【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ   作:12club

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2章 謀略の在り処
3年後の5人


 ジークデン砦の悲劇から3年……。

 

 骸旅団という凶賊の群れは貴族が率いる騎士団によって殲滅された。

 

 しかし、王家の放埓(ほうらつ)な政治と、それを支えるはずの元老院同士の派閥争い。

 国王であるオムドリア3世は病弱で意志も弱く、およそ国王向けの人物ではない。

 

 いや、なかった。

 

 黒死病に冒された国王は七日七晩高熱に苦しんだ後、世を去った。

 

 残されたのは国王の直系にあたるまだ幼年のオリナス王子であり、彼が国王の後継者として目されていた。

 その後見人は、国王の妃であるルーヴェリア王妃の兄であるラーグ公。

 ラーグ公が王家の権力を一手に引き受けるチャンスでもあり、これでもかと言うほど当然のごとくタイミングの良い政権の交代劇だった。

 

 そこに現れたのは、国王の腹違いの妹であるオヴェリア・アトカーシャ。

 あまりにも都合の良い時に現れた、国王の血筋を引く王女。

 

 王家の派閥争い。

 年若きその王女が政権争いに巻き込まれぬよう、オーボンヌ修道院に預けられてから、ラーグ公の庇護を得てガリオンヌへと護送される算段になっていた。

 

 だが、王女オヴェリアはゴルターナ軍の騎士にかどわかされ、ゴルターナ公の元へと強奪される身となった。

 

 ここまでが、それを阻止せんとする傭兵ラムザと、ゴルターナ軍の騎士となったディリータたちの物語だ。

 

 物語はその少し前から始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 骸旅団壊滅後、一応の平穏を手に入れた社会を人々は謳歌していた。

 

 しかしラーグ公と、それをライバル視するゴルターナ公の緊張は高まるばかりで、内乱の火種が(いま)(くす)ぶっている。

 それに乗じて野盗や山賊に身を堕として起きる騎士崩れの凶賊たち。

 

 表向きは平穏無事と化した社会を享受する者たちも、先の見えない国家と打ち壊し目的の野盗に怯える日々が続き、国の前途が暗いものであることを誰もが察していた。

 

 国政を舞台にした権力の簒奪(さんだつ)争い、各地で頻発(ひんぱつ)する反乱。

 人々はまだ不安の中にいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side:ユーリ

 

「ザルバッグ将軍、ご報告いたします」

「うむ」

「失礼します」

 

 ベオルブ邸で執務に励むザルバッグ将軍に、オレは各地の小競り合いについての報告書を広げた。

 

「まず貿易都市ドーターの一件ですが、スラム街で発生した反乱分子は我々、北天騎士団の手によって鎮圧されました。それと同時、騎士団の一部をドーターに招き入れ、賊徒の一部による治安悪化を防ぐために駐留させる予定です」

「ダイスダーグ兄上はそのことをご存じか?」

「もともと騎士団の駐留は想定内との事でした。これにより、ゴルターナ軍の機先を制してガリオンヌ領の東端を北天騎士団が抑えた形となります。ゴルターナ軍も侵攻する大義名分は易々とは得られないでしょう」

「これでガリオンヌ領は盤石か。フォボハム地方はどうなっている?」

「あちらは難しいとしか言いようがありませんね。何しろバリンテン大公が抑えている土地。我々、北天騎士団……いえ、ラーグ公としても強くは出られないかと」

「なるほどな」

 

 ザルバッグ将軍はギシリと椅子を鳴らして、背もたれに体を預ける。

 

「ご苦労だった。今日はもう休んでいいぞ。……と、言いたいところだが」

「なんでしょう」

「兄上がおまえをお呼びでな。そちらの用件を済ませてから休んでほしい」

「かしこまりました」

 

 肯定の意を示し、オレはザルバッグ将軍に一礼してデスクに背を向けた。

 

「ユーリ」

「はい」

 

 慌てて体をザルバッグ将軍へと向き直す。

 

