【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ   作:12club

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私はいったい何者か

side:アイリ・サダルファス

 

 どうして私はあの時、ユーリに従ってラムザたちを置いてきてしまったのだろうか。

 

 あまりの急展開に頭が追い付いていかなかったからかもしれない。

 

 情けない。

 あの冷酷無情なユーリに、今頃になってもまだきょうだいの面影を見ていただなんて。

 

 しかしあの怪物……。

 あれが子どもの頃に聞いたおとぎ話に出てくる悪魔、"ルカヴィ"だというのなら、いったい聖石とは何なのだろうか。

 聖石は、悪魔を倒す聖なる力を持った神器ではなかったのか?

 

 しかし、あれは……あの怪物は……。

 

 情けないけど、あの黒い眼窩から灯った光が私を映した時、私は恐怖に身を裂かれるような気持ちになった。

 

 あれはもう、人間の面影など毛ほども持ち合わせていない。

 正真正銘の悪魔――そう、ルカヴィだ。

 

 それに恐れたがゆえに、私はユーリに頼ろうとした。

 そこが私にとって、一番情けないところだと思った。

 

 

 

 貿易都市ドーターに戻って来て、遅れてラムザたちもやって来た。

 すぐに合流できたけれど、ラムザの面持(おもも)ちは暗かった。

 

 シモン先生が亡くなられたと聞いたのはその時だ。

 そして、教会の悪事を弾劾できる書物、"ゲルモニーク聖典"をその今わの際に受け取ったということも。

 私にはどうしてその本が教会の悪事を示す証拠になるのか、中身までは聞いていなかったけど。

 

 結局、自分可愛さに私は全てのことから眼と耳を閉ざしていたのかもしれない。

 

 と。

 

「悩み事か? ひとりで抱え込むのも選択肢の一つだが、相談なら絶賛歓迎中だぞ」

 

 私に声をかけてきたのは、今ではオヴェリア様の従者ではなく、ラムザの仲間のひとりとして戦っているアグリアスだった。

 

「アグリアス……」

「そうして見ると、まだまだしおらしい年若い娘だな。見ていると痛々しくなる」

「ごめんなさい。心配をかけているつもりはなかったんだけど」

「そんなおまえに客人だ」

「え?」

 

 そんなことを言ったアグリアスの後から現れたのは。

 

「本当になよなよとしているな。しおらしいおまえなんか見るのは久しぶりだ」

「アルガス……」

 

 私たちを見て、アグリアスは背を向ける。

 

「思い悩むのも仕方ないが、現実はそうもいかない。ではな」

 

 手をひらひらと振って、アグリアスは去っていった。

 私は改めてアルガスに顔を向ける。

 

「どうしたの? アルガスから私に用があるなんて珍しいじゃない」

「呑気なことを言っている場合か。一大事だぞ」

「一大事?」

 

 その時の私は、きょとんとした顔でいたのだろう。

 アルガスが深くため息をついて、おもしろくなさそうな顔で私に告げた。

 

「エルムドア侯爵……侯爵様が戦死されたそうだ」

「侯爵が……って、え? え?」

「すぐに領地に帰還するぞ。もうこんな所で油を売っているヒマはない」

 

 エルムドア侯爵が、戦死?

 

「流れ矢に当たったそうだ。"銀髪鬼"とも敵に畏れられたあの方も、戦争という極限状態には勝てなかったらしい」

「……そう」

 

 私はその場に腰を下ろしたまま、呆然と呟いた。

 アルガスが眉間にしわを寄せて続ける。

 

「……なにが、そう、だ。オレたちはすぐさまサダルファス領に戻って、喪に服さねばならん。勿論おまえもだ。すぐさま帰る準備をしろ」

「ねえ、アルガス」

「なんだ」

 

 私は自分で何を言っているのかと、そう思いながら口に出していた。

 

「侯爵様の死体はどうなったの?」

「はあ?」

「答えて」

「……そりゃあ戦死されたんだ。ご遺体は当然、棺の中だろうさ」

「誰かそれを確認したの?」

「そんなことは知らん。というか、それを聞いてどうする」

 

 そりゃ当然、か。

 でも私は胸騒ぎがしていた。

 

 ウィーグラフは戦死扱いなのか?

