【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ   作:12club

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ドグーラ峠の思惑

side:アイリ・サダルファス

 

 ゲルミナス山岳の、ひときわ周囲を見渡せる山頂付近に本拠を移して翌日。

 さっそく状況に動きが出た。

 

「今、あそこを移動している軍勢は?」

「軍勢?」

「あ、いや。ドグーラ峠に駐留している南天騎士団に正面からぶつかろうとしてる連中ね」

 

 少しポカンとした少女騎士に、注釈をつけて再度たずねた。

 束ねた紙束を一部広げて、彼女が読み上げる。

 

「えーと、ドグーラ峠にはまだ南天騎士団の動きはありません。接近している部隊は、えーっと多分、北天騎士団の一部かと」

「ユーリが戻って戦線の拡大に余裕が出来たのかな……。でもそれなら尚更ここで追い返さないと」

「飛燕騎士団の出番ですか?」

「出来るだけ両軍に戦禍を被らせずに両軍とも撤退させる。臆病さと慎重さを併せ持った燕の業よ」

「威張るとこですかそこ」

「飛燕騎士団の腕の見せ所ってことなの」

「はあ」

 

 ドグーラ峠は現在、南天騎士団――ゴルターナ公側の最前線であり、その切り立った断崖という地形上、重要な防衛線でもある。

 ラーグ公とゴルターナ公の戦端が開いて間もなくして、南天騎士団率いるオルランドゥ伯によって突破され、一時は峠を越えてグローグの丘まで押し込んだ。

 しかしそれ以上の無理強いは禁物と判断したか、オルランドゥ伯は騎士団を退いた。

 それ以降、ドグーラ峠は対北天騎士団への重要な防衛線となっていて、厳重に騎士団が守備を敷いている。

 

「まさか正面から無理にこじ開けようとするとはね……。そんな勇猛な決断を下すのはザルバッグさんか、あるいはユーリか……」

「ユーリさん。ああ、団長の御きょうだいの」

「改まって言わないの。まるで私が家族相手だからって手加減しているみたいじゃないの」

「違うんですか?」

「アホか」

 

 ビシッとその少女騎士の頭にチョップを入れてやる。

 「あいたっ」と声を上げて彼女は頭をさすった。

 

「とりあえず、私は一個大隊を連れて偵察、場合によっては戦闘に出るわ。ここは任せたからね」

「はっ、お任せください!」

 

 敬礼する少女。

 やっぱり見様見真似で覚えたその敬礼はどこか不恰好だった。

 

 

 

 

 

side:ユーリ・ベオルブ

 

 北東の戦線に異常が見えた。

 ここ王都ルザリアから見れば、ドグーラ峠の方角だ。

 

「北天騎士団が?」

 

 オレは斥候からの報告を聞き、眉をひそめる。

 ザルバッグ将軍もオレも、そんな行動指示は出していない。

 

「兵装は北天騎士団のもののようですが……何分、裏が取れない情報でして。差し当たっては我が軍からの出兵ではありません。独自行動を取っている部隊かと」

「軍の部隊……。間違いないのか?」

「そこがどうもハッキリしていないもので、騎士団の端くれか、傭兵部隊か。ともかく、ドグーラ峠を攻めると踏んでの行動を取っているものですから、我が軍に関係のないとは言い切れないのが現状です」

「ふむ……」

 

 ひとつ思案して、とりあえず当面の偵察に落ち着けることにした。

 

「分かった、当面は放置でいい。ただし動きがあればすぐに分かるよう、各部隊に知らせてくれ」

「はっ!」

 

 斥候が敬礼し、ルザリアの兵舎を後にした。

 しかし。

 

「この状況で南天騎士団の、それも生え抜きの精鋭が守備するドグーラ峠に単独で挑む北天騎士団だと……? 事実なら懲罰モノだが、間違いだとしたらどこぞの傭兵団が無理矢理通ろうとしているとか……」

 

 そこまで考えて、オレの体が縮こまった。

 ダン、とデスクを叩いて席を立ち上がる。

 

「衛兵!」

 

 兵舎の外で見張りをしていた兵士に声をかける。

 兵士がひとり、オレの元に駆け寄ってきた。

 

「どうされました? 将軍閣下」

「至急、一個大隊を招集して欲しい。各隊長に報せてくれ。準備ができ次第、ドグーラ峠を攻める」

「ドグーラ峠を? あそこは難攻不落なのでは」

「今は貴官に意見を求めてはいない。迅速な対応を要する。急いでくれ」

「は、ははっ!」

 

 オレもまた動かなくてはなるまい。

 今まで戦線はザルバッグさんに任せてきた。

 だが、オレの後方支援任務は既に終わっている。

 