「3年前の事件……。おまえは後悔していないか?」

「自分が、ティータを射殺した件ですか?」

「それも大事だがあの時以来、おまえはアイリの姿を見てはいないのだろう?」

 

 オレは首を横に振った。

 

「自分で選んだ道です。もしもを応えても詮無きことですが、あの時ティータを助けられたら、アイリを傷付けなければ……そう思ったことはありますが」

 

 ザルバッグ将軍に視線を合わせる。

 

「反省はすれども、後悔はありません」

「そうか」

 

 将軍が両手を組んでデスクに預け、口元を隠して。

 

「つまらぬことを聞いたな。ベオルブ家の正義を貫いたおまえを、称賛すれども叱責(しっせき)はすまい。今後とも、おまえのことは頼りにしているぞ」

「ありがとうございます。将軍」

 

 そんなやり取りをした。

 

 そうだ。

 オレはベオルブ家の正義を貫いた。

 だからこそ、ザルバッグ将軍の意思に応え、ダイスダーグ卿の意に沿って今なお働き続けている。

 オレにはもう、退路はないのだ。

 

 

 

 イグーロス城の執務室。

 今はここにダイスダーグ卿が詰めているはずだ。

 

 コンコンと、扉をノックする。

 

「ユーリです。失礼いたします」

「入れ」

 

 中から渋い声が響いた。

 最近はあまり聞いていなかった、ダイスダーグ卿の声だ。

 

 今になってオレに用とは、いったいどういう用件だろう。

 

「よく来てくれたな」

「はっ」

 

 椅子に座るダイスダーグ卿の声を聞きながら、オレは一瞬、別の人物に視線を吸い寄せられた。

 

 黒い兜に黒鎧をまとったひとりの騎士。……いや、剣士か?

 

「こちらの方は?」

 

 失礼だとは思ったが、先んじてダイスダーグ卿に促す。

 

「紹介しよう。私が新たに雇った、剣士ガフガリオンだ。元は東天騎士団の一員でもあった」

 

 オレはダイスダーグ卿から紹介された壮年の剣士――ガフガリオンに向かって一礼する。

 

「ユーリです。お初にお目にかかります」

「おまえがベオルブ家の秘蔵っ子のユーリとやらか。オレはガフガリオン。多分、長い付き合いになるだろうが、よろしくな」

「長い付き合い?」

「事情はダイスダーグ卿から聞きな」

 

 何と言うか、無礼にもほどがある人間だ……。

 そう思ったが、それは違うと思い直す。

 竹を割った性格というか、物事にあまり頓着(とんちゃく)しない人物なのだろう。

 ダイスダーグ卿も、彼のそんな人格を買ったに違いない。

 

「詳しい自己紹介は後にしてくれ。今はおまえたちに任務を与えたい」

 

 オレは慌てて、ダイスダーグ卿へと体を向けた。

 ガフガリオンは顔だけそちらに向ける。

 

「任務は修道院に囲われている王家の人物をラーグ公にお届けすること、その護衛だ」

「ダイスダーグ卿直々の御命令とは……、危急を(よう)するということでしょうか」

「その通りだ」

「かしこまりました」

 

 どうやら今日の――いや、明日以降の休憩もまたふいになるらしい。

 そんな様子はおくびにも出さず、オレはガフガリオンに向かって手を差し出した。

 

「お世話になります、剣士ガフガリオン」

「オレは単なる雇われさ。堅苦しいのはナシだ。よろしく頼むぜ」

 

 オレはふっと表情を緩める。

 

「わかった。よろしく頼む、ガフガリオン」

 

 そう言って、オレはガフガリオンと握手を交わした。

 

 わざわざ正規の騎士でもなく、私兵として傭兵を使うとは。

 よほど後ろ暗い案件に違いあるまい。

 

 オレはうなじにゾッとするものを感じながら、任務の通達を受けた。

 

 

 

 

 

side:アイリ・サダルファス

 

