【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ 作:12club
異端者
side:アイリ・サダルファス
オヴェリア王女――いや、女王オヴェリア様をゼルテニア城にお連れしてあれから3ヶ月。
ベスラ要塞にゴルターナ軍陣営の重鎮が集まり、第一回の軍事会議が開かれていた。
男爵の爵位を持つアルガスはエルムドア侯爵に従い、その会議に臨席。
私もまた、彼の従騎士として会議の警護を任されている。
ベスラ要塞の警備は厚い。
まあ要するに。
「暇ねぇ……」
あくびを噛み殺してしょぼつく
そんな流れを繰り返して数時間。
ようやく会議がひと段落したのか、警備室にアルガスからのお呼びがかかった。
なんだろう、と思いながら私はアルガスに会いに、会議場の待合室へと赴く。
そこには難しい顔をしたアルガスが立っていた。
行儀悪く、爪を噛みながら。
「どうしたのアルガ……いえ、サダルファス卿」
「会議が紛糾してな。答えは出たんだが、散々な結果に終わったよ……」
「というと?」
アルガスが簡潔に、議場で決議された事項を述べる。
戦争による死傷者は両軍合わせて約4万人、負傷者はゴルターナ軍だけでも軽く20万は超えるとのこと。
そして今季の干ばつにより、糧食のあてがなくなり、それをまかなうために3割の増税が決定されたこと。
食料と職のあてが無くなった流民たちが王都ルザリアだけでも10万人ほどになり、今まさにゴルターナ陣営にも流れてくるかもしれないとのこと。
そして、一番大事な。
オルランドゥ伯が提案した和平工作に関しては、一も二もなく蹴られたとのこと。
「戦争屋は大層、戦がお好きなようで。市民に対する配慮なんて考えもしてないのでしょうか」
「オレたちじゃどうにもできねえからな。こうまで戦線が膠着しちまえば単なる下士官でしかないオレたちは
「いつもの、出世のあてはーは、どうしたんです?」
「どこを覗いても尋常じゃない戦線なんだ。それこそオルランドゥ伯みたいな戦績を出さない限り、眼には止まらねえよ」
アルガスがここまで言うほどだ。
よっぽどこの戦争の規模が今までとは違う、ということだろう。
五十年戦争のミニチュア版、といったところか。
「サダルファス卿はいかがなさいます?」
「しばらくは自領で待機だな。侯爵様が直々に戦線に出られるんだ。ランベリー領の守りを固めねばならん」
「ふーん、そう……」
「なんだその反応は?」
聞かれるが、私はそれを右から左にして荷物を片し始める。
それを訝しげに見ていたアルガスに、先手を打って言葉を掛けた。
「ちょっとラムザに会ってきます」
「は?」
「ラムザなら、もしかしたら私たちが知らない情報を持っているかもしれません。枢機卿の間で何があったか、それを聞いてきます」
「どこにいるかもわからんぞ。というかおまえはオレの領地の従騎士だ。勝手なマネは許さん!」
「だから、今ここでお見逃しください、サダルファス卿?」
聞いたアルガスが、はぁ、と深くため息をついた。
諦めてくれたらしい。
「……ちっ、なら勝手にしろ。何か不義があったら全部おまえの責任にするからな。それくらいは聞き入れろよ」
やっぱり丸くなったものだ。
昔のアルガスなら、ぶん殴ってさっさと帰れこの馬鹿、くらいは言いそうなものだったし。
「ではサダルファス卿――いえ、アルガス。ちょっと行ってくるね」
「さっさと行け!」
「はーい」
そんな簡単なやり取りだけして、私はベスラ要塞から出発した。
チョコボを走らせて
本来ならゴルターナ軍はここ、ガリオンヌ領に入ることなど自殺行為に等しいけど、私は下士官で覚えも少ないし、ゴルターナ軍の軍装さえ外せばどうとでもなった。
適当に、大きな酒場を探して情報を集める。
お目当ての情報はすぐに見つかった。
「金髪のいいとこの坊ちゃん傭兵? ああ、それなら見たことあるぜ。数日前だったかな」
「本当!?」
「ホントもホントだぜ。なあ姉ちゃん、混み入った話ならちょっと酒代貸してくんねえかな」
「ケチなこと言わないでよ。ちゃんと
「豪気だねぇ。そういうの、嫌いじゃないぜ。オレはよ」
それから私たちは情報収集を交えつつ、取り留めのない世間話をした。
酒代は、そいつはエール。
私は果実のジュースに消えたけど、おかげでいい情報が手に入った。
その金髪の一団――ラムザたちは北へと向かったらしい。
無目的だとは思えない。
となると用があるのは……。
「王都ルザリア辺りってとこか……。ありがと、情報屋さん」
「おう、また何か聞きたかったらオレに当たりな」
酒場の外に出て、私はまたチョコボに乗ってドーターの北出口へと向かった。
ゼクラス砂漠を越えて、さらに途上にある炭鉱都市ゴルランドを通り過ぎる。
そうすれば王都ルザリアまで一直線だ。
そうして辿り着いた王都ルザリア。
難民が
避難民は王都の外で燻ぶっているということだろうか。
その割には静かなものだったけど。
ルザリアが誇る巨大な宮殿、王宮の前に差し掛かる。
そこには見覚えのあるチョコボが繋いであった。
確か、ザルバッグさんのものだった、と思う。
ラムザが用があるとしたら、ザルバッグさんの元くらいか?
