【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ 作:12club
side:アイリ・サダルファス
城塞都市ヤードー。
かつての五十年戦争では、東のオルダリーア戦線とは別に北国のロマンダとの戦線で使われた城塞だと聞く。
ロマンダが撤退してからはこの城塞が使われることもなく、「武器王」と称されるバリンテン大公の手腕でフォボハム領が誇る大都市へと変貌を遂げた。
そう伝えられる。
昨夜はユーリのゴルターナ軍足止め工作のため、彼の帰りを待って都市の外で野営していたけど、ようやく
しかし。
「おい、ラムザ。町の様子がおかしいぜ」
遠眼鏡で町を観察していたムスタディオが忠告を発した。
「どうしたんだ? ムスタディオ」
「町の様子が変……、いや、おかしいことはないんだが、おかしくないことがおかしいって言うか……」
「どういうことだ?」
そう言って、ラムザがムスタディオから遠眼鏡を受け取る。
「町中が静かすぎる。なんだか、町全体がまるでオレたちを待ち伏せしているような……」
「確かに……。なんだか様子が変だな」
「だろ? 誰か先行して先に町を調査した方が――」
「いい」。
そうムスタディオが言いかけて。
町の入り口からひとり、誰かが駆け出すのが見えた。
「助けて!!」
褐色の肌をした少女だ。
私たちより2、3歳くらい年下だろうか。
ユーリがそれを見て、無言のまま剣を抜いた。
「ちょっと……、ユーリ……!」
「敵襲だ。全員、備えろ!」
町中が急に騒然となった。
待ち伏せしていた何かが、正体を現して私たちの前に立ちはだかる。
「待て、ラファ!!」
町の入り口からひとり、また褐色の肌をした青年が駆け出してくるのが見えた。
それと同時、町中から忍びの格好をした一団が次々と現れてくる。
「敵襲? しかも忍者?」
「気を付けろ、アイリ!」
「あんたに言われなくたってわかってる!」
どうやら狙いは私たちのようだ。
だけど、それなら最初に町から出てきた少女は何者だ?
忍者のひとりが声を上げる。
「どういうことだ、マラーク! ラファはオレたちを裏切ったのか!?」
マラークと呼ばれた褐色肌の青年が、その声に応え。
「ラファのことは気にするな! 妹の始末はオレがつける!」
「しかし、大公殿下にはどう説明するつもりだ?」
「気にするなと言っているだろう! 大公殿下に
ラムザがそれを聞いて、反射的に口にした。
「妹だと? 妹を殺すというのか、おまえは!?」
「貴様には関係のないことだ! 全員、異端者ラムザをここで始末しろ!」
どうやら敵は奇襲を画策していたみたいだった。
だけど、少女の乱入でそれを防げたようだ。
奇襲に失敗して姿を白日の下にさらした暗殺部隊など、私たちの敵じゃない。
「全員、敵の
「だから、あんたに言われなくてもわかってるってば!」
ユーリの忠告を右から左にして、敵忍者へと迫る。
私たちラムザと、暗殺者部隊が接敵した。
町の入り口が一気に騒然となる。
ラムザがマラークと呼ばれた青年と剣を斬り結び始めた。
「何者だ! なぜ僕らをつけ狙う!?」
「大公殿下を敵に回した連中をそのままにしておけるか! 貴様はここで朽ち果てろ!」
私は敵から距離を取り、辺りを見回した。
ラファと呼ばれた少女が、注意深く周囲を見回してあちこちに駆け回る。
あれは……敵の攻撃範囲を見定めて自身を危険から回避しようとしているのか。
見た目以上にずいぶんと目端が利くことだ。
だけどそれを敵が見逃すはずもなく。
敵の数人が彼女に近づく。
「させない、っての!」
私は懐から短剣を取り出し、ラファに近づく忍者に向かって投げ付けた。
当たる直前、忍者がそれに気づいて反射的に身を逸らして。
全員がターゲットを私に向けて返した。
目を閉じて、集中する。
そして俯瞰するは、私を含めた戦場全体の
景色が遠くなり、セピア色に染まった。
――映える天空より見定めよ。此は私の踊り場。迫る者すべてにすべからく刃を突き、切り抜けよ。
見える。色を失った世界で、私が舞い踊るかのように乱舞するその自分自身の姿が。
見える。数人の忍者が手裏剣を取り出し、私へ向かって投げ付けてきて、それら全てを紙一重で受け流すのが。