 ガチャ。

 

「アルガス男爵、少しいい?」

 

 私は非礼を承知で、ノックもせずにアルガスの部屋の扉を開いた。

 途端にアルガスの表情が不機嫌になる。

 

「男爵と呼ぶくらいなら敬語を使え。何度も言っているだろうが」

「ゴメン、でもアルガスはアルガスだし」

「アルガスだし、じゃねえ。オレとおまえの身分の違いくらい(わきま)えろと言っているんだ」

 

 私とアルガスはエルムドア侯爵救出の縁を得て、幾分かサダルファス家の御家再興の機会を得た。

 それだけならもちろん、家の取り潰しを(まぬが)れる程度の功績だったのだけど、ジークデン砦での一件以降、私とアルガスは積極的に自領、そして侯爵領の野盗や食い詰めた騎士くずれの反逆者の征伐にあたった。

 その活躍がエルムドア侯爵の眼に()まり、晴れて男爵の地位――爵位としては、貴族にとって最低ランクだけど――を得ることに成功。

 御家存続と相成った。

 

 この平時にあって御家再興の機が得られたのが、骸旅団壊滅による反逆者勢力の殲滅後、今なお燻ぶっていた野盗どもの討伐だというのだから、世の中とはどうにも世知辛いものだ。

 

 そうして与えられたのが、ランベリー領内の片隅の小さな土地と禄高(ろくだか)だった。

 私たちはそこに建てられた小さな屋敷に住んでいる。

 

 私は……サダルファス家の養子となった。

 少なくとも、そういう扱いだ。

 平民が貴族の中で生きていくためにはそのくらいの気遣いは必要らしかったけど、アルガスはそれを(こころよ)く思ってはいないようだ。

 

「まあそんなことはどうでもいいとして」

「どうでもよくねえ」

「アルガスは聞いた? 例の話」

「例の話じゃなくて人の話を聞けよ」

 

 はあ、とアルガスは椅子にもたれ掛かり、デスクに両足をドカッと置いた。

 私以外の人間にはそんな不躾(ぶしつけ)なサマは見せないけど。

 こいつも少しは丸くなったってことかな。

 

「で、何だ。例の話ってのは」

「自領で燻ぶっているだけのアルガスには多分、伝わってないかもしれないけどさ」

勿体(もったい)ぶるな。さっさと言え」

 

 ピラリと、一枚の書類をアルガスに見せる。

 

「近々ゴルターナ軍が、オーボンヌ修道院を襲撃してオヴェリア王女の身柄を略奪するらしいわ」

「はぁっ!?」

 

 アルガスはデスクに組んでいた両足を離し、立ち上がってバン、と両の手をデスクに叩きつける。

 

「馬鹿なことを言うな! なんでゴルターナ公がそんなマネをする必要がある!?」

「でも(ちまた)ではそういう噂が(のぼ)ってるわよ。どうもラーグ公がオリナス王子の後見者となりそうだから、ゴルターナ公がその対抗馬として王女を擁立しようとしてるとか」

 

 「私にはチンプンカンプンな話だけどね」。

 そう付け加えておく。

 

「……ちっ、そういうことか」

 

 アルガスが再び椅子に腰を預けた。

 

「しっかしまた危ない橋を渡ろうとしてるな、あの御仁は。失敗したら失脚どころの話じゃねえぞ」

「ならアルガス男爵としてはどうするつもり?」

「決まってるだろ」

 

 席を立つアルガス。

 コートハンガーにかけてあった上着に手をかけ、乱暴にむしり取るように手に取る。

 

「ゴルターナ公を助ける。侯爵様がこっちランベリー領に居を構えている以上、ガリオンヌ領に手を貸す義理はねえ。それに」

「……それに?」

 

 まあ私にはその答えは分かっているけど。

 

「ここでゴルターナ公の覚えが良けりゃ、サダルファス家はより安泰だ。出世も夢じゃねえ。こいつはオレたちにとってもチャンスだ」

 