 それとも、やはり今でも"人間"であったとき同様、神殿騎士団の一員として振る舞っているのだろうか。

 

 私は決心した。

 

「ゴメン、アルガス。ランベリー領の件はあんたに全部任せるわ。従騎士のひとりやふたり、いなくても問題ないでしょ」

「おい……おまえ、いま自分が何を言っているのかわかってるのか? 正気か?」

「私はルカヴィ……いえ、ウィーグラフを追いかけなきゃ。それが叶わないなら、私はずっとあの人の亡霊に付きまとわれることになる」

「おまえ、本当にいったい何があった?」

「多分、アルガスの知らないこと」

 

 この眼で再びウィーグラフを……「魔人ベリアス」を確かめなきゃいけない。

 

 そうしないと、私はこれからの戦い……いや、人生に煮凝りを残しかねない。

 私が、やらなきゃ。

 

「……ちっ、相変わらず自分勝手なやつだ。いいぜ、おまえはおまえで勝手にやってろ」

「ゴメンね、アルガス」

「ゴメンゴメンと言ってればなんでも解決すると思ったら大間違いだ。またサダルファス家の例の騎士か、って言われたら全部お前のせいにしておくからな。帰って来て居場所がなくなってても知らんぞ」

 

 さぞ面倒くさそうに――実際、面倒くさいんだろうけど――のたまうアルガスには、感謝しかない。

 

 それでもゴメン、としか言い出せない自分が、とにかく今は情けなかった。

 

 

 

 

 

side:ユーリ・ベオルブ

 

「ラムザ、少しいいか?」

 

 オレは平静を装ってラムザに話しかけた。

 内心では気が気でない状態が続いている。

 

「ユーリか。どうした?」

 

 ラムザもまた平静ではいられないのだろう。

 オレとは違う理由だろうが。

 

 そう考えると、コレを渡すのは億劫に思えた。

 そっと差し出す。

 

「とある人物からの伝言だ。……アルマについての」

「貸してくれ!」

 

 ラムザはみるみる顔を赤くして、オレから乱暴にその便箋(びんせん)を受け取った。

 

「リオファネス城の……バリンテン大公から、だって?」

「そうだ。教会のヤツら、ラーグ公とゴルターナ公に見切りを付けられる前に先に動いたらしい。バリンテン大公に協力して、王家を牛耳(ぎゅうじ)ろうって腹積もりだろう」

 

 そう、気が気でないのはそこだ。

 ここで教会が悪足掻(わるあが)きをしてバリンテン大公を抱き込もうとすれば、また戦が長引くことになる。

 最悪、戦争に第3勢力として加わりかねない。

 

 そうなれば、戦争はこれまで以上に泥沼化する。

 

「すまないがその便箋、内容は先に改めさせてもらった。アルマの件は、おまえがいま持っている全ての聖石とさっき手に入れた"ゲルモニーク聖典"を持ってリオファネス城に来い、と、まあそういった内容だ。そうしなければアルマの無事は保証しかねる、と」

「アイツら……!」

 

 わなわなと、ラムザは便箋を握るその手を震わせながら、憎々しげに呟いた。

 

「これについては謝る。すまん、ラムザ。まさかアルマが敵の……とりわけ、大公の手に落ちるなど、想像もしていなかった。ヤツらが動いたのも、オレの責任だ」

「……いや、構わない。相手が誰であろうと、僕は動くつもりでいた」

 

 言って、ラムザは便箋をくしゃりと掴み、その場から立ち上がった。

 

「僕らは急いでここを発つことにする。ユーリはザルバッグ兄さんからの命令があるんだろう?」

「その件だが……、オレもおまえたちと一緒に行くつもりだ」

「何故だ?」

「ザルバッグ将軍からは後方支援の役割を振られてここに来ている。情況はまだ変わらない。戦線も膠着したままだろう。ならバリンテン大公がどう出るか、それを確認するためでもある」

「本当は、それだけじゃないんだろう?」

「お見通しか」

「何年、きみと一緒に暮らしていたと思っているんだ」

「……そうだったな」

 

 思えばこの3年間しか離れていなかったのに、いつの間にか遠い昔の事のように感じる。

 変わってしまったのだ、オレたちは。

 立場も、性質も、何もかも。

 

