【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ 作:12club
side:アイリ・サダルファス
地下2階の乱戦を
第一関門突破だ。
そこには、さあいるわいるわ。
神殿騎士団の先遣隊が群を成して書庫のあちこちに散らばっている。
第二関門は厳しそうだ。
「おまえたちは先ほど北天騎士団を名乗った若造の一派か。ならばラムザ・ベオルブはまだ上階だな?」
対してアルガスが「はっ」と
「オレが貴様らに言う義理があるかよ」
「まあいい」
リーダー格の青年騎士が腰に佩いていた剣を抜き、私たちへと向かってかざした。
「騎士団全軍遊撃! 乱戦に持ち込んで包囲し、捕らえてしまえ!」
さあて、私たちはどう動くべきか……。
とにかく弓兵が厄介だ。
あちこちの高い書棚を足場に、高所から矢撃を与えてくる。
それに盾で防ぐことに専念すれば、今度は真正面から騎士の突撃と魔道士の魔法が飛び交う。
正直に言おう。
勝ち目がない。
威勢よく突っ込んだ私たちは勢いのまま前に出て、ものの見事に捕らわれたのだった。
「
お縄についた私とアルガスは、身動きも取れずにただむくれるだけだった。
アルガスがチッと舌打ちする。
横からむくれたまま、私が応えた。
「まだ本命が来てないからね。私たちを捕らえただけで優勢になったと思ったら大間違いよ」
「ふん」とリーダーである神殿騎士――イズルードが今度はこちらを嘲ってのたまう。
「ならおまえたちを人質にでも使おうか。ラムザとはそれを割り切れる人間でもないだろう」
「ラムザだけなら、ね……」
私の声に呼応するように、上階から足音がいくつも響いた。
「アイリ!」
ラムザが捕らわれた私たちを見止めて叫ぶ。
「アイリ! 今、助ける!」
とまあ、今度は何の演技のつもりか、ユーリが叫んだ。
「今はあんたの助けなんかいらないわよ! 私たちなんて見捨ててさっさと逃げなさい!」
「そう言うな。オレたちは同志だ、そうだろう?」
今は、が付くけどね。
業腹だけど、頼れるのは今はラムザとユーリたちしかいない。
対して、イズルードが大声で語りかけ始める。
「聞け! 異端者ラムザよ! 貴様の同胞は今、我らが預かっている! だがそれを
ラムザの動きが縫い留められるように、その場に留められた。
話次第では私たちの解放もあり得る、と踏んだのだろう。
まったく、とんだお人好しだ……。
「我らはゾディアックストーンを授けられし勇者の騎士団! 教会の栄誉正しき聖なる力なのだ!」
それに対し、アルガスが喝破する。
「なにが勇者だこのクズ野郎。だったらその台詞、上階で血にまみれている僧侶の死体にでも向かってしゃべってみろよ」
「今は貴様の意見など聞いてはいない。我らはラムザ・ベオルブに問うているのだ」
話にならない、とは全くこの通りだ。
ホントにまったく……。
何が勇者で聖なる力、なんだか。
「ラムザよ! 我らグレバドス教会はこの内乱にあって正しき力を行使するものだ! 今は国内で権力者が相争っている場合ではない! その調停役として、我らグレバドス教会が担おうというのだ!」
しかしラムザも黙ってはいない。
「この内乱を煽っているのはおまえたち、グレバドス教会ではないか! 内乱を調停するだって? 笑わせるな! 戦を起こし、民を
「正しき行いを成すには犠牲が必要なのだ。犠牲なくして前へは進めない。それとも、貴様は誰一人として傷付けずにこの戦いを止めることが出来ると、本気で思っているのか!?」
「正しいか正しくないかは問題じゃない! 結果として多くの民草の
「なら貴様はどう正す!? 革命なくして治められる平和があるとでも言うのか!?」
「正すという行為自体に何の意義がある! 僕は目の前で力弱き者たちが死んでいく……。それが許せない! それこそが権力者の
イズルードの高慢も、ラムザの抗弁も、どちらにも理がある。
能のない私でさえそれらのどちらもが理にかなっていると、頭のどこかで納得している。
どちらかと言えば、私はラムザ派だけども。
結局は平行線だ。
と。
ラムザの横からすっと身を晒したのは。
「貴公の見識はよく理解した。神殿騎士団の若き騎士よ」
ユーリだ。
ここでも何か仕込むつもりでいる?
