【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ   作:12club

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枢機卿の計略

side:アイリ・サダルファス

 

 私たちがライオネル城に居を移してから数日。

 町は普段通りの喧騒に包まれ、人々が忙しそうに動いている。

 

 その中にあって、私とアルガスは不安を抱えて過ごしていた。

 

「さて、どうしたもんかね……?」

「落ち着きなよアルガス」

「……落ち着くのはおまえの方だろ。あちこち歩き回って解決するような問題じゃねえぞ」

 

 私は行儀悪く指を嚙みながら、言われている通り部屋の中であちこち歩き回っている。

 

 ユーリが来ている。

 ということは、あの腕利きの傭兵であるというガフガリオンも一緒だろう。

 

 ラムザは、まだ戻らない。

 

 ライオネル軍がバート商会を壊滅させて、無事に聖石を確保しているならもう戻ってきても良さそうな時期だけど……。

 

 無為にライオネル城の中で過ごすこの時間がもどかしい。

 何より、ラムザが戻らないことに不安を感じる。

 

 何らかの企みに巻き込まれたんじゃないか。

 そしてそれは、私たちにとっても無関係ではないのではないか。

 

 そんな気苦労が胸の内をざわつかせる。

 

 と。

 

 ドンドン、と分厚い部屋の扉が乱暴にノックされた。

 

 心臓が跳ね上がる。

 

「ど、どうぞ!」

 

 慌てて言い繕う私。

 それでもなお挙動不審になってしまった。

 

「邪魔するぞ」

 

 聞き覚えのある声。

 暗がりの中から姿を現したのは。

 

「ディリータ!?」

「久しぶりだな、アイリ」

 

 部屋の中を見回すディリータ。

 

「おい、オレには挨拶(あいさつ)無しか? ディリータ」

「ああ、おまえもいたのか。アルガス」

「けっ」

 

 口先で舌打ちするアルガス。

 

「ぼろ臭い部屋だな。おまえたちの扱いがよくわかる」

「そりゃ私たちはオヴェリア様と一緒にいるだけの客分だもの。部屋をあてがわれているだけでも恩の字よ」

「ふたりでひと部屋か? ハレンチだな」

「私は別の部屋!」

 

 アルガスが、ガタンと乱暴に椅子に座ってテーブルに足を乗せる。

 

「で、なんでおまえがここにいる?」

 

 ディリータに問いかける。

 

「お姫サマの様子が気にかかってな。だからオレも客人だ」

「ディリータがオヴェリア様を気にかけてたの?」

「おまえはオレを何だと思ってるんだ……。あんな別れ方をしたんだ。気になって当然だろう」

「でも、私にはそれだけじゃない気がする」

 

 ぼそりと口にした私に、ディリータが視線を向けた。

 

 ヒュッと、ディリータが口先を鳴らした。

 

「いい勘してるじゃないか。おまえたちにとっても悪い話じゃないぜ」

「なんだと……?」

 

 アルガスが訝し気に威嚇(いかく)する。

 しかしそれに対し、ディリータはけんもほろろな調子で続けた。

 

「オヴェリア王女をゼルテニアに連れていく。当然、おまえたちもその護衛として、だ」

「ディリータ……、貴様、何を考えている?」

「悪いがそれは言えない。ただこれはオレたちの意思でもある」

「オレ()()?」

「おっと、口が滑ったか?」

 

 これは失敬、と言わんばかりだけど、彼の様子は変わらない。

 こちらの方が反応に困る。

 

「オレたちはオヴェリア王女の協力者だ。そして彼女を救い出せるのはおまえたちでも、ラムザでもない」

 

 吟じるように、うたう。

 

「このオレだけだ」

「何を言っているの……? 私にはあんたの言ってることがさっぱり分からない」

 

 私の言葉に、ディリータは肩をすくめた。

 

「今は分からなくてもいい。ただオヴェリア王女も、ひいてはおまえたちを助けるためでもある。この状況からな」

「そう……」

 

 考えろ。

 

 オヴェリア様は枢機卿に庇護を求めた。

 それに対し、枢機卿は快く応じた。

 枢機卿には何の(うま)みもない話。

 

 しかし、そこに枢機卿の何らかの目的があるとしたら……?

