【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ   作:12club

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再会の予感

side:ユーリ・ベオルブ

 

 グローグの丘。

 王都ルザリアの糧食の大半をまかなっている穀倉地帯だ。

 

 ゼルテニア城から西、自治都市ベルベニアをさらに西に通った先にある細長い台地が侵入者を阻む天然の要害。

 それがドグーラ峠。

 

 グローグの丘はドグーラ峠のさらに西。

 これ以上、追い詰められれば再び南天騎士団の王都ルザリア侵攻を防ぐことは難しくなる。

 

 ただ、王家のお膝元に騎士団を入れられるかどうか。

 その大義名分を作るには非常に難しいと言えよう。

 なにせ、謀略の達人であるダイスダーグ卿が軍師を務める、ラーグ公を相手取らなければならないのだ。

 

 ラーグ公は王家に正統な後継者としてオリナス王子を後見する大身の身。

 

 よほど無能な経営音痴でもない限り、力づくでルザリアを攻撃することは無理だろう。

 

 それには、ゴルターナ公がそこまで考えるだけの器量持ちであることを祈らねばならないが。

 

「……前線はどうなっている?」

「はっ! 将軍閣下!」

 

 麾下の騎士が直立不動で敬礼しながら、オレに面を合わせて応えた。

 

「ご存じの通り、ドグーラ峠は雷神シドに落とされ、グローグの丘にまで攻め寄せられました。ですがこれ以上の無理強いは無謀と見てか、それ以上の攻勢は見せておりません」

「わかった。下がれ」

「はっ!」

 

 状況は思った以上に切羽詰まっている。

 

 ゴルターナ公はともかくとして、オルランドゥ伯は内心気が気でないようだ。

 

 とりあえずここまで攻めていってきておいてなんだが、ルザリアへは政治的影響を(かんが)みて攻撃を中止していると見える。

 ここはもう、オルランドゥ伯頼みだな……。

 

 いや。

 

 チョコボが一頭、オレに向かって駆けてくるのを眼の端に捉えた。

 見覚えがある。

 

「ユーリ、状況はどうか」

 

 ザルバッグ聖将軍閣下だ。

 オレは跪き、ザルバッグ将軍に報告する。

 

「はっ、聖将軍閣下。ドグーラ峠は既に雷神シドの手によって落とされ、なんとかグローグの丘で押し留めている有様(ありさま)です。それも、これ以上の進軍は王都ルザリアであり、政治的影響を憂いて二の足を踏んでいる……。即ち、この戦線の停滞もヤツのお目こぼしの結果かと」

「散々な状態だな」

「しかしザルバッグ聖将軍閣下がおいでになり、わずかにでも兵の士気は高まっている模様。今ならグローグの丘からドグーラ峠に向けて押し返すことも不可能ではないかと思われます」

「うむ、よくやってくれた。ここから先は私も出る」

「ありがたきお言葉。兵たちも奮起することでしょう」

 

 と、ザルバッグ将軍がオレから視線を外してあらぬ方角を見やった。

 あっちは、王都ルザリアのある方向、か?

 

「ラムザとアイリが妙なことを言っていた」

「ラムザとアイリが? まさかルザリアまで押しかけて来たのですか?」

「どうもそうらしい。アイリは何故かゴルターナ軍に所属しており、敵地にもかかわらず私に忠告をしにやってきた」

 

 ラムザめ、やってくれる。

 それにアイリも。

 

 ラムザだけならなんとでも抗弁できる。

 だがアイリが混じったなら話は別だ。

 

 アイリはちっぽけな存在とはいえ、ラムザの言葉に信憑性が加わる。

 

「……ラムザは、なんと?」

「ダイスダーグ兄上が王女オヴェリア――いや、今は女王か。その狂言誘拐を仕組み、ゴルターナ公を失脚させようとしていたなどと言っていた」

「事実無根であります」

 

 それこそ嘘だ。

 

 オレはダイスダーグ卿の裏仕事に手を染めてきた。

 ザルバッグ将軍には知られてはいないものの、オレに疑いの目を向けられるのはまずい。

 

 ザルバッグ将軍にとって、ダイスダーグ卿は誠心誠意頼れる高潔な兄弟でなければならないのだ。

 

 オレのこの聖騎士への抜擢は、ザルバッグ将軍に不審な目をダイスダーグ卿へと向けられないようにするために仕向けられたのか?

