【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ   作:12club

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ひとつの決着

side:アイリ・サダルファス

 

 ウィーグラフ・フォルズ。

 これで3度目に渡って邂逅する。

 長い付き合いとは言えないけど、なんだかんだで因縁のある相手だ。

 

 でも、今の彼は違う。

 

 姿格好(すがたかっこう)は今までと変わらない。

 神殿騎士団のスタンダードな鎧と直垂に身を包んだ、ひとりの騎士。

 今ではもう見慣れたと言ってもいい、いつもの彼だ。

 

 だけどやっぱり違うとも思った。

 

 姿形(すがたかたち)は今までと同じなのに、それでも違うと感じるのは、彼の面持ちのせいだろうか。

 私を見やる眼光はのっぺりとしていてるのに、その中に見えるくぼんだ眼窩の奥に光る赤い宝石のような人外じみた瞳をしている。そんな眼だ。

 

 ウィーグラフが一歩、私へと近付く。

 

「来たか、アイリ」

 

 私は沈黙する。

 

 彼の今までとは違和感のある、異様に怯えたわけじゃない。

 

「さあ、剣を抜け」

 

 心は、ここに来て何故かとても澄んでいた。

 今までぐるぐると頭の中で反復していた悩みや懊悩(おうのう)のような渦は無くなり、思考がとてもクリアになっている。

 

「どうした? 来ないのか?」

 

 ウィーグラフの言葉はするりと心の中に響く。

 それもまた、私の中へと吸い込まれて、澄んだ心に自然と染み渡っていく。

 

「ウィーグラフ……」

 

 私は彼の名を呼んだ。

 

「なんだ?」

 

 彼は律義に聞き返してきた。

 

「貴方は何のために力を得たの? それも、ミルウーダたちの仇を討ちたいがため?」

 

 ふっと、ウィーグラフの口の端が上がった。

 それだけで今までの彼とは違う異形の相貌に思えたのは、きっと錯覚ではあるまい。

 

「そんなことはどうでもいい。ミルウーダたちの敵討ちなど、今さら興味はない」

「なら、貴方は何を望むの?」

 

 彼は心の底から()んだ。

 気配だけで分かる。

 嘲笑したと言ってもいい。

 

「私の望みはそんな小さなことではない。私の望みは、そう……脆弱な人間どもの悲鳴を聞くことだ。だが――」

 

 ウィーグラフが腰に佩いた剣を抜いた。

 

 対する私もまた、剣を抜く。

 

「安心しろ、アイリ。おまえだけは特別に、この私が殺してやる!」

 

 私たちの間に、3度目の死線が走った。

 

 

 

 ウィーグラフの剣が、横だめに構えた私の剣を叩く。

 

 単なる金属のぶつかり合いではない。

 重さが違う。

 

 まるで剣ではなく、他の別の……そう、悪魔の腕が私に向かって襲い掛かってきたようだ。

 

「ウィーグラフ、ひとつ聞かせて」

「どうした」

 

 戦いの最中だというのに、私の問いに向かって悠然と返すウィーグラフ。

 

「ミルウーダたちの敵討ちを捨てて、今まさにゾディアックブレイブとしての誇りも失せて、まっさらな貴方は今、何を感じているの?」

「先ほども言っただろう。聞いていなかったのか?」

「聞いていたわよ。私が聞きたいのは、その先のこと」

 

 ガキン、と金属音がうるさく鳴いて弾き合う。

 大雑把(おおざっぱ)な剣だ。

 重さはあれど、鋭さがない。

 

 私とウィーグラフの間合いが離れた。

 

「人間を捨て、悪魔に身をやつして、魂までも塗り替えられて。貴方はいったい何をどうしたいの?」

 

 ウィーグラフが剣を下げる。

 だらりとした姿勢のまま、彼は応える。

 

「つまりおまえは、私が何を欲するのかを聞きたくてここまで来たのか。滑稽だな。まるで恋人が想い人を追うような有様ではないか」

「恋人か……。そうかもね」

 

 私も倣って、剣を下げた。

 

 二人して戦闘の様相を停止したままに、私は続ける。

 

「ならその恋人に聞かせて。想い人はいま恋人に何を願っているのか。何を求めているのか。そして――」

 

 私はキッと視線をウィーグラフに合わせた。

 ふたりの視線が絡み合う。

 

「――想い人は恋人に、何を伝えることが出来るのか……!」

 

 それを聞いたウィーグラフがふっと笑みをこぼした。

 先ほどの嘲笑するような笑みではない。

 

 事の次第を、興味深く面白がるような、そんな笑み。

 

「私はかつて理想を抱いた。そしてそれを叶えるためには、力を得なければならないと悟った。そして今まさに、私は最高の力を得てここに立っている」

 