 

「枢機卿は、オヴェリア様をゴルターナ公に渡すことを望んでいる……?」

「なかなか頭が回るな」

 

 それで分かった。

 

 枢機卿が何を企んでいるのかまでは分からない。

 それと併せて、ユーリがここまで来たことと関係があるのは間違いない。

 

 枢機卿はダイスダーグさんの目論(もくろ)んだ狂言誘拐に一枚噛んでいる。

 そして、それは。

 本当の枢機卿の狙いはラーグ公の企みを阻むことではなく。

 

「……本気で言っているの? オヴェリア様がゴルターナ公の手に渡れば、アグリアスが言っていた通りイヴァリースを二分する大戦が始まる恐れがある。枢機卿に何の得があるの?」

「そこまではオレも知らん。だがこれはオレにとってはチャンスだ。オレはオレのために動く。それだけだ」

「ディリータ……」

 

 私はディリータの視線を外せないでいた。

 

 3年前に見せた、激情を秘めたその眼差しは今でも忘れられない。

 ただ、今は。

 

「……ティータの事は、もういいの?」

 

 彼の、冷ややかに乾いた眼差しは変わらない。

 

「ティータの事は関係ない。オレにとってはもう済んだ話だ」

「ウソ」

 

 私はそう、ディリータに断じた。

 

「あんたはウソを付いている。あれだけ溺愛していたティータの事、忘れるはずがない。今だって、きっと……」

「黙れ」

「黙らない。あんたが動いている理由は私怨かもしれない。どうしてウソを付くの?」

「黙れと言っている!!」

 

 ディリータの手が動いた。

 腰に()いた剣を抜き、私の目の前にピタリと定める。

 

「オレはオレのためにしか動かない。ティータの為だと? おためごかしも大概にしろ!!」

 

 やっぱりか。

 

 ディリータの気持ちがようやく分かった気がする。

 こいつは……、自分でどうにもできなかったあの出来事を悔いている。

 復讐のため、そのためにゴルターナ軍の騎士になるほどに。

 

 だけど、これ以上は私の口から聞くことは出来ない。

 彼の思いに、土足で踏み込むような理不尽なマネは出来ないから。

 

「……わかった、あんたの案に乗るわ」

「おい、アイリ!」

 

 ガタンと席を立って、私を制するアルガス。

 しかし私は言い続ける。

 

「アルガス、あんたに付いてきてとは言わないわ。でも私は、ディリータが何を目指しているのかが知りたいの。それに、黙ってオヴェリア様を放っておくわけにもいかない」

 

 「オヴェリア様は私が守るんだから」。

 私はそう結んだ。

 

「……ったく、本当にしょうがないやつだなおまえは」

「ゴメン、アルガス……」

「誤解するなよ、オレだって真相ってやつを知る権利くらいはある。それにオヴェリア様をゴルターナ公に授けるのはオレにとって出世の大チャンスでもあるんだ。おまえだけにいい目をさせてたまるか」

 

 ディリータは先の激情を引っ込めて、剣を鞘に納める。

 

 そして、ぷっと吹いた。

 

「正直なやつだな。オレはおまえのそういうところ、嫌いじゃないぜ」

「そうかい。オレはおまえのそういう腹の内を見せないところは大嫌いなんだがな」

 

 そう言い合って、ふたりは互いを牽制(けんせい)しながら視線を交わしていた。

 

 これは誰かのお膳立てだ。

 多分、ドラクロワ枢機卿の……いや、それ以上の大勢の誰かたちの。

 

 今はこの流れに乗るしかない。

 オヴェリア様がその流れの中心にいる以上、彼女を守る者が必要だ。

 

 今のディリータには、任せられない。

 

「出立は明朝だ。おまえたちもくたびれた頭をまっさらにして少しは休むんだな」

 

 そう言って、ディリータは部屋から出ていった。

 バタンと、部屋の扉が閉じる。

 

