【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ 作:12club
side:ユーリ
今さらだが。
ザルバッグさんやダイスダーグさん、そしてオレは……皆との約束を破ったことになる。
ダイスダーグさんは言っていたそうだ。
ティータの無事を確認するまでは、総攻撃などしないと。
しかしアルガスも言っていた。
平民を――つまりティータの身を案じて総攻撃をしないなどという躊躇はあり得ない、と。
これはアルガスが正しかった。
今も、ジークデン砦の攻略のため着々と準備が進んでいる。
しかしザルバッグさんからは激励の言葉をいただいた。
ラムザたちが裏からティータを助けようとするなら、オレはオレのやり方で助けてやれ、と。
ダイスダーグさんからも告げられた。
大きく大らかで広大な男として、最善を尽くせと。
ティータを助けてみせる。
それが、オレにとってのベオルブ家の正義だ。
総攻撃の準備が整ったのを確認した。
オレは左官だ。
ザルバッグさんの横に立ち、その補佐を務めるのが役目。
大丈夫だ。
ザルバッグさんなら、きっと間違った選択はしないはず。
それだけオレはあの人に信頼を置いている。
事実、彼は五十年戦争を戦い抜いた英傑だ。
たかが野盗の端くれでしかない骸旅団に後れを取ることはあるまい。
骸旅団を撃滅し、ティータを助ける。
その算段がないはずがない。
そう、オレは無遠慮で楽観的に妄信していた。
ジークデン砦への戦線に配備されていたのは骸旅団の精鋭。
骸騎士団の義勇兵とも言える親衛隊だ。
練度も高く、士官候補生に毛が生えた程度のオレでは太刀打ち出来ないだろう。
しかしザルバッグさんはそんなものはモノともしない。
オレは彼に付いていくだけで精一杯だ。
オレだけが後れを取るわけにはいかない。
もうオレは士官候補生ではない。
ザルバッグさんの従騎士なのだ。
失態は許されない。
何としてでも、この戦いを
この戦いは殲滅戦だ。
ここで以って骸旅団を完全に壊滅させる。
だが不可解なことがある。
敵軍は確かに精鋭だが、頭目であるウィーグラフの姿が見えない。
ヤツは今、どこにいる……?
以前、ゼクラス砂漠の廃墟で
今なら何故そんな
正義の体現。
オレはそのためにヤツを仕留めようとしたのだ。
ディリータに制され、そんな考えは改められたが今回は違う。
ベオルブ家の正義を背負う身として、ヤツを逃がすわけにはいかない。
以前の侯爵救出作戦とは違うのだ。
北天騎士団はザルバッグさんの指揮の下、骸旅団を難なく駆逐して。
いともあっさりとジークデン砦へ辿り着いた。
side:アイリ
風車小屋には、さらわれて置き去りにされていたはずのティータの姿はなかった。
骸旅団が一枚岩ではないのは既に知っていたことだけど、ディリータの愕然とした相貌はとても見ていられなかった。
だけど、ここで立ち止まるわけにはいかない。
ここで奮起して、ジークデン砦を目指すんだ。
アルガスは私たちから離脱した。
鉄火場、と言っていた。
まるでこの先、何があるのか予見したように。
いや、違う。
アルガスは元々、ザルバッグさんやダイスダーグさんが総攻撃を
私はティータを助けたい。
でも、もしかしたら……。そんな思いも去来するのだ。
ラムザとディリータに率いられる形で、私もジークデン砦を目指す。
きっとそこに、ティータがいると信じて。
私たちは、吹雪が吹きすさぶ景色の中を走り抜けて。
そして、ようやく。
「見えた! ジークデン砦だ!」
ラムザが叫んだ。
「ティータ!!」
ディリータがラムザの先を追い抜く勢いで、砦へと駆け付けていく。
そして、そこに出くわしたのは。
まさしく鉄火場だった。
side:ユーリ
敵軍を殲滅し、最前線を突破した段階で。
もはや骸旅団の姿はなかった。
いや。
「さっさと立ち去れ! この娘がどうなってもいいのか!」
砦に辿り着いたオレたちを待っていたのは、人質にされたティータと骸旅団残党の陳腐な強がりだった。
北天騎士団は周囲を包囲しており、もはや逃げることは不可能。
砦に立てこもる賊徒は
「下手なマネはするなよ。この砦には爆薬がごまんと詰められている。貴様ら全員を吹き飛ばすくらいの量がな!」
オレは隣に立つザルバッグさんの横顔を見やった。
賊徒の
「我々、北天騎士団は凶賊の脅しに屈したりはしない!」
要求に
もはや最後通告だ。
しかし、砦には爆薬か……。
ティータを助けることが出来れば、制圧は容易いが。
そこに。
「ザルバッグ兄さん! ユーリ!」
声が響く。
砦の裏側から現れたラムザたちだ。
どうやら間に合わなかったようだ。
さらに後ろからディリータと、アイリが姿を現す。
ディリータがティータを見止めて。
「ティータッ!!」
その叫びに応じるように、ティータが身をよじった。
「ディリータ兄さんっ!!」
縄を打たれたティータを、賊徒が乱暴にそれを引き寄せる。
そしてさらに
「さっさと引けっ!! さあ!!」
ザルバッグさんと賊徒の堂々巡りが続くような状態だ。
ザルバッグさんが意を決したように、声を放った。
「……やむを得ん。やれ、ユーリ!」
……え?