見える。敵集団へと急接近し、どよめくヤツらの表情のひとつひとつが。
見える。乱舞する剣が、敵の喉を貫き、薙ぎ払い、さらに心の臓に突き入れるのが。
見える。後退した数人の敵が、少女ラファへと無数の武器の投擲を敢行する姿のひとりひとりが。
見える。無数の投擲武器のその全てを、私が剣で打ち払うのが。
見えた。戦場全体が私たちの支配下に陥り、戦闘の様相を敵から奪い取った、その瞬間を。
俯瞰風景・裂。
俯瞰する風景が急激に、元の自分へと舞い戻った。
世界が色を取り戻す。
辺り一面に、生命を失った敵の死体が、倒れた彫像のようにことごとく転がった。
「くそッ、撤退しなければならないなんて……!」
マラークがヒュッと口笛を鳴らす。
それを合図に、残った敵の集団が散らばって戦場から姿を消していった。
戦闘が終了し、皆の目線が少女ラファへと向けられる。
「あ、ありがとう。私は……」
ラファがしどろもどろになりながらも、礼を言った。
ラムザが彼女を安心させるように、遠目でもわかるように頷く。
「敵の残党が戻ってくるかもしれない。一旦、どこかに身を隠そう。そこできみのことも教えてくれ」
「え、えぇ……」
状況、完了。
私たちは後顧の憂いなく、町中へと進入した。
side:ユーリ・ベオルブ
オレたちはラファを伴って、倉庫街の一角にあるそのひとつに身を隠した。
軽く辺りを警戒したが、追跡はないようだ。
先の戦闘の疲れを癒すよう、思い思いに辺りに腰掛けてひと息つく。
ラファの話は……、とりあえず皆を代表してラムザが聞くようだ。
オレも彼女の素性が気になり、耳を傾ける。
「改めて、助けてくれてありがとう。私はラファ・ガルテナーハ……、先の暗殺部隊カミュジャの一員よ」
「何故きみが逃げてきたのか、理由を聞かせてくれるかい?」
「えぇ、もちろん」
暗殺部隊からの脱走兵……。
町について早々、きな臭い話だな。
「私と兄マラークは五十年戦争の戦災孤児なの。バリンテン大公に拾われて、その下で育ったわ」
「バリンテン大公は親元を亡くした孤児を助け、多くの孤児院を開いていると聞く」
ラムザの顔色が曇る。
「その裏で、"才"ある子どもに目を付け、暗殺者として育て上げて使っているという……。それがきみたちってわけか」
ラファが小さく頷いた。
「バリンテン大公が求めているのは王家の後継者の座……、イヴァリースの王座よ」
「この戦争の裏で大公に王の座をお膳立てしようとする黒幕がいるんだよ。自分はそれを操って
ラーグ公もゴルターナ公も王座の後継者の後見をめぐって争い合い、そこに大公も加わろうとしている……。
どいつもこいつも権力ってものが欲しいらしい。
まあ……、権力があれば少なくとも食い扶持と寝る所に困ることはなさそうだが。
それに対して、ラファはうつむきで返す。
「……兄さんを連れ出さなきゃ……」
「どうしてきみたち兄妹は争っているんだ?」
ラムザが問う。
「……私たちの里には、一子相伝の秘術があったの」
「秘術?」
「ええ。私の天道術に、兄さんの天冥術。これらはどの魔法形態にも属さない特殊な秘術。バリンテン大公はその力が欲しかったんでしょうね」
「それと、きみたちが戦災孤児になったのと、何の関係が?」
「大公はその秘術を求めた。でも里の長老はその申し出を断った。だから、ヤツは私たちの里を焼いたの。自分のものにならないのなら、ってね」
自分のものにしたいが、そうならないなら抹消する。
オレにはよくわからないが、本当だとしたら勿体ないマネを、といったところだ。
「焼けた
ラファは拳を強く握りしめて、
「すまない……。残酷なことを聞いたね」
「ううん、いいの」
涙を拭き、それに次ぐようにラファが続ける。
「貴方は……ラムザはどうして、兄たちに逆らってまで戦うの?」
「僕はベオルブの名を継ぐ者だ。その名誉にかけて戦っている。だからこそ、今の兄さんたちには従えない」
「それは嘘ね……。貴方はただ、目の前で苦しんでいる人を放っておけないだけ。そこに見返りなんて求めない」
「買いかぶりすぎだよ。僕はそんなに立派な人間じゃない」
……こいつも本当に出来た人間だな。