私は衛兵に、ラムザの縁者だということを伝えて王宮へと歩みを進めた。
side:ラムザ・ベオルブ
僕は以前、港町ウォージリスで再会したディリータから聞いていた。
この戦争は避け得ぬ流れであり、誰もがその流れに巻き込まれている。
しかしディリータは、「オレはその流れに逆らおうとしている」。そうも言っていた。
僕はこの戦争を利用しようとしている謎の存在について注意しようとするため、ザルバッグ兄さんの元を訪れていた。
僕はザルバッグ兄さんが詰めている執務室の扉に手を掛けて。
「ハロー、ラムザっ」
軽い挨拶の声を掛けられた。
「アイリ!」
「久しぶりだね、ラムザ」
「僕がここにいるってこと、よくわかったね」
「これでも耳には自信があるんだよ。ラムザの足音くらいなら簡単に追跡できるよ」
「そうか。……しかし、僕は」
「ザルバッグさんに具申することがあるってことでしょ? ま、入りましょ」
ガチャリと扉を開く。
そこには書類を広げて執務に励むザルバッグ兄さんの姿があった。
「……おまえたち、もう少し静かに出来ないのか? 中にまで聞こえてきていたぞ」
「すみません、兄さん……」
「だがおまえたちがルザリアに来ていたとは思いもよらなかったぞ。アルマも来ている。会ってやるといい」
そう言うザルバッグ兄さんは、書類にペンを走らせるだけで、僕らには見向きもしなかった。
そのことが、僕の胸を締め付ける。
「……兄さん」
「なんだ」
「戦いをやめることは出来ませんか?」
「……何を馬鹿なことを……!」
「かつてベオルブ家は民を守るために剣を振るってきました。しかし今は己の権益のため、私利私欲のために戦っている……」
「おまえに何が分かるというのだ?」
「兄さんこそ、何も分かっていない!」
僕は声を荒らげた。
「この戦いは誰かが仕組んだもの、ラーグ公もゴルターナ公も、その誰かに利用されているだけなんだ!」
ピタリと、兄さんの手が止まった。
「利用されているだと? おまえはいったい何を言っている?」
僕はうつむく。
単純にそれ以上のことが言えなかったからなのだが。
「……僕にも分からない」
一番気にかかっていることだけ、簡潔にまとめて、僕は話す。
「ただ、ダイスダーグ兄さんがオヴェリア様の狂言誘拐を企んだとき、ゴルターナ公に王女を連れてこの戦いをお膳立てした者がいるんです。それがなければ、ゴルターナ公は王女誘拐の実行犯として王家に誅罰されていたでしょう」
「兄上が狂言誘拐を仕組んだだと?」
ガタン、と椅子を蹴り飛ばすように立ち上がる兄さん。
「ラムザ! おまえは実の兄がそんな謀略を働かせたとでも言いたいのか!?」
「……兄さんは何もご存じないのですか!?」
「ええい帰れ! おまえはもうイグーロスへ戻るんだ! 今まで眼をかけてきたが所詮、
「兄さん、兄さんは僕の言うことを信じてくれないのですか?」
「勝手な行動ばかり取るおまえの何を信じろというのだ!」
「……兄さん……」
僕の横から、すっとアイリが並んだ。
「お言葉ですがザルバッグさん、ラムザの言っていることは真実です」
「アイリ……?」
「私は故あってゴルターナ軍に所属しております。その立場から言わせてもらえばラムザが言っていることは全て真実だと、そう信じられます」
「ゴルターナ軍に所属だと? おまえはわざわざ敵地に乗り込んでまで、私に忠告しに来たとでも言いたいのか?」
「はい、今回の謀略は全てその者たちの計りごと。ダイスダーグさんもラーグ公も、ましてやゴルターナ公もその誰かに利用されているだけなのです」
「その誰かとは、何者だ?」
「詳しい黒幕は誰かまでは、それはわかりません……。ですがゼルテニア城にオヴェリア様をお連れしたのは、ディリータです」
「ディリータだと? ……馬鹿げた話だ」
「真実です。ディリータはその何者かの指示を受けて、何かを企んでいる。それは事実です」
