【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ   作:12club

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獅子戦争勃発

side:ユーリ

 

 ダイスダーグ卿への報告は、以下の通りだ。

 

 お膳立てしていただいた枢機卿との密約は、反故にされて王女をゼルテニアに向かわせる始末。

 

 ならばと、最後の機会を得て、ゼルテニア領に入られる前に連中をまとめて始末しようとしたところ、敵の戦力を見誤って失敗。

 

 ダイスダーグ卿の顔に泥を塗るだけに終わった。

 

 オレとガフガリオンはそのことをダイスダーグ卿に報告しなければならない。

 

 気分が陰鬱になるのもむべなるかな、といったものだ。

 

「……そうか。オヴェリアは枢機卿に保護された挙句にゼルテニアに辿り着いた、そういうことだな?」

「申し訳ありません。枢機卿が密約を反故にしなければ……」

「このたわけ者が!!」

 

 ダイスダーグ卿の怒りが怒髪天を()いた。

 

 怒声に身が震え、思わず足がすくむ。

 

 しかし。

 

「……まあ済んだことを責めても仕方あるまい。我々の計画に誤算があったというだけのことだ」

 

 人差し指でトントンと、テーブルを叩く。

 

 オレは思わず口を開いた。

 

「この失敗も、計画の内だ、と……?」

「おまえたちが失敗さえしなければ計画は完璧だったのだ。だが予想外の事態が多すぎた。それに手が回らなかったのは私のミスだ」

「枢機卿の狙いを読み損ねたのは自分の失策でした。またディリータが暗躍していたのも予想外のこと。全ては自分の責任です」

「おまえは自分の事を責めなくとも良い。なあガフガリオン」

 

 ちらりと、ダイスダーグ卿がオレの隣に立つガフガリオンへと視線を向ける。

 

「小僧のミスはオレのせいだって言いたいのか?」

「そういうつもりはない。全ての責を負うのは私だ」

「あンたはそういう人間だったな。で、これからの展望はあるのか?」

 

 ガタン、とダイスダーグ卿が席を立つ。

 窓際に立ち、遠くを見やった。

 

 あの方角は、ルザリア地方か。

 

「今回の計略はゴルターナ公の勝ちのようだ。だがその事態の中心はヤツではない」

「オヴェリアがゴルターナ公の手に渡ったら負けじゃないのか?」

「事態が大きく推移するのは間違いないだろう。だがここで見るべき敵を見誤ってはならぬ……」

「ゴルターナ公は真の敵じゃないってことか?」

「そういうことだ」

 

 ダイスダーグ卿はオレたちに背を向けたまま、告げる。

 

「ガフガリオンは引き続き私の補佐をせよ。ユーリ、おまえには別の任務を与える」

「はっ……」

 

 ダイスダーグ卿が窓から眼を外し、オレに体を向けて。

 

「略式だが、おまえには聖騎士の称号を与える。ザルバッグと同格だ。だが実務はやつに丸投げで良い」

「それは……」

「だが仮にも聖騎士の称号を戴く者が、家格無しでは格好が付くまい。おまえにはベオルブの名を名乗ることを許そう」

「……光栄な話ではございますが、自分に務まりますでしょうか」

「務めてもらわねば困る。ザルバッグに政務ばかりを任せてはおけぬ。その実働部隊として働け。つまり、おまえは最前線で北天騎士団の指揮を執るのだ」

 

 ゾッとした。

 腹の底から冷えるような感覚が立ち昇っていく。

 

 兵の指揮権を預かるということはつまり、戦場を支配せよということ。

 そしてそれに失敗すれば、今度こそ間違いなくオレの首は胴と離れるだろう。

 

 ダイスダーグ卿が再び席に着き、オレに冷たい視線を向けた。

 

「己に課された大任は理解できたな? これ以上、私を失望させるなよ」

「はっ……、粉骨砕身、努めます」

「失敗は許さんぞ」

 

 その言葉を最後に、オレとガフガリオンは一礼して部屋を退室した。

 

 

 

 何者かが我々の計画を邪魔しようとしている。

 そしてそれはゴルターナ公ではない。

 

 得体の知れない、正体不明の何かだ。

 

 だが。

 

