【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ   作:12club

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惨劇の痕

side:ユーリ・ベオルブ

 

 オレはラムザたちから離れ、たったひとり城中を歩き回っていた。

 目的はない。

 

 いや。

 

 目的は達していた。

 

 城の中の惨状は眼を覆うばかりで、この状態だと城の中にいた人間はほぼ全滅だろう。

 下手人は目撃者のひとりも残さないつもりらしい。

 

 この状態ではバリンテン大公の、今回の戦争における権力争奪戦からの脱落は間違いない。

 その事実だけで、任務は達成している。

 

 後はその下手人である何者かが現れる前に、なんとかしてこの城から脱出しなければならないのだが。

 

 あちこち歩き回って辿り着いたのは、城の中でも一際豪奢な執務室だった。

 そこで見たものは、バケモノによって皆殺しにされた多くの騎士たちの遺体と。

 

「アルマ!」

 

 ひとりの神殿騎士の遺体に縋っている、アルマの姿だった。

 

「ユーリ兄さん!?」

 

 急ぎ足で彼女へと駆け寄る。

 

「無事だったのか。今、ラムザたちがおまえを探しているはずだ」

「ユーリ兄さんも、私を探して……?」

「……まあな」

 

 オレは部屋の周囲を見回す。

 

 執務室の出口はふたつ。

 たった今、オレが入ってきた階上の扉と、城外へと繋がっている正面の扉。

 

 どちらに行くかは明白だったが、危険の度合いはどちらでも同じだと考えられる。

 

 階上に戻ると下手人と鉢合わせする可能性もあるが、運が悪ければ正面出口に出ても待ち構えられている恐れもある。

 要するにどちらの危険度合いも似たようなものだ。

 

 なんとかして安全な退路を決めなくては……。

 

 そう思った瞬間。

 

 ドバンっと、正面出口の扉が開いた。

 

 すわ敵襲かと反射的に身構え、剣を抜く。

 

 だが。

 

「おいおい、一体どんな鉄火場だよ」

「アルガス!?」

 

 まったく予想だにしていなかった顔が、そこに現れていた。

 

 だいぶ呑気そうにしているが、事態の重大さ――殊更(ことさら)に、自分の身の危険さに気付いていないのか? コイツは。

 

「おまえ、大丈夫だったのか?」

「この惨状でか? まあ生きているんだから大丈夫なんだろうよ」

「何を吞気な……、まあらしいと言えばらしいんだが」

「愚かなヤツだとでも言いたいようだな」

「当たり前だ。なんでこの惨状の中にノロノロうろついるんだ。さっさと逃げろ」

「それはおまえたちもだろうが。で、そっちの娘は?」

 

 アルガスが視線をアルマに移す。

 当のアルマも、周囲の惨状を忘れてアルガスに視線を移していた。

 

「会ったことはなかったよな。ラムザの妹のアルマだよ」

「オーボンヌ修道院でちらっと見かけたことはある。それよりアイリはどうした?」

「アイリ? アイツに何の用だ?」

「聞きたいことがあってな。……この様子だとそんな必要もなくなったが」

 

 ふう、と息をついて続ける。

 

「まあいい。人質が無事なら先に逃げるべきだ。さっさと城外に避難するぞ」

「ああ、そうだな……」

 

 と。

 

「誰だ、そこにいるのは……」

 

 階上から、渋い声が響いた。

 

 そこには壮年の神殿騎士の姿があった。

 

「まだ生きている者がいたのか」

 

 カツンカツンと、階段を降りてくる。

 

「逃げるぞ、アルマ!」

 

 急ぎ、正面の出口へと向かう。

 

 その時。

 何の前触れもなく扉が開いた。

 

「こ、侯爵……様……?」

 

 アルガスが口を震わせながら、闖入者の登場に声を上げた。

 

「エルムドア侯爵……何故、こんな所に……?」

 

 オレもまた震えた声で、突然の闖入者に問う。

 

 無言のまま、侯爵は手にしていた刀を抜き、一番近くにいたアルガスを一撃した。

 ドン、と激しく鈍い音を立て、アルガスが横っ飛びに吹っ飛ぶ。

 

 そのまま意識を失ったのか、アルガスは倒れたまま動かなくなった。

 

「みねうちだ。安心したまえ」

「余計な気遣いはするな。エルムドア侯爵」

 

 壮年の神殿騎士が鬱陶しげに、エルムドア侯爵に声をかける。

 

 コイツらは、顔見知りか……?