「……今さらだが、いいのか? あんな胡散臭(うさんくさ)いやつの考えに乗りかかって」

「仕方ないでしょ。オヴェリア様を守るためなら、今はこの流れに乗るしかないってことが」

「まあオレとしても、オヴェリア様を守ることには賛成だけどな。出世のチャンスはまたこれで増えたわけだ」

「それに関しては賛成だけど、油断しないでよ。まだ誰かさんの手の平の上にいるのは間違いないんだから」

「分かってるって」

 

 言いながら、アルガスはまだ上機嫌だ。

 こいつの欠点は、食い付いた餌を噛み付いて離さないことだ。

 それはときに美点となるのだろうけど、今回は別だ。

 

 何らかの計略の内側にいる。

 

 そういうことに関して、アルガスのようなやつは体よく利用されて捨てられる。

 キャッチアンドリリース。

 それで済めばいいのだけど……。

 

 私は言いようのない不安を抱いて、今夜を過ごすことになった。

 

 

 

 

 

side:ユーリ

 

 オレの役目はライオネル城の動向を見張ること。

 ガフガリオンは、その実働隊だ。

 

 ラーグ公の計略に乗った枢機卿の狙いを暴く。

 それがオレに課せられた任務でもある。

 

 今のところ、ライオネル城に大きな動きはない。

 それはつまり、些細な出来事があって初めて気づけばもう遅い。

 そんな危険なギャンブルを仕掛けるということだ。

 

 そして明朝。

 

 オレはその賭けに勝った。

 

「ガフガリオン」

 

 オレは仮の本拠地としていた宿の一室にこもっているガフガリオンに声をかける。

 

「なンだ」

「計画は失敗だ。急いでここから撤収するぞ」

「……何があった?」

「ディリータが動いた」

 

 ガフガリオンがそれを聞いて、「はあ?」と訝しげな表情になる。

 

「誰だ、そのディリータってのは」

「以前、ゼイレキレの滝で戦ったゴルターナ軍の騎士だ。ヤツがオヴェリア王女を密かに連れ出しているのを確認した」

「ちっ」

 

 ガフガリオンが不機嫌に、露骨に舌打ちした。

 

「枢機卿にいっぱい食わされたってことか。ヤツはラーグ公に協力すると見せかけて、独自の計略を立てていたってわけだ」

「多分、今ここにラムザがいないことも枢機卿の狙い通りなんだろう。これ以上もたつけば、ダイスダーグ卿の計画はおしゃかになる」

「仕方ねえ。ラムザとの決着は後回しだ」

「ああ、ガリオンヌ領に配置した実行部隊を動かして、オヴェリア王女を捕縛する。何としてもだ。それが成れば、ダイスダーグ卿の計画は完遂できる」

「これ以上の失敗は出来ンからな。場所は、例の滝か?」

「そこで締め上げる。こちらの動きを気取られる前に、ヤツらの後を追うぞ」

「了解だ」

 

 ダイスダーグ卿の計画は既に頓挫(とんざ)している。

 

 しかし挽回の機会はある。

 あと一手、その機会を無駄にしなければ全て元通りになる。

 

 ダイスダーグ卿の正義。

 それを成す最後の機会は、オレの手に掛かっている。

 

 

 

 

 

side:アイリ・サダルファス

 

 ゼイレキレの滝。

 ここを通るのは二度目になるか。

 

 しかし今回はライオネル領に逃げるのとは逆方向。

 北方のゼルテニア領へと向かうためだ。

 

 それは必然的にガリオンヌ領の端を通ることになる。

 

 果たして北天騎士団がそれを見逃してくれるだろうか。

 

 私たちがオヴェリア様を(ともな)って、橋を渡れるかどうか。

 

 多分、見逃されることはあるまい。

 

 相手は北天騎士団。

 そして私たちはゴルターナ軍の護衛隊。

 

 まさかの幸運など望めない。

 確実に、戦闘になる。

 

 当のゴルターナ軍の騎士であるディリータはそんな不安などおくびにも出さず、先陣きって先を急いでいた。

 