「謀略でこの私を出し抜こうなど、出来ると思うなよ。なあ、ラーグ公……」

 

 私はようと知れぬ輩を前に、ほくそ笑むように口の端を歪めた。

 

 

 

 

 

side:アイリ・サダルファス

 

 ランベリー領内に入り込んでから三日ほど。

 

 私たちの目の前に、黒々とした城壁が見えてきた。

 ようやく、ゼルテニア城に辿り着いたのだ。

 

 もうオヴェリア様の体力も限界だ。

 

「ようやくゼルテニアか……。オレもここに来るのは初めてだな」

「アルガスにとっては上役(うわやく)にあたるゴルターナ公の居城でしょう? 今回初めて、なんてことあるの?」

「単純に用が無いんだよ。それにオレみたいな下級貴族じゃ、公爵様にお会いすることも叶わないしな」

 

 私とアルガスがそんなことを話している間にも、ディリータはずんずんと前へと進んでいく。

 慌てて後を追いかける私たち。

 

「王女はオレが面通ししておく。おまえたちは先に入って、用件を上役に話しておけ」

 

 そう言って、オヴェリア様を伴って城中へと入っていった。

 上役、って言われても……。

 

「そう景気の悪い顔をするな。偉いやつを選んで事情を話せばいいだけだ。覚え目出度(めでた)ければ出世の足掛かりにもなるぞ」

「はぁー、あんたは相変わらずねぇ」

 

 そんなやり取りをしていると。

 

「諸君らか。オヴェリア様をここゼルテニアにまで護衛してきた者とは」

 

 真正面から声を掛けられた。

 

 ちょっと油断していた。

 まさか相手から話しかけられるとは思っていなかった。

 

「えっと……、貴方は?」

「この馬鹿ッ、大人しく跪けッ」

 

 アルガスが私の頭を抑え付け、無理矢理ひざまずかせる。

 同様に、アルガスもまた膝を突いた。

 

「オルランドゥ伯爵様、お目にあずかり光栄にございます」

 

 伯爵……ということは、エルムドア侯爵に次ぐ爵位ということか。

 当然、下級貴族のアルガスにとっては雲の上の人なんだろう。

 

「そう(かしこ)まらずとも良い。貴公らの働きは腰の重い我ら公に仕える重臣には成せなかったこと。(おもて)を上げるがよい」

 

 言われて、立ち上がる私とアルガス。

 

「良い眼をしている」

 

 そう言う目の前のおじいさんは表情を緩め、温厚な態度で私たちに接してくれた。

 

 オルランドゥ伯。

 昔、聞いたことがある。

 

 五十年戦争の折、ベオルブ家の当時の北天騎士団長バルバネスおじさんと双璧を成す勇ましい武人であったと。

 こんな優しそうなお爺さんがそんな方だったことに、私は少し驚いた。

 

「オヴェリア様は?」

 

 まだ事情を掴み損ねている伯爵様に、アルガスが説明を始めた。

 

「我々と行動を共にしていた者が、重臣の方に御目通(おめどお)ししているとのことです。オヴェリア様もガリオンヌからここまでの道のりは長く、疲れ果てていたことでしょう。きっとお休みされる一室を探しているはず」

「ふむ、無理もあるまい。貴公らがいなければ既に北天騎士団によって命を散らしていたであろうことは想像に(かた)くない。精神的にも疲れていらっしゃったことだろう」

 

 そう言って、眼を細めた。

 こちらもまた好々爺然とした風情の方だったけど、ドラクロワ枢機卿とは違う、表裏の無い真摯(しんし)な方のように思えた。

 

「詳しい話をまた後で聞かせてもらいたいところだな。後で客室を用意しよう。貴公らも今はくつろぐがよい」

「恐縮に存じます」

 

 アルガスが一礼する。

 私も慌てて腰を曲げた。

 

 オルランドゥ伯か……。

 

 バルバネスおじさんが唯一、尊敬できる友人だと言っていたことを思い出す。

 ゴルターナ軍に所属する人が、このような方ばかりだといいんだけれど。

 

 私は威風堂々と歩き去っていく伯爵の姿を見ながら、そんなことを思っていた。

 

 

 

