【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ 作:12club
side:ユーリ
ゼイレキレの滝をバックに、再び戦いが幕を開けた。
敵はアイリにアルガス、そしてディリータ。
しかも連中は王女オヴェリアを守らなければならない。
対するオレたちは多勢。
大橋を囲う形でヤツらを包囲している。
相手は
こちらに圧倒的な分がある。
唯一難点なのは、こちらから攻撃する際に橋を渡る必要があるため、ふたり以上で斬り込めないことだ。
どうしても一対一の戦闘を強制される。
相手もそれは承知の上だろう。
と、なれば。
北天騎士団の騎士がアイリたちへと迫る。
それを迎撃するアイリとディリータ。
さらにその背後から、アルガスが弩弓で以ってヤツらを援護する。
攻めあぐねる騎士たち。
この程度の苦戦は予想通りだ。
それなら、こちらも伏兵を投入するまで。
「弓兵! 崖上から王女を狙え!」
オレの指示に応え、滝の上から弓兵が姿を現した。
大橋上のオヴェリア王女に向けて弓を構える。
「ちっ!」
アルガスが弩弓を構えるが、ヤツの弓では崖上には届かない。
射程範囲外だ。
アルガスはその場に弩弓を捨てて、盾で王女を庇う。
一斉に矢を射込める弓兵たち。
その間隙を縫って、大橋の両端から騎士たちが包囲を締め上げる。
アイリとディリータはそれを捌くのに精一杯だ。
この布陣に穴はない。
アイリたちの命運もここまでだ。
その事実に、オレは少し心を痛める。
だがそれだけだ。
もはやオレにも、アイリにも、逃げられる退路はないのだ。
覚悟の上だろう。
と。
「アルガス!」
ディリータが叫ぶ。
「なんだ!?」
「王女の護衛は任せた!」
降りしきる矢の雨の中を突っ切って、ディリータが逆にガフガリオンの方へと駆け出す。
「おおおおぉッ!!」
一声大喝。
怯んだ騎士たちをことごとく蹴散らし、無理矢理に大橋の囲いを破り始めた。
一列に並ぶ騎士たちは成すすべなく斬り倒されていく。
オレはその様を冷静に観察していた。
わかっているのか?
おまえが向かうその先は、北天騎士団だけじゃない。
ガフガリオンが
囲いを破り、矢の雨を受けながらその相手が出来るのか?
いや。
「弓兵
ガフガリオンの傍まで迫ったのなら、
そうなれば、ディリータはガフガリオンと一対一だ。
ここに来て、包囲に割いていた騎士を使い捨てたのが利いてきた。
こうなったら、ディリータはガフガリオン頼みだ。
と、なれば。
オレはアイリへと視線を向けた。
そちらもまた、予想外にもアイリが善戦していた。
side:アイリ・サダルファス
騎士が一列に並び、大橋へと迫ってくる。
私に後退は許されない。
そちらにはアルガスと、オヴェリア様がいるのだ。
突破されればそれで終わりだ。
騎士が私に迫る。
さらに矢の雨が降り注ぐ。
これをどう凌ぐ?
焦りが冷や汗となってうなじを
これだ。
この感覚。
視界が一気に上空のものへと俯瞰した。
私が、上空から私自身を見下ろすこの風景。
景色の全てがセピア色に染まる。
3年前、ウィーグラフとの戦いで獲得した、私の能力。
感覚の暴走。
見える。騎士が剣を袈裟懸けに振りかぶるのが。
見える。その剣を、自身を横に振り、躱して騎士の首を薙いだのが。
見える。倒れる騎士の背後からさらに別の騎士が迫り、剣を下方から振り上げるのが。
見える。それを横目に逸らして避け、両腕を薙いで
見える。さらにその後ろ、慌てて剣を構え直す騎士の姿が。
見える。構える直前に一瞬で、私の剣が騎士の首を横薙ぎに払ったのが。
見えた。降り注ぐ矢の雨の間をすり抜けて敵陣を突破する、私の後ろ姿が。
俯瞰する風景が、私の元へと戻る。
セピアに染まった風景が、色を取り戻す。
タイムアップだ。
最後に見えたのが、迫る私を驚愕に満ちた眼で見るユーリの顔だった。
「ユーリッ!!」
私の渾身の一撃が、ユーリの剣を捉えた。
ガギン、と金属がこすれ合う耳障りな音を立てて。
私とユーリの剣の刃が、互いに折れ飛んだ。
「ぐッ……! アイリ……!?」
即座にユーリが折れた剣をその場に捨てる。
私もまた、折れた剣を投げ捨てた。
ユーリが腕をぶら下げるように下ろし、腰だめに体を落とす。
――熱き正義の燃えたぎる! 赤き血潮の拳がうなる! 連続拳!
