【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ   作:12club

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4章 ユーリとアイリの在り処
飛燕騎士団


side:ラムザ・ベオルブ

 

 僕らがリオファネス城から王都ルザリアへと戻り、ゼルテニアへ向かうまでの間。

 あれから時が半月ほど経った頃。

 

 酒場の噂話である逸話がひとつ、ポンと聞こえるようになった。

 

「"飛燕(ひえん)騎士団"?」

「ああ」

 

 ムスタディオが頷く。

 それの何が重要なのかはわからなかったが、本人も恐らくそれほど重大事だとも思ってないのだろう。

 軽い世間話の取っ掛かりとして仕入れた情報かと判断する。

 

「ランベリー領に唐突に噂に上り始めた噂でさ。なんでも領内で募った民兵から成る騎士団らしい」

「かつての"骸騎士団"みたいなものか。それがどうしたんだ?」

「どうやら職と居場所を失った難民から重点的に募っているらしい。騎士団に編入された連中は、兵役が課される代わりに衣食住の保障はされているって話だが」

「話からすると、それだけじゃなさそうだな」

「ああ、ここからが妙な話でな……」

 

 どうやらムスタディオ自身、その話題を半信半疑な様子で。

 

「設立にはアルガスが関わっているっていう情報があるんだが、その騎士団、あり得ないほどの戦果をあげているらしい」

「戦果、っていうと?」

「なんでもその騎士団と相対した連中は、まるで(つばめ)に翻弄されるみたいに、戦術も戦略も覆されているとか。噂によると北天騎士団も相当、苦労させられているっていう話まで出ている」

「北天騎士団まで? ザルバッグ兄さんを相手にしてもか?」

「そうなんだよ。とてつもなく優秀な用兵家が指揮しているのか、決着に持ち込もうとしても大した犠牲もなく小競り合い程度の規模で戦いが終わってしまうとか」

「妙だな……。そんな相手がいればザルバッグ兄さんもダイスダーグ兄さんも、絶対に容赦しないと思うが……」

「いちばん妙なのがそこなんだよ」

 

 興が乗ってきたのか、ムスタディオの声に興奮が混じったように聞こえ出す。

 

「何度か北天騎士団も大規模な掃討作戦を仕掛けようとしたらしい。だが結果は"飛燕騎士団"にのらりくらりと躱されるばかりで、絶対に決着には持ち込ませない。双方ともに最低限の犠牲者しか出ないまま、戦闘は終了してしまうそうだ」

「なるほど……、それは手強い相手だな」

「だろ? 台頭してわずかしか経っていないのに、まるで雷神シドと双璧を成すかと言われるまで称賛されているそうだ。派手さはないが変幻自在な戦振りで、ゴルターナ軍の柱石となっている、ってな」

「そうなのか……」

 

 北天騎士団にとっても手強い相手だ。

 

 しかしこれはチャンスでもある。

 勿論、僕らにとって。

 

 戦争が小規模な小競り合いで済んでいる間に、僕らが戦争の早期終結を成功させる。その機が出来る。

 

 もしかしたら、雷神シド――オルランドゥ伯にとっても、和平工作への道を切り拓く絶好の機会となるかもしれない。

 

 "飛燕騎士団"……。

 僕らにとって、心強い味方となるだろうか。

 

 

 

 

 

side:ザルバッグ・ベオルブ

 

「戦況は?」

 

 私が求めているのは、今、飛ぶ鳥を落とす勢いで名を上げているひとつの騎士団に対しての答えだ。

 戦場を遠見していた斥候からの報告を受ける。が。

 

「はっ、ザルバッグ将軍閣下。遺憾ながら、今回も決着は見送りになりそうだとのことです」

「そうか」

 

 もう何度、同じ報告を受けただろうか。

 

 戦争に対して甘い考えを持っているつもりはない。

 むしろ常勝将軍として、戦争終結を阻むものに対して容赦するつもりも毛頭ない。

 

 だが。

 

「今回の遠征で、戦線は大きく間延びしている。今回もこの辺りが引き際だろうな」

「では此度(こたび)もまた?」

「兵を前線に戻す。決着はまた別の機会に持ち越しだ」

「はっ、兵に召集をかけます。それでは」

 

 天幕から斥候が退出する。

 

 南天騎士団は手強い敵だ。

 何しろ天下無双と名高い雷神シドが率いる、イヴァリースが誇る最強の騎士団なのだから。

 これ以上、兵を遊ばせておく余裕などない。

 

