【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ   作:12club

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愛惜と謀略と

side:ラムザ・ルグリア

 

 唐突だが、ルグリア姓は僕の母方(ははがた)の苗字だ。

 ベオルブ家を離反した僕はベオルブ姓を名乗ることは出来ないし、するつもりもない。

 ダイスダーグ兄さんやザルバッグ兄さんはベオルブ家の正妻から生まれた子である故に、公然とベオルブ姓を名乗れるが、僕や妹のアルマは父の妾腹(しょうふく)から生まれた子であるため、正式にベオルブ姓を名乗ることは本来なら出来ない。

 しかしその辺りは物事にそれほど頓着しなかった父の(はか)らいで、ベオルブ姓を名乗ることが許されている。

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 

 僕ら、王女護衛隊一行はライオネル地方を南へ進み、一路ライオネル城を目指していた。

 

 その玄関口、城塞都市ザランダに到着したところ。

 城門の上に立って町の中の者に向かって啖呵を切っている若者がいた。

 

 アグリアスさんがそれを見て。

 

「揉め事か? 誰かに追われているようだが……」

 

 そう言い、僕もまたそれに追従した。

 

「このままでは彼がやられてしまう。助けよう!」

 

 しかし、アルガスが反発する。

 

「正気か? オレたちには何の得もない件だぞ」

「でもここは城塞の玄関口だよ。通るにしろ、避けて見過ごすことは出来ないんじゃない?」

 

 そこをアイリがたしなめてくれた。

 すっかりアルガスの女房役が板についてきたな、と考えてしまうのは無粋だろうか。

 

「仕方ねえ。さっさと蹴散らして先に進むぞ」

 

 アルガスがボウガンを取り出して、先陣きって城塞の中へと進んでいった。

 

 僕とアイリ、アグリアスさんも剣を抜き、その後を追う。

 

 アルガスが接敵したのか、中から怒鳴り声が聞こえた。

 

「なんだ、おまえは!?」

「いいからどけよ。命が惜しいならな!」

 

 急ぎ、僕らも城塞内に侵入した。

 

 思った以上に数が多い。

 人ひとりを追うにしてはやや、やり過ぎな感もある。

 

 だがアルガスの敵ではないようだ。

 数が多いだけでそれほど練度は高くない。

 ゴロツキの類か。

 

 文字通り中の敵を蹴散らしていく。

 その時。

 屋根の上にきらりと太陽光が反射するのが見えた。

 

「弓兵だ! アルガス、狙われているぞ!!」

「なんだと!?」

 

 言うが早いか、弓兵が矢をつがえてこちらに照準を合わせる。

 だが。

 

「あぶねえ!」

 

 城塞上の若者が叫んだ。

 

 パン、という破裂音が響く。

 それと同時、弓兵が矢を発する(いとま)も与えられず、屋根を転がり落ちた。

 なんだ、今の攻撃は?

 

 敵はそれで打ち止めのようだった。

 

「大丈夫かい?」

「ああ、なんとかな。ありがとう、助かったよ」

 

 若者は安堵し、僕らに礼を言った。

 

「また例のゴロツキたちが現れるかもしれない。一旦どこかに身を隠そう」

 

 

 

 

 

「あいつらはバート商会に雇われたゴロツキどもさ」

 

 若者――ムスタディオと名乗った彼は、簡潔に自分の身に降りかかった災難を語った。

 なんでもバート商会にとって重大な何かを、ムスタディオが握っているらしい。

 

「商会といっても、ただの商人の集まりじゃないぜ。裏では阿片(あへん)の密輸や人身売買など手広くやっている犯罪者の集団なのさ。バート商会は」

「そんなヤツらにどうして追われていたんだい?」

 

 ムスタディオがうつむき、独り言のように語り出す。

 

「……オレたちがなんで機工士と呼ばれているか、知っているかい?」

 

 僕は首を横に振った。

 

「機工士の町の地下には何百年も前の古代の遺産が眠っているそうだな」

 

 アグリアスさんが応える。

 

「その当時、人々は機械と呼ばれる高度な技術を有し、そこかしこを機械仕掛けの人間が闊歩(かっぽ)し、無数の飛空艇が飛んでいたそうだ。眉唾(まゆつば)な話だが」

 