「私は先ほど、おまえたち神殿騎士団に向けて、北天騎士団の名代として名乗りを上げた聖騎士、ユーリ・ベオルブ。まずはこの名と身元を覚えておいてもらおう」
誰がどこの名代だ。
この嘘つき。
「北天騎士団の騎士……、確か上階の騎士たちに向けて名乗っていたな。しかもベオルブだと? ラーグ公の
「いずれは同じテーブルを挟んで語り合いたいと思うところだが、簡潔に言おう。そちらの人質を解放してはくれないか?」
ユーリは私たちの解放を求めている。
感謝したいところだけど、私にはユーリの思惑の方が気になった。
「知ってか知らずかは与り知らないところだが、貴公らが質に取っているのは北天騎士団の者ではない。ゴルターナ軍に属するものだ」
「ゴルターナ軍だと?」
イズルードが眉をひそめた。
「知っての通り、我々北天騎士団はゴルターナ軍と相争う仲。ただし、この場においては我らは同胞。その意味が分かるか?」
「貴様、何を言っている?」
「わからないか、無理もない。無知で
「何を言っているというのだ!!」
イズルードの恫喝に対して、芝居がかった口調でユーリは続ける。
「我ら北天騎士団と、ゴルターナ軍は密かに裏で手を結んでいる、と言っているのだ。貴公らが
「いったい……、いったい何の話だ!?」
「まだ分からないのか愚か者!!」
気勢を上げるユーリ。
この茶番のからくりが、私にはだいたい見えてきた。
多分、アルガスも。
知らぬはラムザとイズルードだけだ。
「貴公らグレバドス教会が失墜した己の権威を取り戻すために起こしたこの内乱、その真実を知る異端者ラムザを抹殺せんとする野望を阻止するために! 我々はラムザ・ベオルブを真の勇士として、貴公らを王家の敵として討ち滅ぼそうと、そう言っているのだ!!」
ユーリの発奮した――爆発した発言に、場が一時凍り付いた。
私は「はぁ~」とため息をつくしかなかった。
ユーリのやつ、やりやがった……!
こいつはラムザを中心として、ラーグ公とゴルターナ公が共謀してグレバドス教会と敵しようと、そう舞台を整えたのだ。
今はまだ、ただの妄言で通る。
しかしユーリは先んじて触れ回るだろう。
グレバドス教会に利用されたラーグ公、ゴルターナ公は同じく己を騙した敵を協力して打倒する、という
それが真実となることは世情的にはあり得ないだろうけど、世間一般に
失墜するグレバドス教会の権威はなおもそれを失うだろう。
唖然とするイズルードに、アルガスが付け足す。
「おい、このままオレたちをふんじばったままでいいのか? もしオレたちを害しようものならあいつは触れ回るぜ。真相を知る邪魔者を消そうと、グレバドス教会が総力を挙げてその手を汚しているってな」
「ぐッ……」
はてさて、どうなるものやら。
結局、私たちはユーリの良いようにハメられたわけだ。
「……今は聖石の奪取が先だ。今さっき吐いた貴様の放言、捨て置くわけにはいかん。教会を
ヒュっと剣閃が私の両手の隙間を通り抜ける。
縄目が切られて、腕が自由になった。
解放された私たちを余所目に、イズルード率いる神殿騎士団が上階へと向かって走り去っていく。
「ッ! 待てッ!」
ラムザがイズルードに待ったをかけるが、彼はそれを聞かない。
当然だ。
未だ「ヴァルゴ」はヤツの手の中にある。
私たちは遅れて、イズルードたちの後を追って上階へと上っていった。
side:ユーリ・ベオルブ
オーボンヌ修道院地下1階。
確かこの階にはアルマとシモン殿が避難していたはず。
見える敵勢は……先ほどのイズルードの手の者だけじゃない。
どうやら後詰が到着したようだ。
もはやここももう安全地帯ではない。
と、いうことは。
「……ッ! 避けろッ!!」
オレが発破をかけると同時、全員がその場から飛びすさった。
そこに巨大な稲妻の刃が突き立つ。
どうやら敵も虎の子を出してきたらしい。
奇襲を回避された攻撃の手は、開いた扉の先から姿を現した。
「……貴方は!」
アイリが反射的に叫ぶ。
ラムザもまた、姿を現したその敵に対し、油断なく剣を構える。
「ウィーグラフ!」
ラムザが口にしたその名前を聞いて、オレは改めてその顔を見た。
見覚えが、ある?