 だが、近頃現れた敵はどうだ。

 

 この敵は戦争の決着をつける、絶対に勝利するという意思がまったく感じられない。

 むしろ決着を先延ばしにし、戦争を泥沼化させようという意図でもあるかと疑うくらいだ。

 

 しかし、頭の片隅でそれは違うとのたまう自分もいる。

 

 この敵には害意という概念が存在しない。

 むしろありとあらゆる戦いを緩やかに終わらせ、戦闘の犠牲者をとことんまで減らそうという意思さえ感じられるほどだ。

 

 この新たな敵がいる限り、戦争は終わらない。

 だが、全軍が総動員してぶつかり合う、何千何万の犠牲者を出しての決戦からは遠ざけることは出来る。

 それが叶うとしたら、どれほど有益か。

 

 まず戦争の終結という概念が無くなる。

 それ自体は喜ぶべきことではないが、少なくとも平時における犠牲は確実に減少する。

 あるいは、戦争を拙速(せっそく)に決戦という形で終結させることよりも。

 

 続いて兵站(へいたん)の問題も解消する可能性もある。

 新しく現れたこの敵軍は、民兵――つまり、今もってなお膨れ上がっている難民からも募っているらしい。

 それらに兵役という形で職を与えることで、ゴルターナ軍側の兵糧の問題も解消される。

 なにせゴルターナ軍の食糧は、軍費という名目で無辜の民草からゴルターナ公が不当に巻き上げているのだから。

 糧食を民兵に与えられるなら、それは民に職と食の心配を無くさせるということだ。

 

 最後に教会の調停。

 以前、弟のラムザに警告されたことがある。

 この戦争を利用して権威を取り戻そうとしている輩がいる、と。

 ここまで戦が長引けばどれほどの愚か者でも分かる。

 この戦いは利用されている。

 何者かは分からないが、それがグレバドス教会ではないかという疑いを持つ者は確実にいる。

 もっとも、敬虔なグレバドス教会の信者として、そのようなことは無いと私は言うことしか出来ないが。

 

「誰か、ユーリを呼べ」

 

 私は股肱(ここう)の臣である、義弟の意見を聞くことにした。

 

 

 

 

 

side:シドルファス・オルランドゥ

 

 新たに発足(ほっそく)された騎士団がいるという話は少しだけ聞いたことがある。

 

 それも当然だ。

 その騎士団は出来上がって、まだ半月と活動してはいなかったのだから。

 

 しかし、その戦いぶりはどうだ。

 

 政治的な施策に愚鈍(ぐどん)な私でも、その活躍ぶりには舌を巻く。

 

 あらゆる局面においても、戦を長引かせず小競り合いで済ませ、両軍の犠牲者を最低限に減らす。

 よく言われる、「五十年戦争の英雄・雷神シド」などという勇名しか持ち合わせていない私には到底マネ出来ない芸当だ。

 

 この戦争が続くこと自体は喜ばしいことではない。

 だがその犠牲者をとことんまで減らし、その間に両軍を和平のテーブルに着かせることが可能なのであれば、それに勝ることは無い。

 

 未だゴルターナ公は和平工作には反対だ。

 しかし、この騎士団の存在は無視できまい。

 

 突然、手元に現れた強力な味方。

 それを簡単に手放せるほど、公の眼は曇ってはいないだろう。

 たとえそれが、戦争の両軍総攻撃という形の決着から遠ざかろうとも。

 

 公の手は血にまみれすぎている。

 しかもそれに頓着している様子はほとんど見られない。

 

 なればこそ、この新たな騎士団の存在は無視できないだろう。

 それが公のお考えの邪魔になろうとも。

 

 新しい風が吹く。

 

 私はこの騎士団に、若い息吹(いぶ)きを感じ取っていた。

 

 

 

 

 

side:アルガス・サダルファス

 

 最近、新たな騎士団が誕生した。

 ランベリー領の、しかもこのオレ、アルガス・サダルファス男爵の名の下にだ。

 

 そのこと自体は非常に喜ばしいことだ。

 出世のアテが増える。

 

 だが実際に増えたのは、この騎士団の運営事項だけ。

 他には手が回らないという始末。

 戦争自体が長引いているのだから、何かド派手な活躍でも見せないと決してプラスだとは言えない。

 そう、あの雷神シドのような。

 

