【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ   作:12club

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リオファネス城城門前

side:アイリ・サダルファス

 

 アルマを追ってリオファネス城へ。

 

 その途上、私たちは城塞都市ヤードーの西側に広がる樹林帯、ユーグォの森で野営していた。

 多分、きっとこれが最後につける一息だ。

 

 リオファネス城に着けば、きっとひと悶着あるのは間違いない。

 

 ヤツらの目的は「ゲルモニーク聖典」だ。

 アルマを使わずとも、それさえ手に入れば良しとする連中だろう。

 

 リオファネス城の正規兵、そして暗殺集団カミュジャと戦闘になる。

 

 そして、場合によっては神殿騎士団の騎士たちとも。

 

 その中にウィーグラフはいるのだろうか。

 それとも、既に死亡扱いされて裏で暗躍しているのだろうか。

 

 考えても仕方ないことだろうけど、私の目的はやっぱりアルマではなく、彼なのだ。

 ラムザたちには本当に申し訳ないけれど。

 

 納得する答えを得なければならない。

 そうでなければ、きっと私は一生後悔する。

 

 ムスタディオが道を示してくれた。

 アグリアスが背を押してくれた。

 

 それに応えるためにも、私は。

 

「なあ、アイリ」

 

 樹木に背を預けて座っている私に、声がかけられる。

 振り向かずとも誰だかわかっている。

 そのくらい、ずっと聞いてきた声だ。

 

「なに、ユーリ」

 

 私は不愛想な声音で返した。

 

「いや、ふたりで話でもどうだって言いたかったんだ」

「北天騎士団の聖騎士様が、ゴルターナ軍の一兵卒に何の用だっていうのよ」

 

 顔も向けずに言葉を交わす。

 そのくらいハッキリと、私はユーリに対して不寛容な態度を貫いていた。

 

「そうとげとげするなよ。多分、きっともう最後になると思うからさ」

「最後?」

「ああ」

 

 言いながら、ユーリが私の隣に座った。

 気付かれないように、私は彼から距離を取る。

 

「オレはこの任務が終了次第、北天騎士団のザルバッグ将軍の元へ戻る。おまえだってそうだろう?」

「何がさ」

「ウィーグラフのことだ。おまえもその用が済めば、ラムザたちから離れるつもりでいるんだろう。これ以上ラムザたちに協力する義理もないはずだ」

「知ったような口を聞いちゃって」

 

 本当に、コイツは。

 人のことを見透かすようで腹が立つ。

 でも、わかってて当然なんだ。

 私とコイツは、双子のきょうだいなんだから。

 お互いのことが分かっていて当然だ。

 

 いや。

 

「アンタはどうだっていうの。またザルバッグさんの所に戻って、ダイスダーグさんの悪事を手伝う気?」

「悪事かどうかは関係ない。ザルバッグ将軍もダイスダーグ卿も、ベオルブ家にとって成すべきことを成しているだけだ。オレはその助けになろうと決意している」

「じゃあ私はそんなマネはできないわね。アンタはアンタで、犯罪者の真似事(まねごと)でもしていたら」

「おまえは、北天騎士団に戻ってくる気はないか?」

「ないわ。私はもう、ベオルブ家が信用できない」

「ベオルブ家がこの国を背負って立つ、唯一の存在だとしてもか」

「それこそ誇大妄想じゃないの。ベオルブ家のやり方に納得できない連中なんて、きっと山ほどいるわよ」

「そうか……。残念だな」

 

 きっぱりと、私は拒絶した。

 ユーリに退路はないように、私にも退路はない。

 

 ベオルブ家だけじゃない。

 ゴルターナ公もグレバドス教会も信用できない。

 

 その野望を阻止するためなら、私はなんだってやる。

 オヴェリア様を戦争の道具として担いだディリータにだって、逆らってやる。

 

