【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ   作:12club

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1章 正義の在り処
士官候補生たち


side:ユーリ

 

「ユーリっ」

 

 掛け声と共に後ろから抱き着いてきたのは、双子の妹のアイリ。

 

「ああ、おはようアイリ」

 

 朝の挨拶(あいさつ)もそこそこに、オレはハグしてきたアイリを引っぺがす。

 簡素な革鎧とバレッタを身に着けたそいつは、贔屓目(ひいきめ)に見ても可愛いらしい。()いやつだ。

 かく言うオレも似たような兵装だが、多分こいつほどには似合っていないだろう。

 初々しい妹とは裏腹に、オレのはどう見ても戦士の見栄を張った不恰好に見えた。

 

「いちいち抱き着いてくるなって。周りから見ても目立つだろ」

「えー、いいじゃん別に。男子寮と女子寮が違うんだから、ちょっとしたスキンシップくらいはさ」

「まあ、おまえが言うなら別にいいんだけどさ……」

 

 と。

 

「よう、ユーリにアイリ。相変わらず仲がいいな」

 

 そう言ってきたのは、親友のディリータだ。

 

 ディリータ・ハイラル。

 オレたちと同じく、ベオルブ家の世話になっている平民の子だ。

 こいつにも溺愛しているティータという妹がいて、「まあオレとティータの仲には負けるがな」とか真顔でほざきおる。

 

「おはようみんな。ディリータ、朝の挨拶くらいはちゃんとしろよ」

 

 ディリータの後ろからやってきたのはラムザ・ベオルブ。ディリータと同じくオレたちの親友であり。

 ベオルブ家の妾腹(しょうふく)の子だ。

 すなわち、オレたちが世話になっているベオルブ家の正当な血筋の子息でもある。

 

「悪い悪い。おはようユーリ、アイリ」

 

 軽口で返すディリータが、これも軽口でオレたちに挨拶する。

 オレも適当に、「ああおはよう、ディリータ」とだけ返した。

 

 ここはガリオンヌ領の中にある魔法都市ガリランドの士官アカデミー。

 いわゆる軍属の士官学校だ。

 ラムザはともかく、ディリータやオレとアイリは、バルバネスおじさんの推薦を受けてここに入学した。

 学長は眼を丸くしたらしい。

 

 オレたちは朝から、アカデミーの講堂に集合するよう呼び出され、こうして集まった。

 おかげで今日は休講だ。

 

「……先日も荷馬車が何台かやられたらしい」

「それも骸旅団(むくろりょだん)の仕業なのかしら」

「かもな……。今までにも貴族の邸宅がいくつも連中に荒らされたらしいし」

「もうこのイヴァリースに安全地帯なんてないのかしらね」

 

 講堂の中は物騒な噂話で持ち切りだ。

 中でも最近、国中を荒らし回っている犯罪者集団『骸旅団』についての噂は毎日、ひっきりなしで持ち切りになっている。

 

 それを聞いていたオレたちは、何となく講堂に集められた用件が分かる気がしていた。

 

「これから何が始まるんだろう。知っているか、ディリータ」

「オレも朝から集められたばかりで何とも言いようがないが……、ただ、ある程度の予想はつく」

「と、言うと?」

「ラーグ公がこの町にお出でになる」

 

 ラーグ公。

 通称通り、公爵位を持つ御方でイヴァリースの王家、アトカーシャ家にあってナンバー3以内に付こうかというほどの権力者だ。

 

「ラーグ公が? 何故?」

「ラーグ公だけじゃない。ランベリーの領主、エルムドア侯爵もだ」

「初耳だな……。公式訪問、ということでもなさそうだ」

 

 と、横から。

 

「用件は何なのかな。この手のお忍び漫遊って、大抵ロクでもないことでしょ?」

 

 アイリが相変わらず無遠慮な物言いでディリータに問いかける。

 

「漫遊ってことはないにせよ、きな臭いことは間違いないだろうな」

「どういうこと?」

 

 ディリータが腕を組み、講堂の柱に背を預けて応える。

 

「骸旅団を始めとする盗賊たちはイヴァリース中で散発的に活動している。対する国内の騎士団は八面六臂(はちめんろっぴ)の大活躍だが、実際は人手が足りない」

「それがどうして、ラーグ公とエルムドア侯爵の略式訪問に繋がるわけ?」

「ここからは推測だが、おそらくは非公式的にでも手を組みたがっているんじゃないか?」

「どうしてさ」

「西の巨頭、ガリオンヌ領主が東側の重鎮、ランベリー領主と手を組めば、他の権力者たちも日和見ではいられなくなる。その下準備としてふたりが手を組めばそれがよりやり易くなる。オレはそう見るがな」

「ふーん」

 

 なるほど、とアイリは手を打った。

 

「やっぱりディリータは賢いね」

「よせよ。素直に褒められるとくすぐったいだろ」

 

 そう言うディリータも満更(まんざら)ではなさそうだ。

 で、オレとラムザもそれに追従する。

 

「騎士団の人手が足りないって言ってたよな。それは、つまり」

「僕ら士官候補生の出番、ってわけか」

 

 「ま、そんなところだろ」と、どこか他人事のような口調でディリータが結んだ。

 

 そんな雑談に花を咲かせていたところで。

 講堂入り口の扉がガチャリと開かれた。

 

 そこから騎士団の正装――甲冑(かっちゅう)を着けてマントを羽織った騎士が姿を現す。

 

「一同、整列!」

 

 その声に応えて、オレたち士官候補生は講堂の中心に整列した。

 

「士官候補生の諸君、任務である!」

 

 居丈高(いたけだか)に、眼の前に立った騎士がよく通る声で演説を始めた。

 

