【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ 作:12club
side:アイリ
士官アカデミーを出て、町を目前にしたところで、自分の身が震えるのを感じた。
襲撃の気配。盗賊の敵意。戦闘の匂い。
今までに味わったことのないきな臭さに身震いする。
もしかして、ビビってる?
いや、そんなことはないはず。
ラムザやディリータといれば、いずれこんな場面に出くわすことは簡単に想像できていたし、覚悟も出来ていたはず。
あの優しいユーリでさえそうだ。
だからこれは、そう、武者震いというやつだ。
気合を入れ直す。
ここからはフルアクセルだ。燃料が尽きたら後方に下がればいい。
ラムザたちだって、私がこんな所で死ぬことは許さないだろう。
視界に盗賊たちが入った。
そして、それは敵もそうだったようだ。
「町に逃げ込んでみりゃ、なんだ、ガキどもじゃねえか。ついてるぜ」
先鋒を務める盗賊が嫌なニヤケ面になるのが見えた。
余裕の笑み、というやつだ。
「このガキどもを倒せばオレたちは逃げられるんだ。構うことはねえ、殺っちまえ! 皆殺しにしてやるぜ!」
下卑た大声で、盗賊は周囲を鼓舞した。
鼓舞というには、ずいぶんと物騒な物言いだったけど。
しかし、人の命を軽く考える輩というのはここまで残酷になれるものなのだろうか。
そんな勝手は許せないし、許さない。
私は、私の守りたい人たちを助けるために、おまえたちを倒す!
気合いを入れる私の肩に、誰かが手を触れた。
「落ち着け、アイリ。深呼吸だ。いくら何でも肩に力が入り過ぎだぞ」
ディリータだ。
そんなに私は気合いが空回っていただろうか。
「いいか、無理はするな。おまえはひとりじゃない。オレたちみんなで、勝つべくして勝つ。分かったら少しは落ち着けよ」
「……うん。ありがと、ディリータ」
「世話の焼けるお姫様だ」
言われた通り、深呼吸する。吸って、吐いて。
そうすると、思った以上に景色が澄んで見えた。
やっぱり初陣の緊張に当てられて、気が
「オレが先に出る。おまえは後ろから支援してくれ」
「大丈夫なの? ディリータ」
「誰かの
「……了解」
ディリータが前に出る。
慎重な足取りだ。
街路の横合いから奇襲されたら元も子もない。
それらにアンテナを張るのが私の役目だ。
ギン、と。
剣を合わせる音が聞こえた。
誰かが交戦状態に入ったのだ。
ディリータがそちらに向かって声を放つ。
「あまり前に出すぎるなよ、ラムザ! おまえひとりで何とか出来ると思うな!」
盗賊と剣を合わせるラムザが、しかしそれに応えて。
「侮るなディリータ! 僕だって、末席とはいえベオルブ家の名を継ぐ者だ!」
それを聞いた盗賊が、反発するようにラムザに向かって叫ぶ。
「ベオルブ家だと? そうか、おまえはベオルブ家に連なる奴か! ふん、貴族のクソガキどもめ!」
盗賊の罵声を受けて、ラムザがそれに応える。
「投降しろ! さもなくばここで朽ち果てて物言わぬ
しかし、連中もそんな勧告に応じることもなく。
「貴様ら苦労知らずのガキに何が出来るっていうんだ! 朽ち果てるのは貴様らの方だ!!」
そんな論戦を演じながらも、ラムザの進撃は止まらない。
勇敢――それに加えて戦闘のセンスが違う。
ラムザは独りで突貫しているように見えて、周囲への支援も
部隊長として、出来過ぎている。
これがベオルブ家の名を継ぐ者のリーダーシップ、というものだろうか。
「アイリ、
「……うん、ゴメン」
刹那。
私とディリータを見据えた盗賊が道の横から襲撃してきた。
「ディリータ、左!」
「任せろ!」
大上段に構えて迫る盗賊に、ディリータは冷静に剣を脇に引いて構えて。
先手を打って盗賊の胸板を剣で突き貫いた。
「ガッ……」
ほとんど断末魔を唱えることなく、盗賊が息絶える。
その一部始終を見て初めて、これが戦闘行為であり、人殺しの所業であることを実感した。
ヒュン、と剣を振って、付着した血を払う。
「アイリ、戦いはビビった方が負けだ。前に出るのも後退するのにも、ビビるのは戦場において不要なものだと知れ」