「なあ、アイリ」

「なに」

「色々あったよな。今まで」

「今さら懺悔(ざんげ)のつもり。ティータを殺したアンタの事が、一番信用できない」

「それについて反省はするが、後悔するつもりはない。オレが話したいのは別のことだ」

「だから、なに」

 

 ユーリがぶちり、と足元の草をむしり取る。

 それを口に当てて、息を吹き込む。

 

 草笛は鳴らなかった。

 ぷすんぷすんと、間抜けな呼吸音が響くだけだ。

 

「子どもの頃、肝試し感覚でトンネルに入ったよな」

「そうね。お父さんもお母さんも、きっと心配してるわ」

「だけどもう帰るつもりはない。だろ?」

「バルバネスおじさんに会わなかったら、私たちはきっと野垂れ死んでいた。その恩に報いるためにも、私たちは生きていなきゃいけない」

「だったら、ベオルブ家に恩を返すべきじゃないか?」

「私が報いるとしたら、それはバルバネスおじさんによ。ダイスダーグさんじゃない」

「強情なやつだな、おまえも」

 

 言われて。

 「だいたい、ね」。

 私はそう言い返す。

 

「ベオルブ家、ベオルブ家って、アンタうるさいのよ。アンタは自分が正しいことやってるつもり?」

「良い事だとは思っていないさ。ただ、悪事と言われようがオレはオレで選んだ道を進むだけだ」

「ならきっと、私は一生納得できないわね。私は世間様に背を向けるようなやり方、絶対にしたくない」

「だったら、おまえの道っていうのは何なんだ」

「私、は……」

 

 言い淀む。

 

 私が正しいと思うこと。

 それっていったいどんな形をしているのだろう。

 

 少なくとも、ユーリが歩く道じゃない。

 

「……私は私が納得できる生き方しか出来ないし、それ以外のことはしたくない。ユーリと違って悪事だろうとわかってやってることだけは、絶対に納得できない」

「オレと比べるなよ。おまえの納得ってのがどんな形をしているのかは知らないが、兄キとしてはおまえの行く末は心配だ」

「余計なお世話」

 

 私だって、もう子どもじゃない。

 自分の行く道は自分で決める。

 

 たとえどれだけ迷おうとも、遠回りしようとも、自分が納得できる道を探す。

 

 ユーリには仲間がいない。

 あるのは、盲目的に信じている「ベオルブ家の正義」とやらだけだ。

 そのためにはきっと、ザルバッグさんやダイスダーグさんにだって、本音をさらけ出すことはないのだろう。

 

 私には、仲間がいる。

 どれだけ離れていても、同じ天の下にいる限り信じられる仲間が。

 

 彼らの存在が私を支えてくれているんだ。

 

 と。

 ユーリが立ち上がった。

 

「おまえももう休め、アイリ。明日になれば嫌でも過酷な出来事が待っているんだ」

「アンタはそれを手伝う気があるの?」

「ここまで来たからには、な。バリンテン大公の狙いを見定めるいい機会だ」

「アンタにはそれしかないのね。ザルバッグさんやダイスダーグさんに気に入られたくて、そういう盗っ人じみたマネがしたいわけ」

「ああ、そうだ。オレに出来るのはこれくらいしかないからな」

「まあ精々頑張れば」

 

 適当に聞き流す。

 正直、私にとってはザルバッグさんもダイスダーグさんも、どうでもいいことだ。

 ユーリみたいに、馬鹿の一つ覚えみたく彼らに従うつもりなんて毛頭ない。

 

「……これで、最後だな」

「結局、私とアンタは仲直り出来なかったわね」

「する気もないんだろう。じゃあな」

 

 言って、ユーリは私の元から去っていった。

 

 気の利いた言葉ひとつも出やしない。

 今さらユーリに媚びを売るつもりもないけど。

 

 でも、やっぱり。

 

「……寂しいよ。ユーリ」

 

 私は座ったまま、立てた膝に顔を埋ずめた。

 

 

 

 

 

side:ユーリ・ベオルブ

 

 とうとう着いた。

 

