【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ 作:12club
side:ユーリ・ベオルブ
グローグの丘。
ここに来るのは二度目か。
あの時はザルバッグ将軍に戦況報告して、後方支援に回れと命令されたのが最後だった。
その差配はダイスダーグ卿かもしれないが。
とにもかくにも、未だここはゴルターナ軍の勢力圏内だ。
何が起こるかわかったものじゃない。
さっさと通り過ぎてフォボハム領に入り、リオファネス城を目指さなければ。
しかし、悪い出来事は重なるものだ。
厄介事はいちいち間の悪い間隔でやってくる。
先行して遠眼鏡で前方を哨戒していたムスタディオが戻ってきた。
「どうした?」
「まずいぜユーリ。ゴルターナ軍の兵装をした連中が徒党を組んでこっちに向かっている。このまま進めばちょうどぶつかるぞ」
「だが回避する余裕は無いんだろ?」
「まあ、な。回り道すれば余計な時間を食うのは間違いないし、遅れれば遅れるほどアルマの身の無事が危うくなる」
「と、なると強行突破しかないか」
「考え方が物騒だな」
「現実的に考えていちばん効率の良いやり方を選んでいるだけだ。……おまえはラムザたちと一緒に先へ行け。ここはオレが抑える」
オレの台詞に、ムスタディオがきょとんとする。
慌ててオレに抗弁した。
「あんたが抑えるって……、ひとりで何が出来るんだよ」
「オレの身の上を忘れてないか? 北天騎士団の聖騎士だぞ。囮にこれほどぴったりなやつなんていないだろ」
「そりゃそうだが……」
「必ず後で追い付く。先に行っててくれ」
「……武運を祈るぜ」
そう言い残して、ムスタディオは後方にいるであろうラムザの元へ向かって走っていった。
「さて……」
オレは意を決してゴルターナ軍が進行しているであろう、丘の上方へと向かっていった。
見えた。
確かにゴルターナ軍の兵装を身に付けた一団だ。
だが、どこか様子がおかしい。
とりあえず一声かけてみるか。
「止まれ! そこのゴルターナ軍! ここから先は我ら北天騎士団の勢力圏内だ!」
それを聞いた一団が一層ざわめき出した。
騎士団の連中か、本当に?
この進軍には疑問がある。
どうも何かしらの目的があっての作戦行動とは思えない。
「北天騎士団の騎士! ちょうど良かった、オレたちを助けてくれ!!」
一団の先頭に立つリーダー格らしい青年が叫び返してきた。
助ける?
どういう意図だ?
「もう戦争はゴメンだ! 人殺しはたくさんだ! どれだけ泥にまみれて生きていたって、家族と一緒に静かに暮らしていた方がいいに決まってる!」
なるほど。
ヤツら、ゴルターナ軍の脱走兵か。
ならば話は早い。
「投降を許可する! 速やかに武装を解き、私の元に下れ! 全員の身の安全は保障する!」
ざわっと一団がどよめいた。
歓喜に打ち震えているさまが遠目にも浮かぶようだ。
まあ人助けもたまにはいいだろう。
と。
「そうされては困るんだな、これが」
オレの背後からそんな声が響いてきた。
声の方へと振り向く。
「そっちの勝手な都合でうちの脱走兵を投降させるのはやめてもらいたい。さもなければ容赦はしないぞ」
チョコボに乗った先頭の兵士と、その周囲を囲う騎士たち。
どれもが黒獅子の紋章をいただいた兵装をしていた。
そうか。
「おまえたちは彼ら脱走兵を追跡してきた、南天騎士団の追撃部隊だな」
「ご名答」
紋章を示すマントを羽織ってはいるが、正規の騎士兵装はしていない。
おそらく、南天騎士団の斥候か、隠密部隊か。
物怖じせず返す。
「断る。彼らはゴルターナ軍を見限り、北天騎士団に自ら
「そうか、残念だ」
戦闘のリーダーらしい青年が、手を掲げて、オレに向かって振り下ろす。
「北天騎士団の騎士を撃破し、脱走兵を始末しろ! 決して容赦するな!」
南天騎士団と、オレと一時休戦した脱走兵との戦いが始まった。
南天騎士団。
しかも正規兵だ。
練度は抜群に高く、リーダーの指揮も上手い。
頭の中でそう分析した。
「名を名乗れ! 南天騎士団の指揮官!」
オレに殺到してくる騎士団に向けて、声を放つ。
意外にも、リーダーの青年はそれに反応してくれた。
「オーラン・デュライ! 南天騎士団率いるオルランドゥ伯の息子であり、その軍師だ!」
「雷神シドの息子、か……。そいつは手ごわそうだな!」
「こちらは名乗ったぞ! そっちこそ名と身分を明かしたらどうだ!」