 

「おまえはそう言ってくれるか」

「言うも何も、痛くない腹を探られる方がよほど不思議かと」

「うむ。ダイスダーグ兄上はラーグ公と共に、この戦争の行く末を(うれ)いておられるはず。そのために我々がいるのだ」

「私としても、聖騎士の称号を戴いた以上、この戦いの勝利に全力を尽くす所存」

「おまえにも期待しているぞ。これからは私がこの戦線を担当する。おまえは後方支援に回れ」

(うけたまわ)りました」

 

 立ち上がり、ザルバッグ将軍に一礼して去ろうとする。

 そこに。

 

「なあ、ユーリ」

 

 声音を緩めて、ザルバッグ将軍がオレの背中に声をかけた。

 

「はっ」

 

 体を再びザルバッグ将軍に向ける。

 

「ラムザは、アイリはどうだった? 今でも勝手な行動を取っているのか?」

「将軍が見た通りです。頑固なもので、私の言うことを毛ほども聞いてはくれません」

「そうか……」

 

 それ以降、ザルバッグ将軍は沈黙した。

 

 再びオレは一礼して、グローグの丘を下っていった。

 

 天幕に戻り、オレは幕を開く。

 

 そこには、オレが私兵として使っている斥候が戻っていた。

 

「将軍、戻りました。先に天幕に入ったことをご容赦ください」

「そんなことは気にしていない。それより、アイリたちはどうだ?」

 

 オレはザルバッグ将軍にも内緒で、あちこちに斥候を飛ばしている。

 基本的には戦争の情報集めだが、ここのところはアイリたちの動向を探るよう、手を回している。

 

「ラムザ・ベオルブに、異端者の疑いが持たれました。異端審問官と実際に刃を交えたのを見ていますので、ほぼ確実かと思われます。妹君(いもうとぎみ)のアイリ殿は一旦その場から逃走したものの、異端者との繋がりを持たれたかと思われます」

「……そうか」

 

 オレは背筋に虫が這うような嫌な雰囲気を抱いた。

 

 異端者として疑いを持たれるということは、この国の最大勢力であるグレバドス教会を敵に回すということだ。

 

 アイリのやつ、そこまでしてラムザたちの肩を持ちたいのか?

 

「ラムザとアイリの動きは?」

「ラムザ・ベオルブは一旦、炭鉱都市ゴルランドに身を隠した模様。異端審問官の追撃をかわすためにほとぼりが冷めるのを待っているのか。もしくは貿易都市ドーター、あるいはオーボンヌ修道院が目的地かと思われます。その狙いはようとして知れませんが。アイリ殿はランベリー領内の自領に戻った模様。ただ、こちらには異端審問官の手は届いていないと思われます」

「わかった。引き続き、ふたりの監視を頼む」

「はっ!」

 

 オレに敬礼して、斥候が天幕から出ていった。

 

 ひとり残された、オレは。

 

「ラムザもアイリも、自分の信念のままに動いている……。たとえ方法が間違っていようと、オレのやり方のほうが"ベオルブ家の正義"に従っているはずだ。だというのに……」

 

 胸が痛む。

 

 オレはまた、"ベオルブ家の正義"という言葉を(かさ)に着て、上っ面の正義を代行しようとしているのか。

 

 こんな保守的な双子の兄を、アイリは許してくれるのか。

 ラムザはオレが掲げる正義を、納得して許してくれるのか。

 