 

 

「何をのんびり歩いている。そんなペースじゃいつまで経ってもゼルテニア城には辿り着けないぞ」

 

 ディリータが私たちを()かす。

 

 オヴェリア様を連れているのだ。

 旅慣れていない彼女を連れて進むには、どうしても足が遅くなる。

 

 オヴェリア様が不安げな顔色のまま、ディリータに不満を漏らすような声音で話しかけた。

 

「……やはり貴方も枢機卿と結託していたのね。今さら私をゼルテニアまで連れ出して、どうするつもりなの?」

「簡単なことだ。おまえはおまえのまま、王女であればそれでいい」

「どういう意味?」

「このままだとおまえは北天騎士団に狙われて死ぬってことさ。助かるためにはオレたちに付いてくるしか他に道はない」

 

 その言葉に、オヴェリア様の表情がことさら不安に怯えて見えた。

 見ていられず、思わず私は声をかける。

 

「大丈夫です、オヴェリア様。私とアルガスがついています。ディリータの好きにはさせません」

「……でも、貴女(あなた)たちもゴルターナ軍なのでしょう? 信じることは出来ない……」

「この身をもって証明してみせます。オヴェリア様は必ずお守りいたします」

 

 滝に掛かった大橋を渡る。

 その瞬間だった。

 

「そう簡単にはいかンな!」

 

 聞き覚えのある壮年の男の声が、辺りに響いた。

 

 大橋の先を阻むように、黒鎧の剣士が立っている。

 あれは……ガフガリオンだ。

 

「ここで全員始末する。悪く思うなよ」

 

 そして大橋の後ろ側。

 この声は……。

 

「ユーリ……!」

 

 私の声に反応することなく、ユーリは指笛を吹いた。

 

 周囲から、ぞろぞろと白獅子の紋章をいただく騎士たちが姿を現す。

 北天騎士団の、暗殺部隊だ。

 

「これが最後の機会だ。おとなしく王女を渡せ。そうすればおまえたちの命だけは助けてやる」

 

 ユーリが恫喝(どうかつ)する。

 対して、ディリータが反論した。

 

「真相を知る者は全て始末するつもりなんだろう? 貴様らのやり口にはそろそろ辟易(へきえき)してきたところだ」

 

 ふぅ、とユーリはため息をついた。

 抜刀する。

 

「この人数差で勝てると思っているのか?」

「数だけ揃えてもどうってことないってことさ」

「その辺の雑兵とは格が違う。今回は逃がさん」

「みんなそう言って死んでいったぜ」

 

 ディリータもまた抜刀した。

 遅れて、私たちも剣を抜く。

 

 ディリータがオヴェリア様に一喝(いっかつ)した。

 

「早くオレの傍に来い! 死にたいのか!?」

 

 オヴェリア様が慌てて大橋の真ん中へと駆けていく。

 

 前門のガフガリオン、後門のユーリ……。

 まったく、隙のない布陣だ。

 私は他人事のように、心の中で(ひと)()ちた。

 

「いい加減、面倒くさくなってるのよね、あんたたちに付き合うの。ユーリ、あんたには悪いけど、ここは押し通らせてもらうわ」

「出来もしないことを言うものじゃないぞ、アイリ」

「そっちこそ」

 

 アルガスも剣片手にボウガンを手に取る。

 

「あんまり鉄火場ってのは得意じゃないんだがな。だが邪魔するなら容赦しないぜ」

「強がるなよアルガス。おまえごとき、北天騎士団の敵ではないことをここで証明してやる」

「はっ、こっちの台詞だ。強がるのも大概にしておけよ、ユーリ」

 

 答えの出ないやり取りの応酬に疲れたのか、ふう、とユーリは一息ついて。

 

「総員、抜刀。今度こそここで全員を始末するぞ!」

「やれるものならやってみなさい、ユーリ!」

 

 ユーリと私の音頭(おんど)に応えるように、戦いの始まりの(かね)が鳴るように、お互いの敵意が広がった。

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