「それは礼儀を失したな。オレはユーリ・ベオルブ! 北天騎士団の将軍であり、聖騎士を務める者だ!」
「ベオルブだと?」
リーダー――オーランの眉が一瞬ひくついた。
さらに聞き返してくる。
「おまえはベオルブの人間か! ラムザ・ベオルブの縁者か何かか?」
「ラムザは北天騎士団を見限った身! どちらかと言えばザルバッグ将軍の麾下の者だ!」
「そうか、ならおまえを生かしておく義理は無いな!」
「おまえこそ、ラムザの知り合いか?」
「それに応える義理も無い!」
南天騎士団の数は少ない。
やはり斥候が、緊急で脱走兵の始末を命令されたのだろう。
しかし、やはり練度が高い。
オレと脱走兵の連携では、数の差は補えれど質の差はいかんともしがたい。
オレひとりでやるしかない、か。
だが。
「南天騎士団がこんな場所で脱走兵狩りか? 何か他に別の命令を受けていたのではないか!?」
「そいつを聞くのはオレたちにとっくりと絞られた後にしてもらおうか!」
「違いない!」
騎士たちが迫る。
振りかぶってきた剣を、オレは受け止めて。
もうひとりが振り上げた剣が、オレの剣を弾き飛ばした。
剣がヒュンヒュンとあらぬ方向に飛んでいき、遠くの地面に突き刺さる。
ゲームオーバー。
オレは潔く両手を軽く上げた。
オーランが剣を抜き、降参したオレに向けてそれをかざす。
「なぜ本気で戦わない?」
「おまえの眼は進んで殺しをやるやつの眼じゃない。投降すれば無事で済ませてくれると踏んだからだ」
「南天騎士団が北天騎士団の将軍をか? 冗談じゃない」
「だが捕虜は無碍にしない。そうだろ?」
「……
言って、オーランが脱走兵たちに向かって。
「この聖騎士の潔さに免じて、おまえたちは見なかったことにする! 早々に立ち去れ!」
そのオーランの言葉に、ざわりと脱走兵の一団がざわめいた。
さらに続ける。
「立ち去れと言っているのがわからんのか!」
その喝に心底震え上がっただろう脱走兵たちは、すごすごと立ち去っていった。
……やれやれ、人助けも楽じゃない。
オーランが再びこちらに顔を向ける。
「質問する。北天騎士団の将軍……しかも聖騎士の称号をいただく人間が、何故こんな所にいる?」
「ザルバッグ将軍の命令だ。ラムザを助け、戦争の裏で暗躍するグレバドス教会の陰謀を暴くという、な」
「なるほど……。出来た冗談だ」
「冗談じゃないぞ。現にラムザたちはグレバドス教会と繋がろうとしている、バリンテン大公の元へ向かっている」
「それを疑わない方がどうかしている。本意はなんだ?」
「戦争の早期終結」
「……わかった」
オーランはオレに向けてかざしていた剣を、鞘に納めた。
チョコボから降りて、さらに問い返してくる。
「どうしてオレがおまえの命を取らないと踏んだ?」
「それはおまえがオルランドゥ伯の息子だと名乗ったからだ。それに」
「それに?」
「おまえはラムザとは
「オレの何を信用する?」
「直感だ」
「……嘘をつく人間を、オレは信用しない」
「まあそういきり立つな。一応信頼に足るに値する人間だと思ったのには理由がある」
「聞こう」
言われて、オレはどかっと地面に腰を下ろした。
「一応、捕虜だからな。縄目くらいは打っても構わないぞ」
「そんな面倒なことをするか。それが必要なやつじゃないことがわからないほど、オレの眼は曇っちゃいない」
「それもそうか」
大真面目な様子のオーランに、オレは笑いで応える。
周囲を囲む騎士たちが一斉に、剣をオレに突き付けた。
怖い怖い。
「オルランドゥ伯の息子と言ったな。ならグレバドス教会とこの戦争の関係について、何か裏があることは察しているな?」
「それだけではまだ答え合わせはできないな」
「ならもうひとつ。異端者ラムザを神殿騎士団が
「……さらにもうひとつ聞こうか。おまえはその件について、どこまで知っている?」
「『ゲルモニーク聖典』」
オレの言葉に、オーランは沈黙で応えた。
というより、驚きを隠して頭の中で情報を
「……皆、剣を治めろ。オレはこの男を信用する」
「ありがたい」
騎士たちが剣をオレから離し、鞘に納めていく。
オレも立ち上がり、オーランに眼を合わせた。
オーランが値踏みするような表情で、オレに問いかける。
「『ゲルモニーク聖典』が何なのか、おまえは知っているのか?」
オレは首を横に振って。
「詳細は知らない。だがラムザから、その聖典が教会の陰謀を暴く証拠だということは聞いている」