 黒い城塞のごとき壮観な出で立ちの城、リオファネス城。

 

 そして、やっぱりというか。

 

「予想通り、城に張り付いているな、ラムザ」

「ああ、リオファネス城の正騎士。そして暗殺集団カミュジャ。だけど僕らを止めることは出来ない」

「大した自信だな」

「アルマを助けるまで、止まってなるものか」

 

 姿を現したオレたちの前に、ひとりの魔道士が立ち塞がる。

 

「待っていたぞ、異端者ラムザ」

「マラーク兄さん!」

「言い付け通り、おまえも来たか。ラファ」

「約束よ、今すぐラムザの妹を解放しなさい!」

「それは出来ないな。大公殿下のためにも、おまえたちはここで倒れる運命にある。ただ、そうだな……。大人しく『ゲルモニーク聖典』を差し出すなら、考えてやらなくもないぞ」

 

 それを聞いたラムザが叫び返す。

 

「アルマはどこだ! 無事な姿を確認するまでは、聖典を渡すつもりはない!」

「強情なやつだ」

 

 マラークの嘲笑に、ラファがラムザに。

 

「ラムザ、絶対に聖典を渡したらダメよ! 兄さんはああ言っても、聖典さえ手に入れればアイツは貴方たち兄妹を殺すわ! 聖典を持っている限り、貴方たちは安全よ」

「ありがとう、ラファ」

 

 キッと、ラムザがマラークへと睨み返す。

 

「望むところだ。欲しければ実力で奪うんだな!」

「そう言うと思ったよ」

 

 マラークが腕を掲げ、オレたちに向かって手を振りかざして。

 

「全軍、ラムザを始末しろ! 『ゲルモニーク聖典』を奪い取れ!!」

 

 かくして、オレたちラムザ一行とリオファネス軍が正面衝突した。

 

 

 

 敵はリオファネス軍の正騎士と、暗殺集団カミュジャの連合軍だ。

 となると、大方の出方はわかる。

 

 騎士がオレたちを足止めする最中に、暗殺集団が横槍を入れる。

 無論、魔法だろうと毒だろうと、あらゆる手段を持ってオレたちの始末にかかるだろう。

 

 思ったよりも厄介な布陣だ。

 

 ラムザもそれを警戒してか、不用意に騎士たちに近付かない。

 

 取れる方法はただひとつ。

 

「行け、ラムザ!」

「ここは頼んだ、ユーリ!」

 

 オレたちが騎士たちを足止めする間に、少数精鋭が暗殺者に肉薄して相手が攻撃の手を繰り出す前に打ち倒す。

 それが出来るのは突破力に優れたラムザと、暗殺者よりも遠距離から狙撃できるムスタディオだけだ。

 

 自然、オレやアイリ、アグリアスが敵の騎士たちと斬り結ぶことになる。

 

 敵の数は多い。

 オレたちは円陣を組み、ただひたすらに騎士たちの足止めに徹する。

 

「大丈夫か、アグリアス」

「何のこれしき。おまえも人の心配をするくらいなら、妹のためにも踏ん張ってやれ」

「そうもいかないさ。アイツはもうひとりで自分の身も、仲間の身も守れる強さがある」

「そこまで理解しているというのに、互いにわかり合えないというのは悲しいな」

「おまえが思うほど、事情は簡単じゃないってことだ」

「ふっ、違いない」

 

 言っている間に迫ってくる騎士の胸板を、オレの剣が貫く。

 

 アグリアスもまた、聖剣技を駆使して複数の敵を一度に葬り去る。

 

 アイリもまた負けてはいない。

 あの俯瞰風景とやらに頼らずとも、複数の騎士たちを捌くだけの実力がある。

 

「なあ、ユーリ」

 

 唐突に、アグリアスがオレに話しかけてきた。

 