 アグリアスさんの見識に僕は舌を巻いた。

 それに対してムスタディオが反論する。

 

「しかしそういった技術があったのは間違いないんだよ。機工都市ゴーグの地下にはそういった高度な技術と思しき遺産が大量に眠っているんだ」

 

 僕は先の戦いを思い出す。

 ムスタディオが片手で持てる程度の謎の武器で、弓兵を撃ち倒したのを。

 

「きみがさっき使っていた変な武器も機械なのかい?」

「ああ、これか?」

 

 ムスタディオがその小型の、機械を取り出していじくりまわす。

 

「これは銃という武器で、火薬で鉄の弾を撃ち出して敵をやっつける武器なんだ。これは単純なもので、古代では魔法を込めて撃ち出すものもあったらしい」

「ふーん……」

 

 とりあえず、僕はそれだけ聞いて興味をなくした。

 どうせ僕には扱えない代物なんだろう。

 

「おまえがバート商会に狙われる理由は何だ?」

 

 アグリアスさんが詰問するかのように、厳しい口調でムスタディオに問う。

 

「……あんたたちはドラクロワ枢機卿に会いに行くと言っていたな」

「何が言いたい?」

「ドラクロワ枢機卿は五十年戦争を戦い抜いた英雄だ。グレバドス協会からの信任も厚く、このイヴァリースの混乱を治められるのも枢機卿だけだと、民の皆も英雄視している」

「だから、おまえは何が言いたいのだ?」

「オレも連れて行ってくれないか?」

 

 ムスタディオがそう言うと、アグリアスさんが少し渋面を表した。

 信用できない。

 そう顔に書いてある。

 

「……何のためだ?」

 

 ムスタディオがそれを聞いて、大きな声を上げた。

 

「親父を助けるためだ! 親父はバート商会に捕らわれている。それを助けるにはどうしても枢機卿のお力を借りるしかないんだ! でも単なる機工士のオレに会ってはくれないだろう? 頼む!」

「だから、何故おまえはヤツらに追われているのかと聞いている!」

 

 アグリアスさんが叱り付けるように、激昂する。

 しかし、ムスタディオはそれに対して小声で呟くように。

 

「……今は話すことは出来ない」

「ならダメだ。おまえを連れていくことは出来ない」

「頼む! オレを信用してくれ! 決して他意はない! お願いだ!」

 

 ムスタディオの嘆願に対し、アグリアスさんは右から左だ。

 少し可哀そうだが……。

 

 ガチャリと、倉庫の内扉が開いた。

 

「わかりました。共に行きましょう」

 

 オヴェリア様だ。

 僕らはその前にひざまずく。

 

 ムスタディオは嬉しそうな表情を隠すこともなく。

 

「本当かい!? ありがとう、お姫様!」

「王女の御前ぞ!」

 

 アグリアスさんの 責(しっせき)に押され、ムスタディオは一歩下がってひざまずいた。

 

「良いのです。皆、楽にしてください」

 

 言われ、僕らは皆一様に立ち上がる。

 アグリアスさんはムスタディオに視線を向けて。

 

「わかった。おまえを信用しよう」

 

 同行の許可を出した。

 こう言ってはなんだが、割とアグリアスさんって単純だな。

 そう思った。

 

 

 

 

 

side:アイリ・サダルファス

 

 私とアルガス、オヴェリア様とアグリアスは町の展望台に立ち山向こうの方角を見ていた。

 アグリアスがオヴェリア様に、その先を指差して示す。

 

「ご覧になれますか? あの山の向こうを越えればライオネル城が見えてきます」

「ここからはまだ遠いのね……」

 

 言って、オヴェリア様は数歩前に立つ樹木に近寄った。

 葉を千切って、その場に落とす。

 

「アグリアスは知らないと思うけど、私はね、幼い頃は別の修道院にいたの」

 

 また葉を一枚千切って、オヴェリア様は続ける。

 

「王家の養女として迎えられた後も、オーボンヌ修道院に預けられてずっとそこで暮らしていたわ。だから私はこの空も、この木も、修道院の中のものしか知らない……」

 

 オヴェリア様がうつむき、両の手を組んだ。

 

「どうして私だけって、何度も思ったわ……。それが嫌だと思っているわけではないの。ただ、私が王女であるだけで死んでいく人がいる……。それが私には辛くて、悲しいの」

 