確か、3年前のエルムドア侯爵誘拐事件の時だ。
一度だけ、オレはヤツを見たことがあった。
「久しぶりだな、アイリ! そしてラムザよ! また会えて嬉しいぞ!」
「貴方も生きていたのね!」
ナチュラルにスルーされたアルガスが哀れではあったが、まあそんなことはどうでもいい。
アルガスにとっても、自分が標的とされていなかっただけマシだと思いたいところだろう。
「……理想の実現に燃えていた戦士が、教会の狗に成り下がったか!」
憎々し気に、ラムザが暴言を放つ。
相手にも理由はあるだろうが……。
「何とでも言え! この世の中、理想だけでは何も出来ない。何事にも力が必要だ。私はそれを悟った!」
ウィーグラフの背後からぞろぞろと神殿騎士団が姿を現す。
「おまえたちには私が狗畜生に成り下がったと思えるだろう。だが力がなければ何も出来ぬ。もう一度言う! おまえたちに何と言われようと、最後に笑うのはこの私だ! 必ずおまえたちを屈服させてやる!!」
言って、その腕を掲げて、オレたちに向かって手をかざした。
神殿騎士団の騎士たちが殺到してくる。
最後に、ウィーグラフが勢いのままに口走った。
「ミルウーダ、おまえの仇は今、私が取ってやる! 行くぞ!!」
ウィーグラフにとっての雪辱戦が始まった。
ウィーグラフが率先して、部下たちを後ろに突撃してくる。
やぶれかぶれか?
いや、これこそが自分にとって最良の手だと確信している。
この中で最も強力な戦力を先頭に
3年前、盗賊の砦で戦ったミルウーダがとった戦法と同じだ。
ウィーグラフの深く、重く、そして鋭い突撃に二の足を踏んだラムザたちを前に、オレが立ち塞がった。
大上段でふりかぶったウィーグラフの剣を受け止める。
「おまえがウィーグラフか。会うのはこれで二度目だな」
「二度目? ……なるほど、貴様はあの侯爵誘拐の事件で出会った士官候補生のひとりか。独り立ちも出来そうになかった小僧が、何に化けたかと思ったぞ」
「光栄だな。そして言っておこう、ミルウーダの腕と首を刎ねたのは、このオレだ」
「……そうか。あの時の士官候補生だったならば、そうあるのも道理のこと」
ウィーグラフがオレの剣を絡め取り、ギンと金属音を立てながら刃が離れた。
再び、オレとヤツの間合いが広がる。
「ならばミルウーダの仇である貴様の首、妹と同様に刎ねておかねばなるまい。ウィーグラフ、参る!!」
一瞬の空隙。
オレはアイリにチラリと視線を配った。
まだ接敵していなかったアイリはこちらの視線に気づき、頷く。
袈裟懸けに斬り下ろしてきたかと思えば、次の瞬間には横から追撃してくる。
防いだと思ったのも束の間、今度は大上段から脳天を
当たれば必殺の剣技。
しかしこれでもまだ、コイツにとっては余技に過ぎないのだろう。
白騎士の聖剣技は、こんなものではない。
一合、二合と斬り結ぶ中、再びオレとウィーグラフの剣が鍔迫り合いの様相を
「……おまえも相当に哀れな男だな、ウィーグラフ!」
「この期に及んで何の抗弁だ?」
「おまえの理想はおまえだけのものだったわけではあるまい。散っていった仲間とその同胞、それら皆がおまえを信じて結集して結実したものこそが理想だったはず!」
「その通りだ。貴様の言う通りだ小僧。だがその過程で私は知った! 理想は……革命は、力なくして成せるものではないと! だから私は皆の無念を晴らすために教会のその威にすがったのだ! 何度でも言う! 力の無い者には何も出来ない! それを悟ったからこそ私は力を手に入れた! この力で、我らの理想を笑った者どもに思い知らせてやるのだ!!」
「それこそが哀れだと言っているのだ! オレは!!」
力任せに、オレは剣を弾く。
剣戟にたたらを踏んだウィーグラフがまたさらに数歩、後ろへと下がる。
剣の先端を、ウィーグラフへと向けて。
「抱いた理想を投げ捨て、教会の威にすがった時点でおまえの革命は既に終わっている! 力がなければ何も出来ないだと? 違う、理想がなければ力などただの暴力に過ぎん! おまえはただの暴力を理想という言葉にすり替えて振りかざしているだけの甘ちゃんだ! 教会の威に屈したのは、おまえが理想を追い求めたからではない! おまえがただ弱かっただけだ!!」
「知ったことを言うな! 小僧!!」
「オレもそうなりかけたからわかるんだよ、この
「訳の分からんことを!!」
ウィーグラフが腰だめに剣を構えた。
あふれる気配がまるで違う。
聖剣技の、本領を発揮しようという訳か。
だが。
「アイリ!!」
そこに隙がある!