「おまえも私たちに付いては来ないか? おまえとて、アルマのことは気にかかっているのだろう?」

生憎(あいにく)だが、オレはそこまで暇じゃない。オレはオレの目的のためにおまえたちと行動を共にしてきただけだ」

「それがダイスダーグの狗となってでもやりたいことか?」

「そうだ。元々おまえたちとは無関係な人間だからな、オレは」

「寂しいな。しかしそれでいて、孤高な男だ。おまえは」

「おまえに褒められるのは、悪い気分はしない――なッ!」

 

 話し合っている間にも、迫りくる敵への対処は緩めない。

 心臓を貫き、喉を斬り裂き、腕をなぎ払う。

 

「よし……、いいぞ。どんどん来い!」

 

 オレたちの剣が、文字通り乱舞した。

 

 

 

「マラーク兄さん!」

「寄るな、ラファ!」

 

 言いながらも、ラファとマラークの秘術が交差する。

 

 雷が轟き、空を斬る風が舞い踊って。

 

 その間隙を縫って、ラファの剣がマラークの剣と交錯する。

 

「兄さん、一緒に逃げよう! もういいじゃないの!」

「大公殿下はこのミッションをクリアすればオレたち兄妹を解放すると約束してくれた!」

「ウソよ! ウソに決まっているわ! ここにいる限り、私たちは人殺しの道具のままよ!」

「たとえ逃げたって、元は仲間だったやつらに追われ、最後には殺される。そんな生活はまっぴらゴメンだ! オレは大公殿下を信じる!」

「この、分からず屋!!」

 

 マラークの剣が、ラファの剣を弾き飛ばした。

 剣が空を舞い、城壁の堀に落ちる。

 

「……兄さんの言う通りね……。逃げても追われて、いつか殺される……。だったら!」

「何をするつもりだ、ラファ!」

「私たちの過去を清算しなきゃ、未来へ進むことは出来ない!」

 

 徒手空拳になったラファが、マラークの懐からするりとすり抜けた。

 そのまま城の中へと侵入していく。

 

「待て! ラファ!」

 

 マラークもまた、ラファを追って城中へと駆けていった。

 

 

 

 敵勢はほとんど駆逐した。

 騎士も腰が引け、暗殺者集団もほとんどが城の中へと退避したようだ。

 

 暗雲が近付く。

 ひと雨が降るか、などと暢気なことを思っていると。

 

 城の門がギイッと音を立てて、内側から開いた。

 

 中から、ひとりの騎士がよろよろと姿を現す。

 

「……た、助けて……、あんな……バケモノが……」

 

 そう小声で呟いて。

 そのまま倒れ伏し、力尽きた。

 

 稲光(いなびかり)が音を立てて落ちる。

 

 ラムザがポツリと。

 

「……アルマ、ラファ、無事でいてくれ……」

 

 そう聞こえるや否や、アイリもまた先んじて城内へと進んでいく。

 

「アイリ!」

 

 オレの呼び声を、アイリは無視して駆けていった。

 

 

 

 

 

side:アイリ・サダルファス

 

 雷雲が近付き、雷が落ちる音が響く。

 

 それをよそに、城中の通路をまっすぐに走っていく。

 

 このどろりとした感覚。

 間違いない。

 ()はこの先にいる。

 

 扉を叩くように開く。

 

 そこは、大きな広間で。

 

 周囲には無惨な死に様をさらした屍があちこちに転がっていた。

 

 腹から背中まで引き裂かれた死体。

 頭を引き潰され、中身を垂れ流した死体。

 手足があらぬ方向に曲げられ、体がねじ切られた死体。

 

 あまりの死臭に、私は思わず鼻と口を手で塞いだ。

 

 そして、そのただ中に立っていたのは。

 

「……ウィーグラフ」

 

 あの悪魔ではない。

 人間の姿だったウィーグラフの姿が、そこにはあった。

 

 ゆらりと、彼が私の方へと向く。

 

 落ちくぼんだ眼窩に光が灯るような。

 そんな錯覚を覚えるような眼が、私を貫いた。

 

 あれはもう、人間ではなかった。

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