 

 それと同時に頭に警鐘が鳴り響く。

 コイツらは敵だ、と。

 それも、とてつもなく厄介な。

 

 恐らく。

 いや、間違いなく。

 

 この城を惨状に導いた連中だ。

 

 敵は二人。

 こっちはひとりの上に、守らなければいけない対象がいる。

 

 考えている間にも、神殿騎士が階段を降りてくる。

 

 エルムドア侯爵は、正面の扉に陣取ってオレたちの成り行きを観察している。

 

 絶体絶命だ。

 だが、このままコイツらを野放しにするのも危険だとも思った。

 

「アルマ!!」

 

 階上から叫び声。

 またも反射的にその声へと向き直る。

 

「ラムザ!」

「ユーリ! 大丈夫か!?」

「見れば分かるだろう! なんとかしろ!」

 

 神殿騎士がそちらに気を取られて、ラムザに向けて話しかける。

 

「貴様が異端者ラムザか。こんな所で出会うとはな」

「おまえがヴォルマルフか! アルマに手を出すな!」

「そうはいかん。目撃者は皆殺しにせねばならん立場でな」

 

 そうして、ラムザからオレたちに眼を移して近付いてきた。

 

 オレはアルマを庇い、剣を正眼に構える。

 

「そう怯えることはない。苦しまずに殺してやるから……」

 

 不意に。

 キーンと、耳鳴りのような音が響いた。

 

「……何故だ。何故『ヴァルゴ』が反応するのだ……?」

 

 こちらへと近付いてくる神殿騎士――ヴォルマルフ。

 音がだんだんと大きくなっていく。

 

「まさか……貴様は……!」

 

 ダンッと床を蹴り、ヴォルマルフがオレに肉薄した。

 その勢いのままオレに向かって拳を振りかぶる。

 

 成されるがまま殴り付けられた。

 

 まるで重厚な鈍器を叩きつけられたような衝撃で、オレは無様にその場に転がされた。

 意識が飛びそうな一撃だったが、なんとかそれを保つ。

 

「これはいい! まさか貴様がそうだったとはな! あと百年は時が必要かと思っていたぞ!」

 

 興奮した叫びのままに、ヴォルマルフがアルマの襟首を掴み上げる。

 

「いや! 放して!!」

「安心しろ、殺しはせん! さあ来るんだ!」

 

 言って、アルマのみぞおちに拳を打ち込んだ。

 かはっ、と息を漏らして、アルマが意識を失うのが見えた。

 

 魔法を放つ。

 魔力の反応を残して、ヴォルマルフの姿が消え去った。

 

「アルマ!!」

 

 ラムザの叫びがこだまする。

 だがその声も、もはや届くまい。

 

 キッと、ラムザがエルムドア侯爵へと顔を向ける。

 

「何のマネだ! エルムドア侯爵! アルマをどこへやった!?」

「さて……、私には何のことだかわからないな。後で彼に問いたださなくては」

 

 低い声で応えるエルムドア侯爵。

 そのまま続けた。

 

「彼はどうやらきみたちを見逃したようだ。なら私も彼に倣っておくとするか」

 

 「ここで皆殺しにしてもかまわんがね」。

 それだけ言い残して、エルムドア侯爵もまた魔法で姿を消し去った。

 

 後に残されたのは、無様に転がったオレとアルガス。

 呆然とするラムザ。

 

 辺りが静けさに包まれた。

 

「……アルマ……!」

 

 ラムザが、ガン、と執務室の壁を殴り付ける。

 

 オレはよろめく体を動かして、無理矢理立ち上がった。

 受けた衝撃はまだ、体に残っている。

 

 オレたちは……助かったのか……?