ユーリの拳が、連続で私の急所を打ちのめす。
体の各所が痺れ、痛みに震えた。
顔面に受けて血にまみれた口の中から、私は唾に混じった血をその場に吐き捨てる。
後背へとたたらを踏みながら、即座に反撃に移った。
――渦巻く怒りが熱くする! これが咆哮の臨界! 波動撃!
気を練った遠当てのごとき拳撃。
まともにぶつかったユーリが背後へと吹っ飛び、踏ん張った足でその場に立ち止まる。
剣の打ち合いから拳の殴り合いにまで発展した私とユーリは、間合いが開いて一旦動きを止めた。
「アイリ……、さっきのおまえの動き、一体何だ? おまえに何が起きた……?」
さっきの動き、というのは。
あの
「私だって知らないよ。いつの間にか出来るようになってたんだから」
「そんな言葉で納得できるか……! 人間の動きじゃないぞ!」
「なら私は、バケモノでいい」
いつの間にか、矢の雨は止んでいた。
私がユーリと接近したからかもしれない。
懐から短剣を取り出す。
そうして私は眼を閉じた。
体が空へと舞い上がるように、浮かぶのを感じる。
眼を見開いた。
視界が上空からの俯瞰に変わる。
景色が色を失う。
見えた。
ユーリの急所を、短剣で貫く私の姿が。
ゴメン、ユーリ。
私はもう立ち止まれないんだ。
刹那。
映画のフィルムが乱れるように、視界がノイズにまみれた。
ガンガンと、脳が揺さぶられるように意識が揺れる。
世界が色を取り戻す。
俯瞰していた風景が、強制的に私の元へとより戻る。
気付いた時には、私はその場に膝を突いて、今まさに倒れようとしていた。
ああ、そうか。
さっきの
軽い音を立てて、倒れ伏す私。
直前に見えたのは、呆然と立ち尽くすユーリの姿だった。
side:ディリータ・ハイラル
アイリは、どうなった?
人の心配をしている場合ではない。
そんな暇など与えないほど、ガフガリオンの剣は鋭く、重く、そして
「やってくれるぜ、小僧。そろそろ
――神に背きし剣の極意、その目で見るがいい……。闇の剣!
ガフガリオンの剣に力がたまる。
高まっていく。
オレはそれを冷静に眺めつつ、口にたまった血を吐き捨てた。
暗黒に染まった剣がオレ目掛けて迫る。
だが。
「遅いッ!!」
剣の懐に入った。
刃が胸をこするものの、致命的な一撃ではない。
それと引き換えに、オレの剣がガフガリオンの腕を目掛けて打ち払った。
キイン、と甲高い金属音を立てて、ガフガリオンの剣が舞い上がる。
ヒュンヒュンと空気を切り裂きながら飛び回る剣は、ポチャンと軽い音と共に滝つぼに落ちた。
「くそがッ!!」
徒手空拳となったガフガリオンは、一気に劣勢となって。
クルリと反転し、この場から一気に走り抜け、戦場を後にした。
決着だ。
オレは息をつき、剣を地面に突き立てて体を支える。
呼吸が荒い。
思った以上に、オレは体に疲労が溜まっているのを感じた。
しかし、この場は切り抜けた。
アイリは……、アルガスと王女は、どうなった?
side:ユーリ
ぜえぜえと、呼吸を整える。
目の前には、倒れ伏してその身を無防備にさらけ出すアイリ。
止めを刺すなら、今しかない。
だが。
ここに来て、状況は大きく変化していた。
上空から矢撃で王女を狙う弓兵たちはアルガスの盾に防がれて、その場から動くことも出来ず。
対するアルガスは既に弩弓を拾い上げていて、盾で王女を守りながらしっかりとオレに狙いを定めている。
オレがアイリに手を出せば、容赦なく撃つだろう。
今のオレにそれを回避する手段はない。
業腹だが、仕方ない。
「全軍……、撤退だ。この場から撤退しろ!」
勝ち目のある戦いだった。
だがオレは見誤った。
敵を寡兵だと侮り、戦力差を過信して、敵の猛反撃を許した。
こんなオレを、ダイスダーグ卿は許さないだろう。
情況はオレたちのために動いてくれるものではない。
絶えず変化して、ときに敵の有利に働くものだ。
単なる言い訳に過ぎない。
オレは滝を大きく迂回する形で、ガリオンヌ領を目指して敗走することに決めた。
side:アイリ・サダルファス
(…………?)
私は、どうなった?