 オレはぶんぶんと首を横に振った。

 ぴしゃりと手で両頬を叩く。

 

 何を甘えている。

 オレはオレの選んだ正義を貫いているんだ。

 

 それに刃向かうなら容赦はしない。

 前にも思ったはずだ。

 

 オレに退路はないのだ、と。

 

「衛兵!」

 

 オレの呼び声に応えるように、ひとりの騎士が駆け寄ってくる。

 

「お呼びでございましょうか、将軍閣下」

「オレはこれから後方支援の任に当たる。おまえたちは全軍、ザルバッグ聖将軍閣下の麾下に入れ。いいな?」

「かしこまりました。そのように致します」

「よし、早馬を用意しろ」

「はっ!」

 

 騎士が走り去っていく。

 数分も待たずに、騎士が一頭のチョコボを連れてきた。

 早馬と言ったからには、相当健脚なチョコボなんだろう。

 

 オレは騎士の反応も待たず、それにまたがって走らせる。

 

「オレの正義を教えてやる……。待っていろ、ラムザ。アイリ……!」

 

 そう口中で呟き、オレはグローグの丘を走っていった。

 一路、貿易都市ドーター、そしてオーボンヌ修道院へ。

 

 

 

 

 

side:アイリ・サダルファス

 

「と、まあ。ラムザに会えたは会えたんだけど」

「肝心なことは聞きそびれ、ってか」

 

 アルガスの部屋。

 デスクに行儀悪く肘を突いて、横顎を支えた格好で私を見るアルガス。

 

「だけど収穫もあったわ。ディリータはこの戦乱の首謀者のひとりだけど、ラムザはそれに関係ないみたい。戦争なんてどこ吹く風って感じ」

「ラムザとディリータの共謀じゃないってことか」

「そういうこと」

 

 他にいろいろ話したいことはあったけど、どうも話のとっかかりが見つからない。

 果たして、どう説明したものやら。

 

「……話したいことはそれだけか?」

「え? ええ、まあ」

「嘘つけ」

 

 鋭い視線で私を睨みつけるアルガス。

 

「おまえ、何か隠し事しているだろ? それもオレに知られたらよっぽどヤバいネタが」

「うーん、まあでも、これ言っちゃってもいいかなって。私だってアルガスに迷惑はかけたくないし……」

「秘密にされる方がよっぽどヤバいってことくらい、オレにはお見通しだ。言え」

 

 どうしても秘密にしたかったけど、確かに聞かれて初めて知ることの方がまずい気はする。

 

 私は話すことにした。

 

「ルザリアから帰る途中、異端審問官に見咎められてね……。ラムザのやつ、異端者になっちゃった」

「はぁっ?」

 

 秘密にしたいことはそれだけ、それだけなんだけど。

 それが非常にまずいことだというのは確かだ。

 

「もしかしたら私も見咎められて、異端者扱いされてるかも」

「おい」

 

 バン、とデスクを叩いて、私を睨みつける目をさらに鋭くさせる。

 

「おまえ、立場分かってんのか? うちの家から異端者なんか出したら共謀していると思われて当然だろうが」

「ゴメン、アルガス」

「ゴメンで済むか!」

 

 立ち上がった拍子(ひょうし)にデスクからバラバラと書類が散らばる。

 その一枚をクシャクシャに丸めて、私に向かって投げ付けてきた。

 

 それで鬱憤(うっぷん)が晴れたのか、あまりの報せに一周して頭が冷えたのか、アルガスは両手で頭を抱えながら、椅子にドカッと座る。

 

「ったく、おまえを拾ってからというものの、ケチの付き続きだ」

「うん、ゴメンね。アルガス」

「何度も謝るな、鬱陶(うっとう)しい」

 

 「ラムザが異端者……、ディリータが一連の黒幕。なるほどな」。

 何やらぶつぶつ呟いて、アルガスは席を立った。

 そのまま部屋を出ていこうとして。

 

「どこへ行くの? アルガス」

「別に。おまえも出掛ける準備をしておけ」

「準備?」

「戦闘の準備だ。多分、鉄火場に突っ込むことになる。オレの苦手な範疇(はんちゅう)だがな」

 

 それだけ言って、乱暴に扉を開けて出ていった。

 

 戦闘の準備?