 やるか、やられるか。

 

 戦場において最も重大な決断を強いられる場面が、オレに訪れてきたようだ。

 

 

 

 

 

side:ラムザ・ベオルブ

 

 数日前。

 

「ドグーラ峠を突破する、か……。よりにもよってこんな事態の中を進むことになるなんて」

「仕方あるまい。時間がないと言っていたのは他でもないおまえだ。大丈夫、私たちならやれるさ」

 

 アグリアスさんの意見を聞き、僕は少なからず逡巡(しゅんじゅん)して頷く。

 

 南天騎士団が駐留するドグーラ峠を、軍隊すら所持しない僕らが突破する。

 軍事行動として見るなら悪手どころか、単なる無謀でしかない。

 

「別に敵を殲滅するわけじゃないんだ。オレも賛成だ。峠さえ越えてしまえばその先は自治都市ベルベニア。そこまで逃げ込めばそれだけでオレたちの勝ちだ」

「まあ、そうなんだけど……」

 

 ムスタディオもどうやら歓迎のようだが、嫌な予感がふつふつと沸き出てくる。

 峠は北天騎士団も南天騎士団も、もしかしたら神殿騎士団も見張っている要衝のはず。

 嫌な予感はそれらに起因していた。

 しかし。

 

「確かに、待っていても始まらないな……。ここは強引にでも行くしかない。時間をかければかけるほど、状況は悪化していく一方だ」

「決まりだな」

 

 アグリアスさんもムスタディオも首肯する。

 となれば、グズグズしてはいられない。

 今もこうして戦況は悪化の一途を辿っている。

 イヴァリース全土が戦禍に巻き込まれる前に、何としても戦争を終結させなければ。

 

 

 

 

 

side:ディリータ・ハイラル

 

 オレが女魔道士バルマウフラからの報告を受けたのは、ちょうど両軍がドグーラ峠に急接近してからのことだ。

 

「南天騎士団の駐留軍に飛燕騎士団の増援……、それに対して北天騎士団も隙を伺っていて、その状況の中央にはラムザ、か」

「どう思う?」

 

 バルマウフラの疑問に対し、オレは応えようとして、しかし一度口をつぐんだ。

 手を顎に当て一時思案する。

 

「……状況が出来過ぎている気がするが……、それはオレがラムザに固執しているからか。となると、これらの動きは単なる偶然だが、そう考えるには相当出目が低い」

「状況は成り行きを見るのではなく、解決策を考えることよ」

「分かっている。だが事の中心を見定める方が(かえ)ってよく見えることもある」

「臆病者の言い草ね」

「慎重なだけだ」

 

 さて、と。

 この状況、如何にしてオレにとっていちばん得になるように仕向けるか、だが。

 まずは全体の思惑を見極めねばなるまい。

 

 第一に、ドグーラ峠の駐留軍。

 こいつらは上の命令を受けてただ見張っていただけだ。要するに、考える必要はない。

 

 第二に、飛燕騎士団の援軍部隊。

 やつらは独断で援護に来たと考えて問題ない。元々そんな気のある部隊だ。

 

 第三に、それらの報を受けてなお、進軍をやめない北天騎士団。

 この部隊の出撃意図が読めない。

 要害ドグーラ峠に駐留する南天騎士団に加え、飛燕騎士団という強力な援軍が迫っているとの報があるにも関わらず、何故ここまで行軍を強行するのか。

 

 そして最後。

 ラムザたちの動き。

 ラムザは何故このタイミングで動きを見せた?

 ドグーラ峠に駐留軍がおり、飛燕騎士団がそれを援護して、逆方向からは北天騎士団が後を追っている。

 

 ――答えは出た。

 

「……バルマウフラ、神殿騎士団に情報を送れ。異端者ラムザが自治都市ベルベニアに接近している、と」

「彼らがドグーラ峠を攻略できると本気で思っているの?」

「多分、峠の駐留軍はただの目印だ。本戦は北天騎士団と飛燕騎士団の争いになるだろう。ラムザたち本人も、知ってか知らずにな」

「騎士団同士の戦闘中に、ラムザたちは峠を抜けるということ?」

「まあ、そういうことだ」

「そう上手く状況が動くかしら」

「動くさ。あいつらならな」

 

 ラムザの動きは手に取るように分かる。

 そして北天騎士団のユーリ。飛燕騎士団のアイリ。

 こいつらが相争うなら、それなりの舞台が必要になる。

 そしてひとたび舞台に上がれば、操り人形のように動くだけだ。

 