真っ暗だ。
今の私は夢を見ているのだろうか。
何も見えない、漆黒に染まった夢を。
それとも――ああ、これこそが。
冥府の風景。
私は死んだのだろうか。
体を流れる血の冷たさに身震いする。
意識はくっきりと、はっきりとした形を描いている。
それが叫んでいる。
私が果ての無い暗闇の中にいることを。
沈んでいく私が、もがいている。
まだだ、まだ私は生きているんだ、と。
それを実感した直後、私は眼を見開いた。
体は凍ったように動かない。
だけど眼は光を捉え、死の暗闇から生命ある輝きに照らされた。
「……起きたか?」
聞こえたのは、ディリータの声。
「まだじゃねえか? 少しは待ってやれ」
次いで、アルガスの声。
「追っ手は
「仕方ねえな……。よっと」
突如、私の体に衝撃が走った。
転がされたと認識したとき、私ははっきりと意識を取り戻す。
「うッ……、かはッ、ゲホッ……!」
息が詰まる。
気管支に溜まっていた余分な空気を吐き出そうと、咳が出た。
「……ッ! ここは……?」
「よう、起きたか」
「アルガス……?」
アルガスの顔が見えた。
暗がりに、
それが焚き火の光だと認識するのに、数秒かかった。
「ランベリー領内だ。もう北天騎士団も追ってはこれん。休んだらすぐに
ディリータが私を責めるような雰囲気を醸し出しながら、不機嫌な口調で言う。
「ユーリは……? あれからどうなったの?」
「説明してる暇はない。道中で話してやる」
言って、焚き火を
「急ぐぞ。おまえも早く立て。これ以上休む暇は与えんからな」
「う、うん……」
無理矢理、体を起こす。
両手を地面に突いて、足を動かし、なんとか歩ける形にはなった。
その傍で、オヴェリア様がしずしずと立ち上がったのが見えた。
「オヴェリア様……! ご無事でしたか」
「ええ、貴女たちのおかげでね」
そう言って、私に手を伸ばす。
私はオヴェリア様の手を取り、立ち上がった。
「アイリ、それにディリータ、アルガス。私を守ってくれてありがとう。感謝します」
「そんな……、勿体ないお言葉」
私とオヴェリア様のそんなやり取りを、知ってか知らずか、ディリータとアルガスは既に先へと先行していた。
「のんびりするな、おまえたち。急ぐぞ」
ディリータは相変わらず私たちを急かす。
時間に余裕がないのは分かるけど、もう少し心に余裕は持てないものなのだろうか。
「ディリータはいつもあんな調子ね……」
「オヴェリア様への不忠は私が注意しておきますから……。どうかオヴェリア様にあられては、お気になさらず」
「わかったわ。さあ、行きましょう」
ここは、聞いた限りではランベリー領内。
ならもう妨害は無いはず。
でも万が一を考えたら、急ぐ必要はある。
それに。
(ユーリ……)
私が最後に見たのは、ユーリの胸板を短剣で貫く私の姿だった。
ユーリは死んだのか?
いや。
あの景色は幻だったのだろう。
私が本当に最後に見たのは、呆然と立つ彼の姿だったのだから。
そして、ユーリが生きているということは。
まだダイスダーグさんの計略が生きている。
それを何とかするためには、オヴェリア様をゴルターナ公の元に届けるしかない。
今はただ、その無事を祈ることしか出来なかった。
「しかしおまえのあの技、凄かったな」
「え?」
アルガスの言葉の意味が分からず、私は頭に「?」を浮かべた。
「敵の攻撃を全部すり抜けて根こそぎ斬り払って、まるで透明人間が攻撃しているようだった。あの技、後でオレにも教えろよ」
「あの技……って、あぁ、『
私はそう呼んでいる。
3年前、ウィーグラフと戦った時、偶然発現したものだ。
自覚できるようになったのはつい最近で、実践できたのはさっきの戦闘が初めてだ。
「多分、無理。私だってがむしゃらに戦って、いつの間にか出来るようになったものだから。教え方も知らないよ」
「なんだよ、使えねえな」
「使えねえな、じゃないわよ。あのときも連続で使おうとしたらそのまま倒れて、今の今まで意識が飛んでたんだから」
聞いて、ちぇっと残念そうに舌打ちするアルガス。
男というのはいくつになっても、必殺技みたいなものを欲しがるんだろうか。
小学生の時はそんな男子、多分だけど結構いただろうし。
あんな大技に比べたら、拳法家の拳術の方がよっぽど使い勝手がマシだ。
「まああんな技がなくても、いずれはオレが追い越してやるぜ。な、ディリータ」
「そんなくだらん話にオレを巻き込むな。
ランタンを手に歩くディリータと共に、暗い夜道を歩く私たち。
夜空を
夜道のごとく、