「……ウィーグラフの一件以来、アイリが一層ナイーブになっているように感じる。今さら兄キ面するつもりはないが、あいつを見ていたい」

「そういう言葉は本人に言ってやれよ」

「無理だよ。意固地なあいつのことだ、オレの言うことになんかもう耳を貸さないさ」

「殴り合いの大喧嘩までしたんだってな」

「そんなもんじゃない、命の取り合いだった。アレは」

 

 博愛主義者のラムザには、オレとアイリの間にある溝は多分、理解できない。

 

 今は敵同士でも、いつか共に手を取り合える。

 ふたりにはそんな絆があるんだから。

 

 そんなところだろう。

 

「ところで、そのアイリはどうしたんだ? てっきりアルガスと一緒にランベリー領に帰ると思っていたんだけど」

「アルガスだけで帰るらしい。エルムドア侯爵の戦死にも、何か思うところがあるようだ。オレにはそんな特別なことがあるようには思えないが」

「エルムドア侯爵、か……」

 

 3年前、骸旅団にさらわれたランベリー領の侯爵。

 その程度にしか思っていないオレよりかは、アイリの方こそがもっと考えてやるべきだろうと、そう言ってやるところだ。

 だが、おそらく本人は聞きはすまい。

 

 だからアルガスだけ帰らせて自分は残った。

 多分、納得するまでは帰らないだろう。

 

 納得……。

 何に納得すれば気が済むんだ、あいつは?

 

 双子のきょうだいとして分かるのは、ただあいつが面倒なやつということくらいだ。

 

 あいつももう子どもじゃない。

 ひとりの大人だ。

 

 決着は、自分自身で付けるしかない。

 

 それをオレが邪魔するようなことになれば、あいつは決して容赦しないだろう。

 きょうだいだから分かる。

 そのくらいのことは。

 

「まあ、それはともかく。ユーリ」

「ん?」

 

 見れば、ラムザは手を差し出していた。

 

「久しぶりの共同戦線だ。よろしく頼む」

 

 オレは、その手を握ることに躊躇した。

 いずれはこの手を裏切ることになるのは明白だ。

 

 それでも、今、ここでは。

 

「こちらこそよろしく、だ。ラムザ」

 

 オレは力強く、その手を握り返した。

 

 

 

 

 

side:アイリ・サダルファス

 

 木陰に隠れ、樹木の幹に背を預けて。

 しばし、ぼうっとしていた。

 

 アルガスはランベリー領に帰還したし、後は私たちが出発するのを待つだけ。

 

 何のために出発するんだっけ。

 

 そうだ、アルマの救出にだ。

 

 だけど、それも大事だけど、私にはやるべきことがあると、自分の中に巣食っている何かがあった。

 

 でも。

 

「ちょっと、怖いかな……」

「何がだ?」

「わひゃぁっ!」

 

 文字通り、私はその場から跳ね上がった。

 声のした方へ振り向けば、そこにはムスタディオがいた。

 

「なんだよ、わひゃぁって。そんな驚くことないだろ」

「ゴメンゴメン、考え事してたからさ」

「考え事とか、あんたにしちゃ珍しいな」

「珍しくもないでしょ、失礼ね。で、どうしたの?」

 

 口を尖らせて、私は返した。

 

「そろそろ出発の時刻だってよ。今みんなに召集かけてる」

「わかった、すぐ行くよ」

 

 立ち上がって、腰回りの砂ぼこりをパンパンと払う。

 

「ところで、だ」

「ん?」

「あんたの兄キが付いてくるんだろ? 確か北天騎士団の将軍だとか。ラムザの顔も相当広いよな」

「えっと、まあ、うん……、そうだね」

「なんだよ、歯切れが悪いな」

「うん……、今、喧嘩中」

「そいつは……、まあご愁傷様」

「ホントにね……。深い事情があると思ってもらえたら嬉しいな」

「オレは気にしないよ。だけど、あんたらの事情に深入りも出来ない。足並みを乱すようなマネだけは避けてくれよ」

「わかってる。ホントはそれを言いに来たんじゃないの?」

「そこまで深い考えはしてないよ。気に障ったなら謝る」

「そっか。……私、ホントはね」

「どうした?」

 