「諸君らも知っての通り、今、このイヴァリースでは国民を脅かす野盗どもが跋扈(ばっこ)している。特に昨今、国政を騒がせている骸旅団は、断固として誅すべき者どもである。それに対し、王家はこれら不埒者(ふらちもの)どもを撃滅すべく、各地へ騎士団を派遣することとなった。これは大規模な殲滅(せんめつ)作戦である!」

 

 殲滅作戦、と来たか。

 国の本気度が伺える言い回しだ。

 

「諸君も知っての通り、騎士団の今までの活躍により、既に盗賊たちはもはや虫の息である。だが窮鼠(きゅうそ)が猫を噛むことは十分にあり得る時勢だ。そこで、諸君らには騎士団の後方支援を命ぜられることとなった」

 

 ちらりとディリータを見やる。

 顔は見えないが、演説を聞いていたあいつがフッと息をつくのが傍目にも知れた。

 

「この命により、士官アカデミーはしばしの休校を決断した。貴君らはガリオンヌ領の守備に当たってもらいたい。これは王家からの君命である!」

 

 まあ言いたいことは分かるけど、どこか滑っている演説だな、とオレは他人事のように聞いていた。

 

 そこに、講堂の入り口からひとり、女性の騎士が駆け込んできた。

 口早に用件を告げたと思ったら、足早に講堂を後にする。

 

 講堂の壇上に立つ騎士がぐっと手を握りしめ、胸の前に掲げた。

 

「士官候補生の諸君、装備を整え、剣を取るがいい!」

 

 ザワ、と他の士官候補生たちが色めき立つ。

 

「騎士団に撃破された盗賊の残党どもがこの町に逃げ込んできたとの報だ。諸君らはこれら残党の掃討に手を貸したまえ!」

 

 ブン、と大げさに腕を振って、騎士はよく通った声で結んだ。

 

「これは殲滅作戦の前哨戦である! 以上だ! 各自は準備を整え、配置につけ!」

 

 そう叫んで、演説ぶった騎士もまた早足で講堂を後にした。

 

 講堂に残された士官候補生たちの顔色は様々だ。

 来たるべき戦闘に意気軒昂(いきけんこう)とする者、突然の戦いに戸惑い怯える者。それをなだめすかす者。

 我らがベオルブ家の者は、というと。

 

「盗賊どもも運が無いな。わざわざオレたちのいる町に逃げ込むなんて」

 

 ディリータがいつも通りの余裕を見せながら強気な言葉を吐く。

 

「油断するなよディリータ。相手が盗賊とはいえ、僕らの初陣なんだ」

 

 ラムザがたしなめるも、ディリータはからからと笑うだけだ。

 

「そう言うおまえも油断するなよ。いざ実践するとなると気合いが空回るのはおまえの悪い癖だぜ」

「言ってくれるな、ディリータは」

 

 そこで、ふとオレは思い出してディリータに声がけした。

 

「ディリータ。さっき含み笑いしてたけど一体何の吹き回しだ?」

「ん? あぁ、見てたのか」

「見てなくてもようとして知れたよ。壇上の騎士もムカッと来たんじゃないか?」

「まあな。アカデミーの士官候補生をガリオンヌ領に閉じ込めて後方支援とは、いささか皮肉が利いていると思っただけさ」

 

 それを聞いたアイリは、頭に「?」を浮かべたようだ。ディリータの真意が掴めなかったらしい。

 

「皮肉って、どういうわけ?」

 

 ディリータは肩をすくめて返す。

 

「よく考えてみろ。各地から集まっている貴族子弟たちを全員、ガリオンヌ領――すなわち成都イグーロスの防備に回すってことは、だ。その貴族連中に対して担保を取ったってことだ。これで日和見(ひよりみ)の貴族も発奮せざるを得ない。要するに(てい)のいい人質だ」

「もしかして私たちもラーグ公の人質になったってわけ?」

「オレたちは武勲名高いベオルブ家サマの尖兵だからな。むしろ発奮する側でなければならないかもしれん」

「ふーん、複雑なんだね色々と」

「オレはおまえのそういう単純なところ、嫌いじゃないぜ」

「どういう意味よ!」

 

 ディリータの軽口にぎゃんぎゃんと噛み付くアイリ。

 だがアイリもアイリで(さと)いことはオレも知っている。

 ただ人の好き嫌いが激しいだけで、あれはただ単にディリータとじゃれ合っているだけだ。

 

 そんなふたりを放っておいて、オレはラムザに水を向けた。

 

「で、我らが大将ラムザ・ベオルブとしては、今回の戦いはどう見積もっておいでだ?」

「決まっている。盗賊は成敗し、味方側の被害は出さない。ベオルブ家の家名に傷を付けるわけにはいかないからね」

「士官候補生の初陣としてはなかなかの難題だな。上手く統率してくれよ、大将」

「もちろんだ。きみこそ血気に逸るなよ、ユーリ」

 

 言って、ラムザは先立って講堂から出ていった。

 大将は大将で、小隊長同士の作戦会議があるのだろう。

 

「アイリ、ディリータも。オレたちは戦闘準備をするぞ。じゃれ合うなら生き残ってからにしろよ」

「誰と誰がじゃれてるってぇー?」

 

 アイリの剣幕が鋭い。

 それを見たディリータは再び、やれやれと肩をすくめた。

 

 

 

 初陣か……。

 

 小学生の時はこんな展開、これっぽちも想像していなかったし、戦争なんて対岸の火事だと思っていた。

 けど、今はもう違う。

 

 オレとアイリは人殺しになる。

 そうなるための講義や訓練も受けてきた。

 

 戦わなければ生きていけない。

 そう思うと、自然と自分の中の芯が冷えていくのが感じられた。

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