アイリの言葉を受けて、ザルバッグ兄さんは黙り込んだ。
一連の話を聞いて、頭の中で
しかし。
執務室に向かって誰かが駆け込む足音が聞こえた。
「ザルバッグ将軍! ドグーラ峠が雷神シドに率いられた南天騎士団に突破されました!」
ザルバッグ兄さんが騎士に応じて。
「なんだとッ!? ヤツはベスラではなかったのか!?」
「はっ!」
「すぐに軍事会議を開く。皆を集め、おまえも同行せよ!」
「かしこまりました!」
ザルバッグ兄さんが執務を中止して走り去っていった。
「兄さん……」
それきり、僕は二の句も告げられず黙りこくったままだった。
side:アイリ・サダルファス
ルザリア城の裏門。
「ここまででいいよ。済まないねアイリ、見送ってもらって」
「私もアルガスの所に戻らなきゃだしね。そのついでだよ」
と。
「ラムザ兄さん!」
私とラムザの間を縫って、少女がひとり駆けてきた。
ラムザの妹――アルマだ。
「アルマ……」
「黙って出ていくなんてひどいじゃない」
「……別れは苦手なんだよ」
しどろもどろに返すラムザ。
返答を待たず、アルマは私の方を向いて。
「アイリ姉さんも姉さんよ。ラムザ兄さんを引き留めないで、勝手に出て行って」
「それは……、アルマを巻き込みたくなかったし」
「それこそ勝手じゃないの」
ぐうの音も出ない反論をもらってしまった。
「……ディリータが生きていたんだ」
「え?」
「ディリータは僕らに復讐するため、ゴルターナ軍に入ったんだと思っていた。でも、違う。もっと厄介な連中と一緒に、何かを企んでいるようだ」
「兄さんたちは、そういった人たちと戦うって言うのね……」
「ああ……」
アルマがまなじりに涙をためる。
「ティータは……ティータはどうなの?」
ラムザは無言のまま、首を横に振った。
アルマが意を決したように顔を上げる。
「私も兄さんたちと一緒に行くわ」
「なんだって!?」
青天の霹靂に打たれたかのようにラムザが後ずさる。
「兄さんの言っていることが正しいっていうこと、私は証明したいのよ!」
「ダメだダメだ」
「私だって、ティータみたいな子をもう出したくないの!」
「……アルマ……」
ふわりと、ふたりの間を柔らかな風が吹き抜け、その髪をあおった。
その刹那。
「ラムザ・ベオルブだな?」
壮年の男の声が響いた。
私たちはその声の先に、眼を躍らせる。
「私はザルモゥ・ルスナーダ! 貴様には枢機卿殺害、及び邪神崇拝の罪に問われている! 即刻、異端審問会に出頭せよ!」
私は即座に、腰の剣に手を掛けた。
「異端審問官!!」
「逃げて、兄さん!!」
男――ザルモゥが引きつれた兵たちに合図を送る。
「逃がしはせん! 行け、異端者を殺せ!」
流石に、この場に私がいるのはちょっと不味いか……?
異端者の汚名を着るには、私が背負うものが大きすぎる。
私が異端者になれば、アルガスはどうなる……?
その時。
パン、という破裂音が響き、ザルモゥの腕に何かが突き刺さった。
「心配する必要はないぜ、アイリ!」
その声は。
「ムスタディオ!」
さらに、背後の裏門から駆け抜けていく人影。
剣を片手に、ザルモゥの手勢の中へと突っ込んでいく。
「ここは私たちに任せろ! アイリは異端者の
「アグリアスも!」
どうしよう。
私だってラムザと一緒に戦いたい。
でも、異端者を抱えて悩むアルガスなんて見たくない。
どうすれば……!
そんな私に、ムスタディオたちがさらに発破をかける。
「ここはオレたちの心意気を買えって言ってるんだよ!」
「
……くっ!
「みんな、ゴメン! ここは任せた!」
連れて来たチョコボに乗り、ルザリアの裏門とは逆方向に駆けていく。
本当に、みんな、ゴメン!
でも、ありがとう……!
そんな、ありがとうも伝えられず、でも感謝の意を込めて。
彼らの言葉通り、私は全力でルザリアから駆け逃げていった。