 高揚する。

 その昂る心持ちのままに、彼は続けた。

 

「そう……全ては力なのだ。理想も願望も、何のことはない。それらはありとあらゆるモノを経て、ただ力を求めるだけの過程に過ぎないのだよ……!」

 

 彼の言葉が、心の奥底まで染み渡る。

 彼の高揚が、私の芯まで貫き通す。

 

「そっか。やっぱり貴方も、私たちと同じなんだ」

「やっぱり、だと?」

「うん」

 

 半ば、生返事のような心持ちで私は頷いた。

 まるで童心に戻ったような気分だ。

 

「私は昔、弱かった。今でもそれはきっと変わらないと思う。だけど、みんなやっぱり何かのために力が欲しいんだ」

「クッ、クククク」

 

 私の返答がツボにでも入ったのか、ウィーグラフが吹き出す。

 

「面白い、本当に面白いなおまえは! おまえのような人間は実に稀有(けう)な存在だ!」

 

 含み笑いは哄笑に変わった。

 

 一通り笑って、私に向かって改めて口を開く。

 

「つまりおまえもまた、何かを成すために力が欲しいということか! 何かを成す、その過程を経て力を得るために! おまえはよほど他の人間よりも"こちら側"に相応しい!」

「そりゃどうも」

「どうだ? おまえもその脆弱な身体(からだ)を捨てて、我らの眷属とならないか? おまえにはその資格も権利もある。何なら私からヴォルマルフに取り成してやってもいい」

「ありがと。でもそれはお断り」

 

 私は弱い。

 だから力が欲しかった。

 それは間違いじゃない。

 

 だけど、私は。

 

「私は弱い。きっとこれからも。だけど、その弱さが私に力をくれているから貴方の提案は聞けないの。ゴメンね」

「ほう。それは何か、と聞いてもいいか?」

 

 興味深そうな視線で以って、彼は私に問いただす。

 

「私には、みんながいるから」

 

 そうだ、私の背にはみんながいる。

 

 ラムザはいつでも困っている私を助けてくれた。

 アルガスはいけ好かないやつだけど、いつも私の味方だった。

 ムスタディオやアグリアスは、面倒くさい私の悩みを聞いてくれた。

 アルマやティータは、いつも可愛い私の妹分だった。

 

 それだけで私は戦っていける。

 

 皆を利用しようとしているディリータとも。

 くだらない野望を抱くベオルブ家やゴルターナ公、グレバドス教会とも。

 

 そして、大切な双子のきょうだいだったユーリとも。

 

 だから。

 本当にこれでさようなら、ユーリ。

 

愚昧(ぐまい)だな。そんな弱々しいモノに頼ろうと、縋ろうと、本当の力とは得られないものだ」

「私の力はそれで十分なの。むしろ聖石なんて誰かからの借り物に頼って『最高の力だ!』とか言ってるアンタの方がよっぽど滑稽よ」

「ほざいたな」

 

 ウィーグラフが剣を腰だめに構える。

 気配が一気にグンと置き換わった。

 

 暢気な会話をしていた雰囲気が、必殺必中の殺気へと。

 

「その弱い力と共に、この世へ別れを告げるがいい!」

 

 

 

 ――大気満たす力震え、我が腕をして閃光とならん! 無双稲妻突き!

 

 

 

 稲妻を纏った必殺の一突きが私に襲い掛かる。

 

 その一撃を。

 

 私は数メートル横っ飛びにヒョイと軽く回避し、無防備になったウィーグラフの脇腹へと剣を貫き通した。

 

 ゴボッと、ウィーグラフが盛大に吐血する。

 それだけではない。

 致命傷となった脇腹の傷からも、とめどなく血が溢れ出す。

 

 私は剣を引き抜いた。

 

「どう、これでも弱い力だと思う?」

 

 ウィーグラフは青白くなった表情でなお、不敵な笑みを浮かべながら返す。

 

「クッ……ついぞ私は、おまえに敵うことはなかったな……」

「残念だったわね」

「ククッ、クククク……」

 

 致命傷を負ったウィーグラフが、何らかの魔法でその場から消え去った。

 

 私は周囲を見回す。

 彼の姿は見つからない。

 

 私は広間の真ん中へと移動した。

 

 それを見計らったかのように。

 ウィーグラフが10メートルほど離れた地点に姿を現す。

 

「やはり"この身体"では敵わぬか……」

「負け惜しみ?」

「そうではないさ……」

 

 その言葉に応えるように、ウィーグラフの胸元が激しく光を放つ。

 

「ここで決着をつけよう……」

 