 いったい誰と戦うつもりだ?

 

 ……あぁ、そうか。

 

「ラムザが異端者にされたっていうことは、教会にとってラムザが邪魔になってきたってことか……。そのラムザが邪魔な理由は多分、ドラクロワ枢機卿の関連に違いない。私もちらっと聞いてたし」

 

 今度は私がぶつぶつ言う番だった。

 独り言ちる。

 

「ラムザがディリータと共謀していないなら、ディリータにとってラムザは邪魔な存在になった、ってことか。ならディリータを背後から操っているのはグレバドス教会……」

 

 ラムザの真意はどうあれ、真相は彼の元にある。

 ならそれを確かめるのは今、この瞬間にしかない。

 遅れれば遅れるほど、その機会は遠ざかっていく。

 

 だからアルガスは出ていった。

 戦闘準備を整えに。

 

 なら。

 

「私のやることはひとつ、か。ありがとう、アルガス」

 

 そう言って、私もまた自室へと戻っていくことにした。

 ゴルターナ軍の兵装は大抵、自室に置きっぱなしだ。

 

 

 

「……大概、おまえの準備も早いよな」

「文句はないでしょ。あんたが今からやろうってことを考えたら」

「オレは何も言ってないぞ」

「何か言いたげなことくらい、把握してるわよ」

「ちっ」

 

 口先だけは汚いけど、わずらわせたりしなければこいつもそこまで激情しない。

 長い付き合いだ。

 それくらい分かっている。

 

「で、行くあてはあるの?」

「わざわざ今ここで聞くか? 普通」

「分からないから聞いてるのよ。まあ、念のためってやつ?」

「決まっている。ラムザがグレバドス教会の邪魔をするなら、お目当てのモンはグレバドス教会関連のモノしかねえ」

「その、お目当てのモノって?」

「分かってるだろう。ここまで言えば」

 

 互いにチョコボに乗り、私はアルガスを見た。

 アルガスもまた、私に顔を向けてニヤリと笑ってみせる。

 

「教会のお膝元……オーボンヌ修道院だ」

 

 つまり、そこが鉄火場になるってことか。

 やれやれ……。

 

 横から邪魔が入らなければいいんだけど。

 

 こういうことは考えるだけでフラグが立ったと言っても過言じゃないのだった。

 

 

 

 

 

side:ラムザ・ベオルブ

 

 僕はしばらくゴルランドの町で待機しながら、グレバドス教会が抱える武装集団『神殿騎士団』の動きを観察していた。

 

 僕を異端者に仕立て上げたのは、教会が僕が持っている聖石を狙ってのことだというのはようとして知れた。

 そしてそれを求めて神殿騎士団が各地で暗躍していることも。

 

 ならば神殿騎士団が次に狙うのは、間違いない。

 アルマが言っていた聖石『ヴァルゴ』が保管されているオーボンヌ修道院だ。

 

 多分、ここまでの僕の行動は教会には筒抜けだろう。

 ならその企み諸共、阻止するまで。

 

 ここは譲れない。

 

 何としても教会の手から聖石を取り戻し、叩き砕くか、誰の手も届かない所に捨てなくては。

 

 教会の狙いは僕が砕いてみせる。

 

 そして、この果ての無い戦争を終わらせてみせる。

 

 貿易都市ドーター。

 その南にあるオーボンヌ修道院。

 

 僕は自分の胸に、今は亡き父バルバネス・ベオルブの名に誓って、決意を新たにした。

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