 

 その事実が未だ信じられず、オレは先のラムザ同様に呆然としていた。

 

 

 

 

 

 リオファネス城の城門前。

 オレとラムザたちは再びここへ戻ってきた。

 遅れてここにいないのは、アイリとアグリアスだ。

 

 リオファネス城、正体不明の怪物に襲撃されて陥落。

 

 真実はそうだがこんなこと、どのようにザルバッグ将軍へ報告すればいいのか。

 

 オレは頭を目まぐるしく巡らせながらひとり思案していた。

 

 これ以上ラムザたちといる意味はもうない。

 オレは役目を果たした。

 生き抜けただけでも幸運だ。

 

「ラムザ、おまえはこれからどうするんだ? 答えは決まっていると思うが……」

 

 オレの問いにラムザは首を横に振った。

 

「アルマの安否は気になるけど、僕はこれからゼルテニアにいるディリータに会おうと思う」

「ディリータに? 何故だ?」

「この戦争を煽っているのはグレバドス教会だ。ディリータの役割はそのエージェントだろう。彼の狙いが何なのか、僕は確かめたい」

「確かめて、どうする?」

「この戦争を早期に終結させる。ユーリ、きみも手を貸してほしい」

 

 ラムザの提案に、オレは躊躇した。

 オレにはラムザの動きがどう戦争終結に繋がるのか、まったく見当もつかない。

 

 だが。

 

「戦争の早期終結はオレも望むところだ。しかしきっと、おまえの望む通りにはいかないと思うぞ」

「わかっている。きみはきみのやり方でこの戦争を終わらせて欲しい。ダイスダーグ兄さんやザルバッグ兄さんに信頼されているきみにしか出来ない方法で、戦争の終結に向けて舵取りをしてもらいたい」

「……承知した。引き受けよう」

「すまない、ありがとう」

 

 ラムザがオレに向かって手を差し出す。

 本当に、こいつもまた今更だな。

 

 オレも手を差し出して、ラムザの手を握った。

 

「これでお別れだな……。死ぬなよ、ユーリ」

「そっちこそ。次に会う時は戦争の終わった時だと祈るよ」

「ああ」

 

 オレとラムザの別れの挨拶をしている(かたわ)ら、アルガスは仏頂面(ぶっちょうづら)のまま黙っていた。

 あいつにとって、オレたちは眼中にないらしい。

 

 

 

 遅れて、ようやくアイリたちが城内から外へ出てきた。

 

「アイリ、アグリアスさん。無事で良かった」

「なに、アイリが奮闘してくれたおかげだ。もう私たちは彼女に頭が上がらないな」

「そうですね。今回の殊勲者(しゅくんしゃ)は間違いなく彼女だ」

 

 オレはふたりに向かって声をかける。

 

「アイリ、ウィーグラフは?」

「うん、倒したよ。怪我もしてない」

「そうか……、まあ無事で何よりだ」

「ラムザは? アルマは助けられたの?」

 

 それを聞いたオレは、思わず渋い表情になった。

 

 助ける目の前で敵に連れ去られました、なんて無様なこと、報告したくない。

 

 アイリに応えるよう、ラムザが首を横に振る。

 

「今は無事だと信じたい。何故かヴォルマルフもアルマを生かしておいたみたいだし、当面は大丈夫だろう」

「当面は、って?」

「今はこの戦争を終わらせることが先決だ。敵を追うのはそれからでも遅くはない……。多分……」

「ラムザ……」

 

 口にするのも(はばか)られるようだ。

 「だけど」、とラムザが応える。

 

「ラファたちは無事だよ。彼女も、マラークも助かった。二人とももうすぐこっちに来ると思う」

「二人は仲直り出来たんだね。良かった」

 

 それは仲直りが出来なかったオレに対する嫌味だろうか。

 そう思ったが、自業自得だし、それこそ今更だ。

 

「ところで」

 

 ん?