「う、うん。ディリータ……その」
「どうした?」
ゴクリと、
「ディリータは、人を殺して平気なの……?」
「……平気なわけないだろ。精一杯、強がってるだけさ」
会話しつつも、私は周囲への索敵を
また横や背後から奇襲されれば、命を失うのは自分かもしれないのだから。
「アイリ、おまえは戦場の空気を感じればそれでいい。人殺しはオレに任せておけ」
「……うん。ありがと」
「人を殺しておいてありがとう、か。らしくないぜ。アイリ」
私たちふたりはそのまま、街路の裏道へと走る。
背後から敵の気配をひしひしと感じながら。
「ディリータ、ダメ! 行き止まり!」
しかし、ディリータはヒュっとひとつ口笛を吹いて。
「問題ない。任せておけ」
私の前に出た。
盗賊が数人、裏道に殺到して剣を振りかぶってくる。
が。
狭い裏道で、勝手知らずな連中がひしめき合ってその動きが
「まずはふたり、っと」
ディリータが先もやったように、動きの鈍った盗賊の胸板を貫く。
さらに怯んだもうひとりも、返す刃で首筋を薙いだ。
「面倒だ。まとめてかかってこいよ」
くずおれるふたりを見止めることもなく、ディリータが盗賊どもを挑発する。
しかし、分が悪いと悟ったか、盗賊たちは裏道を逆方向へと逃げ出した。
そこに。
ひとり、またひとりと。
逃げに徹した盗賊が誰かに斬られてその場に崩れ落ちる。
「大丈夫か! アイリ!」
「ユーリ……?」
思わず声が零れた。
ディリータはそんな私に構うことなく、盗賊の死体を
「助かった、ユーリ。アイリのこと、よろしく頼んだぜ」
「ああ、任せとけ」
いつの間にか、やたらとユーリが大きく見える。
その理由を悟ったのは、自分が腰を落として下から上へ眺めているからだと気が付いた。
ユーリが私に手を伸ばす。
「アイリ、立てるか?」
「う、うん。助かったよ、ユーリ」
「戦闘前はリラックスして見えたんだけどな。意外と脆いな、おまえも」
「ゴメン、そうかも」
言いながら、ハッとする。
ユーリの剣が血に
それどころか、兵装まで返り血を浴びていて。
「ユーリ……何人くらい、殺したの?」
「そんなこと、数える余裕すらないよ」
「私、まだ誰も……」
「ばーか」
言って、ユーリは指で私の
「誰も殺さないで済むなら、その方が幾分かマシだっての。おまえはまだ人殺しじゃない、だろ?」
「ディリータに散々、思わさせたよ。私は足手まといだって、多分」
「面と向かって言われたわけじゃないだろ。後は人殺しに任せて、おまえは後ろに下がっていろよ」
人殺し。
覚悟してきたつもりだったのに。
一体、私はユーリと。
いや、ディリータたちと何が違ったのだろう。
どこかで安堵している自分もいた。
これで今回は、人殺しにならなくてもいいかもしれない、と。
だけどそれは、ユーリたちをどこか
side:ラムザ・ベオルブ
思った以上に損害がない。
アイリのことが何故か不安に思えたが、ディリータが付いていてくれた。
彼ならば安心して任せられる、という心強さもあった。
それに、ユーリも予想以上に強い。
彼には僕の
そして、その容赦の無さも。
講義の通り、訓練の通りだ。
ふたりでひとりを囲んで叩く。
それだけであっさりと片が付いていた。
僕とユーリはその戦法だけで、みるみるうちに敵の数を減らしていった。
残ったのは、盗賊の大将ひとり。
「くそっ……、くっそぅ……! たかがガキ相手に何をやってやがる! せめてオレだけでも逃げて……」
「させるかよ」
「なッ……!?」
僕を目の前にして、背後が疎かになっていた盗賊は。
あっさりとユーリに回り込まれて背後から剣を突き入れられていた。
「がっは……!」
盗賊の大将が倒れ伏す。
同時に、それが最後のひとりであったことを知るに、戦いは僕らの勝利に終わったことを認めた。
「盗賊などという愚かな行為を何故続けるんだ……?」
僕は思わず声を漏らす。
「
その言葉の意味は簡単なことだったが、実践するには難しいことなのだろうか。
僕には目の前の『愚かな人間』の罪深さを想像することが出来なかった。