「ラムザ・ベオルブが『ゲルモニーク聖典』を何のために使おうとしている? 自分の身の潔白を証明するためか?」
「それもあるが……、主目的は別だな」
「どういうことだ?」
オレはふと、あらぬ方向へと眼を向けた。
いや。
その方角は、オレたちの目的地を指し示していた。
「リオファネス城に、あいつの妹が捕まっている。バリンテン大公と教会の繋がりを暴く交渉の材料として、妹を助けようとしているのさ」
「妹……、そうか」
「小さいことだと思うか?」
「いや、
オーランが眼をつむり、ひとつ頷く。
「あいつは自分のためじゃない。常に誰かを助けようと、そのためなら命を懸けられる……そんなやつだと思っただけだ」
「オレを信用する気になったか?」
「ああ、行ってもいいぞ」
「案外、話が分かるやつなんだな」
言って、オレは騎士たちの間をすり抜けた。
ラムザたちは別方向からリオファネス城へ向かっているはずだ。
多分、オーランと接触する機会はないだろう。
オレは顔だけ、オーランの方へと向けた。
「一緒に行かないか? 今ならラムザの所へ案内できるが」
「いや、いい。今はまだあいつの邪魔はしたくない」
「今、南天騎士団がバリンテン大公に剣を向けるわけにはいかないもんな。うちのゴルターナ兵もその気があればいいんだが」
「ゴルターナ軍の兵士が一緒なのか?」
「オレの妹さ」
「妹……、おまえも妹のため、か?」
「さあな」
顔向きをオーランから外して、さようなら代わりに彼に。
「そこのところはオレにもよくわからん」
そう告げて、オレはグローグの丘を立ち去ることにした。
オーランは終始、難しい顔をしていた。
オレが合流する頃、すでにラムザたちはグローグの丘を通り過ぎ、城塞都市の近くで野営していた。
わざわざ町に入るまで、オレを待っていてくれたらしい。
「ユーリ! 無事だったか!」
「ああ」
ラムザの歓声に迎えられて、オレは破顔した。
まったく、どうなることかと思った、というのが正直なところだ。
それに気付いたのか、ラムザが問いかけてくる。
「ゴルターナ軍と何かあったのか?」
「詳細は省くが……、オーラン・デュライに会ったよ」
「オーランに?」
「そうだ。おまえの知り合いで間違いないんだよな?」
「きみと修道院で合流する前に、少しだけね」
そこまでは適当に聞き流して、オレは神妙な面持ちで応えた。
「あいつもおまえやオルランドゥ伯と同じく、教会の陰謀に気付いているようだった」
「そうか……、もしかしたらこれから、強い味方になってくれるかもしれない」
「オーランを信用するのか?」
「きみはそう判断したんだろう? なら間違いはないと、僕は思う」
「信頼されたものだな、オレも」
そこまで言って、オレは周囲を見回した。
ラムザはいる。
ムスタディオもだ。
「アイリとアグリアスはどうした?」
ラムザが、はあっと一息ついて。
「きみが来るのを察して、どこかに出掛けたよ。アイリはきみと面と向かうのを嫌がってるんじゃないのか?」
「まあ、そういう面倒なところがあるやつだしな。あいつは」
オレはぷっと吹き出した。
「笑い事じゃないよ」
「そんなもんだろ」
その場はそれでお開きにして、オレは一休みすることにした。
アイリのやつは……、いったい何のためにリオファネス城に向かっているんだろうか。
納得するためか。
何にだ。
アルマを助けようとしているラムザとは別に、個人的な事情であちこち
side:アイリ・サダルファス
ユーリが帰ってきたか。
なんとなくだけど、それが私の頭のどこかで癪に障ったのを自覚する。
無事じゃなかったらよかったのに。
そう考えてしまう私はなんて嫌なやつなんだろう。
樹木を背に腰を下ろしながら、私はぼうっと空を眺めていた。
雲が千切れたり、くっついたりを繰り返している。
私ははあっと息をついた。
「悩み事か?」
声がした方へ振り向く。
「アグリアス……」
「どうした、愚痴くらいなら聞くぞ? 溜め込むのはあまり良くない」
言って、私の隣に腰を下ろす。
「なんかさ、ユーリがこの場にいることにすごく違和感を感じてる」
「ほう」
「みんなだってそうでしょ? あいつは北天騎士団の将軍だし、後方支援の任務だとか理由つけてるけど、やっぱり敵同士なんだし」
「そんなことはないと思うがな。そもそも私たちこそが、はぐれ者の集まりのようなものだ」
「だから、なおさらそんなことを感じちゃうのよ」