 空気が急激に(よど)んだ。

 

 部屋から光が逃げるように、暗い気配が辺りを満たす。

 

 ウィーグラフの周囲を、黒い霧と激しくなる光が舞い踊り、その姿を覆い隠す。

 

 極限まで激しくなった爆光が舞い上がり、姿を現したのは。

 

『待たせたな……』

 

 人間を軽く上回る巨躯。

 羊のような悪魔の頭。

 二対の怪腕。

 

 魔人ベリアス。

 

 伝説の悪魔"ルカヴィ"。

 

 

 

 バン、と背後から扉が叩くような音を立てて開くのが聞こえた。

 

「アイリ! ウィーグラフ!」

 

 ラムザたちだ。

 

『ラムザを呼んだか……』

 

生憎(あいにく)だけど、私は誰も呼んじゃいないわ」

 

『クククク。ならば勝手に現れた、と。そういうことにしておこうか……』

 

 私は改めて剣を構えた。

 背後でラムザたちが臨戦態勢に移るのが、眼に見えずとも分かる。

 

 しかし。

 

「ゴメン、ラムザ。来てもらってなんだけど、すぐに済むから」

「アイリ……?」

 

 魔人ベリアスと視線を交わす。

 

 黒くくぼんだ眼窩のない眼。

 そこから放たれる(くら)い光に、私は最初、恐怖した。

 私は恐怖感から情けない悲鳴を鳴らしたことも覚えている。

 

 今は何も感じない。

 あのとき感じた恐怖も、威圧感も、何も感じない。

 

 むしろ何も感じない自分に驚く私がいる。

 

 威圧やそこから来る恐怖もなく、思考はどんどんとクリアになっていく。

 

 何もない、空っぽの自分。

 

 その前方に(たたず)むのは、図体が大きいだけのただの動物。

 

 私は眼を閉じた。

 

 

 

 ――七天舞う梟の眼。獲物を襲う鷹の爪牙。天地を我が手に捉え、その是空をその手に従え。

 

 

 

 視界が俯瞰する。

 

 いや、違う。

 

 俯瞰した視点がひとつじゃない。

 

 無数の梟の眼が自分のモノとなったかのごとく、あらゆる視界が私のものになる。

 

 視界の色が変わらない。

 

 私は眼を見開いた。

 

 

 

 見える。上空からベリアス目掛けて突進する私の姿が。

 

 見える。ベリアスが上空へと怪腕を振るう中、正面へと突進する私の姿が。

 

 見える。空中から強襲する、視界が複数に開けた私()()の姿が。

 

 見える。振るわれた怪腕をするりと躱し、その両腕を両断する私の姿が。

 

 見える。怪腕を断った私の姿が消え去り、正面へと突進した私がベリアスの腹を貫く姿が。

 

 見える。ベリアスの正面を獲った私が消え去り、空中に分散した私たちがその巨体を散々に付き貫いていく姿が。

 

 見えた。周囲に分散した私たちが全て虚空へと消え、その場にくずおれるベリアスを正面から眺め見る私の姿が。

 

 

 

 俯瞰風景・絶。

 

 

 

 分散した視界が元に戻る。

 視界の色はそのままだ。

 

 私は――一歩も動いてはいない。

 

 そしてベリアスはその場に崩れ落ちた。

 

 

 

『クッ……クククク……』

 

 その場に膨大な血液を振り撒きながら、ベリアスはなお笑みを浮かべていた。

 

 私はその動物に近付いていく。

 

『おまえは強いな……。おそらくこの世で最も強い人間だ』

 

「負け惜しみついでの言い訳のつもり?」

 

『人間を超越した私が言うのだ。間違いない……。もう少し誇るがいい……』

 

「私の性分だから。あんまり強気にならないでいるの」

 

『面白い……。やはりおまえは"こちら側"の存在に相応しい』

 

「その手の勧誘はもうたくさんだっての」

 

『クク……クククク……!』

 

 ベリアスの体から黒い霧が霧散していく。

 周囲から、ざわざわとさんざめくように光が集まってくる。

 

『最高だ……。おまえのような人間に出会えたことが、私の人生にとって最も幸福なモノだったぞ……!!』

 

「……さようなら」

 

 私は剣を振りかぶり、ベリアスの頭上から頂点目掛けて突き立てた。

 

 霧が爆発的に霧散する。

 光が激しく躍動する。

 

 ベリアスの体が、光と共に爆発した。

 

 そして、その場に。

 

 コロン、と聖石が転がった。

 

 

 

 

 

「――大丈夫か、アイリ!」

 

 ペシペシと、誰かが私の頬を叩いている。

 

 閉じていた眼が自然と開き、その顔を認識した。

 