「あ、いたいた。ディリーター」

「大声を出すな、恥ずかしい」

 

 アルガスが叱責する。

 城というと私にとってはイグーロス城の方が土地勘があって、ここゼルテニアでも同様な振る舞いをしてしまう。

 アルガスにはそれが不敬だと伝わってしまったようだ。

 

 ディリータが手をちょいと小さく上げて、こちらに向けて振った。

 

「丁度良かった。今からゴルターナ公の元に事情を説明するためお目通りするところだ。おまえたちも付き合え」

「そいつはまた突飛な話だな。たかが情報の伝達くらい、その辺の貴族に伝えるだけじゃダメなのか?」

「ダメだ。オレの目的はそんなことじゃない」

「目的?」

「見ていれば分かる。行くぞ」

 

 そう言って、ずんずんと先を進んでいった。

 勝手きわまるとはこのことなのだろうか。

 それでも、自信満々なディリータのこの態度に、私は少し嫌な予感を感じ取っていた。

 

 今まで付き合ってきたディリータは、昔とは違う、そんな人間だと感じていた。

 

 

 

 

 

 謁見の間の大扉が開く。

 

 ディリータがその中心を歩き、私とアルガスはその両脇を固める形で進む。

 

 ゴルターナ公の周りにはそうそうたる顔ぶれが揃っている。

 そんな気がした。

 

 なにせ先ほど出会ったオルランドゥ伯が脇を固めているのだ。

 それに同席しているというだけで、面々の存在の大きさが分かるというものだ。

 

 やばい、なんか緊張してきた。

 

「お主か……。オヴェリア王女を救出したというのは」

 

 重々しく、ゴルターナ公が呟く。

 

「黒羊騎士団が副官ハイラル。名をディリータ。密命により密かに騎士団を出奔、オヴェリア様の救助の任を受けて参りました」

 

 大臣らしき方が小声で呟くのが聞こえる。

 

「ハイラルだと……? 聞かぬ名だ」

 

 まあそりゃそうだろう。

 というか、ディリータってそんな身分の人間だったっけ?

 

「団長のグリムス男爵は先の亮目団との戦いで討ち死に、騎士団も壊滅したはず」

「そのため、急ぎ帰還いたしました」

 

 ゴルターナ公がちらりと、大臣たちへと視線を向ける。

 

「王女は?」

「長旅に疲れておいでか、死んだように眠っておられます」

「ふむ……」

 

 続けて、オルランドゥ伯が口を開いた。

 

「……捕虜を連れてきたと聞いたが?」

「はっ」

 

 ……はっ?

 そんなやつ、いたっけ?

 

「捕虜を連れてこい!」

 

 ディリータの声に応えるように、扉の外から騎士がみすぼらしい盗賊のような男を伴って歩いてきた。

 

「なぜ王女をさらった?」

「オヴェリア王女を手元に抑えることでゴルターナ公の元から王女を排斥し、摂政の位を与えないためだ……」

「それを指示したのは誰だ? ルーヴェリア王妃か?」

「……いや、ルーヴェリア王妃に与する、ゴルターナ公の重臣のひとりだ」

 

 それを聞いた大臣のひとりが顔を真っ赤にした。

 

「馬鹿な! そんな不忠者などが我が陣営にいるはずもない! 即刻その口を黙らせよ!」

「まあいい、聞け」

 

 大臣の癇癪(かんしゃく)をなだめるように、ゴルターナ公が諫める。

 

「その重臣とは誰だ?」

「……ろうな?」

「なんだ」

「オレの命は、助けてくれるのだろうな?」

「約束しよう、言え! 言うんだ!」

 

 捕虜が意を決したように、大臣へと顔を向けた。

 

「……そこにいるグルワンヌ大臣だ」

 

 その応えに、一斉に皆の視線が大臣へと注がれる。

 

「嘘を申すな! わしはおまえのことなど知らぬ!」

 

 だがその応えに、ディリータは。

 

「誰にそそのかされた? 王妃か?」

「馬鹿な! わしは関係ない!」

「主君を裏切った罪は重いぞ! 大臣どの!」

 

 問答無用とばかりに、ディリータが剣を抜いた。

 一触即発の空気が場を支配し、重臣の方々もそれぞれ武器に手を掛ける。

 