「サダルファス卿、新たな志願兵のリストですが」

「寄越せ」

「こちらと、さらにこちらには職を失った難民からの陳情(ちんじょう)も」

「そっちに置いておけ。後で眼を通す」

「後、こちらには軍内の志願兵からの要望が。志願兵と正規兵の間で軍紀が乱れているとのことで」

「それもそっちに置け。数時間後には結を出す」

「それとサダルファス卿、こちらは――」

 

 ブチ。

 

「あぁーッ! クソッ、やかましい!!」

 

 ダン、とデスクを思いきり叩く。

 衝撃で書類が数枚、デスクの外に散らばった。

 

「おい貴様、オレを過労死させたいのか!?」

「そのようなことは決して。これらは全てサダルファス卿の決があってこその議題ですので」

「ちっ、口だけは上手いな貴様」

 

 デスクから体を放し、椅子にだらりともたれ掛かる。

 休息が必要だ。

 

「四半刻、休憩を取る。貴様も休め」

「ありがとうございます」

 

 一礼して、その場から退室しようとする秘書官。

 そいつに向かってオレは声をかける。

 

「おい、貴様」

「はっ」

「顔は覚えたぞ。今月からの査定、楽しみにしておけ」

「勿体無きお言葉」

 

 そいつから眼を離す。

 

 役目を果たすやつにはそれ相応の褒美が必要だ。

 別にオレの懐が寒くなるわけじゃないしな。

 

「あ、それとサダルファス卿」

「なんだ?」

 

 オレは不機嫌な表情を崩すことなく、そいつの用件を促した。

 

「騎士団の副官殿の姿が近頃、見えないのですが」

「あー、あいつか」

 

 こんな騎士団の運営などやっているのは、結局のところそいつのせいなのだが。

 

「いつもの慈善活動だ。上にはキノコの毒に当たって療養中だとでも伝えておけ」

「かしこまりました。では」

 

 そう言って、そいつは今度こそ退室した。

 

「まったくあいつというやつは……、この貸しは高くつくぞ」

 

 オレはここにはいない"飛燕騎士団"の副官に、独り言ちるように毒づいた。

 

 

 

 

 

side:ディリータ・ハイラル

 

 戦争が始まって、幾月が経っただろうか。

 昨日のことのように思えて、しかし遥か昔のようにも思えてくる。

 

 王女オヴェリアを利用してのこの内乱。

 

 オレがひとり勝ちする絶好の機会。

 

 今はまだグレバドス教会の密命を帯びた使い走りでしかないが、オレがのし上がるチャンスはいくらでもある。

 

 オレが役目さえ果たせば、その時が本当のスタートだ。

 今はまだ雌伏(しふく)のとき。

 

 神殿騎士団もまたオレを利用し、教会にも面従腹背(めんじゅうふくはい)なのは既に知っている。

 

 ひとり。

 オレはひとりだ。

 

 仲間などいらない。

 全てを利用し尽くし、行ける所まで行ってやる。

 

 だが。

 

 戦争が始まってからというもの、オレの邪魔をする連中がいる。

 

 そのひとりが、ラムザ。

 おまえなんだよ。

 

 ザルバッグ将軍やダイスダーグ卿に縛られず、教会の裏で暗躍しているエージェントの邪魔をする。

 それがおまえだ。

 

 この戦争に拘泥(こうでい)せず、己の正義を振りかざすおまえが、今は心の底から憎い。

 

 だが安心しろ。

 おまえがオレの邪魔をしようと、向かっている方向が同じならおまえはまだオレの敵じゃない。

 

 この戦争の流れに逆らうことなく、ただ(うごめ)いているだけの害虫ども。

 

 ラーグ公。

 ゴルターナ公。

 

 グレバドス教会。

 

 ダイスダーグにザルバッグ、そしてオルランドゥ伯。

 

 そしてユーリにアイリ。

 

 おまえたちはこの戦争という時代の流れに(あらが)うことなく、まとめて死ねばいい。

 

 所詮おまえたちは、オレの手の平の上で踊る哀れな操り人形なのだから。

 

 

 

 

 

side:ユーリ・ベオルブ

 

「ザルバッグ将軍、ユーリ・ベオルブ、参りました」

「ご苦労」

 

 基本的にザルバッグ将軍が誰かを呼び出すということはない。

 どんな用件であっても自分で片付けてしまうからだ。

 