 ふう、と息をつく。

 やっぱりね。

 

「失敗したら痛い目を見るだけじゃ済まないわよ。最悪、切り捨てられて処断されるかも」

「痛い目を見るのはゴルターナ公だけだ。まあ爵位の剥奪(はくだつ)はあり得るだろうが、生きてりゃどうとでもなる」

「なんとも泥臭い貴族サマで」

「言ってろ」

 

 言って、アルガスはそのまま自室から出ていった。

 鎧兜は武器庫だ。

 恐らく戦闘になる。

 その予感だけはヒシヒシと感じているのだろう。

 事情に聡いアルガスなら。

 

 この3年間。

 私も武芸の訓練に励んだ。

 野盗らの征伐にも参加して、実戦をいくつも経験している。

 もう昔みたいな無様は見せないつもりだ。

 

 しかし、しかしだ。

 

 何だろう、この嫌な予感は。

 事はエルムドア侯爵だけでも、さらにゴルターナ公のものでもない。

 オヴェリア王女を中心に何かが動いている。

 

 それを感じているからこその、不安だった。

 

 

 

 

 

side:ユーリ

 

 早速だが、オレはガフガリオンとは別行動だ。

 

 オーボンヌ修道院から連れ去られた王女とゴルターナ軍の騎士を追って、先回りする。

 逃れるとしたらガリオンヌ領からランベリー領の間を抜けて、ベスラ要塞を経由してゼルテニア領に逃げ込むしかない。

 逆に言えば、ゼルテニアに逃れられたらオレたちの敗北だ。

 

 それまでにゴルターナ軍の騎士を包囲、捕獲する。

 その準備はとうに済んでいる。

 後はその包囲をじわじわと縮めていくだけだ。

 

 そして王女オヴェリアを取り戻した時。

 

 それがオレたちの任務の終わる時だ。

 

 

 

 

 

side:アイリ・サダルファス

 

 平服から戦時下の装備に着替えて、チョコボを2頭、牧場から放す。

 (くつわ)を締めて手綱を取り付けて、とりあえずこれで準備は完了だ。

 アルガスにせっつかれる前に準備を終えるのは、もう慣れたものだ。

 

「準備は……完了しているみたいだな。なんだよ、早いじゃねえか」

 

 たまにお褒めの言葉も貰える。

 

「大丈夫なの? 今もゴルターナ軍の騎士がどこにいるのかさっぱりなんでしょ?」

「逃走経路ならおおよそ予測はつく。安全に王女をゴルターナ公の元へ届けるなら、ベスラ要塞を経由してゼルテニア城に真っ直ぐ向かえばいい。オレたちがその経路を逆走すればどこかで合流できるはずだ」

「でもまあ問題は、それは北天騎士団も想定内、ってことだよね」

「だからこそ急がねばならん。北天騎士団には悪いが、包囲を食い破るために犠牲になってもらおう」

「そう上手くいくかしら」

「いかせなきゃならん。失敗したら首が飛ぶからな」

 

 だったら行かなきゃいいのに。

 そう言っても無駄だろう。

 アルガスは目の前にぶら下がった餌は食らい付いて離さないタイプだ。

 

 オヴェリア王女を助ける。

 それには賛成だ。

 

 だけど、なんだかきな臭い。

 まるで何かにお膳立てされているようなこの流れ、この雰囲気。

 

 せめて私とアルガスだけでも逃げ出せるよう立ち回らないと。

 

 そんな後ろ向きの覚悟だけ決めて、私は任務に臨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 運命は回る。

 くるくると。

 

 

 

 最高の再会は、最悪の邂逅。

 

 ユーリ、アイリ、アルガス。

 そしてジークデン砦の離別以来、行方不明だったラムザとディリータ。

 

 時代は彼らを稀代(きだい)寵児(ちょうじ)と持て(はや)すのか、はたまた非道な罪人と(ののし)るのか。

 

 

 

 答えは、まだ出ない。

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