 

「アルガスはどうしてここにいるの?」

 

 ああ、そうか。

 その理由はまだ聞いていなかった。

 

「どうして、じゃねえよ。おまえに聞きたいことがあった。が、そうする意味ももうなくなった」

「なんでさ」

「侯爵様のことをおまえ、気にしてただろ。おまえの予想通りだった」

「やっぱり……、あの人も」

「ああ、神殿騎士団の一味になっていた。あの方の目的が何かもわからんがな」

「そっか」

 

 口少なに応えるアイリに、アルガスが怪訝な表情で。

 

「……おまえ、何かあったのか?」

「ん、何が?」

「なんだか雰囲気が変わったって言うか……、垢抜けて見えるぞ」

 

 そう言われてみれば確かに。

 

 昨日まで感じていたアイリのとげとげしさがなくなっている気がする。

 何か、憑き物が落ちたというか。

 

「ユーリ」

 

 アイリがオレの方に向いて、声をかけてきた。

 

「なんだ――って……、おい?」

 

 聞くや否や、オレはアイリに覆いかぶさられた。

 

「よくやってたよね、前まで。これはお別れのハグ」

「アイリ……?」

 

 ポンポンと背中に回した手で叩かれ、パッと離れる。

 

「ユーリ、私、絶対アンタには負けないから」

「あ、ああ……」

 

 何と言うか……。

 展開についていけない。

 

 そうしてすぐ、アイリはオレから視線を外し、ラムザに向き直った。

 

「じゃあね、ラムザ。お互い生きていたらまた会おうね」

「う、うん。アイリも、元気で」

 

 微妙な空気にさらされてか、ラムザもしどろもどろになっている。

 

「さ、行こう。アルガス。私たちがやること、山ほどあるんでしょ」

「まあ……、そうだな。うん」

 

 雰囲気が違う、そう思ったがそれもどこかおかしい気がした。

 高揚している。

 

 意気軒昂(いきけんこう)元気溌剌(げんきはつらつ)勇気凛々(ゆうきりんりん)……いや、それ以上の何かか?

 

 一体コイツに何があったというんだ?

 

 アイリがアルガスを伴って、オレたちに背を向ける。

 結局、アイツはオレたちに振り返ることなく去っていった。

 

 

 

 アイリたちの姿が見えなくなって、ようやく場の雰囲気が元に戻った。

 ラムザがゴホン、とひとつ咳をして。

 

「とりあえず当面、僕はゼルテニアに向かう。ユーリはどうする?」

「ザルバッグ将軍に事の顛末を知らせるつもりだ。だがこんな事態、信じてはもらえないだろうから少しは(にご)すが……。少なくとも、バリンテン大公が横槍を入れることはなくなったと伝えておく」

「ディリータとアルガスはどう動くと思う?」

「わからないが、積極的にオレたちの邪魔をするつもりはないだろう。しかし今回の件で戦況が動くことは容易に想像できる。決着が着くのも時間の問題だな」

「これ以上の人死には避けたい。ユーリ、きみの活躍を期待している」

「任せておけ」

 

 改めて、オレとラムザは握手し直した。

 

 戦争の終結。

 言葉にしてみれば簡単なことだが、その目的地点に到達するには様々な難関が待ち受けているだろう。

 

 北天騎士団と南天騎士団の決着。

 その過程でどれだけの兵が犠牲になることか。

 

 戦争の煽りを受けて職を失った難民たちの保護。

 これもまた、見過ごせない問題だ。

 果たして戦争が終結しただけで収まるとも思えない。

 

 グレバドス教会の横槍もそうだ。

 戦争が泥沼化し、早期決着を狙う二人の獅子の争いを調停、仲人(なこうど)するためにどんな手を使ってくるのやら。

 

 そして、今まさに繰り広げられた悪魔"ルカヴィ"たちの台頭。

 この脅威を排除する方策とは。

 

 様々な問題を抱えているのに、時は待ってくれない。

 猶予がない。

 

 オレたちが取れる選択肢は少なく、その中から常に最善を選んでいくしかない。

 

 まずは戦争の早期終結だ。

 改めて、オレは気を引き締め直した。

 

 そのためにアイリ、おまえは邪魔してくれるなよ……。

 

 心からそう願った。

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