いつの間にかウィーグラフの上段を陣取っていたアイリが、剣を構えて腰を落としていた。
跳躍して一気に懐に飛び込む。
そういう算段だ。
双子のきょうだいだからこそ、分かり合えることが確かにそこにはあった。
ウィーグラフが周囲の騎士に指示を飛ばす。
「一対一になるな! あの小娘は侮れん! 遊撃して撹乱、包囲しろ!!」
普通はそういう判断になるだろうな。
だが、もう遅い!
side:アイリ・サダルファス
今さらになって嫌になる。
どうして私はユーリと争っていたのか。
どうして私とユーリは違う道を選んでしまったのか。
この戦いの、最初の視線だけでこんなに分かり合えてしまうのに、私の心の中は後悔と、その真逆の誇りとのわだかまりでいっぱいだった。
視線だけで分かり合う。
それすらも計算に入れている双子の兄がどれだけ残酷なのかと、私は問いただしたくなる。
騎士たちが私に向かって殺到する。
ウィーグラフの指示で、私ひとりに大げさなほどの戦力が集まる。
それこそが、隙だ。
――
視界が遠くに舞い上がり、セピア色に染まる。
見える。騎士たちの斬撃を横目に跳躍する私の姿が。
見える。私に向かって弩の弓を引く敵の姿が。
見える。さらに遠方から魔法の雷で私を狙い撃ちしようとする魔道士の姿が。
見える。矢が、雷が、飛び上がる私に向かって殺到する様子が。
見える。それらのひとつひとつを、丁寧な軌跡を描いて全て回避する私の姿が。
見えた。驚愕に表情を引きつらせたウィーグラフを、跳躍の勢いで以って袈裟懸けに斬り裂く様子が。
俯瞰風景・舞。
視界が戻る。
世界に色が広がる。
私の目の前には、膝を突いたウィーグラフの姿があった。
「ば、馬鹿な……」
倒れ伏したウィーグラフからとめどなく血が流れている。
完全に致命傷だ。
対する私も、剣を支えになんとか姿勢を保っているくらいだ。
やはりこの技は、体にかかる負担が激しすぎる。
「今回も、私の勝ち、ね……」
「くぅッ……!」
ずりずりと這いずっていくウィーグラフ。
すぐさま部下のひとりが彼の肩に手を貸して、その逃走を助けようとしていた。
「逃すか!」
「追うな! アルガス!」
「ラムザ、なぜ止める!?」
「ヤツはもう瀕死だ、追う必要はない! 今のうちにアルマとシモン殿の無事を確かめるんだ!」
「……チッ!」
勝敗は決した。
それを悟った神殿騎士団は全員、修道院の出口へと殺到していく。
ユーリもまた、剣を腰の鞘に納めた。
「この場はラムザたちに任せて、オレたちはウィーグラフを追うぞ。アイリ」
「なんでさ。もう勝負は決着したのはわかってるんでしょ」
「ヤツも神殿騎士団のひとりだ。聖石の居場所を吐かせる」
そうとだけ言って、ユーリは修道院の外へと向かっていき。
「……んー、あーもう!」
私も渋々それに追従した。
side:ユーリ・ベオルブ
修道院の外は、ほとんどの人気がなかった。
もう全軍、敗走した後なのだろう。
そこに這いずって倒れているウィーグラフと、気絶したアルマをチョコボに乗せたイズルード以外は。
「大丈夫か! ウィーグラフ!」
イズルードが血にまみれて倒れ伏すウィーグラフに呼び掛ける。
「ぐ……、私のことは……いい……。早く……おまえは逃げろ……」
「しかし!」
「私はこれでも……『アリエス』の聖石を……いただく……ゾディアックブレイブの……一員……。私に……恥を……かかせるな……」
「くっ……!」
意を決したのか、イズルードがチョコボの腹を足で叩いた。
「すまない、ウィーグラフ!」
今まさに逃げんとするイズルードに。
「待て、イズルード! アルマを返せ!!」
