見ればベオルブ家のこれからも安泰だと安堵するものだ」

「恐縮です、ダイスダーグ卿。面会の希望を聞いてくださり、感謝の念に()えません」

「うむ。近くに寄ってくれ」

 

 言われて、オレは数歩前へと近付く。

 ダイスダーグさんがオレの姿を改めて眺め、ザルバッグさんと同じように息を漏らした。

 

「もう立派な北天騎士団の一員だな。ザルバッグに従い、さらなる武勲を立ててくれ」

「はい。これからもベオルブ家が掲げる正義のため、奮闘する次第です」

 

 それを聞いたダイスダーグさんが、表情を渋くさせる。

 

「……正義、か」

「ダイスダーグ卿?」

 

 ゆるりと、ダイスダーグさんがオレから視線を外して顔を天井に向けた。

 

「おまえに聞こう。正義とは何だと思う?」

 

 正義とは何か。

 前にアイリに聞いたことがあった。

 その時、オレは何と応えたか。

 

「義を以て正しく臨む、そうオレは解釈していますが」

「では、ベオルブ家の正義とは何だ?」

「ベオルブ家の正義、ですか……?」

 

 何度も考え抜いた答えだ。

 それを語るのは簡単なこと……のはずだったが、オレは応えられずにいた。

 今のオレにとって、それは胸の内に閉まっておくことであり、他者に対してぶつける答えではないのだと、改めて思わされた。

 

 渋ったオレの顔を見て、先んじてダイスダーグさんが答える。

 

「私はな、正義とは人の信じるモノその全てだと思う。人の数だけ、正義がある。それに対する絶対的な回答などない」

「では、ダイスダーグ卿が(おっしゃ)る、ベオルブ家の正義とは一体……?」

「大らかで広い心の持ち主である資格、その王者が持つ天の意思だと思う」

「天の意思……ですか?」

 

 王者に、天の意思。

 いきなり話が大きくなったな。

 

「ザルバッグの薫陶(くんとう)を受けたのだろう。おまえにとっての正義とは、義を以て正しく臨む。だがそれだけでは片手落ちだ」

「片手落ち、と仰いますと?」

「正義とは、正義のための戦いにそれだけでは足りぬのだ。正義を語る者なら、ただがむしゃらにその言葉と剣を振り回すだけでは真の王者とは言えぬ」

 

 正義だけでは王者になれない。

 オレは王者になろうなどと思ったことはないが、ダイスダーグさんの言うことだ。

 王者とは、王者の正義とは何か。

 

「応えるなら単純なことだ。清らかでなくとも良い。だが正義にこだわって、真に人間の在り方を見失ってはならぬ。おまえやザルバッグに足りぬのはそれだ」

 

 ふう、とダイスダーグさんは一息ついて続ける。

 

「良いか、ユーリ。強く、太く、大らかで広大な男となれ。正義という言葉に(こだわ)り過ぎて本質を見失うな。王者の資格とはそういうものだ」

「オレは王者になろうと思ったことはありませんが……」

「今は分からずとも良い。心の端にでも置いておけ。私はおまえに期待しているぞ」

「はっ……」

 

 そうやり取りして、ダイスダーグさんが眼をつむる。

 

「少し疲れた……。おまえももう休め。ジークデン砦への総攻撃の時間も近い」

「あの……、ダイスダーグ卿」

「なんだ?」

 

 ごくりと息を呑む。

 ザルバッグさんに聞いたことと同じことを、この人に聞いてもいいのだろうか。

 

 だが口火は切ってしまった。

 聞かずにはいられない。

 

「ティータは……、どうするおつもりで……?」

「ふっ、ラムザたちにも聞かれたな」

 

 ダイスダーグさんが再び、オレに視線を向ける。

 

「さっきも言った通りだ。大きく、広大な男としておまえが判断するのだ。それが王者の試金石であると、そう心得よ」

「ティータの処遇を、自分が……」

「おまえの判断が正しければ、おまえは私にとって期待通りの男であると認めるところだ。私の言葉、忘れるなよ」

「はい……」

「もう下がれ。私ももうひと眠りするとしよう」

「お疲れのところ、ありがとうございました。必ず良いご報告を届けて参ります」

 

 そう言って、オレはベッドから離れて一礼する。

 これ以上ダイスダーグさんを(わずら)わせてはならない。

 寝室から出て、足早にオレはベオルブ邸の自室へと向かった。

 

 

 

 正義の芽は芽吹いた。

 だがあの少年は、現実を知るにはまだ若すぎる。

 

 なればこそ知らねばなるまい。

 正義という言葉だけで解決できるモノなど、こぼれた砂をすくい直す程度でしかないということを。

 

「私はおまえに期待しているぞ、ユーリよ……」

 

 

 

 総攻撃の時間は近い。

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