 アグリアスがオヴェリア様の述懐(じゅっかい)をなだめるように口を挟む。

 

「オヴェリア様が悪いわけではありません。オヴェリア様を利用しようとする者が悪いのです」

 

 それを聞いてか、少しの間だけオヴェリア様は無言になった。

 話題を変えようと思ったのか、別のことを話し出す。

 

「オーボンヌ修道院にいた頃、仲の良かった友達がいたの。その子も家の事情で長い間、修道院の中でだけ暮らしてたと言っていたわ。同じような境遇だね、ってふたりで笑っていたの。おかしいでしょう?」

「ベオルブ家のアルマお嬢様のことですね」

 

 アグリアスの言葉に、私は少し驚いた。

 でも、私だって同じようなものかな、とも思った。

 

 私こそ、士官アカデミーから見える景色だけを見て育ってきたのだから。

 

「私のたったひとりの友達……」

 

 葉を千切る。

 そしてまた別のことを口にする。

 

「枢機卿は私のことを利用したりしないかしら」

「オヴェリア様……」

 

 唐突に、アルガスが口を開いた。

 

「大丈夫です、オヴェリア様。オヴェリア様には我々がついております。悪漢(あっかん)などにオヴェリア様を不安がらせることなど致しません」

 

 まーた調子のいいことを言う。

 でもまぁ、それには同意かな。

 

 それだけ思って、私は沈黙を貫いた。

 

「ありがとう、アルガス」

「はっ、身に余る光栄です」

 

 もう一枚、オヴェリア様は葉を千切って、それを口に当てた。

 ぷう、ぷうと息を吹き込む音だけが聞こえる。

 

「友達に習ったけど、なかなか上手く鳴らないわ。アイリは出来る?」

 

 話を振られて、少し返事に戸惑った。

 

「申し訳ありません、生来の不調法者でして……。私も習ったんですけど、ついぞ上手く出来ませんでした」

「そう」

 

 それを聞いてか、妙なタイミングの良さでラムザが展望台に姿を現した。

 無言のまま、樹木から葉を千切って口に当てる。

 

 あ、そういえばラムザって。

 

 甲高い草笛の音が鳴った。

 

「こうするんですよ」

「こう?」

 

 オヴェリア様が口に葉を当てる。

 そして、鈍いながらもその葉が音を鳴らした。

 

「あ、鳴ったわ」

 

 ラムザの音と、オヴェリア様の音が重なる。

 

 その瞬間だけ、3年前の夕焼けのドラマチックな風景を、私は思い出していた。

 

 

 

 

 

side:ユーリ

 

 イグーロス城の一室。

 気は進まなかったが、こればっかりは仕方がない。

 

 ダイスダーグ卿への報告をしに、オレはガリオンヌ領へと戻ってきていた。

 任務失敗の報告をするためだ。

 

 ダイスダーグ卿が椅子に腰掛けながら、鋭い眼でオレとガフガリオンを見やる。

 

「なんとしてもオヴェリアを捕らえるのだ。同行するアグリアスらも同様だ。見つけたら(ただ)ちに処分せよ」

 

 その言葉に逆らうような気配を発しながら、ガフガリオンが反復するように問い返す。

 

「ラムザと、あとアイリもか?」

 

 ダイスダーグ卿が席を立つ。

 (そば)に置いてある食器棚からグラスを取り出し、その近くに置いてあったワインをグラスに注いだ。

 

「……勝手な行動を取るばかりか、私の邪魔をする不届き者どもめ。世間の厳しさを知るにはいい機会だと思って放っておいたが、よもやここまで愚鈍(ぐどん)だとは思わなかったぞ」

「始末するのか?」

「素直にこのイグーロスへと戻ってくるならそれで良い。ただこれ以上、私の邪魔をするのなら仕方ない……」

 

 そう言って、グラスをあおる。

 

「実の兄キとは思えン台詞(せりふ)だな。胸くそが悪くなるぜ」

 

 ちっ、と露骨に舌打ちするガフガリオン。

 

「ダイスダーグ閣下」

「……なんだ、ユーリ」

 

 聞いておいてなんだが、あまり口にはしたくない話題だ。

 

「抵抗すれば、アイリも同様に扱ってもよろしいですね?」

 