「……ラムザ……?」

「大丈夫か? どこも痛みはないか?」

「うん……」

 

 いつの間にか意識を失って倒れていたらしい。

 

 抱き起こすラムザの手が、ゆっくりと私を起き上がらせる。

 

 体に不自由はない。

 

 ただ、頭の中にどんよりとした雲が膨れ上がっていてパンパンになっているみたいで、どこを動かすのも億劫だった。

 精も根も尽き果てた、といった感じか。

 

「ベリアスを倒した直後に倒れたんだ。無事なようで本当に良かった」

「私、どうなったの……?」

「わからない……。でも体に異常はないみたいだし、安心したよ」

「そっか……」

 

 多分、張り詰めていた意識がプツンと途切れたんだろう。

 とりあえず、そういうことにしておいた。

 

 茫洋とした頭で口を動かす。

 

「アルマは……?」

「まだどこにいるかわからない。今からでも探しに行きたいんだけど」

「うん、いいよ……。私はもう少し、ここで休んでいくから」 

「本当に大丈夫か?」

「多分」

「……アグリアスさんに守っていてもらう。だから、ふたりはここで休んでいて」

「ゴメンね、ラムザ」

 

 ラムザが私を横たえて、傍に立っていたムスタディオを伴って広間から駆け出していった。

 私とアグリアスはふたり残されて。

 

「ラムザも過保護だが、おまえも少しは自分の身の安全を考えろ。まだ敵は残っているかもしれないのだぞ」

「敵……?」

「城内の惨状を見ても分からないのか? 怖気(おぞけ)が走るような死に様の騎士や使用人の死体が、あちこちで無数に転がっているというのに」

「そんな余裕なかったから」

「まったく……」

 

 横たわる私の隣に、アグリアスが腰を下ろす。

 

「しかし驚いた。まさかたったひとりであの怪物を瞬殺とはな」

「怪物なんかじゃないよ。斬ったり突いたりすれば死ぬんだから、ただの大きな動物と変わらないし」

「言ってくれる……。私もあんな修羅場を体験したことはほとんどない。自信を無くすではないか」

「別にそう言いたいわけじゃないんだけど」

 

 それだけ言って、しばらく沈黙した。

 

 アグリアスが何か言いたげに、だけど少し躊躇しながら私に話しかける。

 

「……あの技」

「ん?」

「おまえは確か『俯瞰風景』とか言っていたな。一体どういう理屈の技なんだ? あんな剣技、どの体系にも見たことはない」

「そうだね……。私もいつの間にか出来るようになってたから、原理なんて分からないし」

「あの怪物の腕をすり抜けて、分身して攻撃して。何と言うか……、よっぽどおまえの方が悪魔じみて見えた」

「……やっぱり他人にはそう映るんだね」

 

 私の体、一体どうしちゃったんだろう。

 どう考えても人間業(にんげんわざ)じゃない。

 バケモノの業だと自分でもわかっている。

 

 でも、使えるものは何だって使う。

 そう決めて何度も使ってきた。

 

 そのために払う代償とは、一体どれくらいの見積もりなんだろうか。

 

 それとは関係ないことを、私は口走る。

 

「……ユーリじゃなくても理解できる。こんな惨状じゃ、リオファネス城はただじゃ済まないね。教会の見積もりが相当、甘かったのかな」

「多分、戦争の権力争奪戦からは大公は途中退場だろう。そうなるとやはりラーグ公とゴルターナ公のどちらかが勝つまで、この争いは続くな」

「そういえば、ユーリはどうしたの?」

「わからん。私たちとは途中ではぐれたからな。今もバリンテン大公の行方を探しているのかもしれん」

「城はこんな有様なのにね。不謹慎だけど、なんか変な話」

 

 クスリと笑いをこぼす私に、アグリアスは小さく息をついた。

 

「ともかく、おまえはもう少し休んでおけ。体が動かせるようになるまでは私が見ていておいてやる」

「うん。ありがと、アグリアス」

 

 ベリアス――いや、ウィーグラフとの邂逅に決着は着いた。

 

 リオファネス城はもう再起不能だろう。

 それなら後は、アルマを助けるだけ。

 

 それなのに。

 

 私の頭のどこかで、それは違う、私のやることじゃないと、警鐘を鳴らすような声がしている。

 

 アルマを助けるのはラムザの仕事。

 おまえにはおまえのやることがある、それを成せ、と。

 

 私も、何故かその意見に賛成だ。

 アルマの事は気にかかるけど、私にはやることがある。

 

 それは、きっと、多分だけど。

 

 ユーリとの決着。

 

 それを成し遂げろという、どこからともなく響く天啓(てんけい)だった。

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