「バルマウフラ」

「なに」

「黒羊騎士団に通達。騎士団全軍でドグーラ峠駐留軍の援護に向かう。オレも発つ」

「了解したわ。……ねえディリータ」

「なんだ」

「貴方は教皇(きょうこう)猊下(げいか)二心(にしん)を抱いたことはある?」

「……それを見張るのがおまえの仕事、だろ?」

「そうね……。忘れて」

 

 これで舞台の役者は整う。

 後はどう速やかに、後腐れなく綺麗にするかどうかだ。

 

 

 

 

 

 かくして様々な思惑を持った軍勢同士が一所に集う。

 

 

 

 

 

side:ユーリ・ベオルブ

 

 本陣をドグーラ峠の正面に置き、オレはチョコボで早駆けする。

 まだ北天騎士団接近の報を知らされていないのか、ドグーラ峠からの斥候はここまで届いていないようだ。

 とは言え、オレも用があるのは南天騎士団にではない。

 ラムザに会うためだ。

 

「ラムザ!!」

 

 峠の部隊から逃れるように近隣の山林の隅で野営していたラムザを見つけ、オレは声をかける。

 

「ユーリ!」

 

 ポクポクとチョコボの歩みを緩めて彼の前に立ち止まる。

 オレはチョコボを降りると、改めてラムザと握手した。

 

「数週間ぶりだな」

「そうだね。次に会う時は戦争が終わってからだと言ったばかりなのに」

「そういう訳にもいかなくなったのでな」

「……事情を話してくれるか?」

「ああ」

 

 ラムザたちが野営するテントの傍に、オレたちは腰を下ろした。

 焚き火はない。

 煙でドグーラ峠の駐留軍に見つかることを恐れたからだろう。

 

「まずだ。このドグーラ峠に支援部隊が近付いている。飛燕騎士団って言ったら分かるか?」

「噂程度なら。北天騎士団に連戦連勝らしいね」

「団長はアイリだ」

 

 それを聞いて、ラムザは眼をパチクリさせた。

 やがて納得いったように頷いてみせる。

 

「やっぱり、そんなことだろうと思ってはいた。だけど、彼女にこんな緻密で大胆な用兵が出来るだなんて信じられない」

「オレだって半信半疑だ。実際に見てみないと分からないけどな」

「違いない」

 

 オレは周囲を見回す。

 ラムザ率いる傭兵団は数こそ少なかれど、全員が揃って歴戦の(つわもの)にも見える。

 アグリアスやムスタディオなんかはその筆頭だ。

 

「本当にこれだけの数でドグーラ峠を突破するつもりだったのか……」

 

 感心半分呆れ半分、といった感じだ。

 

「僕らならやれるさ」

「そんな英雄ラムザに素敵な贈り物だ」

「え?」

 

 ピタリと人差し指で、オレの本陣の方へと指差す。

 

「北天騎士団を増援として、おまえの援護に持ってきた。敵中突破の囮にしてくれ」

「待ってくれ、いくらなんでも僕らのために無駄な犠牲を増やすのは……」

「無駄じゃない。北天騎士団――ラーグ公が勝つためだ。おまえたちを使ってドグーラ峠はオレたちが落とす。オレにとっては一石二鳥だろ?」

「やむを得ない、か……」

「それに……」

 

 言って、オレは空へと眼を向けた。

 従うようにラムザも眼を空中へと向ける。

 

「用件が同じのヤツもいるみたいだしな」

 

 黒い羽根が落ちてくる。

 薄暗くなった景色になお、影を落とすそれがオレたちの元に舞い降りてきた。

 黒チョコボ。

 通常のチョコボと違って数は少ないものの、変わった特徴がある。

 黒い。

 そして空を飛べる。

 そういう意味で非常に希少な存在だ。

 そこから降りてきたのは。

 

「やっほ、ラムザ、ユーリ」

「アイリ!?」

 

 驚きの声を上げるラムザ。

 今日はラムザにとっては驚天動地の連続だな。

 

 

 

 

 

side:アイリ・サダルファス

 

 戦場となるドグーラ峠を空から鳥瞰(ちょうかん)しながら見つけたのは、山林に隠れて縮こまって野営している部隊だ。

 部隊、と言ってもどこかに所属している軍じゃない。

 あくまでも団体、という域は超えないだろう。

 でも私は知っている。

 彼らは皆、あのリオファネス城を生き抜いてきた兵揃いであるということを。

 

 黒チョコボで降り立った私を迎えたのは、驚きの声を上げたラムザだった。

 

「ふたりとも、どうして……」

「先に言っておくけど、別にユーリと示し合わせたわけじゃないわよ」

 

 わざとらしく頬を膨らませて、私は釘を刺しておく。

 