 ふぅ、と一息つくダイスダーグ卿。

 どうもオレの質問に(あき)れ返ったらしい。

 

「今さら肉親の情が湧いてきたか?」

「……いえ、そんなことは」

「なら構わん。これ以上の失敗は許さんと心得よ」

「はっ……」

 

 と。

 言い淀むオレに、ガフガリオンが助け舟を出した。

 あまり、ありがたくない泥船のような舟だったが。

 

「オレたちはアンタに忠実な飼い犬だぜ。かの聖騎士殿のように固い頭でもない。上手く扱ってそれなりの報酬を出してくれればそれでいい」

 

 ぎろりと、ダイスダーグ卿の眼が光る。

 

「ならばこれ以上のへまをしないようにするんだな。おまえたちの首など、私にとっては簡単に切り離すことができるのだぞ」

 

 うすら寒いことを言う。

 望外の任務で処断されるなど、不名誉もいいところだ。

 

「しかしライオネル領に逃げられたが、それはどうするンだ? 枢機卿がバックに付いたら厄介だぞ」

 

 ガフガリオンの言葉に、ダイスダーグ卿は表情を緩めた。

 いや、ほくそ笑んだと言ったほうが正しいか。

 

「それに関しては既に手を打ってある。心配するな」

「どこまでも準備は整っているってわけか。恐ろしい人だぜ、アンタは」

 

 そうやり取りして、ダイスダーグ卿は再びテーブルの席に着く。

 

「退室せよ、ガフガリオン。ユーリはここに残れ」

「了解だ。あンまり小僧をいじめるなよ、ダイスダーグ卿」

 

 言って、ガフガリオンは室外への扉を開いてその外に姿を消した。

 

「ユーリ」

「はっ、改めてなんでしょうか。閣下」

「おまえはベオルブ家の正義を疑ったことはあるか?」

 

 ダイスダーグ卿の眼が笑っていない。

 よもやこの場で処断されるようなことはないだろうが、今後のオレの扱いに関わる重大な質問だ。

 

「正直を言うと、何度もあります。ただし」

「……ただし?」

 

 オレは背を伸ばし、息を吸って冷静に応えた。

 

「ベオルブ家の正義の方針は常に、結果を正しく導いてきました。自分がそれに失敗することがあるなら、それは自分が任務に私情を挟んだ、ということでしょう」

 

 そう、先のゼイレキレの滝における、アイリとの一戦のときのように。

 

「だから、前回は失敗したと。そう言い訳するか?」

「失態は失態だと、素直に認めます。しかし次があるなら、今度は失敗しません」

「そうか」

 

 ダイスダーグ卿の質問はそれで終わりのようだ。

 だがオレの答えは、まだ終わってはいない。

 

此度(こたび)のオヴェリア王女の排斥(はいせき)は、イヴァリースの未来を左右する重大な任務だと認識しております。そのこと、自分は改めて肝に銘じます」

「うむ、おまえの熱意は十分に伝わっている。だが」

 

 トン、とダイスダーグ卿は人差し指でテーブルの端を叩いた。

 

「これ以上、私を失望させるなよ」

「……御意(ぎょい)に」

 

 そう応えて、オレはダイスダーグ卿に一礼し、ガフガリオン同様に退室する。

 

 なんだかんだでダイスダーグ卿は身内には甘い。

 それは家族愛に等しいものだと思っている。

 

 しかし、それが自分の企みを邪魔するのなら決して容赦はしない。

 

 あの時ティータを撃って、オレはベオルブ家の……いや、ザルバッグ将軍やダイスダーグ卿の正義を確信した。

 

 ベオルブ家の正義――ひいてはザルバッグ将軍の正義には限界がある。

 それを補うのが、今のダイスダーグ卿の手腕だ。

 

 ならばそれに従わない道理は、オレにはない。

 

 骸旅団壊滅に繋がったティータの犠牲は、ザルバッグ将軍たちの正義によるものだ。

 そして今回の、オヴェリア王女暗殺の任務も、イヴァリースの安定に繋がるものだと確信できる。

 

 それらがある限り、オレはダイスダーグ卿たちの、ベオルブ家の正義を信じる。

 

 例えオレの手が真っ赤な、それも友や肉親たちの血でまみれようとも。

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