「これだけの騎士団を動かしたのだ、成果無しではいられん。あの賊徒を討ち滅ぼせ!」
「待ってください、ザルバッグ将軍! まだあそこにはティータが!」
「かまわん! やれ!」
「ティータがどうなってもいいんですか!?」
「上官命令だ! それ以上の
「……ぐっ……、しかし!」
ザルバッグさんの言葉が蘇る。
オレなりのやり方で、ティータを救えと。
それに。
ダイスダーグさんの言葉も蘇った。
――清らかでなくてもよい。強く、太く、大らかで広大な男となれ。
それはつまり、
今が、その判断どきだ。
ティータを救う。
それは賊徒の増長を見逃すということ。
ティータを生き残らせる。
それ以上、長引けばさらに骸旅団の
ティータがいなくなれば。
骸旅団は壊滅し、社会の秩序が元に戻り、皆の安心に繋がる。
ベオルブ家の正義とは。
ザルバッグさんの正義は正しいのか?
恐らくそれは正しいのだ。
ティータを犠牲にすれば、社会の不安の種がくすぶり、消滅するということに繋がるのだから。
ティータを助け、そして骸旅団を滅ぼす。
そんな理想的な解は、ベオルブ家の正義に存在しない。
オレは機械仕掛けの弩弓を構えた。
(すまん、ティータ……!)
弩弓を賊徒へと定める。
人質を避けて賊徒だけに当てる。
そんな芸当はオレには出来ない。
(許せ、ディリータ……!!)
オレは引き金を引いた。
side:アイリ
それからの景色は、まるで夢の中にいるような現実感のない景色。
ユーリの手にしたボウガンから矢が放たれた。
まるでスローモーション映像のように、ゆっくりと景色が展開していく。
矢は真っ直ぐにティータを目指して軌跡を描き。
彼女の胸に吸い込まれるように突き刺さった。
そうして崩れ、倒れ伏すティータ。
動揺を抑えきれず、狼狽する骸旅団の剣士。
「な……何のつもり、だ……?」
ユーリのボウガンから二射目の矢が放たれる。
それは骸旅団の剣士の胸を真っ直ぐに貫いた。
腰が砕け、尻もちを突く剣士。
ティータが苦し気にぼそりと呟く。
「ディリータ……兄さん……」
「ティーターッ!!」
ディリータの悲痛な叫びがこだまする。
尻もちを突いていた剣士が、ずりずりと砦の中へと退避していく。
そこで、映像が元の速度を取り戻した。
「ザルバッグ将軍、骸旅団の残党らしき一団を発見しました」
斥候らしい騎士が、ザルバッグさんに報告をもたらす。
「数は十数人ほど。その中にウィーグラフらしき人物を見かけたとの報告もあります」
「そうか」
ザルバッグさんが私たちに背を向けて。
「ユーリ、後は頼んだぞ」
「……はっ」
ユーリを残して、ザルバッグさんは去っていった。
「ザルバッグ兄さん……。どうして、どうしてティータを……?」
呆然と、ラムザが呟く。
ディリータが文字通り血相を変えて、ラムザを弾き飛ばして動く。
「ティータッ!!」
ユーリはそれを見て。
「……騎士団左翼は人質の亡骸の回収を。後方の魔道士隊、弓兵隊は折を見て砦に火矢を撃ち込め」
冷たい口調でそう言い捨てた。
ユーリのあんな冷たい表情と声、生まれて初めて聞いた。
その冷たい眼差しで、私たちを見やって。
「……騎士団右翼は
切り捨てるように、そう言った。
「ユーリッ!! 貴様ぁーッ!!」
激昂したディリータが叫ぶ。
「オレと戦うか、ディリータ。……受けて立とう」
一歩、前へと出るユーリ。
「騎士団、全軍さきの命令を変更。全員で闖入者たちの制圧に当たれ」
聞きたくない。
ユーリの冷たい声が吹雪の中に消えた。
「ユーリ! なんで? なんでなの!?」
私は必死の思いでユーリに向かって叫ぶ。
「ザルバッグ将軍の命令だ。否やも何もないだろう」
「ティータは……、ティータはディリータの妹なんだよ!?」
ユーリが矢を装填したボウガンを私に向けて。
「骸旅団はまだ生きている。ティータが人質に囚われ続ければ余計に社会の秩序が脅かされる。答えは単純だろう?」
「だから……、だからティータを殺したの!?」
「ティータだけじゃない。仮に人質にされたのがアルマやおまえだったとしても、ザルバッグ将軍は同じ答えを選んだに違いない」