「じゃあおまえは何のために来たんだ?」

 

 ユーリもまた憮然とした表情でそう言う。

 

「別に仲良しこよしをしに来たわけじゃないわよ。単なる偶然。だけど、お互いラムザは見捨てられない。そうでしょ?」

「考えることは同じか。なら情報交換といくか」

「生憎だけど、そこはお断りね。ユーリから情報なんてもらっても信用できないし、そっちはそっちで勝手にやってくれていいわ」

「お見通しかよ」

「そら見なさい」

 

 剣幕を張る私たちに、置いてけぼりなラムザが視線を忙しなく走らせる。

 不安げな彼に、私は応えた。

 

「ラムザはそんなに私たちのこと、気にしなくていいよ。私とユーリ、そしてラムザがここで出会った。そんな偶然だけで私たちはラムザの味方になれるんだから」

「同感だ。オレはオレで勝手にやるし、アイリもそのつもりだろ。ラムザは状況を利用して好きに動けば、オレたちが合わせる」

 

 すまし顔でのたまうユーリに、私は口を尖らせた。

 

「悪いけど北天騎士団の好きにはさせないからね。私の騎士団の華麗なうるささ、身を以て味わうといいわ」

 

 言い捨てる私に、ユーリはケッと口先悪く息を吐く。

 

「あんまり北天騎士団を舐めるなよ、アイリ。わざわざここまで出張ってきたこと、後悔させてやる」

「そっちこそ、みじめな敗北を見せてザルバッグさんに叱られないことね」

「なんだよ」

「なによ」

 

 今にも取っ組み合いを始めんとする私たち。

 それを見たラムザは、アハハと笑い声を上げた。

 

「ふたりとも、なんだか昔の調子が戻ってきたみたいで何よりだよ」

 

 好き勝手を言いよる。

 私とユーリの仲が良かったなんて、とうの昔の話だっていうのに。

 そんな私を無視して、ユーリが話をまとめに入った。

 

「とにかく、オレの行軍はラムザに合わせる。支援は出来ないが、隙あらばドグーラ峠の駐留軍を打倒する」

「私はその逆ね。ラムザの行軍に合わせはするけど、ユーリの北天騎士団を退かせるわ」

 

 私たちの言葉に、ラムザは頷く。

 

「すまない、ふたりとも。きみたちの助力に感謝する」

 

 それを見て私とユーリもまた、強く頷いた。

 

 

 

 

 

side:ディリータ・ハイラル

 

 暗がりの中、オレが擁する黒羊騎士団はドグーラ峠の東側――自治都市ベルベニアの近くにある、視界も利かない絶壁に囲まれた僻地に陣を張っていた。

 北天騎士団に見つからないためだけじゃない。

 ドグーラ峠の駐留軍にも、飛燕騎士団にも見つからないように、だ。

 

「全軍、配置についたわ。後は貴方の号令一下、すぐにでも動けるわよ」

「わかった」

 

 報告に来たバルマウフラに、適当な相槌を打ってそれを聞き流しながらオレは空を眺めていた。

 闇深い景色の中、篝火(かがりび)も焚かずに暗闇に落ちた空を、一頭の黒チョコボの影が舞っていく。

 迂闊すぎるぞ、アイリ。

 バルマウフラもオレに倣って、空を見上げる。

 

「黒チョコボね。あれを見ていたの?」

「そうだ。愚か過ぎて涙が出るぜ」

「それは朗報? それとも凶報なの?」

「どちらもだ。嬉しいほどにな」

 

 空を行く黒チョコボが視界の影に消えるのを見送って、オレはそれに背を向けた。

 

「これからどうするつもり? 今はまだ黒羊騎士団の場所は割れていないけれど、朝を迎えれば流石に見つかるわよ」

「まずは飛燕騎士団の背後に張り付く。奴らの動きが知れないからな」

「その後は?」

「出方によっては騎士団を動かす。予定に変更はない」

「標的は変わるのでしょう?」

「まあな」

 

 オレの後ろを遅れてついてくるバルマウフラと会話しながら、黒羊騎士団の陣幕へと向かう。

 気付いたように、彼女が付け加えた。

 

「ラムザたちは?」

「放っておけ。どうせ邪魔しても無理矢理ゼルテニアまで辿り着く」

「肝心の貴方はここにいるのにね」

「その時が来ればオレが会いに行ってやるさ」

 

 返す言葉に関係なく、オレはほくそ笑む。

 

「まずは、ドグーラ峠だ……。オレの出世の踏み台になってもらうぜ」

 

 誰にともなく、聞かれもしない独り言を繰った。

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