「知らぬ!! わしは知らぬ!!」

 

 その場から逃げ出そうと走る大臣の背に向かって、ディリータは何の躊躇いもなく斬り付け、殺害した。

 私は唖然とするしかなかった。

 

 剣を納め、再びゴルターナ公に向かって跪くディリータ。

 

「具申いたします! ただちに南天騎士団を引き連れ、王都ルザリアに上洛すべし! さもなければ王女誘拐の責を取らさんとする輩が公に罪を被せ、弾劾せんと考える不埒者が現れるでしょう」

 

 すらすらと、舌が回るように言葉を並べ立てるディリータ。

 嫌な予感が、最悪の形になって現実化しようとしている。

 

「そうなる前に、オヴェリア様を女王の御座に据え、その後見として王妃らを排斥すべし!!」

 

 それらを聞いて、ゴルターナ公は眼をつむった。

 

 多分、いや間違いなく。

 

 ゴルターナ公はディリータの思惑通りのルートを辿ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 私たちはゼルテニア城の外に出た。

 というか、私がディリータを外に連れ出した。

 

「ディリータ! あんた何を考えているのよ!?」

 

 口角泡を飛ばして、ディリータに詰め寄る。

 

「なに、とは何だ」

「今は戦時下でもないってのに、ゴルターナ公にあんなこと吹き込んで! このままじゃ、アグリアスが言っていた通り、オヴェリア様を利用してイヴァリースを二分する大戦に発展するかもしれない……、いいえ、間違いなくそうなるわ!」

「アグリアスが何を言っていたかは知らんが、ラーグ公が大人しくしている限りはそんなことは起きやしない」

「大人しくしているわけがないでしょう! ラーグ公はオリナス王子っていう王家の後継者の後見をしている人物よ! その対抗馬として現れた王女を無視するはずがないじゃない!」

「そこのところはゴルターナ公の手腕にかけるしかないな」

「あんな人に何が期待できるっていうの!?」

 

 ゴルターナ公の真意までは読み取れなかったけど、多分ろくな人じゃない。

 どこの誰とも分からない馬の骨の口車に乗って、自身の大身である大臣の誅殺を見逃したような人物だ。

 

 得体の知れない馬の骨の、ディリータの言葉を真に受けて。

 

 ディリータはやれやれと肩をすくめた。

 

「本当ならおまえたちを人身御供(ひとみごくう)として差し出そうと思ったんだがな。だが男爵と王妃じゃ、互いに計略を結んだように見せかけるには格が違い過ぎる。そうしなかったオレに感謝してもらいたいもんだな」

「ディリータ……! 私はあんたを許せない……!」

「別にオレはおまえに許しを請うつもりはない」

 

 これで準備は済んだとばかりに、晴れ晴れとした表情で背筋を伸ばすディリータ。

 何故こいつは、あれだけのことをしておきながらこんな顔が出来るのか。

 

「おまえもこれから忙しくなるぞ。さっさとランベリー領のサダルファス家に帰ったらどうだ? ゴルターナ軍の尖兵として、戦争に臨む準備でもしているんだな」

「あんたってやつは……!」

 

 私の意も介さず、ゼルテニア城へと戻っていくディリータ。

 私はただそれを、怒りの眼で見つめながら黙って見送るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴルターナ公は王女オヴェリアをイヴァリースの正統な後継者として即位させると、自身はその摂政とし後見人を称した。

 

 南天騎士団を糾合したゴルターナ軍は王都ルザリアへと侵攻。

 

 ルーヴェリア王妃を王女誘拐及び暗殺の嫌疑をかけ、ベスラ要塞へと軟禁した。

 

 

 

 対するラーグ公はオリナス王子を正当な王家の後継者として擁立。

 

 自身はその後見人としてオリナス王子を総大将とした北天騎士団を率い、王妃を救出すべくベスラ要請へと侵攻。

 

 ゴルターナ公もまた、女王オヴェリアを総大将とした南天騎士団を率いて北天騎士団に対抗。

 

 ベスラ要塞を進発した。

 

 

 

 

 

 後年、『獅子戦争』と呼ばれる、イヴァリースを二分する内乱の始まりである……。

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