ひゅん、とボウガンから放たれた矢が私の鎧の脇腹をかすめた。
流石に、当てたくて撃ったのだとは思いたくなかった。
「そんな……、そんな理屈でティータは死んだのか!! ユーリ!!」
「そうだ。これが骸旅団殲滅に必要な、最善の手段だ」
「最善じゃない! 最低の手段だよ! 人として恥ずかしいと思わないの!?」
「なら、おまえならどうする? ティータを人質に取られて、誰を犠牲にすることもなく骸旅団を潰せたか?」
ユーリがボウガンを捨て、剣を抜いた。
私に向かって駆けてくる。
「でもだからって……、こんなことが許されてたまるものか!!」
私も剣を抜いた。
突進してくるユーリを迎え撃つように、青眼に構える。
「甘ったれるなよ、アイリ。デモもカカシもないだろ。他に手段も思いつかないくせに、"でも"って言うな」
ユーリが剣を振り上げる。
私は剣を横だめに構え、それを迎撃した。
ガキン、と金属がぶつかり合う音が響いた。
双子の私たちが、初めて互いに戦いの口火を切った。
ユーリが鬼気迫る表情で剣を何度も打ち付けてくる。
私はそれを受けるのが精一杯で。
キィンと、私の手から剣がすっぽ抜けた。
遠くの雪原に軽い音を立てて、剣が突き刺さる。
「弱いくせに、無理するなよ。おまえは黙って事の成り行きでも見ていろ」
言って、ユーリは私の腹を思いきり蹴った。
私はそれを受けて、無様に転ばされる。
その脇を抜けるように、人影が駆けていった。
ユーリへと。
「ユーリッ!! 許さんッ!! 貴様はオレが殺してやるッ!!」
怒りの声を上げながら、ディリータがユーリに迫る。
「おまえに殺されるのなら本望だ。だがオレだって、ただ殺されてやるわけにはいかない」
ギン、と鈍い金属音が一度鳴った。
さらに二合、三合と互いに剣をぶつけ合う。
「ディリータ、正義って何だと思う?」
「戯言を! この期に及んで言葉で
「義を以て正しく臨む。オレはそう解釈している。そしてティータの死は、ベオルブ家の正義だ」
「それがティータを……、オレの妹を殺していい理由だと思っているのか!!」
「ティータが生きていれば、あの賊徒と同じような手段を使ってさらに狼藉を働く輩が増えるだろう。あれは見せしめだ。秩序を護る者は悪党の手段に屈さないという、な」
「ならオレも同じように貴様を殺す手段を取ってやる! 貴様の妹を使ってな!!」
「……ッ!」
叫ぶディリータ。
言い放つが否や、ディリータが私に剣を向けた。
「大切か? 大事にしたい身内か? オレはそれを殺された……。なら貴様も同じ目に遭おうと文句はないな!!」
どうしよう。
ここで私が逃げ出すのが正解のはず。
だけど。
「ディリータ! 私を殺して!!」
「アイリ!?」
「もうこんなユーリ、見ていたくない! 今のディリータの方がよっぽど好き! それでユーリを止められるなら、私を好きにして!!」
「アイリ……」
呟き、剣を下ろすディリータ。
「……悪い、アイリ。オレもおまえの兄キと同じ、外道に貶めるやつになるところだったな……。だが!!」
ディリータが腰だめに剣を構える。
そのまま剣を大きく突き出し、ユーリの胸板を狙う。
「遅いッ!」
突き出された剣を、ユーリがはたき落とす。
ガシャンと音を立てて、ディリータの剣が地面に落ちた。
剣を拾おうと即座に腰を落としたディリータに、ユーリは剣を突き付ける。
「ベオルブ家の正義についてダイスダーグ卿から薫陶を受けたよ。義を以て正しく臨む。ただし正義という言葉に縛られるな。これは社会悪を正義が滅ぼすための必要悪だ」
「ティータを殺したヤツが何をほざく!!」
「冷静なおまえなら分かるはずだ。これは必要な犠牲だったんだ。聞き分けてくれ」
「ふざけるのもいい加減にしろ!! そんな簡単な言葉遊びでティータを殺されたオレの何を分かったつもりで言う!?」
「大人になれ、ディリータ」
「断る!! ティータの仇を討つまで、オレは誰にも利用されん!!」
「そうか」
ユーリが剣を振り上げる。
そのまま
ディリータを殺すの……?