修道院から出てきたラムザが吠える。
しかし時すでに遅く、イズルードはチョコボを高速で走らせ逃げていった。
「ぐほッ……!」
残されたウィーグラフが盛大に吐血する。
もう余命いくばくもあるまい。
「私は……こんな所で……死ぬ……のか……。ミルウーダたちの……仇も……討てずに……」
せめて祈りくらいは捧げてやってもいいか。
最期を
「嫌だ……死にたくない……こんな最期は……あんまりに……」
と。
ウィーグラフの懐から、宝石が転がり落ちた。
「アリエス」の聖石。
それがことりと小さな音を立てて。
ふわりと浮かび上がった。
――汝、聖石を持つ者よ……。
――我と契約を結べ……。
なんだ、これは。
「なんだ……、聖石がしゃべったのか……?」
ラムザが戦慄し、事態の推移を見守る。
いや、身構える。
――汝の悲憤と、嘆きが……。
――我を呼び出した……。
「ドラクロワ枢機卿は聖石によってルカヴィと化した……。だとしたら……」
――さあ、我と契約を結べ……。
――さすれば汝は、不死の肉体と、幾万の知識が得られるだろう。
「これが……、聖石の秘密……?」
ウィーグラフが小さな声で呟くのが聞こえた。
咄嗟にラムザが叫ぶ。
「ダメだ! ウィーグラフ! 聞いちゃいけない!!」
が。
「頼む……。助けてくれ……」
ウィーグラフの呟きに応えるかのように、聖石が不気味に輝きを放った。
――我は『魔人ベリアス』……。
――汝の願い、聞き届けよう……。
不気味な気配と、邪悪としか言えない雰囲気が辺りを満たす。
それらはどす黒い霧のように目に映り、ウィーグラフの周囲に集まって。
その霧が立ち込めるように、ウィーグラフを覆い、包み込んだ。
そして。
そこに現れたのは、異形としか言えない怪物だった。
なんだ、こいつは……。
テレビゲームの大ボスか?
羊の頭に、二対の巨大な怪腕。
重厚な体躯。
まごうことなき怪物だ。
『これが聖石の力か……!』
ぎらりと
その視線の先には、アイリがいた。
「ひッ……!」
アイリの喉からひり出した息が、声のように響く。
『素晴らしいぞ、アイリ……。この力は……いや、力だけではない……。時代を超えて、幾千幾万の知識が頭の中を満たしていく……』
「ウィーグラフ……!」
ラムザが咄嗟に剣を抜いた。
オレもまた、剣に手を掛けてジリ、と後ろに退く。
『クククク……。そう焦るな……、楽しみはもう少し後にとっておけ……』
怪腕を開き、手をぐりぐりと
まだまだ力を試し足りないのか……ただ、今の全能感に酔いしれているのか。
『クククク……素晴らしい。素晴らしい力だ……!』
そうして、オレたちに背を向けて。
いかなる魔法か、その場から光と共に姿を消し去った。
剣を納める。
何事もなかったかのように、辺りは静まり返っていた。
「行くぞ、アイリ」
「で、でも……、ラムザたちが……」
「オレもおまえも、もうここに用はないはずだ。一旦、仕切り直しだ」
「……う、うん」
異形の眼にあてられてか
後のことはラムザたちに任せよう。
戦争なんてやっている場合じゃなくなった。
一刻も早く、和平か、決戦か。
なんにせよどういった形でもいい。
皆が力を合わせてあの怪物を倒さなければ。
イヴァリースは……滅ぶぞ。
"ベオルブ家の正義"の名の下に、この国に最良の結果をもたらす。
それが任務だった。
だがもはや他人事ではない。
なんとしても任務を完遂し、ザルバッグ将軍、そしてダイスダーグ卿の元に戻らなくてはいけない。
そして聖石の真実と、あの悪魔の存在を伝えなくては。
戦争の早期終結。
そして、異形の怪物を討つため。
全てはイヴァリースの全土を守る、そのために。