「まあ、あの男は由緒正しい北天騎士団の一員だからな。身元がはっきりしていると逆に浮いてしまうのは仕方のないことだ」
だが。
アグリアスは続ける。
「おまえが言いたいのはそういうことではないだろう」
「うん……、まあ、ね」
素直に認める。
みんなにとって、とか理由つけちゃいるけど。
最も違和感を感じているのは多分、私だけだ。
「なんで、こうなっちゃったのかな」
顔を膝に埋め込む。
今まで、ユーリと一緒にいることに違和感なんて感じなかった。
でも今は違う。
ユーリは、敵なんだ。
そんなことをひしひしと感じている。
「今までユーリのこと、邪魔だなんて思ったことなかった。でも私、今は違うって、そう考えちゃうのが嫌で嫌で仕方なくって」
「あいつの方こそ私たちを利用しようと企んでいるんだろう。お互い様だと思うがな」
「だからこそ私は嫌だ、って思っちゃうのよ」
双子の兄と一緒にいるのが、たまらなく嫌で嫌でしょうがなくって。
そう悶々と反復してしまう自分が嫌で。
とにかく、たまらなく嫌な感情ばかりが噴き出してくる。
私は顔を上げた。
「ねえアグリアス」
「なんだ」
「ユーリはさ、何を考えているのかな」
「おまえはどう考える?」
「なんていうか、ユーリが私たちと一緒にいること、なんて思いながらついてきてるのかなって」
「おまえこそ、その辺りはどう思っているんだ?」
私?
なんだろう。
私なら、ユーリのこと。
「ユーリはユーリで、自分の任務を完遂するために一緒にいるんだろうけど、私は何をどう考えればいいかなんて、考えたこともなかった」
「まあ、そういうことだろう。あいつはあいつなりの信念を持って、私たちと共にいることを望んでいるのだろうな」
「じゃあ、私はどう考えればいいのかな」
「弱気なことだな。あんまりうじうじするな」
「じゃあ」
私はなんで、ここにいるのか。
それを考えていると、今度は私がみんなから引き剝がされそうな気分になる。
「私、ウィーグラフにもう一度会いたい」
「会って、そしてどうする?」
「わかんない。でも、なんでかそうしなきゃいけないって、そう思ってる」
「私たちの方こそ、わからないことだらけさ。今はラムザについてアルマの身を案じているが、案外みんな、それぞれ違うことを考えているのかもしれないぞ」
しかし。
「まあ、とりあえずは」。
そう言い続けて。
「おまえにはおまえで、やりたいことがあるわけだ。それを無理矢理ラムザに当てはめたり、ユーリと比べたりしなくてもいいじゃないか」
「みんなはラムザのこと、好き?」
「そうだな。だから私たちは皆、ひとりの仲間として、ラムザの力になってやりたいし、アルマのことを助けたいと思っている」
「だけど、たぶん私は……」
「比べなくていいと言っただろう。おまえもアルマのことが心配だからついてきているのだろうが、他に目的があってもいいと、そう思う」
「……うん」
アルマのことが二の次っていうわけじゃない、と。
そう自分でも思っている。
でもそれを疑う自分がいるのもまた確かで。
見透かしたように、アグリアスが問い返してきた。
「どうだ? アルマのことより、ウィーグラフの方が気になる自分が嫌か?」
「それはまあ、多分そう」
「ならまずはウィーグラフのことを先に片づけてしまえ。アルマのことは私たちに任せ、おまえはそれについてくればいい」
「うん、ありがと。アグリアス」
今ならきっとウィーグラフの本音が聞ける気がする。
理想とか、革命とか、そういうのを放棄したあの男が、何をどう考えているのか。
まっさらなあいつの心境を、私は知りたい。
「なんか色々と頭の中で整理できた気がする」
「それは良かった。……
「迷惑かけてゴメン。アグリアスの言う通りにしてみる」
「ああ、その意気だ。たまには自分のことも仲間に吐き出してみるんだぞ」
そう言って、アグリアスは立ち上がって。
腰回りについた砂ぼこりを払って、私の隣から去っていった。
ユーリのこと。
ウィーグラフのこと。
どっちも私にとって消化しなきゃいけないこと。
だからそんな諸々のことに決着を着けないといけない。
そう、思う。
とりあえず、アルマのことはみんなに任せて、私は私のやりたいようにしよう。
アグリアスが言いたいことは、きっと他のみんなも同じことだ。
ウィーグラフのこと。
そして、ユーリのことも。
私は私の中で、決着を着けてしまおう。
とりあえず、そう考えてみることにした。