7年前から、兄弟みたいに育った友人を……?
そんな憂いをよそにユーリは私たちに背を向けて、声を張り上げた。
「全軍、撤退だ! このままザルバッグ将軍と合流し、骸旅団残党の撃滅に向かう!」
騎士団に指示を与え、駆け出すユーリ。
見逃した。
私たちを。
そしてそれは同時に。
ユーリは、私を見捨てた。
私のせいだ。
エルムドア侯爵救出の時、私がユーリに正義について語ってしまったから。
これはその報いなのか。
ぽろぽろと、涙が雫となって頬を流れ落ちていく。
「あ……うぁ……!」
地面に両手を突く。
私はあらん限りの声で、泣き叫ぶ声を上げた。
私とディリータ、そしてラムザを残して。
砦から誰もいなくなって。
ディリータが亡骸と化したティータを、かき抱く。
「ディリータ……」
ラムザが呟く。
それを待っていたかのように。
ズドンと、砦の中で何かが大きな音を立てた。
「なに……。爆発……?」
思うが早いか、砦の窓から破裂する炎が噴き出した。
爆薬だ。
砦の中に詰められた爆薬が、一気に破裂したのだ。
「ディリータ! ここは危ない! 早くこっちへ!」
ラムザが叫ぶ。
しかし、ディリータは動かない。
一際、大きな爆発が起きた。
爆風に煽られ、私とラムザが吹き飛ばされる。
「ディリータッ!!」
直後、砦を全壊させるような大爆発が私たちを吹き飛ばした。
最後に見えたのは、爆炎の中に消えるディリータとティータの姿だった。
「う……ん……」
頭がくらくらする。
体中が痛い。
眼が開き、腕を動かす。
その動作だけで、死ぬかと思うほどの激痛が体の中を走った。
「起きたか」
男の声がした。
ラムザじゃない。
もちろん、ディリータでもない。
「アルガス……?」
視線だけ向けると、そこには見慣れた顔があった。
やっぱりアルガスだ。
「私、どうなったの……?」
聞いたアルガスが、はあ、と息をつく。
「砦の爆発に巻き込まれて吹っ飛ばされたのを、ここまで運んできてやったんだよ」
「そっか……」
アルガスがあらぬ方向を見つめた。
ジークデン砦の方角だろうか。
「あの爆発だ。ラムザもディリータも死んじまったか」
「死ん……だ……?」
「あれだけのモノに巻き込まれて無事な方が奇跡だろうが」
「私は……奇跡?」
「かもな」
ようやく体が動かせるようになってきた。
顔を回して、辺りを確認する。
まだジークデン砦の付近だろうか。
雪が浅く積もっている。
焚き火が焚かれているのを見るに、アルガスが私をここまで運んで介抱してくれたってとこか。
「ありがと、アルガス」
「礼なんていらねえよ。体が
アルガスが手を差し伸べてくる。
正直、まだ体は痛みが残っていたけど、彼の手を取って何とか体を起こした。
「これからどうするんだ? イグーロスに戻るようなら送ってやってもいいぜ」
「イグーロス……か」
近くて、あんなにお世話になった家なのに。
凄く遠くに来てしまったように感じた。
何より。
「ユーリ……」
あんなユーリがいると思うと、それだけで帰りたくなくなった。
「喧嘩でもしたのか?」
「ああ、うん。そうかも」
「仕方ねえな」
ガリガリと頭の後ろを
「帰りたくないなら、いっそのことウチに来るか?」
「え……?」
「顔にくっきり書いてあるぞ。ベオルブ家に帰るのは
どれだけ表情に出たのか、自分でも分からない。
ただ、私が見る景色と、ユーリが見る景色が完全に違ったのは間違いなかった。
「セイギのミカタってのが何なのか、分からなくなったんじゃねえのか」
ふと、アルガスがそんなことを言った。
「……私が悪いんだ。私がユーリにあんなこと吹き込まなかったら、ユーリも歪まずに済んだのに」
「済んだことを気にしても仕方ねえだろ」
私は空を見上げた。日はとっくに沈んでいて、空には星が
「いいわ。あんたのとこに行く」
「言っとくが、給料は出ねえぞ」
「ご飯と、寝る所はあるんでしょ」
「まあ、それくらいはな」
何もかも壊れてしまった。
だったら、何かある所に行くしかない。
私の旅がそこから始まるのが分かるのには、それからどれだけの時間をも必要としていた。
さようなら、ユーリ……。