「ユーリ、おまえに一個師団を与える。ランベリー領を中心に活動している騎士団を殲滅して来てもらいたい」

「ランベリー領の騎士団というと……、あのゲリラ戦が得意な部隊のことでしょうか」

「そうだ。相当の軍を費やしても勝ちを拾えない厄介な相手だ。むしろ規模が大きければ大きいほど翻弄されやすいと見る」

「少数精鋭の部隊でなら勝ち目があると?」

「敵は我が北天騎士団の戦い方を熟知している。ならばその虚を突くのが定石というもの」

「定石に(のっと)って勝てる相手でしょうか」

「なればこそのおまえだ。期待している。やってくれるな?」

 

 期待している。

 それはつまり、失敗は許さないということか。

 

「お任せください。ゲリラ戦のやり方にはそれなりの処方があると存じます。見事、討ってみせましょう」

「すまんな。おまえにばかり苦労させる」

「いえ。将軍閣下みずから下された大任、果たしてみせます」

 

 「それでは」と一礼し、ザルバッグ将軍の天幕を後にした。

 

 ランベリー領内に新たに発足され、早々に台頭してきた騎士団。

 運営者は若い騎士だと聞く。

 

 それだけでオレはその正体を知っている。

 

 だが。

 

「アイツは、ここまで手強かったか……?」

 

 どんな手練手管(てれんてくだ)を使ってこれほどまでに勇名を馳せてきたのか。

 

 その事実にオレは我知らず戦慄する。

 

 だが。

 

「オレは負けない……。ベオルブ家がこのイヴァリースを背負うまで、走り続けなければならないんだからな」

 

 戦争の早期終結。

 オレはラムザとそう約束した。

 

 そのためにもこの戦いは両軍の正面衝突という形で圧倒しなくてはならない。

 たとえそのために、どれだけの犠牲が出ようとも。

 

 イヴァリースの未来のため、これは必要な犠牲なのだから。

 

 

 

 

 

side:アイリ・サダルファス

 

 私は高い所が苦手だった。

 怖いんじゃない。

 

 高い所はそれだけで、私の足元を(おろそ)かにし、世界が遠くなるような感じがする。

 それがただ不安だった。

 

 今でもそれは変わらない。

 

 でもそれはきっと、私の本質じゃない。

 

 本質はきっと真逆だ。

 私は高みから俯瞰する。

 

 それが私という人間の、本領を発揮するための手段だったのだろう。

 

「アイリ副官、こちらでしたか」

 

 志願兵の少女兵士が私に声をかけてくる。

 

「探しましたよー。いつもどこにいるか分からないんですから」

「敵がどこに潜んでいるか分からないからね。まあでも大体、高い所にいるから見つけやすいでしょ」

「それはそうですけどー」

 

 ぶー垂れる彼女に、今度は私が問いかける。

 

「野盗どもの足取りは掴めた?」

「あ、はい。そろそろあっちの森の中から切り立った断崖に挟まれた地点に出てくるはずです」

「それじゃあ頃合いだね」

 

 俯瞰する。

 

 技は必要ない。

 戦場を支配するということは、戦場を俯瞰するということ。

 

 それさえ分かっていれば、敵の足取り、進軍経路、休憩場所、合流地点、何もかもが透けて見える。

 

「みんなに伝えて。崖の隙間に入ったところを、前と後ろの断崖を決壊させて足を封じ込める。それからゴルターナ軍の軍旗を掲げて。よく見えるようにね」

「そんな作戦でホントに野盗どもは壊滅するんでしょうか」

「皆殺しにするわけじゃないし、ちょっとハッタリかましてやるだけで散り散りになって逃げ出すわよ。ただの烏合の衆だもの」

 

 さて、と。

 

「あれ? アイリ副官、どちらへ?」

「もう私の仕事は終わったから、アルガス男爵の元に戻らなくちゃ。またお小言喰らっちゃうわ」

「怖いですもんね、あの人」

「まあアレは善意の裏返しみたいなもんだから。それじゃお願いね」

「お任せください!」

 

 見様見真似(みようみまね)で覚えたのだろう、その少女が(つたな)い敬礼をした。

 私はそれに向けてひとつ頷いて、アルガスの所へ戻っていく。

 

 

 

 ユーリ。

 

 私は今ここにいるよ。

 

 きっとアンタは死山血河(しざんけつが)を築いた向こうに平和を求めるんでしょ。

 そんなの、私は許さない。

 

 私は私のやり方で、この戦争を緩やかに終わらせてみせる。

 それはきっと平坦な道じゃない。

 

 だけど私には、ラムザたちがいる。

 

 私が彼らの志を遂げるための、翼になってやるんだから。

 

 それが私たち、"飛燕騎士団"の役割だ。

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