それと同じくらい、馬鹿なやつだ。
アイリと、同じくらいに……。
「きみはこれからどうするんだい? 僕らは妹を助けるためにリオファネス城を目指しているんだけど、きみはやっとのことで逃げ出してきたんだろう?」
「……私は」
と。
『こんな所に隠れていたのか』
鈍く響くような声が、聞こえた。
オレたちは即座に立ち上がり、声の出元を探り出す。
そこにいたのは、一匹の――。
「――カエル……?」
今にもゲコゲコと鳴き出しそうなその小さな手の平大の両生類が、さらに小さなその口から声を響かせた。
『異端者ラムザよ。リオファネス城へ急げ。さもなくば貴様は物言わぬ骸となった妹と会うことになるぞ』
「その声……! 兄さん!」
ラファが声を上げる。
『ラファ、おまえも来るのだ。断ればラムザの妹の命はない』
「卑怯よ兄さん! 彼らとは関係ないじゃない!」
『これは指示ではなく命令だ。理解したなら従え。いいな』
カエルの体が膨らんで。
パン、とその場で小さく爆発して、体の
ラファがラムザに向かって。
「行きましょう、ラムザ!」
「すまない、ラファ。僕のために……」
「悪いのは兄さんたちよ。気にしないで」
力強くふたりは頷き合った。
これで退路はなくなった。
いや。
オレには元より退路はなかったな。
これはチャンスだ。
この状況をうまく使えば、バリンテン大公の狙いをつぶさに観察でき、どの勢力と繋がろうとしているかより詳細を知ることが出来る。
アルマを出しに使うようで少々、気は引けるが。
ザルバッグ将軍に朗報を伝える糸口になるかもしれない。
side:アルガス・サダルファス
オレも焼きが回ったもんだ。
「おい、そこの衛兵」
そこにボケらと突っ立っていた墓守りに声をかける。
「交代か? それとも何か用か、小僧」
ぴくりとオレの頭に青筋が立った。
誰に向かってモノを言っているつもりだ、この下級兵士は。
何も言わず、オレは懐から勲章を取り出し、指し示した。
「男爵、サダルファス卿だ。棺を改めに来た」
「だ、男爵様!?」
「エルムドア侯爵の棺はどこだ? まだ焼いていないと聞いたが」
「はっ! 侯爵様の棺はまだ焼却してはおりませんが……」
「棺改めだ。案内しろ」
「は、ははっ!」
その場から逃げるように、兵士が走り去っていく。
恐らく鍵でも取りに行ったのだろう。
待つこと数十秒。
そいつは戻ってきた。
「た、大変申し訳ありません! 棺は厳重に保管し、他者の目には触れさせないようにとの命令が……」
「知ったことか。案内しろ」
「し、しかし……」
「このオレが案内しろと言っている。越権行為だぞ」
どこの命令系統だか知らないが、多分だいぶ上の方からの命令だろう。
どっちが越権行為だかは測りかねたが、まあ口だけ黙らせておけば問題あるまい。
「二度は言わん。案内しろ」
「か、かしこまりました!」
そいつに、棺の保管室へと案内させる。
地下に潜ること数分。
保管室に到着する。
ドアの鍵は衛兵に開けさせた。
「侯爵様の棺はどこだ」
「はっ、こちらです」
棺を開く。
そこには。
「おい」
「はっ、はひっ!」
「侯爵様の遺骸はどうした」
「戦死なされたと聞いている。侯爵様の遺骸はどうした」
「わ、私は詳しいことは存じませんが……、戦死の報を聞かされて棺を用意せよ、とのことで。ご遺体はまだ到着しておりません」
「ちっ、やっぱりか……」
舌打ちする。
おまえの勘は当たったぞ、アイリ。
「もう行ってもいいぞ、衛兵。それと……」
そいつの顔を鋭く睨みつける。
縮こまった衛兵は改めて直立不動の姿勢になった。
「貴様の顔は覚えたぞ。今月からの査定は覚悟しておけ」
「も、申し訳ございませんーっ!!」
90度の角度で腰を曲げるそいつを蹴りつけて、オレは棺の保管室を後にした。
侯爵様が亡くなられてからもう数日以上経つ。
少なく見積もってもそれ以下ではあるまい。
侯爵様はまだ生きている。
あるいは。
もう"死んだことにされている"か、だ。
アイリのやつ、やっぱりこれを疑っていやがったな。
事の真相について、あいつは何か察しているに違いない。
会って問いただしてやらなければ。
オレは急ぎ、リオファネス城へと向かう算段を頭の中で付け始めた。