 もじもじと両手を組んで気もそぞろになっていた。

 もしあいつがいたら「なよなよするな気持ち悪い」とか言い出してたに違いない。

 

 続ける。

 

「ひょっとしたら、今回の件を通してユーリと仲直り出来るんじゃないかって、そんな期待していたんだ。でも多分、無理」

「なんでだ? 言いたいことがあるならここでオレが聞いてやるよ」

「うん。なんていうか、ユーリは。もう感情で動くことをやめにしたんだと思う。でも私はそんな生き方は出来ないし、したくもない」

「……それで?」

「身勝手な考えだと思うだろうけど、私、本当はユーリの事が羨ましいのかもしれない。ユーリは信じられる何かがあって、それに従うように一本筋の通った生き方が出来て。でも、私はいつまでもうじうじしてて」

 

 そう。

 私は何者にもなれていない。

 

 サダルファス家の養子。

 アルガスの従騎士。

 

 表面上はそういった立場に守られてても、何も返せるものがない。

 

 いったい、私は何者なのか。

 

「それで、そんな中で昔と変わったウィーグラフと再会して、思っちゃったんだよね。"悟った"って。それって、自分の中で何かが割り切れたからそうなれたんだと思う」

 

 理想だけでは何も出来ない。

 ならば力を手に入れるしかない。

 

 だけど、その先にあったのは結局ただの力なだけで、理想は奈落の底に落ちて空っぽの器だけが残った。

 

 ウィーグラフは、何者になれたのだろうか。

 

 教会の狗になったけれど、理想は捨てない。

 そんな我がままで、無慈悲で非道な大人になったんだと、今さらながらに思えた。

 

「ユーリはそれが許せなかったんだろうな。ユーリだって死に物狂いで一本筋を貫いて、見失わないように掴まってて、ようやく本当の大人になれたんだから。だからなれなかったウィーグラフのことをあれだけ論破できたんだろうなって」

 

 私にはそれがない。

 そんな私が、今のユーリと比べることも、頼りすがることも、出来るはずがない。

 

 だったら、私って何なのだろうか。

 

「そう……、私って、いったい何者なのかなって」

「んー、でもまあ、世の中の人間ってみんな、そんなもんじゃないか?」

「え……?」

 

 いつの間にかうつむいていた私の顔が、自然とムスタディオの方に向いた。

 

「誰が何者なのかなんて、肩肘張って生きてるばかりじゃないってことさ。オレだって無我夢中で聖石を守ってて、今じゃ世間に恐れられる異端者だぜ? それで、おまえは何になれたのかなんて、聞かれたくはないね」

「そう……なの?」

「そんなもんだろ。だからあんたもそう意固地にならないで、なるように生きていけばそれでいいじゃねえか。ぐるぐる回り道したって、途中で(つまず)いたって、前に進んでいるのは確かなんだし」

「ムスタディオは、前に進めてる?」

「そりゃもちろん。でないとラムザと一緒に異端者なんてやってらんないさ。アグリアスもその辺りの分別が付いてるから、今は女王様への忠誠心だけじゃなくて、ラムザと一緒に戦ってるんだろうさ」

 

 そっか。

 

 やっぱり私はユーリの事が羨ましいけど、でも、あんな生き方はしたくない。

 それでいいんだ。

 

 今は何者にもなれなかったと思ったけど、私にはアルガスがいて、ラムザがいて、みんながいる。

 その中で考えていけばいい。

 

 肩肘張って今の自分は何なのか、なんて考える方がよっぽどおこがましいし、それこそしたくない生き方だ。

 

 私は私らしく。

 一歩ずつ、前に進もう。

 

「ありがと、ムスタディオ。なんか肩の荷が下りた気がする」

「相談はいつでも絶賛歓迎中だぜ。なんでも誰かに話せば、案外気楽なことだってよくあるさ」

「うん。ホント、ありがと」

 

 「じゃあな」と彼は私の傍から去っていった。

 

 何者にもなれないなら、私は私のままでいればいい。

 その上で、私はもう一度ウィーグラフと会おう。

 

 その時きっと、私の腑に落ちるものがあると思うから。

 

 今はただ、そう信じよう。

 そう、思えた。

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